凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
嘘を吐くべきか。それとも本当のことを話すべきか。
内容が内容だけに、大いに考えた。
「そうだな……」
とりあえずお茶を濁しながらどう答えるか検討する時間を稼ぐも、
「あったみたいだね」
春野があっさり看破する。
加賀見といい俺の周りの女子達は何でこうも俺のことを見透かすのが得意なのか。以前加賀見の俺への「わかりやすすぎる」という評価は正確だったとでもいうのか。
「まあ、あったっちゃあったが」
「葵ちゃんが黒山君に告白したり?」
コイツまさか昨日の俺らを見てたとかじゃないよな。
「……本人にでも聞いたか」
「あは、当たってた。いや聞いたわけじゃないよ。クリスマスで特別なことするなんて言ったらまずそれが頭に浮かんだから」
……墓穴を掘ったか。でもここでとぼけても今の春野(あるいは他の女子)だったらやっぱり見抜いてた気もする。つまりどうあってもバレる。
「それで、付き合ったの? それとも、フッた?」
春野がいつになく出歯亀なことを尋ねる。
「フッたが……」
「そうなんだ」
春野は、俺の横に並びつつクレープをかじる。
俺の会話中も春野は前方をずっと見ていて、俺と目が合うことはなかった。
「何でフッたの……はいいや。ゴメン、聞きすぎちゃったね」
春野がここでクレープの最後の一口分を食べ終えた。
「葵のこともあるし、あんまり他の奴らに言わないでやってくれ」
「うん、もちろん」
俺の方のクレープはまだ半分以上残っていたので、少し早めに片付けることにした。
春野のさっきの問答を通じて、ふと思う。
春野は、葵の俺への思いに気付いていたんじゃないか、と。
春野は葵と交流をして半年以上になる。
(他の女子達も混ざるが)俺と春野と葵で雑談したり遊ぶということも何度も経験しているだけに、葵の趣味嗜好を十分に把握していてもおかしくはない。
その上で引っ掛かったのは
『葵ちゃんが黒山君に告白したり?』
という言葉だった。
その予想は言うまでもなく葵から俺への好意が前提になっている。
葵の嗜好も理解しているであろう春野がそういう予想を立てているのなら、必然的に春野は葵のその感情に気付いている、少なくともそう当たりを付けているわけだ。
それに告白となれば、普通男の方から女へするのが一般的に思われる。
無論絶対ではないが、少なくとも今の日本において女の方から男へ告白するとイメージする人は多くないように思う。
それを春野はわざわざ葵からの告白を最初に言い当てているのだから、それだけ葵の感情への理解に自信があったように感じられた。
そして春野が葵の俺への好意に気付いていたとなれば、他の奴らも同じではないか。
例えば加賀見は春野以上に人の機微への察しがいい、と俺は見ている。
日高にしても今までの付き合いを鑑みるに、鈍感の類では決してない。
安達が少し怪しいぐらいだが、それでも加賀見より伝え聞いていることもあり得る。
そう考えていくと、春野以外の女子達も葵の感情を察している可能性はあった。
現に、春野がそれに気付いているのだから。
その調子では同様に奄美先輩や岸姉妹も葵のことに気付いていたのかもしれない。
とりわけ葵の実姉である奄美先輩は十中八九そうであろう。
つまり、葵の自分への好意に気付かなかった間抜けは俺一人かもしれなかった。
かといってアイツらがそんなことに仮に気付いていても、俺に直接「葵は貴方のこと好きなんですよ」なんて言うはずがないことも重々承知していた。
それは、あまりにも野暮ったいことだというのはさすがに俺も理解していたから。
「……黒山君、もしかして食欲ない?」
「ん? ……ああいや、ちょっと次どこ行くか考えたら口が止まってた」
春野がさっきから中途半端に残ったままの俺のクレープを見ながら、心配そうに尋ねてきた。
俺はさっさとクレープを三口ぐらいで全部放り込み、これ以上考え込むのを控えた。
人混みを避けつつ商店街を巡るのは、昨日からの連続もあってとても疲れるものだった。