凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
とうとうこうなったか。
というのが、俺が先程の成り行きを見て思ったことだった。
件の球技大会において加賀見が日高へ宣言したことは、俺も忘れてはいなかった。
加賀見が俺以外の人物へあれだけ怒りを露わにするのも、そうそうないことだったから。
言い換えればそれだけ加賀見にとっては、友人と思っていた相手に隠し事や嘘偽りを受けるのを嫌っていたということでもあった。
春野への配慮もあったからとは言え、今回のような俺・日高・春野が共謀して加賀見・安達に黙って
日高とて、こうなることぐらいは予期できたはずだった。
春野がどこまでこの事態を予想できていたかは微妙だが、日高は球技大会において加賀見へじかに警告されていた。
今回のように噓をついてまで俺らで集まって何かやっていたことが、球技大会と「似たようなこと」とみなされる恐れがあることぐらい認識していたはずだった。
そしてそれが露見したら加賀見の堪忍袋の緒が切れることも、予想できたはずだった。
にもかかわらず今回みたいなことを押して進めた辺り、日高にはよほど春野のことが大事だったようである。
皮肉にもそれは、加賀見と安達に対して春野が日高の共犯であるという認識を植え付けるに至っただろうけど。
安達と加賀見は案の定早退した。
春野と日高が二人と同じクラスである以上、
春野と日高も、あの後は別の友達の元へ移るでもなく二人で過ごし、放課後もやはり二人きりで帰っていった。
俺もさて帰ろうかと下駄箱に行くと、
「……今日は一斉にか」
葵・奈央・深央の一年女子三人が揃っていた。
「ちょっと今日は、ね」
「四人で話したいこともありますし」
「よろしくお願いしますね、胡星先輩」
「……」
いつも通りの軽口ながら、いつもより神妙な表情の三人を見たら断りづらかった。
「それで、話って何だ」
変な前置きは要らないと、さっそく本題に入ることにした。
「先輩方のことです。まず、三人でのテスト勉強をなぜ加賀見先輩と安達先輩に教えてなかったんですか?」
葵には一学期期末テストの勉強会を開いていたことを、前もって俺らが伝えていた経緯がある。
安達と加賀見には伝えなかったのか、と疑問を抱くのも当然といえば当然か。
「日高からあの二人には黙っていた方がいいって言われててな。何でかは知らん」
日高が当時言っていた、あの二人は異様なほど仲がいいから二人きりでいさせた方がいいかも、という理由は伏せておいた。何かすごくややこしくなりそうだし。
「日高先輩から、ですか?」
「ああ」
「へー……」
何かを考察しているらしく、葵が少し無言になる。
その間に今度は深央から質問が飛ぶ。
「加賀見先輩は球技大会のことに触れてましたけど、何か特別な出来事があったんですか?」
「今年じゃなくて去年にな」
「……ひょっとして榊先輩関係で?」
去年の王子のやらかしがすっかり伝説みたく広まっているようで、深央がすぐにそこと関連付けた。
「一応それ絡みだ」
「何があったんですか?」
そりゃ一年達には気になるか。
「知ってどうすんだ?」
ただ女子四人のいないところで勝手に吹聴してもいいものか判断に迷い、一年勢に念を押す。
知ったところでお前らに何かできるのか、と。
「どうするかはわかりません。でも、それが今回の先輩方の仲違いにおいて重要な事柄なんですよね。ならそもそも知らないと何をしようということすら決めかねます」
……先輩相手に生意気な意見だとは思うが、深央も深央なりに真剣に考えているようだ。
「お前らも一緒か?」
と奈央・葵に確認を取る。
「はい」
「聞きたい」
二人とも簡潔に返事した。
「……はー、しゃーねーか」
女子四人には後で事の仔細を一年勢へバラしたことを謝んなきゃならんのかと思うと、面倒この上なかった。
「……そんなことがあったんですね」
俺の知っている限りの情報を渡した後、黙ってその話を聞いていた一年勢が会話を再開した。
「で、加賀見先輩にとっては今回のがそれの再来だと」
「そういうことだな」
俺の目から見ても大差ない行為に見えたし、そこは仕方ないだろう。
「……これは先輩達に伝えないでほしいんですが」
「何だ?」
「先輩方、結構面倒な性格してませんか?」
わーお。深央さん正直。
「ちょ、深央、いくら何でも失礼過ぎ」
「失礼は承知の上ですが、それでもそう思わずにはいられないです。一度相手から本気で嫌だと注意を受けておいて同じことを繰り返す日高先輩も、いくら同じことされたからっていきなり縁を切るようにその場を抜け出した加賀見先輩も。はっきり言うと子供っぽいんじゃないかと」
「「あー……」」
奈央が最初咎めたものの、その後の深央の言は特に否定していない。葵も奈央と同じく深央の意見に同調寄りな声を上げた。
まあ、率直に言ってガキだよな。
日高にしても加賀見にしても、もうちょっと折り合ってうまくやり過ごす方法はあったんじゃないかと思う。
今回みたく事態が決定的に拗れてしまうところなど、後輩という立場からしたらなおのこと青臭く見えるだろうな。
ただ、一旦拗れたものは仕方ない。
明日からどうなるのか、様子を見てみるとしようか。