凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
翌日の教室にて、朝からさっそく俺の身の周りに変化があった。
まず、安達と加賀見は俺の席の近くに寄り付かなくなった。
今までだったら俺がどんなに拒否しても向こうから俺の席の近くにやって来て、同じようにやって来る春野や日高などの女子達と仲良く談笑していたはずだった。
それが今日はノーコンタクト。
別に安達や加賀見は欠席しているわけでもなく、安達の席に加賀見が来て何やら会話しているようであった。
加賀見は俺・春野・日高のいる方に、背を向けていた。
あれ? これって俺にとっては物凄くいいことなのでは?
元々俺のストレスの原因の8割以上を占める加賀見がおのずと俺との交流をなくして、俺とは赤の他人のように距離を取ってくれている。
俺にとっては心休まる日々が図らずも取り戻せた形なのではなかろうか。何でだろう、天に昇るぐらい舞い上がった気分になっている。
一方、そんな変化に戸惑っているのは春野と日高だった。
この二人は今まで通り俺の席の近くに来ていたのだが、別の場所で固まっているミユマユにチラチラ視線を向けていた。
「どうした? 向こうには誰もいないぞ?」
「いやいるでしょ。ミユとマユが」
「……やっぱ気になるのか」
「そりゃまあ、昨日の今日でこれだと、ね」
そりゃあな。口を滑らせた張本人だもんな、お前。
「ちょっと、話してみる」
「あ、待って、私も」
日高がミユマユの元に向かうのを春野が追いかける。俺? もちろん自席でお留守番。
「あ……」
安達の方から近付いてくる春野と日高が確認できたようで、安達が声を漏らした。
それを受けた加賀見は、
「……ちょっと場所移動しよ」
と安達を誘って外に出ようとした。
「あ、あのさ……」
そんな安達と加賀見に日高が声を掛ける。
「話し掛けないで」
それを加賀見が真っ向から拒絶した。
いずれも小声での会話だから、同じクラスにいる春野や日高の友達にはよく聞こえなかっただろう。もし聞こえてたら結構ややこしい事態になっていたかもしれない。
「……」
拒絶されてショックだったのが表情に出ていた春野と日高をよそに、加賀見は教室を出ていった。
安達もその加賀見を追い掛ける形で外に出た。
……うん、これもある意味、青春の1ページ……と言ってもいいのか……?
このまま行けば俺の学校生活はある意味安泰だろうとウキウキになっていたその日の夜。
スマホが振動したので手に取ったところ、メッセージのアプリを通して着信が入っていた。
その着信の相手の名前が、浮かれていた俺の気分を一気に世知辛い現実へと引き戻した。
「……もしもし」
『黒山、今いい?』
そう、加賀見が電話を掛けてきたのだった。
「ダメって言ったら?」
『いいって言うまで無限ループ』
じゃあ質問の意味ないじゃん。「いい」の一択じゃん。
「で、何の用だ?」
てっきり春野と日高の仲直りに力を貸してほしいという内容だと、思っていた。
『ミユの誕生日が、もうすぐ。だから、プレゼント選びに集まること』
だから、安達の誕生日の件を持ち出されて面を食らった。
あー、そういえば今ぐらいの時期だったな。安達の誕生日……。
安達には悪いがすっかり忘れてたよ。
『まさか、忘れてた?』
俺が電話口で少し黙った理由を、加賀見が正確に言い当てた。
「まあ、そうだな。さすがに昨日からの出来事の方に気を取られてたわ」
なので俺も正直に背景を話してあげた。
『……とりあえず、詳細はメッセージに送る』
加賀見もそこを突つかれるのはばつが悪かったらしく、話を逸らした。
「春野と日高はプレゼント選びに参加すんのか?」
ここだけは今確認しておこうと思い、確認した。
『参加しない。というか、私がさせない』
予想した通りの答えが返ってきたと同時に、加賀見の頑固さも相当だなという感想が俺の頭に浮かんだ。