凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
関係がバラバラになった後の安達・加賀見・春野・日高と接して、ずっと頭に離れないことがある。
どいつも、こいつも、ウジウジと。
女子四人のいざこざを巡るこの事態の煮え切らなさは一体何なんだ。
そんな、しょうもないことだ。
安達は会話での発言を控えめにしてても、言うべきことは言う奴だったはずだ。
加賀見は冷静、というか何を考えてるかわからない能面な態度で女子達と接しつつも、会話にはよく混じり良くも悪くも女子達の行動方針を積極的に決めるある意味で中心的なポジションだったはずだ。
春野は常に笑顔と明るい声を絶やさず、周りの雰囲気を盛り上げるムードメーカーだったはずだ。
日高はなんだかんだで自分達のことを客観的に見つつ、本当にまずいことは抑えて止めるような常識人だったはずだ。
そんな自分達のことは自分達で片付けられそうな奴らが、先日のトラブル一つであっさり分解した。
四人で固まって当たり前だったグループは、いつの間にか真っ二つとなった。
一年以上も仲良くしてきたはずの間柄は、夢幻のように消えてなくなった。
それでも本人たちがそのことに清々してすっぱりと気分を切り替えてるなら全然問題ない。
問題なのは、袂を分かった当の本人達が今の状況を決していいものとは思っていないことだ。
片や嘘を吐いてまで隠し事をしたのを後悔している。
片や本心ではお祝い事に来てもらいたがっている。
つまりは今の状況を全く望んでいない。
その癖に、事態を打破するような行動を起こそうともしない。
いつの間にかそんな腑抜けになってしまった四人が、心の底から不快だった。
こんな奴らの相手を散々してきた身だからこそ、腹が立った。
せっかく
こうなったら面倒だが、実に実に面倒この上ないが、ほんの少し奴らに発破を掛けてやるしかなさそうだ。
「お疲れ様です、胡星先輩」
「ああ、お前らもお疲れ」
日高との外出の翌日の朝早く、一年勢をかつて使っていた空き教室に呼び出す。
相変わらず人の通り掛からないこの場所は掃除も行われていないらしく、机や椅子の上に埃が積もっていた。
埃を軽く払った椅子に、三人を座らせた。
「それで、二年の先輩達のことで話って?」
俺が一年勢を呼び出した理由を、奈央が確認した。
「そうだな。ちょっと一つ考えてることがあって、お前らにも協力してほしいんだよ」
「協力……ですか」
深央が引っ掛かりを覚えたような素振りを見せる。
「何だ。お前らのわがままにも散々付き合ってるんだし別にいいだろ」
「いえ、そうではなく。先生が一方的にお願いするのも、何か珍しいなと思いまして」
「あ、そうかも」
「そうか?」
自分ではあまりよくわからんが。
「そうですね。普段は私達のお願いを聞いたり私達をうまいこと誘導しようとしたりというイメージです」
「あ、そうそう」
「誘導なんて私達の初対面でもやってましたもんね」
何か犯罪じみたことしてるみたいな言い方だな。
「まあそれはいいだろ。それより、協力してくれんのか?」
念のために一年勢の意思を確かめる。
「先生の頼みですしね。仕方ありません」
「胡星さんも先輩達のこと、何とかしたいんでしょ? 優しーねー」
「全くですね。それじゃ、さっさと考えとやらを聞いて、試しにやってみますか」
コイツらには確かめるまでもないとわかっていても、念のためだ。
安達と加賀見は、今日も二人で過ごしていた。
あの日までは黒山の席の近くに来て他の友人とも会話を楽しんでいたが、今はやらなくなっている。
そんな調子のまま、今日も放課後まで過ごしてしまった。
いつまでもこのままなのかな、と安達が将来を想像したところでメッセージの通知が鳴った。
「あれ、メッセージ」
「私も」
加賀見にも同時にもたらされたメッセージは葵が差し出しており、こう書かれていた。
『春野先輩と日高先輩が、変な男達に連れられていくのを見ました。助けたいんで、一緒に来て力を貸してくれませんか。場所は……』
春野と日高の一大事を示す内容だった。
「え……」
安達は、動揺した。
「ね、ねえ、マユちゃん」
一方、加賀見はいつもの無表情だった。
メッセージを見る前と後で全く表情に変化がなく、至って冷静にスマホに映ったメッセージを見つめていた。
「……ミユ、行きたい?」
そして、平坦な口調で安達にそう問い掛けてきた。
「うん、早く行こ!」
と安達が答えると、加賀見は
「……わかった」
とだけ答えて、自席の椅子から腰を上げた。
そうして辿り着いたのは、葵の説明にあった空き教室。
そこに「変な男達」と思しき人影は見当たらなかった。
「おー、来たか。お疲れさん」
代わりにそう声を掛けてきた黒山。
申し訳なさそうに隣で立っている葵に、平然としている岸姉妹。
そして、こちらを驚いた顔で注目してくる春野と日高がいた。