(自称)先生の超親友兼連邦生徒会副会長、紫青ライラ   作:ふしあな

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ぶっちゃけ会長の名前が公表されてないせいで最後まで名前をどうするか悩みましたが名前がない事には進まない為、前作の偽名が今回から本名に格上げです。…まあ最悪苗字だけ弄れば対応できるからいいんだけどね。

ちなみに名前の由来は、前作と大体一緒です。




神は言った。ここで(過労的に)死ぬさだめであると

 

 

 

━━━━━曰く、労働とは美徳である。

働くとは素晴らしい。誰かのためになる仕事というのはしているだけで心躍るモノだ。

 

 

「そんなわけねぇだろタコ」

 

非常に疲れ切った声で呟いたその声には、誰がどう聞いても納得させるほどの妙な覇気とそれ以上の疲労感が込められた声だった。

 

そんな声の持ち主である少年の形相は、百人が見ても百人が疲れていると言えるほど頬は痩せこけ、晴天の透き通った空をそのまま宿した瞳から光は消え、瞼の上には消えないクマがクッキリと付いていた。本来なら綺麗に整えられているのであろう瞳と同じかそれ以上に透き通っている青色の髪でさえもボサボサで最低限の側だけ用意したという形になっているし、頭上で輝く白い円に赤い十字架が刻まれた光輪であるヘイローでさえも心なしか輝きがくすみ萎びているのだった。

 

「大体さぁ!!」

 

ドンッ!と彼以外誰も居ない無人の部屋に響く盛大な台パンの音。響いた音と衝撃を考えれば机が壊れてもおかしく無いのに、非常に高級であろう社長机には傷ひとつ付かないという優れものだ。

 

そんな机の足元に置かれた山盛りの栄養補助食品の殻と、栄養ドリンクの空き瓶にまた一本空き瓶が増えた。どうやら台パンした直後にまた1瓶開けて一気に飲み干した様だ。あまり美味しく無い…美味しくは無いがこれに頼らなくてはこの紙の量に耐えられない事を少年は激務の中知っていた。

 

「俺の身長ぐらいある書類を一晩で片付けろとか……」

 

まるでリビングデッドがイキの良い生者を見つけた様な、見る人が見れば怖気付く事間違いなしの視線で机の上に積み上がった紙の束と、その隣の机に積み重なり続ける紙の束を見る。……それら全ての紙を合わせれば余裕で少年の身長を超えるだろう。

 

「そんな事ほぼほぼ無理に決まってるだろぉん!?」

 

まあ、やるけど。出来はするけどさ。出来なくは無いけどね??

口では何かと言いながら、内心では現状を既に諦めの領域に至っている。何故ならこれぐらいの書類の量など捨て身の徹夜を行えば捌けなくは、無い。ただそれはつまり自らの身と精神を削りながら、延々と聳え立つ山を素手で砕くかの如くあまりに不毛なデスマーチである。

 

まさに……生き地獄っ……!

 

 

(……あ〜。なぁんでこんな事になったんだろうなぁ…)

 

少年が思い出すのは、ここに至るまでの苦難と苦労。

そもそも何故まだ“学生”である彼がここまで身も心も削りながら書類とランデヴーしなくてはならないのか。それは単純に、この世界が原因でもあった。

 

ここは、キヴォトス。【学園都市キヴォトス】。

学園都市と言うだけあってこの都市に住む少女たちは全員生徒であり、頭に特徴的な天輪を持ち合わせている。……ただその少女たちは銃を所持し、引き金は非常に軽く、街中には戦車が普通に動いていると言う異世界感満載の都市である。

 

そう。少女なのだ。

 

(自分以外皆異性也……)

 

つまりこの少年はキヴォトスにおいてたった1人だけの男子生徒である。勿論、彼は自分の脚でキヴォトス全土を巡り自分と同じ様な男子生徒を探したこともあったが誰一人、何ひとつとして彼以外に男子生徒が存在している形跡は無かった。

 

では、次に考えることと言えば“何故自分だけ?”という疑問になった。

その疑問を放置しておけるほど彼は大らかでは無かった。彼は今までキヴォトスを巡ってきた伝手を使い、キヴォトスの事情に詳しい大人たちと舌を噛み砕くまで談義を重ね、時にはAIと喉が枯れるまで話し、夢の中や隠り世の中でしか出会えない生徒とも対話を重ねたがどれもこれも自分を納得させる回答には程遠かった。

 

(………原因は、やっぱり…これよなぁ)

 

だがその対話の最中で自分なりの回答を出すと言うのなら、おそらく原因は少年の頭の中に最初からある“妙な知識”が原因だろうと少年は苦々しく思っていた。その“妙な知識”とは、キヴォトスとは別の平穏な世界で生きていたであろう“誰か”の記憶である。それを前世と言って良いのか定かでは無いが、覚えている事は知識と幾つかの“記憶”と親しかったであろう誰かの顔。それだけである。

 

(ま、変な事を考えてないで仕事、仕事)

 

記憶の中の知識と当てはめるのなら自分は転生者である。

とは言え、それだけだ。本当に少しだけ他者より知っていることが多すぎて逆にここまで追い込まれているとも言えるのだろう。

 

ここ、キヴォトスの生徒は皆銃を所持している。なんなら銃を所持していない生徒など全裸で徘徊している生徒よりも少ないと少年はその目で見たことがある。…話は逸れたが、人の命を容易く奪うことが出来る兵器である銃を携帯出来るのは単に頭の天輪がもたらす“神秘”という効力があった。その神秘は銃弾だけでは死なないし下手をすればクラスター爆撃を受けても気絶で済むほど身体が丈夫なおかげで日々、争いや器物破損が絶えない。

 

更には生徒だけでなく、大人の代わりに居るヒューマノイドみたいな機械たちが先導する企業が利権やら生徒の身柄を狙う為下手に貸しを作ることは出来ないし、犯罪組織みたいなのから単純な不良の集まりに縄張り争いと称した小競り合い(普通に戦車が持ち出される)が発生するわ、本来なら協力し合っていてもおかしく無い学校同士の権力争いまで、その全てのトラブルとキヴォトス全土の行政を賄い、学園都市の運営を行う組織である【連邦生徒会】の1人であり、その中での事実上のトップがこの少年である。

 

(ああ。もしも、自分が何も知らぬ道化であったのなら……)

 

つまり彼の双肩はこのキヴォトス全土を背負っているのだ。

彼の署名する一枚一枚を待っている人がいる。彼が書かなくてはキヴォトス全土が混乱に巻き込まれる。あまりに重すぎる責任を前にしても彼は逃げる事を選択できなかった。

 

何故なら少年は、自分が逃げた時に起こる被害を分かっているからだ。その理由は彼の一室に掛かったプレートを見れば一目瞭然だろう。【連邦生徒会副会長】と書かれており、その上に一本の訂正線が書かれて、【連邦生徒会長代理】と書かれている。……そう、彼はここキヴォトスにおいての行政のトップの代理であり、学園都市の事実上のNo.1である。

 

「これはこっち、これはあっち……」

 

少年の実の姉であり、キヴォトスを統べる連邦生徒会長は姿を消している。所謂失踪と言われるヤツだ。少年は密かにこの激務から逃げるために俺を生贄にしたんじゃ無いかと疑っているが、さもありなん。

 

連邦生徒会長の業務が全て、副会長たる少年に降りかかっているのだからそう疑いたくもなる。ただでさえ副会長だけの仕事を熟しても夜遅くまで掛かるというのに、その倍プッシュもされたら流石に慈悲深い(笑)で有名な少年だってキレる。バチくそキレている。

 

だが生憎とキレていると言っても、手を動かさなくては仕事は永遠に終わらない。そうして仕事を続けていればいつの間にか怒りは疲労になり、少年は真っ白に燃え尽きながら手を動かさない社会の歯車になったのだった。

 

 

 

「お、終わった」

 

書類を捌くこと体感数時間。身体に遍く疲労感を感じながら満身創痍の息で呟いた声。目の前にあった全ての書類の山を捌き切り、感極まった様子で脱力する。

 

この感じだとまだ夜明けには程遠いだろう。

今日はようやくゆっくり三時間は寝れそうだと時間を見たその瞬間だった。

 

「とりあえず、寝よ……なっ!?」

 

後30分で始業である事実に少年は崩れ落ちる。確かに外を見ればもう朝日が登っている。つまり後一時間以内には副会長の業務が回ってくるということだ。少年の貴重な睡眠時間は文字通り夢だったということになる。

 

そうなるともう寝ている暇は無い。とりあえずこの積み上がった空き瓶とゴミを片付けなくてはならないと買い物カゴに積まれたゴミを両手に抱えて部屋の扉を開けたのだった。

 

埃ひとつ落ちていない磨かれた白で統一された通路を、少年は手足を殆ど脱力した状態で引き摺りながら歩くその姿は良くても幽鬼、悪く言えばゾンビが徘徊している様にも見える。脳内で激しく生徒だけで学校の運営どころか生活の文字通り全てを賄っているのだから何処かで皺寄せが来るのは当たり前だろうと憎く輝く朝日に向かって中指を立てるイメージを抱きながら歩いていたその時だった。

 

「副会長」

 

「ああ。七神行政官か」

 

目の前の壁から人気を感じた瞬間、少年は人が変わったかの様に背筋を伸ばし顔を上げて澄まし顔で挨拶をする。目の前に映った少女の名前は七神リン。連邦生徒会の首席行政官であり、その仕事は連邦生徒会長や副会長の業務に似通るモノがある。従って少年に負けず劣らずリンも激務である。

 

「………徹夜ですか?」

 

「そちらもな」

 

黒髪に、エルフ耳と、メガネ。

まるで性癖を詰め込めるだけ詰め込んだというのに、更にそこに世の中の女性が羨む程の抜群のプロポーション。出ているところは出ているというのに引き締まっているところは引き締まっていると言うある種の人間離れした容姿端麗さ。

 

(エッッッッッ)

 

白い服の上からでも分かるハリの良いおっぱいに、安産型のむっちりとした揉み応えがありそうな尻。最低だとは思うが、これでも少年は漢である。変な記憶さえあれど年相応とだけあって溢れるパッションから目を逸らす事は出来ないししない。それに、目を惹かれないのは男として廃る。

 

(……おっと落ち着け。良い匂い……エッチだ……ッ!!)

 

そして何より鼻…もとい優れた嗅覚が訴えるリンから香る甘い臭い。それもまるで理性を削ぎ落とそうとするかの様な甘くとも危険で、されど抗えない臭い。徹夜続きだからだろうか。これからシャワーを浴びて少し休憩しないとヤバそうなクマがリンの瞼に付いていた。

そんな事を考えながら、苛立つ男の象徴を意思で抑えながら…半分以上抑えきれていないが、いつも使っている言葉でどうにか欲望を捩じ伏せる。

 

(この子は、同僚、同僚………)

 

そう。忘れてはならないのは、この子も同じくして自分と引けを取らない影響力と権力を持っている少女である事を。別に敵対している別派閥とかは無いわけだが連邦生徒会長…元姉の相棒役だった子に手を出すわけにはいかない。それに何より…

 

(女の花園で、男一人が勝てるわけ無いっス。)

 

多勢に無勢だいっけぇともならない人数差。文字通り男は少年だけであるこの世界で、もしも変な事をしようとするのなら即座に話はキヴォトス全土を覆うだろう。ただでさえ連邦生徒会副会長という立場に座っている以上、名前と顔だけは嫌に有名なのだから……

 

「やっぱり終わりませんね」

 

「仕方ない。他に回せられるほど、余裕もないしな」

 

少年と同じ様に抱える買い物カゴいっぱいのゴミを見ながら苦笑し、互いに終わらない激務である事を再認識した。事実、ここのところリンも少年と引けを取らないほど徹夜で仕事をこなしており、いつの間にか来てしまった朝日に発狂しながらゴミ捨てのために部屋から出た一人なのだから。

 

「………ですが」

 

「ああ。それは財務室に回しておけ。」

 

「では……こちらは……」

 

「それは……調停室に許可を貰え」

 

そんな社畜二人が突然ばったり会ったとしても話す事は仕事に関する事だけだ。と言うよりこうしたタイミングでないと互いに忙しすぎて情報共有がスムーズに行かない事が多々あるせいで、この間に業務の割り振りなどの調整を行うしかないのだ。

 

「……では、そのように」

 

「ああ。ではな行政官殿」

 

そんな事を話しながらゴミ捨てが終わり、またいつもの様に業務に戻るため互いに背を向けて立ち去っていく。少年もリンも余裕がない現状、どちらかが倒れれば連邦生徒会は容易く崩壊すると知っているからこそのリンの呟きだった。

 

「……そういえば、本日の朝礼は無しですよ。」

 

後関係ありませんが、仮眠室が一部屋空きになってます。

そういうリンの遠回しの休めという心配の声に少年は相変わらず分かりにくいようで分かりやすい言葉だと微笑みながら感謝を告げ、去っていく。

 

(あ〜……本当にリンっていい女すぎるんだよなぁ……)

 

そんな少年が今考えてることといえばリンがどれほどエロくて可愛いのかと後は、リンがもしお嫁さんになったのなら良い良妻になるだろうというおっさんじみた思考だ。そんな事を考えながら空いていると言われた仮眠室の鍵を戸棚から取り出し、部屋に入ったとほぼ同時にベッドに倒れ込む。

 

(………ん、ああ。)

 

少年好みに整えられた空調と部屋の暗さに、おそらく整えてくれたのであろう想像できる誰かたち全員に感謝を告げながら少年の意識が遠のいていくのだった。

 

(2時間……ぐらいは、寝れるかな……)

 

 

 


 

 

 

「………はぁ」

 

いつも通りの副会長としての微笑みでなく、眠気と疲労で本来の彼の素顔が少しだけ見え隠れしていた先ほどの微笑みにリンは心臓に悪いと赤くなった耳を隠すように顔を下に向けながらゴミの分別を始めた。

 

私たちが“超人”と讃える連邦生徒会長の実の弟である彼は、おそらくキヴォトスで最初となる男子生徒である。それだけでも価値があると言うのに彼自身も連邦生徒会長と同じく超人である事を連邦生徒会…いや、キヴォトス全土が知っている。

 

「全く…世話が焼けるんですから」

 

副会長の業務は忙しい。基本的な彼の仕事である連邦生徒会との外部の連携業務に、色々と面倒事を運んでくる学校や企業との折衷案の作成。そして学校間、学校・企業間の連携締結の間に入るなどなど本当に仕事が絶えない、唯でさえ毎日がギリギリの中での連邦生徒会長の失踪だ。

 

私も人の事を言えないが、日に日に顔色が悪くなっているとリンは分かっていた。しかもそれが分かっていながら自分を酷使して無茶振りをするのだから余計タチが悪い。

 

「ようやく寝かせられましたね……」

 

私たちには適度な休憩を取れと言うくせに自分だけは密かに仕事をしているのがバレてないと思っているのだろうか。まあ実際のところ、それを知っているのが私含めて4、5人も居ないのもこれまた原因だとリンは今朝の朝礼の予定を取り消す。

 

というかそもそも私含めて皆連邦生徒会副会長に頼りすぎなのだと思う。

確かに超人と名高い連邦生徒会長に近寄り難いのは分からなくもないが、だからと言って彼が一人でアビドスの利権の件も、エデン条約に関しても、ミレニアムの廃墟の件も、SRTの件だって背負い切れるとは思わない方が良い。だがそれでも彼は一人で連邦生徒会長が居なくなった事による穴を完璧に塞ぎ切ったのだ。

 

さらには、基本的な彼の仕事である連邦生徒会との外部の連携業務に、色々と面倒事を運んでくる学校や企業との折衷案の作成。そして学校間、学校・企業間の連携締結の間に入る。そして彼自身が独自にやっている各学区のトラブル解決までキヴォトス全土を奔走している事を皆が知っている。

 

それも全て、自らの身を犠牲に。

そしてその献身という名の犠牲は、彼の輝かしいカリスマと功績によって覆い隠されて今や誰も理解する事が叶わない。

 

「はぁ…あなたが望めば、その座に座る事だって可能でしょうに」

 

その座…つまりは連邦生徒会長代理ではなく、連邦生徒会長として名乗るという事。そしてそうする事をどの学校の誰もが賛同する事実をリンは知っていた。

 

だってよくよく考えて欲しい。あまり連邦生徒会傘下の学区から出ないはずの連邦生徒会の生徒がわざわざ他の学園に出向きその学区の小さなトラブルから大きなトラブルまで介入し、トラブルを解決してくれる生徒なんて彼以外にいるのだろうか。いや、居なかった。だからこそ多くの学区の権力者たちは彼の言うことなら従うと言った連邦生徒会ではなく、副会長一個人を“連邦生徒会の声”として聞いているのだ。

 

つまり、各学校にとっては副会長こそが連邦生徒会なのだ。

そしてそれを否定できるほど私たち、連邦生徒会は各学校の事情に、学校から溢れてしまった数字上でしか知らない不良生徒たちに踏み込んでこなかったのだから。

 

「……どうか、私たちを────」

 

今のキヴォトスにおいて副会長は尊敬や敬意などはまだ軽い方だ。信仰や盲信といった一歩間違えれば大変な事になりかねない盲目の瞳で彼をまるで救世主に仕立て上げようとしている様に思えて仕方ない。そしてそんなあり方のキヴォトスをリンは何よりも唾棄していた。

 

そしてきっと…彼自身も“そう”祈られたらきっと“そう”生きれてしまう。とここしばらくの彼の代行の姿を見て確信していた。…極限状態で彼は全く弱音を吐かず、ほぼほぼたった一人で代行としての仕事もこなしている。そんな事、超人と名高い連邦生徒会長でさえも無理だ。彼女はよく逃げ出していた。おそらくそれがストレス発散なのだが、今の彼はそれさえもないのだ。

 

「──────おいていかないで」

 

たった一人の血と肉を削る様な献身の上に成り立った世界など許されて良いわけがない。それは七神リンが二人の超人に最も近かったのもあるのだろう。二人の素顔に最も近かったリンだからこそ抱ける怒り。

 

たった一人で、進んでいく彼を心配しながら。

 

 

 


 

 

 

『pipipi……』

 

「……っあ。マジかもう2時間か」

 

軽快なアラームの音と共に少年の意識が浮上する。前世からして寝起きは非常に悪かったはずだがいつの間にかこの激務に対応して、寝れる時は即座に意識が遠のくし、起きなくてはならない時は絶対に意識が覚醒する様になってしまったのである。

 

ベッドから身体を起こしアラームを切る。確かにぴったり2時間経っているのを確認してから部屋に備え付けのシャワー室に向かう。その動作に無駄はない。着ていた白を基調とした群青色が入った制服を脱ぎ捨て、シャワーの熱湯を頭から浴びる。

 

「あ゛〜〜〜〜〜」

 

気の抜けたおっさんの様な声を上げながら、少年が考える事は温泉に行きてぇ…である。過酷な労働により凝り固まった肩や腰は温泉で癒すのが吉だとビンビンに訴えている。ゲヘナかレッドウィンターか。大穴で百鬼夜行か。どの温泉も甲乙つけ難い。……が、無理である。少なくとも連邦生徒会長が失踪した混乱が解消されるまでは、ゆっくり休むことも叶わないだろうと脳内のどこかがそう予言していた。

 

「………今日は、」

 

個人的にはレッドウィンターの温泉が好みである。と考えながらも、少年の脳内は既に仕事のタスクが動いていた。制服を着替え、身だしなみを整えたらそこにはいつもの連邦生徒会副会長が存在していた。

 

「………副会長」

 

「財務室長」

 

そうしてから部屋を出た瞬間、目の前に立っていた1人の少女。少年よりも濃い青色の髪に、尖ったエルフ耳。そしてこちらをまっすぐ見つめる青色の瞳。そこにいたのは連邦生徒会所属財務室長、扇喜アオイであった。

 

「お休みのところ申し訳ありません」

 

「いや、いい。何があった?」

 

放っておけば膝を付き頭を下げそうなアオイを見て(三敗)少年は間髪入れず返事を返す。ここで立って待っていたところを見るに、少年の名前が必要であることは明白だ。

 

「はい。実は」

 

どうやら聞いていると財務室と他の室との間にあった色々の業務の調整についてだった。聞いているアオイの話にも特に問題はない。

 

「あい分かった。ではその様に」

 

「はい。ありがとうございます」

 

財務室長と言う連邦生徒会でも屈指の発言権と権力がある彼女だと言うのに、お辞儀をするその直角90度を見ると少し怖くなる。

 

彼女は財務というだけあって基本的に公平で無くてはならない。そして自分の業務に誠実である事を求められる。言うなら、私情を仕事に持ち込んではならないのである。そんな中、扇喜アオイという少女は完璧だった。

 

(この子の前に立つと……自分が偉いと感じてしまう!)

 

そんな完璧な子にここまで敬われると逆にこっちが恐縮してしまう。毎回こんな感じだからいつの間にかこれが日常茶飯事だと慣れてしまう。それが少年にとって最も恐るべき事である。

 

それにアオイが頭を下げた時に揺れる胸。そして髪に覆われた耳から密かに見えるピアスとエルフ耳に自分を慕ってくれる後輩である事……

 

(まあ控えめに言ってエッチだよねぇ〜)

 

手を出す。なんて恐ろしい事は出来ないが、ここまで自分に従順な姿を(例え表面上だけでも)見せられてしまうと邪な考えが横切ってしまいそうになる。各学校や各企業との繋がりがある少年と財務室というのは持ちつ持たれつの関係が続いているが、もしもそんな事があろうなら世にも恐ろしい結末が待ち受けているだろうと少年は背筋を震え上がらせる。

 

「……それでは、失礼します。先輩」

 

「そちらもあまり無理をしない様に」

 

後ろ姿から見えるヒップラインがこれまた本当に少年のとある部位に血を運ぼうとする。畜生、キヴォトスの生徒は皆そうだ。手を出したら一巻の終わりだというのにお前は本当に節操なしだ。お前は色んな子に目を惹かれるが、誰一人として好意を打ち明けられない。誰もお前を愛さない……っ!

 

 


 

 

「ふー……ふー……」

 

溢れ出す胸の奥から熱いパトスを抑えながら私、扇喜アオイは足早に彼…副会長が見えなくなるところまで急ぐ。今のは危なかった。後少しで副会長に襲いかかっていたと思えば、今の私の身体の疼きが治まるのを待つしかない。特に今日は強烈だ。連日の激務と徹夜によって生存本能が刺激されているのだろうか。

 

「……このままじゃ、仕事にならないわ」

 

まるで熱に魘されているかのようにふわふわとそれでいて、抗えきれない程に内側から湧き上がり食い破ろうとする欲望。それをどうにか抑えようと取り出したのはヘッドホンとVR機。ミレニアムに特注で作ってもらったそこからは、“ひたすらに私を褒めてくれる音声と動画”が再生される。誰からとは言わないし、誰の声とも言わない。これを作ってもらうために私が今まで貯めてきていた秘蔵の先輩グッズを七割放出する事になったが、それを差し引いても満足の品だ。

 

「あっ……先輩ぃ……私もぉ……」

 

甘く蕩ける…というよりほぼほぼ喘いでいるかのような声を上げながらアオイは完全に鍵を閉め切った部屋の中で一人、そうしてVRに勤しんでいた。…では何故アオイがそんなことをしているのか、そこにはどうしても抗えないアオイの性癖があった。

 

端的にいうなら、アオイは屈服フェチになってしまったのだ。

誰もが認める超人の副会長に跪き、身も心も全てを彼に捧げる事でアオイは至上の喜びと快感を得るようになってしまったのだ。何処かのゲヘナ風紀委員会の行政官も思わずサムズアップする。

 

「いい……ありがとう、ございますぅぅ…」

 

こうやって感謝を伝えられたり同じ連邦生徒会の同僚として肩を並べて働くのも、彼に足蹴りにされて痛めつけられても喜ぶほど今のアオイは重症だ。なんならいつもの澄ました顔で彼に接するのも、仕事でぶつかり合う時の姿勢も全ていつか彼の手で手折ってもらうまでのスパイスに過ぎないとアオイはおそらく本気で答えるだろう。それはそれとして仕事に嘘をつく事はしないが。

 

今日だってそう。わざわざ彼がフラフラになりながら仮眠室に入ったタイミングからドアの前に立ち、脳内であらゆるシチュエーションを試しながら待っていた時間は意外にも短かったとアオイは思っている。“アオイの脳内のいつもの癖”で今日も彼が出てきた時は五体投地しようとしかけたが、なんとか抑え込んだ。自分の理性の高さをアオイは自画自賛した。

 

「あ、ああ…先輩ぃ……」

 

まあそんなこんなでアオイは激務をある意味で一番楽しんでいる。そりゃ愛しのご主人様と同じ苦労を背負えるのだ。逆にご褒美だと言い出しそうなのが怖い。そんなアオイだが本当に少年が語るように仕事にだけは誠実なのだ。…性癖が大分歪んでいるのを除けば。

 

「……あいして、あいしてくださいね……っ!」

 

そんな彼がいつかその疲れを昂りとして私に処理を命じてくれるその日を夢見ながらアオイは今日もまた澄ました顔で彼の後ろに立つのだろう。

 

 

 


 

 

 

「これっ!今日の……」

 

「ありがとう調停室長」

 

「……こっち、後で持っていく」

 

「ああ。よろしく頼む体育室長」

 

そうして朝イチの財務室長との情報共有も終わり、連邦生徒会役員が一堂に集まる場所へと向かう。そこに立っていたのが副会長に回さなくてはならない書類を両手に抱えて途方に暮れていた調停室長のアユムと、そこに更に追加の書類ごと副会長の業務室まで運ぶと意気込んでいるのが体育室長のハイネであった。

 

アユムの仕事はこうして各部署への最初の書類の振り分けそして要請によって必要となった場所や時間、機材などの調達も彼女の仕事だ。だからこそ必然的に大量の書類を抱える事になるのだが……

 

(……なにをどうやったらボディラインが書類に写るんだよ。教えはどうなってんだ!教えは!!)

 

少年は訳の分からないことを内心でほざいているが、アユムが持ってきていた紙の束はアユムの豊満な胸のラインを正確に描いていた。多少のドジっ子属性もありながら、アオイやリンに負けず劣らずの美貌とボディラインを兼ね揃えているのとか無敵か?と少年は思うが、これがキヴォトスでは珍しくないのだから恐ろしい。

 

体育室長であるハイネの仕事は基本的にイベントなどの管轄で、繁忙期以外は他の雑務を押し付けられると言った特性がある。……まあ尤もハイネ含めて体育会系が何故か集まっている部署だから暇はしてない様だがと置いといて、少年にとってハイネとは付き合いやすい大型犬みたいなものだ。気を抜けば頭をわしゃわしゃと撫でていただろうと思うぐらいには気に入っている。

 

「あ、おはよう。副会長」

 

「おはよう。由良木幹部」

 

そうして張り切ってくれるハイネを労いながら、副会長の判断が欲しいと押し寄せてくる子たちを1つずつ捌いていると目の前から二回りぐらい小さな少女が現れた。少女と言っても侮る事なかれ。彼女の名前は由良木モモカ。交通室所属のまだ幼いこの少女はそれでも幹部という立場の1人だ。流石にこれほど幼い子には勃たないし、エッチだなぁ…と思うことは少年でも無いがそれでもよく自分に絡んでくる人懐っこい子だと多少親しみは覚えていた。

 

「副会長大丈夫?まだクマ酷いけど……」

 

「ああ。これぐらいはまだどうという事はない」

 

心配してくれるモモカをいい子だなと和みながらも、書類を捌く手は止められない。いつの間にか俺の後ろをよじ登って肩車の様に座っているが生憎と効かない。どちらかといえば程よい重量感で逆に肩がほぐれそうだ。それにモモカの太いドラゴンの様な尻尾もひんやりして巻きついてくれるお陰で逆に癒しである。

 

「…また休まさせられるよ?」

 

「大丈夫。ついさっき寝てきた」

 

いつぞやか、強制的にベッドに押し込まれるのが何回かあったがリン行政官、アオイ財務室長、アユム調停室長に腕を掴まれ、拘束されてあのクソデカおっぱい×3に包まれながら仮眠室に強制連行された事がある。最初はすわ反逆か、謀反か。と命を諦めた事があったが何度も何度も天丼の如く連行される事になる頃には三つのおっぱいの柔らかさや温もりをその身で感じる至福になった。まあそれよりも陰茎が苛立たない様にする方に苦心したが。

 

そんな過去の事を考えていると“どう考えても休めている感じじゃないよね”と咎める様なモモカからの視線を感じながら少年は視線をずらす。

 

「………まあ、死にはしないだろうから」

 

「あははナイスジョーク!……えっ、ジョークだよね?」

 

そんな少年の態度にモモカは面白そうに体を揺らす。流石の副会長だ。ブラックジョークも上手いとモモカは思ったが即座にその考えを改めた。…もしやこの唐変木、本気でそんなことを言っているのではないのだろうかと。

 

「ホントに気をつけてよね。……先輩が倒れちゃうと私……」

 

しおらしくなるモモカに流石の少年も内心揺れる。

こうして慕ってくれているだろう後輩が自分を例え胡麻擦りであろうとも心配してくれているのを見るともう少し頑張ろうと思える様になる。いつもはサボり癖が多いモモカだとアユムから小さな苦言が上がってくることもあったが、それでもこうして人の事を心配してくれる辺り、心優しい子なんだなとキヴォトスも捨てたもんじゃ無いと思う。

 

「大丈夫だ……心配してくれてありがとう由良木幹部。」

 

内心ああ〜^癒されるんじゃ〜^と心ぴょんぴょんしながらも、鉄壁の表情筋はピクリとも微笑みから変わらない。ポーカーフェイスでないとどうしようもない交渉の場面では非常に役に立つ場面が多いこの面だが、一瞬だけでも本当の笑みが出来ないことについては、少しだけ惜しいなと少年は思ったのであった。

 

 

 

「次の休みはどこかな〜♪」

 

答え:そんなモノなど無い。現実は無情である。

それを理解しても尚、人は休みを愛するのだ。特に少年はそうだった。終わりの見えないレース。書いて、トラブルにあって、解決して……その繰り返し。その果てにあるのが、疲労だけなら。

 

精密機械の様に腕を動かしながら少年は並行して並べた幾つもの書類の中から早急に片付けないといけない物や、別の部署の管轄であるものを目視で考えて、頭の中で印を付ける。

 

「………………あ゛」

 

そうする事数時間。気がついたらそろそろ出張の準備の時間になったところで、少年はようやく顔を上げた。口から漏れ出る音はもはや死人の呻き声だ。夜中に聞いたら普通に怪異認定される事間違いなしの声さえもお構いなく、少年の頭にあるのはマジで休みたい。

 

「……俺だって青春が、」

 

(ああ。そうだった……俺はなんか自分と気が合う女の子と仲良くなって、付き合いたかったんだ………)

 

それもこれもこの仕事のお陰で華の青春がぶっ壊されたと思うと、もう耐えられなかった。脳内で描いていたはずの華の青春が現実は灰色の毎日。気が狂いそうになる書類に、エナドリが恋人と言わんばかりの現実についに少年は我慢の限界だった。

 

「そうだ」

 

そろそろ自分もゴールしていいよね。ゴールさせて、させろ。

自分にだってそろそろ仕事とは無縁の普通の学校生活を送っていいはずだ。

そう言い聞かせて、立ち上がった瞬間だった。

 

「……なっ!?」

 

歪む視界。突然立ち上がったせいで、立ちくらみでも発生したのか。いや違う。これは立ちくらみなどでは無い。まるで意識を保ってられないほどのフラつき。

 

「ざけんなや……っ!」

 

仕事が終わらん ドブカス……がぁ!!

連邦生徒会副会長 紫青ライラ辞世の一句

 

 






少年/紫青ライラ

やってる事は前作と一緒なので大幅カット。
前作と大きく違う点は、キヴォトスの生徒を過剰に怖がっていない所。その恐怖を“諦め”や“許容”に振っているのが今作の少年である。その為割と余裕がある。最後の辞世の一句は死んではない。ただ夢の中に引き摺り込まれただけである。

ちなみに今の彼なら押せば抱ける。



七神リン

たった一人の人間に救えてしまう世界なら潔く滅びるべき系ガンギマリ首席行政官。ライラを決して神様なんかにするもんか。お前たちが崇めているのは私たちと変わらない生徒であることを理解しているのは彼女含めて非常に少ない。



扇喜アオイ

学名:レンポウアオガミマゾエルフ
前作ではあまりアオイの内心には踏み込まないで書いていたがせっかくだからと今回でアオイの心情を少し掘り下げて書いてみたら……この有様だよ!あーもうめちゃ(ry

屈服マゾ、というより誘い受け的な感じである。だというのに表面上はそんな内心を誰にも悟られずに居るのだからこれまた末恐ろしい。尚、ちなみに彼女が放出したボイスはミレニアムのどこかでASMRとして加工され、裏取引されているとかいないとか……



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