凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
一年女子三人と打ち合わせをした翌日のこと。
俺は春野と日高宛に、メッセージを送っていた。
「安達と加賀見のことで少し心配なことがある。アイツらの目のない所で直接話せないか」
「わかった」
「私も大丈夫」
メッセージに対して、二人は機敏に反応した。
具体的な内容を聞かない辺り、春野も日高もこの件を何とかしたいのだろう、という印象を受けた。
二人を呼んだのは、放課後の空き教室。
昨日一年勢と打ち合わせたのと同じ場所である。
同時に、岸姉妹へ安達と加賀見を呼ぶように示し合わせた場所でもある。
「……やっぱ黒山の仕業か」
加賀見が頭を抱えて俺のせいと決め打ちで来た。
リアクションからして春野と日高はないにしろ、それは早計じゃないだろうか。ひょっとしたら一年の誰かの主導かもしれないだろ。まあ作戦は俺が考えたものだけど。
「何でそう思った?」
「黒山が偉そうにここにいるから。あと、黒山と最初に会ったときも、似たような手口で私とミユを引き合わせたのも覚えてたから」
ああ、そうか。
言われてみれば一年初めの頃の、友達欲しがってる安達に加賀見を紹介してあげたのと似てはいるのか、このシチュエーション。
俺は言われるまで忘れてたけどな。
「ゴメン、マユちゃん」
「どうしたの? ミユ」
「実は私も、黒山君達が騙してるんじゃないかってことが頭をよぎってた」
ほう。それはそれは。
「……どういうこと?」
「黒山君達がわざわざリンちゃんとサッちゃんの名前を出して誘導してるなら、それは私達の仲を取り持とうとしてる、てことだと思ったから」
「……それで?」
「それなら、騙されたフリして乗っかった方がいいと思った。だって」
安達がここで、一拍。
「だってマユちゃん、こうでもしないとリンちゃんとサッちゃんと話そうともしないじゃん」
安達も、加賀見の意固地な性格はよく把握していた。
何なら俺よりもずっと加賀見の面倒な所を知っていただろう。
だからこそ、自身も一芝居打ったのか。
「そこまでして、安達も二人とまた仲良くやりたかったってことだろ」
全てはそのために。
「ミユちゃん……」
春野が安達に、話し掛けようとする。
「ふざけないで」
それを、加賀見が制した。
「わかってる? 親しい友達なら、普段自分が楽しんでることとか、日々であったこととか、抱えてる悩みとか、気負いなく話すような仲のはず。それなのに、この扱いは何? 実際の私達は、二度も隠し事をされた。二度目なんて嘘まで吐かれて
加賀見は、吐露する。
日高と春野を許せない理由を、加賀見は吐露する。
加賀見にとっては確かに、親友だと思ってた相手に他人同然のマネをされるのが受け付けないのだろう。
まあいいじゃん別に、といって水に流すのも一度までが限度だったのだろう。
「ガキっぽいな、お前は」
だからこそ、思う。
「は?」
「いくら春野が日高に話すようなことがあっても、日高が春野には打ち明けるような悩みがあっても、お前と安達に話すものじゃないことなんて普通にありそうなもんだろ。春野と日高にとっては互いに長いこと連れ添った幼馴染だから、互いにできることもできないことも嫌というほどわかってる。だからこそ例えば春野に一人じゃ解決できないような問題があったとしても、日高の力を借りればいけるとなった場合は日高に相談するだろうし、そうじゃなければ日高には話さず加賀見や安達に相談するだろうさ。逆に日高だけの力を借りれば十分なんてときには、極力他の奴らには話したくないだろ? ソイツに余計な心配を掛けるだけで終わっちまうんだからよ」
「……」
「それに、昔から家を出入りするような間柄の二人なら、どうしたってその二人にしか通じないこと、理解できないことだって出てくる。長い付き合いの中で春野はこうだから、日高はこうだからというのを熟知してきたからこそ二人が協力して事に当たったことなんて、きっと俺らが知らないぐらい沢山あるはずだぞ。それに比べれば俺達の付き合いなんてたかが1年程度。他の友達に比べれば知ってることに差は出てくるだろうがまだまだ二人の相互理解には及ばないし及ぶわけない。そういう差だってあるのに、春野・日高が安達・加賀見にも同じくらいの親密な相談を受けさせろ、なんていうのがそもそもおこがましいんだよ」
「ちょっと黒山君……!」
俺の言い分に春野が苦言を呈したそうだが、
「それが、嫌だって言ってる……!」
その前に加賀見が俺への怒りを爆発させそうになっている。
「なら聞くがお前は安達にしか話してないことなんて、ないのかよ? 安達に話したから春野や日高にもきちんと話す、ていうのを本当に欠かさずに春野達と接してきたのかよ? もちろんここにいる一年達にも全部伝えたりするんだよな?」
「……それは……」
「そして安達から聞いた相談事とかも、全部俺達に漏れなく話すんだよな?」
「……!」
ようやく加賀見も、自分の言い分の無茶苦茶さに得心がいったらしい。
そういう隠し事をちょっと親しい友人だからなんて理由でされるのを許さないとなったら、自分の親友にも累が及ぶことを。
「……」
安達は、黙していた。
安達と加賀見が俺達抜きで二人きりで遊ぶことがよくあるなんて、春野も日高も俺もとっくに知っている。
そのなかで話した「二人しか知らないこと」なんて、それこそいくらでもあるんじゃないのか。
それを逐一全部話してほしいなんて俺は到底思わないし、別に興味もない。
「お前がそれでも納得いかないもんはいかないっていうなら別にいいけどさ。今のお前、自分にできないことを友達に押し付けてるような下らない人間にしか見えないぞ。あと安達まで巻き込むなよ。安達にすれば他の奴らとも、ちゃんと仲良くしたいと思ってるんだからよ」
球技大会のときだったか、安達はこれ以上交友関係を広げた方がいいのか俺に相談したことがある。
安達からすれば友達は増やしたいというのを、多少なりとも持っているということなんだろう。
それを加賀見という親友に付き合ってわざわざ友達を減らしているのだから、安達の立場にすればしんどいと思うぞ。
「わ、私は気にしてないから……」
俺の言を否定する安達の言葉が、どうにも弱々しかった。
「……ゴメン、マユ」
「リン?」
日高が唐突に、加賀見への謝罪を始める。
「今回のような隠し事をしようって思いついたのも、それに凜華と黒山を誘ったのも、全部私。そんなことしたのは、あまりにも自分と凜華の都合が中心過ぎる上に、スゴく厄介なことだったから。マユとミユを巻き込むには、球技大会のときのような急迫した状況でもないのに、あまりに忍びなかったから。後で、四人で集まれないかな? そこで、私と凜華が何をしたかったのか、全部話すよ。今度こそ正直に、全部。もし、マユとミユがよかったらなんだけど、どうかな……?」
「皐月……」
「凜華、ゴメン。でも、いいよね?」
日高が春野に、了承を取る。
二人にしか通じないものが、俺達の目に止まらず二人の間を駆け巡ってるようなやり取りに見えた。
「……うん。ゴメンねマユちゃんミユちゃん。よかったらもう一度、私達の話を聞いてくれないでしょうか?」
春野からも改めて加賀見と安達に頭を下げた。
ここで加賀見が許さないといかにも加賀見が悪者に見える分、少々ずるい素振りだと思わなくもない。
しかし春野はそういう計算を一切なしに、こういうことを自然にやってることは、少なくともこの場にいる二年は全員知っていることだった。
1年ぽっちでもそれだけ長くいた関係が、安達にも加賀見にも日高にも「自分達だけが知っていること」を確かに醸成していた。
「……考える時間、欲しい」
加賀見はこちらに背を向けて、さっさとこの空き教室を出ていった。
「あ、マ、マユちゃん!」
安達もあの日と同じく、急いで加賀見を追っていった。
あの日と違うのは、加賀見の最後の言葉に氷のような冷たさが感じられなかったことだった。