凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
春野との夕飯も終わり今度こそ解散となった俺は、まっすぐに帰宅した。
昨日今日と続いた文化祭での疲れを一刻も早く取りたくて、さっさと風呂を済ませてベッドに寝転ぶ。
今日はもうこのまますぐに寝入りそうだなと目をつぶっていると、そうは問屋が卸さないとばかりにスマホが鳴った。
無視しようか、と思ったが思いのほかバイブの音がしつこい。
こっちが出るまで切るものか、と通話相手が訴えるかのようにずーっとスマホが震えていた。
何となくそうしてくる相手に心当たりのある俺は、本日最後の勤めと割り切り、通話に出ることにした。
「おう、どうした葵」
『出るのが遅いですよ、先輩』
通話相手は案の定の葵だった。
ちなみに他の候補は加賀見を予想していた。この二人の執拗さがどこから来るのかわからないが、気にするだけムダな気がしたので気にしないことにする。
「今日はもう疲れてるんだが。明日じゃダメなのか」
「お疲れ様です。ただ1個だけ聞きたいことがあって」
「今日の売り上げはてんでダメだ。閑散期だし厳しくてな」
「何を販売してるんですか。そんなことじゃなくて、文化祭のことです」
そうなのか。まあ今日文化祭だったし不思議でもないか。
「先輩、今日昨日と巡って、一番楽しかったのって何ですか?」
春野達と似たようなこと聞いてくんのな。
「楽しかったの……か。昼飯食ってる間かな」
「出し物じゃないんですね」
「昼飯だって出し物の屋台から買ったもんじゃねーか」
「いやまあ、そうなんですけど。自分達が見て回ったアトラクションとかショーとか、いろいろあったと思うんですが」
「まあ、そうだな。でもああいうのって似たり寄ったりだし去年とそんな代わり映えしないから飽き……」
「ああわかりました。でも何でお昼の時間が楽しかったんですか?」
これ以上は聞いてもムダだと感じたらしい葵が、さっきの昼飯のことについて掘り下げてきた。
「いや一番手間掛かんないで楽な時間だったから」
「どこまで楽がお好きなんですか貴方」
「楽より好きなものなんてこの世にないぞ俺にとっては」
「そうですか……ああそうだ、もう1つ聞いておこうって奴がありまして」
「何だ?」
「昨日今日と、二人きりで文化祭巡るとしたら相手はどなたがよかったですか?」
文化祭関連ではあるが全く別の切り口からの質問で何のことやら、という気分になった。
「質問の意図がわからんがとりあえず特になしで」
「えー……。ほら、文化祭なんてそれこそ校内のカップルにとっては鉄板中の鉄板のデートイベントじゃないですか」
別にそうとも限らんのでは。
「胡星先輩もそういうのを期待してる相手がいないのかなー、て好奇心です」
「いやいないな」
「あえて言えば、ていう相手もなしですか?」
「うん」
「そーですかー……。こんなときでも先輩らしさ全開で何か安心しました」
そうか。一体何をどう安心したのか知らないがよかったな。
「さて、そろそろ私も休みたいですし今日はこの辺で失礼しますね」
「お前から掛けてきたんだけどな」
「おやすみなさい、先輩」
「ああ」
葵との通話が終了した。
これにて今日の文化祭が、ようやく全部終わった気がした。