凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
安達の誕生日プレゼント選びの日に、参加者がショッピングモールへ集まった。
集合場所にいるのは加賀見・葵・奈央・深央、そして俺。
いつもより2人少ないメンツだった。
「……あの、加賀見先輩」
「何?」
「春野先輩と、日高先輩は今日ここに来るんでしょうか」
加賀見に尋ねる葵の声が、普段に比べ遠慮をやや感じる。
二年の先輩達の関係が今どうなっているか気になっているのは見え見えだった。
「来ない」
「あ、そうですか……」
だからこそか加賀見もあの二人を許していない、というのを葵や周りにいる岸姉妹にも言外に示していた。
気まずそうに顔を見合わせる一年勢。
それらを気にしてないのか、いやむしろ気にしてるのか加賀見が妙な空気を吹き払うがごとく、この場をきびきびと仕切った。
「それじゃグループ分け。今回は2つに分ける」
「そうですね」
「それじゃグーパー、かな?」
ずっと立ち込めている
さて、今回は誰と一緒になるやら。
グループ分けでグーパーした結果。
「よろしく。胡星さん」
「ああ」
俺は奈央との二人組。
加賀見・葵・深央の三人組となった。うん、加賀見と一緒じゃなかっただけ上々ですわ。
「それじゃ、また後で」
「プレゼント選んだら寄り道せずにここで待っててくださいねー」
「奈央も変なの選ばないようお気を付けて」
別グループの三人から別れ際に声を掛けられる。
「お前よりは常識あるから大丈夫」
奈央は主に深央へ返事していた。
「じゃ、まずは雑貨とかか」
誕生日選びの際、すっかり行くのが定番になっているコーナーを提案。
「うーん、それじゃ、まずはそこで」
奈央も異論なしだったので、さっそく向かうことに。ああ、やっぱ加賀見以外は基本楽だな。
「ところで胡星さん」
「ん?」
「やっぱ加賀見先輩達ってあのときからバラバラな感じ?」
加賀見と日高のケンカの翌日、一年勢は二年二組の教室に来なかった。大方巻き込まれるのを避けたかったのだろう。
二年の女子四人と一年の女子三人が集合したグループチャットにも、あの日以来誰からのメッセージも来ていなかった。
その結果、一年勢からは二年勢の様子が不明な状態となった。
今のコイツらにとって二年の女子四人の関係は大いに気になるところだろう。
「ああ。安達と加賀見は二人だけで固まってる。春野と日高は別の友達との会話が主になったな」
「あー……春野先輩と日高先輩友達多いらしいね……」
「どうにかしたいのか?」
「いやームリっしょ……。先輩達の仲に首突っ込むのは……」
奈央が会話に合わせて首に振る。
ポニーテールに結った奈央の髪が、本人と同調するみたいに左右へふるふると振動していた。
どうにかしたい、ということは否定しないのな。
もっとも、奴らと同級生の俺でさえ現状どうにかできるものでもないし、後輩達はより及び腰になるわな。
「とりあえず事態が変わったら教えてもらってもいい? 胡星さんと一年だけのグループチャットの方で」
「しょうがねーな」
そう言えばいつの間にか作られてたな。入りたいなんて頼んでないのに。
プレゼント選びが済み、安達の誕生日当日を迎えた。
「わあ、ありがとう!」
安達が俺らからのプレゼントを受け取り、笑顔でお礼を言う。
「ミユ、誕生日おめでと」
加賀見もいつも通りの
「ありがとう、マユちゃん」
安達も今はその「いつも通り」がありがたかったのかもしれない。
出席していた一年勢や俺も口々にお祝いをしつつ、後は軽食をつまみながらの雑談へ。
俺は基本自分から話し掛けないようにしていたが、途中で安達が俺の方へ寄ってきた。
「今日はありがとね、黒山君」
安達は軽食用の小皿とジュースの入ったコップを両手に持っていた。
よく見ると、どちらも量が多いままであり、一口も手を付けていないと察した。
「まあいつものことだしな」
「うん……」
安達が今したいのは、そんな他愛もない話じゃないんだろうな。
春野と日高のことについて、だろうな。
でも安達は春野と日高の友人である前から、加賀見の親友だった。
加賀見があれだけ啖呵を切り、安達も誘って絶縁に走った以上、安達も加賀見の味方でいたいのだろう。
本当は皆と仲良くしたくても、加賀見の意思を尊重したいというジレンマに、きっと陥っているのだろう。
「えっと、黒山君は、明日や明後日とか誰かと遊ぶ予定ってあるの?」
安達が小皿とコップを近くのテーブルに置きながら尋ねた。
コップの中のジュースと氷が蛍光灯によってオレンジ色に輝いていて、妙に綺麗だった。
「まあ、春野・日高と予定があってな」
やましいことがあるわけでもないし、安達に質問されたことを正直に話した。
逆に嘘を吐いたら、さらに面倒な事態を招きそうな予感がする。
「あー、そうなんだね……」
安達はそれから少しの沈黙の後に
「それじゃまた後でね」
と、これ以上俺に何か話すでもなく加賀見の元へ戻っていった。
料理が残っている小皿やコップは、テーブルに置かれたままだった。