凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
用事が終わった俺達は注文した軽食を食べることにした。
ただ黙々と、というわけではなく春野が俺に話題を振ってきた。
「文化祭だけど、奈央ちゃんと深央ちゃんのクラスの劇がインパクトあったよね」
「そうか?」
俺としては普通だったが。
「うん。だってあれ、黒山君、奈央ちゃん、深央ちゃんの中学の頃がモデルでしょ?」
「え?」
そうなの?
「え、て……もしかして黒山君そう思ってなかったの?」
「いや別に」
何の心当たりもなかった。
「むしろ何でそう思ったんだ?」
「女の子の方が中学のときに転校して別れて、その後また男の子と同じ高校に入るって黒山君た達の経緯とそっくりじゃん」
ああ、言われてみれば。
じゃあまさかあの変なハーレム状態もアイツらが俺と春野達を見てモデルにしたのか。
「だとしたらだいぶ変な脚色が追加されてるな」
「まあ、いいけどさ。とにかく、それを劇で出すなんて、驚いたよ」
俺もだな。
それと同時に、劇の後の奄美姉妹と岸姉妹が意味深なやり取りしてたのはそういうことだったのか、とようやく合点がいった。
「黒山君が今回一番印象に残った出し物は何だったの」
そう言われてもな。特に深く考えず周りに流されるままに巡ってたのだからこれといったインパクトがない。
「例年通りお化け屋敷が沢山並んでたことか」
「えー……」
春野が自分の巡ったところとかじゃなくて? と言いたげのリアクション。でもあえて言うならインパクトあるのはそのぐらいだ。
「まあ、確かに他の高校に比べると特殊、なのかな」
「ああ。ウチの高校は毎年5クラス以上お化け屋敷やってましたとか他校の奴らにはそこそこのネタになると思うぞ」
「うーん……」
「もっとインパクトある奴は、来年に期待だな」
そうごまかしたところ、
「ふふ、そうだね」
春野もご機嫌そうに笑みを浮かべた。
ここで、俺と春野のスマホが同時に震えた。
「どうしたんだろ」
「さあな」
と言いながらスマホのメッセージアプリを開くと
「二人とも今どこ?」
という加賀見のメッセージがあった。
あー……。コイツらへの連絡忘れてたな。
「コイツらのこと忘れてた」
「連絡しそびれてたね……」
どうしようかとばかりに春野がスマホを見たまま固まっている。
「日高は今の俺らがこうしてるのを知ってるのか?」
「あ、うん。皐月ともよく寄るお店だし、ここへ行こうって話はしてたから」
そうか。
「じゃあとりあえず安達と加賀見向けに言い訳考えるか」
アイツらに今の現状を説明するのが難しいしな。
「そ、そうだね」
春野も後ろめたいものはあるんだろうが経緯も経緯だからか特に異論は出なかった。
少し打ち合わせした後、春野からメッセージを返す。俺? やるわけないじゃん加賀見相手なのに。
「スマホは取って来たよ。ただその後、具合が悪くなっちゃって、先に家に帰ることにしたの。ごめんね、連絡忘れてた」
「具合って、リンの?」
「うん。多分疲れからだと思う。黒山君には迷惑掛かっちゃうけど、駅までは一緒に付き添ってもらってた」
「そう。こっちも疲れてるなかゴメン、お大事に」
「リンちゃん、ゆっくり休んでね」
「お大事にー」
春野の体調不良を伝えたところ、安達や日高からもお見舞いのメッセージが来た。
日高の口調が少し軽めなのは真相を知ってるからだろうな。
「ところで黒山は? この後こっちに来るの?」
加賀見が俺の予定を確認してきた。
「いや、俺も家に帰ろうかと」
「帰る?」
「ああ。春野を送り届けた後にそっちに行くのもさすがに疲れるし。あと今から行っても打ち上げが終わってるかもしれないだろ」
特にいつ終わるかは決まっていないが、ということは早めに終わる可能性だってあるということだ。
なのでそれを言い訳に利用させてもらう。
「そうだね。黒山もムリして来ることはないと思うよ」
日高もフォローしてくれた。俺のためというより春野のためなんだろうが、今は助かる。
「まあ、それならしょうがない」
ということで、加賀見も理解したのだった。
「これでよし、と」
「あー、うん……。皆に納得してもらえたね」
春野が罪悪感の交じったように返事するので、
「心苦しいなら俺や日高に唆かされたからってことにしておけ」
と言っておいた。
「いや、それはしないよ。うん大丈夫、黒山君も付き合ってくれてありがとうね」
さすがに人に罪を擦り付けるのはためらう春野。こういう変に筋を通そうとするのもらしいと言えばらしいな。