凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第066話 誰ですか

 季節は夏。

 日本においては気温が年間で最も高くなり、猫も杓子(しゃくし)も半袖で過ごし日向を避けたくなる時期である。

 そんな時期であれば風邪とは通常無縁であり、事実俺はこれまで一度も夏に風邪など引いたことがない。

 

 それなのに、全身を寒気が襲い頭も喉も痛い今の状況は何なんだろうか。

「……38度5分」

 さっきまで脇に差していた体温計に表示されていたデジタルの数字をついボソリと読み上げる。

 俺の平熱は36度3分くらい。それと比べれば結構高い。こんな数字を叩き出したの久しぶりじゃなかろうか。最後に出したのがいつか覚えてないけど。

 

 今週の土日、つまり今日と明日はここ最近では珍しく誰かと過ごす予定がなかった。

 奄美先輩とのデート、春野・日高との外出やテスト勉強と貴重な休みを消費して迎えたこのフリーな週末だけは何としても一人だけの時間を満喫するつもりだったのだが、俺の体はそういうときに限って力尽きてしまった。

 

 こんなことならどうしてもっと前に風邪を引いてくれなかったのだろう。

 仮病ならバレたときに面倒だが、本物の風邪なら奄美先輩にも春野にも日高にも堂々とそれを口実に予定をお断りすることができたのである。

 その間は病気とともに過ごすことになるが、一人自室で寝転んでスマホを眺めるなんて元気なときでもやってることだし、大病でもなければ安静にすることで大抵は治るだろう。俺にとっては大して支障がない。

 

 しかし、せっかくのフリーな時間を病気で邪魔されるのは不愉快だ。

 やることは元気なときと変わらないとはいえ体調が悪いなかだと楽しむ余裕がどうしたって普段よりなくなってしまう。

 こんなときに体調を崩すなんて何一つメリットはない。もう少し都合のいい生き方ができないもんかね、俺の体は。

 

 まああれこれ考えても始まらない。

「今日か明日、遊びに行きませんか」

 という今しがた来た葵のメッセージには

「今風邪引いてる」

 というメッセージをさっきの体温計の数字の画像付きで返しておいた。

 その後で

「そうだったんですか。お大事に」

 というメッセージを確認したので向こうからこれ以上アクションはないだろう。ああ、少しは役立ってくれたな夏風邪。

 そうして午前は母親の用意してくれた塩粥(しおがゆ)を平らげ、ベッドに寝転びながらスマホにダウンロードした電子書籍のマンガやラノベをずっと読みふけっていた。

 

 

 午後になり、目が妙に冴えていた。

 午前の際に少し眠っていたのがいけなかったのか。

 マンガもラノベも大体読み尽くしてしまい、少しばかり暇になった。

 

 仕方がないのでネットサーフィンにでも繰り出すかといったところで家のインターホンが溌剌(はつらつ)と鳴った。

 母親の話し声かわずかに聞こえる。

 最初は配達かと思ったが、複数人の足音が響いた時点で来客とわかった。

 

 ん? そんな予定聞いてないぞ?

 違和感を覚えている間に足音がどんどん大きくなってくる。

 俺のいる部屋へと近付いているように感じられたが、そんなまさかな。

 足音と同じく聞こえてくる話し声が普段学校で聞くそれとやけに似通っているのだが、まさかまさか。

 

 やがて足音が止み、間もなくドアをノックする音が発せられた。

 俺の部屋のドアだった。

 

 返事したくない。

 狸寝入りしていたい。

 そんな思いが真っ先に浮かび、俺は息を潜めた。

 

 またコンコンというノック音が発せられた。

 借金取りに家まで押し掛けられている債務者とはこんな気分なんだろうか。

 ただでさえ病んでいる身が悪化しそうに思えてならなかった。

 

 ああ、ダメだ。

 ドアを叩いた相手が誰なのかはとっくに想像が付いてしまっている。

 相手が想像通りならこのまま抵抗してもムダだという結論が導かれ、やむなく返事をすることにした。

「誰ですか?」

「葵でーす。お見舞いに来ましたー」

 ほらやっぱ想像通りの人物だった。

 




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