凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第096話 せっかくの

「花火大会ねぇ……」

「いいですよ花火大会。近くで見るのはとっても綺麗です」

「知ってる」

「あれ、花火大会行ったことあるんですか?」

「去年にな」

 安達・加賀見・春野・日高とともに。望んでないのに。

 

「ほー、それは意外です。先輩そういうイベントにはあんま参加されないタイプかと」

 そうか。俺がそんな人間に見えるか。大当たりだよ。

「加賀見共に無理矢理参加させられたって言えば納得するか?」

「あー……何かその光景が目に浮かんじゃいます」

 葵もここ数か月の交流で俺と女子四人の関係を大体掴んでいるようだ。説明する手間が省けて助かるな。いや助かってないな。女子達と関わる羽目になってからずっと助けを求めてる状態だな。

 

 ちなみに俺と葵の関係の程も女子四人とのそれと大差ない。

 いつもこうして何かしらの遊びやイベントに誘われ、結局断り切れないことが日常茶飯事となってしまっている。

 高校卒業までという期限付きではあるが俺の気力は果たして持ち(こた)えてくれるのだろうか。

 

「それで、先輩。花火大会に参加しますか」

 葵が俺の方へ体を寄せてくる。

 俺と葵は今対面になって部屋の床にベッタリと座っている。

 俺は胡坐(あぐら)をかき、葵は内股にして足先を体の左右後ろに伸ばす座り方(アヒル座りというそうな)をしている。それから上半身を俺のいる真正面へ伸ばし、両手を床に着けて上半身を支えていた。

 

 お陰で、葵の顔が近い。

 俺の顔のやや下から見上げるような、覗き込むような目線で俺の答えを待ち構えている葵のことをあざとく感じた。

 

 これって俺だけでなく葵の方からも俺の顔がずっと近くに見えるはずなんだが、葵の方は特に何も思わないのだろうか。

 少なくとも俺はとても窮屈に感じる。

 迂闊(うかつ)に顔、いや体のどこかを動かしたら変なトラブルに見舞われそうな嫌な予感がしていた。正直花火大会の誘いについて答える前に今の状況の方が気になってしまう。

 

 そうしていたら、スマホの方から着信音がした。

「あれ、スマホ」

「私もですね」

 俺と葵、両方のスマホからだった。

「メッセージが来たみたいです」

「俺もだ」

 ということはグループチャットでのメッセージだろうか。

 

 今俺はメッセージにおいて2つのグループチャットに入っている。

 1つは奄美先輩・葵・俺のグループ。

 もう1つは安達・加賀見・春野・日高・葵・俺のグループ。

 つまり俺のいるグループチャットにはいずれも葵が参加している形だ。

 

 葵と同時に新着のメッセージを確認したところ、後者のグループチャットに来ていた。

 差出人は春野で、内容は次の通りだった。

「今年の花火大会も皆で行かない?」

 去年に引き続き、花火大会に誘われた。

 

「タイミングかぶりましたね」

「だな」

 葵だけでなく女子四人も加わったことでますます面倒になったよ。

 やや時間を置くと日高・安達・加賀見が次々と参加を表明。

 少なくとも女子四人の参加は決定した。

 

 葵は先程のメッセージに返事せず、ただスマホの画面を見ていた。

 目つきは水のように冷ややかで、唇は無感動に閉じていた。

「おいどうした。花火大会に一緒に来てくれるお友達が一杯だぞ嬉しくないのか」

「私にどんなイメージ抱いてるんですか。いや先輩方が嫌というわけではないんですが」

 妙に歯切れが悪いな。

「この花火大会は二人で行きたかったんですけどねー」

 これはまた異なことを。

 

「別に二人だけじゃなきゃいけない理由ないだろ」

「先輩さっき私が話したこともう忘れてます?」

「いや覚えてるぞ。欲しいピアスがあるとかないとか」

「ないです」

「ビート板を新調したとも話してたっけ」

「私がビート板を何に使うっていうんですか」

「ああ、今週火星に旅行するから旅先で注意すべきことがあるか聞きに来てたよな。その話か」

「先輩の脳味噌が火星に旅立ってるんじゃないですか」

 葵がここでため息。

 

「私は、デートの練習がしたいんです」

 

 ああ、デートスポット云々のアレか。

「そうは言ってもな。見ろよコレ」

 俺は先程春野が送ったメッセージを葵に見せつける。

「コイツらのお誘いをどうやって断るんだよ。よしんばコイツらに嘘の理由で休んで俺ら二人で花火大会に行ったとしてもコイツらとかち合う恐れは充分あるぞ」

 女子四人から誘われた時点で葵の言い分には無茶が出てくる。

 女子四人を躱すのが難しい以上、葵と俺だけで花火大会にデート練習するのは非現実的だ。

「そうですよね……」

 葵も俺の言い分はきちんと理解できていた。

 

 そのまま葵が黙っていると、

「黒山と葵は?」

 と加賀見からメッセージが来た。

 俺達が既読になっているのに返事をよこさないことが気になった模様。

 

「催促来ちゃってますし、私達も先輩方の誘いに乗りますか」

「いや、俺は当日休もうかと」

「は?」

「……思ってないんで参加で」

 目がバッキバキになった葵を前に自分の意思を通すことはできなかった。

 ここで「おいおい、そんな顔してたらせっかくの美少女が台無しだぜ」的なセリフを吐いたら少しは状況が好転したんだろうか。絶対言わないけど。

 




そんなセリフを吐くような主人公だったらこの作品今頃どうなってたんだろ

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