凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
文化祭が終わったら、2週間後に期末テストが待っている。
そんなわけで、生徒はそれぞれさっそくテスト勉強に励む者が多い。
それは俺……の周りにいる女子達も当然同じわけで。
「文化祭の余韻に浸る暇もないんですね」
「まーまー、これ終わったら後は冬休みに入るだけだし」
「ミユ、それは気が早い。テスト終わりから休みまで2週間はある」
「ナオちゃんミオちゃんは……今回でこの学校のテスト2回目だっけ?」
「はい、まあ」
「前の学校とそんなに難易度変わんないみたいだからそんなに大変じゃないっスね」
「頭いいコ達はいーなー」
当然のようにテストのことを騒がしく談笑するわけだ。
この日は、二年の女子四人と一年の女子三人が全員揃っていた。
「テスト勉強会、やる?」
という加賀見の提案に、
「うん、やろやろ! 前も思ったけど一人でやるより全然いいし」
日高も特に異論なく賛成に回る。
前回のテストがあまりいい成績じゃなかったのか、今回は日高がやけにハングリーだ。
だから、だろうか。
「それにしても、黒山も結構教え方うまいよねー。またお願いしよっかな?」
日高がつい、口を滑らした。
「……ん? リン、黒山に教わったことってあったっけ?」
日高が言っているのは、以前安達・加賀見に内緒で、春野・俺と三人で実施した勉強会のことだろう。
安達・加賀見とも合わせて五人で勉強会を開いたことも何度かあるが、そのときは教えるのがうまい安達・加賀見に日高が教わるのが定例となっていた。
つまり、加賀見からしたら日高の発言に違和感を持つのも当然のことだった。
「え? いや前の勉強会のときに……」
は、とここで日高がようやく自分の迂闊さに気が付いた。
「前?」
「前って……いつ頃のこと?」
加賀見だけでなく、安達も疑問を呈した。
春野は笑顔が強張り、何と言っていいのかわからないかのように発言が止まる。
一年女子達は話についていけていないのだろう、事態を静観していた。
俺もこの場をごまかす方法はあるか考えたが、いい案が浮かばずただただ日高と加賀見の会話を黙って聞く形になった。
「え、えーと……いや、記憶違いだったわ。ミユマユに教わってたのを、ちょっと黒山だと間違えちゃって」
「それだと『またお願いしよっかな』って言葉が意味不明。テスト勉強のときは私達がリンに教えるのが定番になってる」
「それは……」
「ねえ、本当のことを教えて。まさか一学期の期末のときのテスト勉強会に、黒山君も参加してたの? 私達抜きで?」
「う、うん、まあ……」
日高が観念したように、安達と加賀見へ白状した。
「……まあな」
仕方なく、俺も参加を認めた。
「……ゴメン、私も参加してたんだ」
春野も、正直に安達と加賀見に内緒で参加していたことを告白した。
日高だけに罪を被せるのが、春野の性格的に到底受け付けなかったのだろう。
「……どうして、私達に嘘を付いたの?」
俺達全員の白状の後、加賀見が最初に出た質問がこれだった。
直前までの言葉とは一変して、恐ろしいまでの震えが伴った声だった。
泣きそうになるのを耐え、怒りが爆発するのをこらえたような、感情の高ぶりも同時に聞こえてきていた。
加賀見の言葉を受けて思い出したが、当時安達と加賀見には春野と日高が
実際には、俺と春野と日高の三人。
そこに安達と加賀見が加われば「いつものメンツ」であり、別の友達などは一人も参加していなかったことになる。
今この教室にいる「別の友達」の証言を取れば嘘が裏付けられるだけに、もうごまかしようはなかった。
「それは……その……」
日高は理由を答えられず、口ごもっていた。
日高にすれば春野と俺をムリヤリ結ばせようとする目的を、あまり口外したくないのだろう。
俺もこんな下らない目的に付き合わされていることをバラしたくはない。
春野も、理由はよくわからないが加賀見の質問に口を噤んでいた。
「何? 私やミユに何か話せない事情でもあんの?」
加賀見はさっきから俺達を見ていなかった。
立ち上がったまま自分の足元を凝視しているのかのごとく、顔を思いっきり真下に向けていた。
俺と日高と春野を見る、安達の悲しげな表情もまた異様に印象に残った。
「そういうわけじゃないんだけど、その……」
「もういい」
そして、加賀見が決然と言い放った。
「前の球技大会のときに、私は言ったはず。次に似たようなことをしたら許さないって」
球技大会……か。
それって俺達が二年のときの方じゃなくて、一年のときの方だよな。
加賀見と安達に黙って俺だけに春野を守ることを求めた日高に対して、バレたときの話だよな。
今の加賀見にとっては、今回のは以前のそれと「似たようなこと」に当たる、てことか。
「……ミユ、行こ」
「え⁉ マ、マユちゃんちょっと!」
こちらの言い分はもはや聞くまいという意思表明か、加賀見は自分の机に置いてあった鞄を持ち、普段見せないような早足で教室から出ていった。
安達も加賀見を追いかけるべく、一旦自身の鞄を持ち出すか悩みながら、それでも同じく鞄を持って教室を出た。恐らく、二人とも本日は早退するつもりなのだろう。
「……どうしよっか」
日高は、力なく乾いた笑いを発しながら俺らに尋ねた。