凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
女子四人のいざこざは終わったらしい。
今朝の教室では何やら四人は既に登校していたらしく、同時に教室に入ってきていた。
そして有無を言わさず俺の席の近くに集まり、談笑した。俺の意思が無視されるのはいつものこと、というわけらしい。
「いやー、テスト勉強ありがとね。ミユもマユも」
「それほどでもないよ」
「仲直りが間に合ってサツキも命拾いした」
「あはは、ホントにね」
四人にとってはケンカも今は昔のことのように、ネタとして昇華していた。
「後は冬休みを迎えるだけかー」
「まだ終業式からの通信簿がありますよ」
一年勢もすっかり戻り、二年達の会話にしっかり混じっている。
前のようなわだかまりは一切取り払われて、めでたしめでたし。
と思っていたのだが。
「説明してください」
俺は葵と春野に呼び出されていた。
きっかけは、クリスマスの打合せだった。
「先輩、クリスマスどうします?」
二人での下校中に葵からクリスマスの催促を受けたので、
「ああ、今のところ考え中だ」
の返事をする。
ちなみに一生考え中にするつもりだったのだが、
「わかりました。もしスケジュールが最後まで決まらなかった場合は先輩の部屋で遊びましょう」
「え」
葵からの恐ろしい提案でその考えは止まった。
「当日の朝6時くらいから胡星先輩の家にお邪魔して、その後はずっと先輩のお部屋で過ごします。ゲームや動画視聴などで時間を潰したら夕方にお外に出て、ご飯を一緒に食べましょう。きっと素敵な一日になると思うんです」
わあ、それはスゴい。
スゴいストレスの溜まりそうな一日になると思う。
そんなスゴいストレスフルな一日から何とか逃れるべく、俺は苦し紛れの言い訳に出た。
「あ、葵、一つ思い出したんだが」
「何ですか?」
「実は、春野とクリスマスに遊ぶ約束があったんだ」
「え……」
「言っとくが嘘じゃないぞ。春野に確認してくれてもいい」
そう、春野を引き合いに出すことだった。
葵も春野には先輩ということもあってか強く出れないところがある。
これで引き下がってくれるだろう。
「……わかりました。後で春野先輩に確認します」
ここで葵のクリスマスに関する追及は一旦止んだ。
ふう、まずは一安心かな……?
そう思っていたのに、結果は全然安心じゃなかった。
「春野先輩と話し合いました。春野先輩に対しても『考えておく』で済ましたそうですね。本当に行くことを考えてたんですか?」
こんなことを、葵から詰問されていた。
あー、そう言えばそうだった、かな……?
うん、そうだったよ。春野に対しても考え中で一生ごまかすつもりだったよ。
何で葵に話す前に思い出さなかったんだよ、俺のバカ。
「黒山君、その……本当に両方断るつもりだったの?」
葵から話を聞きつけた春野まで、悲しげな表情で聞いてくる。ああ、これが加賀見なら「ああそうだ」と明言できるんだが。あるいは葵一人だけなら。
「いやそんなことないぞ。ちゃんと考えてる。うん考えてるさ」
「はあ、もういいです……」
お、葵、俺のことに呆れてクリスマスのことを取り下げてくれるのかな。
「今ここで、予定決めましょう。一体どうするのか」
予想よりももっと強い発言だった。
「胡星先輩、今ここでクリスマスの予定をどうするか決めてください。両方行かないはナシで」
葵が一気に詰め寄ってくる。
春野もそんな葵に苦笑いするが、この場を収める気配など全く感じられなった。
……しょうがない、両方行かないがナシなら一番丸くまとまるのは、もうこれしかないか……。嫌だなあ。
「クリスマスイブの24日は葵、クリスマスの25日は春野。それぞれと遊びに行くってのはどうだ?」
「……は?」
葵が、意味不明だから説明しろという思いを込めた「は」を口に出した。
「元々お前はクリスマスイブに、ていう話だったろ。ならその予定通りに行く。一方、25日の方は予定が空くからその日に春野と行く。それで問題ないはずだ」
二人同時に、というのも頭に浮かんだが以前水族館を同じ調子で加賀見も参加させた後に殺意を向けられたことを思い出したので廃案にした。
どうも自分が立てた予定から外れた人物の参加は葵にとって好ましくないらしい。
それなら別日に分けてそれぞれと遊びに行くしかないと踏んだ。
春野のいる手前、葵とは行くが春野とは行かないというのも気が引けたので両方行くというパターンを取った。
「……はあ、わかりました。それで大丈夫です」
「……うん、私も大丈夫」
葵も春野もクリスマスの予定に了承したのだった。
それにしても、何でこうなるかな。
俺にとっては24日だろうと25日だろうと一人でのんびり過ごしたかったのに。