(自称)先生の超親友兼連邦生徒会副会長、紫青ライラ   作:ふしあな

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ブルアカ本編に中々出てきてないキャラを独自設定で出しています。キャラ崩壊注意。




ライラ、お前さぁつかれてるんだよ……

 

 

 

連邦生徒会副会長であるライラが目を覚ますとそこにはいつも目を覚ますと見える白い天井ではなく、天井板には木を使われており木目が見事な模様となっている一室。どうやらベッドに連行されているかソファーにでも寝かされていると思った床も、前世からよく知っている和室の一室にでも寝かされているみたいだ。

 

「………知らぬ天井だ」

 

おそらく襖であろう縁の先である敷居から見える景色は遠くは広大な山岳と夕焼けの景色。そして近くには立派な枯山水が描かれていた。ここまで整えられている和室…書院造は少なくとも一般人であるライラとは縁がない。ただ前世から続く感性がここを見事な場所であるとライラは目を覚ました直後だというのに目の前の景色、そして香る和室の匂いに圧倒された。

 

「いつもと場所が違うからの」

 

そしてそんな彼の事を面白がる様にいつの間にかライラの隣に座っていた狐の特徴を持った美少女が長いキセルからピンク色の煙を棚引かせる。全身真っ白で、脇だし巫女服の様な、或いは水着の様な軽薄な服装に、二尾の狐の尻尾の片方をライラの腹の上でヒラヒラと弄ぶかの様に動かしている。神秘的なまでの白さの髪と狐耳はそれだけで“人ならざる何か”を連想できるが、耳が後ろに倒れてリラックスしているのを見ると何故か親しみが湧いてきそうなのが不思議だ。その頭上にはキヴォトスの生徒の特徴であるヘイローを持っているのを一通り眺めて、ライラは納得した様に息を吐く。

 

その少女の名前は、クズノハ。

数少ないライラの“親友”である。その正体が何であれライラにとって何度も言葉を交わし、軽口を叩き“連邦生徒会副会長”という仮面を外せる相手は親友と言って過言ではないだろう。

 

「………それで、ここは?」

 

「ん?…お主が気に入ると思って妾が直々に手がけた【夢】じゃ」

 

【夢】…それは文字通りのこの世であってこの世にない世界の狭間。現世と常世の隙間。何者にも定義できて、何者にも観測する事は難しいそんな三次元から切り離された空間こそが、今ライラとクズノハが居る場所である。

 

そんな泡沫で、理も法則もない様な虚海に自らの世界を築くことがどれほどの難しさである事か。しかもそんな世界の片隅にわざわざライラ個人の為に向けた風景を手がけているクズノハがライラをどれほど好意的に思っているか理解できるだろう。

 

「いいですね。すごく、落ち着く」

 

「くふふふ……それはよかった」

 

表情はまるで憑き物が落ちたかの様に穏やかになり、瞳は細められているライラの姿にクズノハは二尾とも左右に揺らし、喜びを隠せない。クズノハは自分が丹精込めて作ったライラと過ごすためだけの世界を気に入ってくれて、ライラ自身もクズノハが癒してくれるこの場所と時間は数少ない彼のヒーリングスポットである。

 

「最近寝れてなさそうだったからの」

 

「まあそれは……って理由わかってるでしょう」

 

よいしょっとと軽い掛け声でライラの頭がクズノハの膝の上に誘導されたところで、ライラはツッコむようにクズノハの笑い声混じりの言葉に反論する。【百鬼夜行の予言者】と名高いクズノハが、百鬼夜行連合学院の治安維持組織の委員長とも付き合いがあるクズノハが“ライラが忙しい理由”を知らないわけがない。

 

事実クズノハはそんなライラの言葉に上品な笑みを浮かべながらライラの髪を手櫛で整えている。そんなクズノハに為されるがままにしているライラでも誤魔化したな…と分かっているが特に突っ込むことはしない。

 

「だから主をこの場所へと呼び込んだのじゃぞ?」

 

「……それはまあ、ありがたいですけど……」

 

クズノハの【夢】の世界に行く事のできる手段は2つ。ひとつは百鬼夜行にある“とある祭壇”…あれを百鬼夜行連合学院治安維持組織である“百花繚乱紛争調停委員会”の委員長は寺院などと呼んでいたが、そこに赴く事でクズノハと会うことができる。もうひとつの手段は、こうしてクズノハに直接誘われる事である。

 

突然気絶させる事と言い、まだ仕事は終わっていない事と言いやり方を考えて欲しいとライラは切に願ったが、今までクズノハと関わってきてここまで強引に事を起こすとなると本格的に自分の過労は不味かったのだと理解する。

 

「ぜひ感謝してたもれ……でなくては後数週間は机に釘付けになっていたであろうな」

 

「………あぶねっ!!」

 

断言したクズノハの語る未来をライラは疑わない。それほどまでにクズノハの『予言』は絶対に的中するのだ。多少の差異はあれど、おおまかな結果には変わらない。必要な時以外に無意味に予言に逆らう行動をするのは間違いなく凶である事をライラは知っていた。

 

そんな予言に盲信するつもりは無いが、これのお陰でライラの仕事量が少なくなったりしたのも事実。だからこそ特に仕事に関する予言はライラにとってめちゃくちゃ当たりやすいというジンクスが出来上がっている占いみたいなモノだ。

 

「それに見ていたが、碌に食事を取っておらぬではないか」

 

「………うっ」

 

ライラの目を逸させぬようにクズノハの両手はライラの両頬を押さえる。真正面から心配を隠さぬクズノハを前に流石のライラも罪悪感が湧き上がってくる。

 

「もはや精神まで衰弱しておる」

 

「ん。ありがとう」

 

まるで全て見通すかの様なクズノハの薄灰色の瞳に縁取られた赤色はライラの偽りを全て暴くかのような危険な神秘さがあった。

 

そんなクズノハが言うには最近妙に苛々が募ったり、想像以上の疲労感。更には暴飲暴食まで様々な原因がライラの精神を少しずつ蝕み、魂を燻らせていると言うのだ。それを一時的に解消する薬代わりの砂糖菓子をクズノハはライラの口に入れた。

 

「じゃがこれは、あくまで一時的な処置に過ぎん」

 

「わかっていますよ。」

 

今まで何度も口にしたクズノハの砂糖菓子はどこか微かに甘く、懐かしい様な感じがする味。口の中で蕩ける様に消えていくその四角は、もうひとつ欲しいと強請りたくなる不思議とやめられない、止まらない魅力があった。

 

甘いが良薬である。そうこれは薬なのだ。必要量以上の摂取は逆に身を傷つける羽目になりかねない。だからこそライラはクズノハが口に渡してくる砂糖菓子を与えられる雛のように待つ事が一番であると知っている。

 

「……これ以上は、染まらんか」

 

「………えっ?」

 

「いや、なんでもないいや、なんでもない」

 

 

何か一言呟いた声を聞いてライラは声を上げる。この場に人はライラとクズノハだけ。必然的にクズノハの声になるが、その当の本人が何でもないと言っているのを突っ込むのも野暮だろうとライラはまたクズノハの膝に身を投げ出してされるがままになった。

 

「ゆっくり休みたもれ」

 

「……ああそう、しようかな」

 

庭から何故か吹き込む桜の花びら。心地よい風と、クズノハの声に導かれて夢の中だと言うのに意識が落ちそうになる。

 

「ああ。ゆっくりとこの【世界】で……」

 

だがその眠りは不快感や不愉快だとは思わない。まるで高級ベッドのフカフカな枕で素晴らしい睡眠だけを取らせようとする優雅で抗えない気持ちいい寝入りが──────

 

「………妾と2人っきりで、な」

 

クズノハが微笑んで何かを言っている。

けどその声さえ気にならないぐらいにライラは深い、深い眠りにつくのだった。

 

 

──────間に合った!!??

 

 

その瞬間ライラの意識を掴む少女の声がした。

 

 

 


 

 

 

 

ライラの夢の中での意識の消失と共にどこからともなくクズノハが喚び出した夕焼け色の海に半分以上浸かったその瞬間、ライラの姿が光の粒子と共に消えた。

 

「ちっ。忌々しい“狐”がっ!」

 

一瞬の沈黙、その後にクズノハは一体何が起こったのか瞬時に理解したのか、まるで狂貌と言っても差し支えない憤怒を表情に滲ませながら悪態を付く。

 

何が起きたのか。端的に言うならこの【夢】の世界に干渉されたのだ。勿論、それが簡単なわけがない。クズノハが作り上げたこの【夢】は例え、世界を終わらせる光である色彩であろうと干渉することも、破壊することも出来ない自慢の【夢】である。

 

そんな【夢】に干渉された挙げ句、自分の力でも世界の力でも強固に護っていた筈の宝物が自分の目の前でみすみす奪われたのだ。クズノハの怒りもある意味共感できる。

 

「…小賢しい。この隙を待っておったなっ!」

 

だが一つ考えて欲しい。それほど重要に護っていたのなら奪われるよりも先に取り返すことが出来るのではないか。

 

そんな事クズノハにとって息をするかの様に簡単に出来る。

ライラを“こちら側”へと染めている最中でなければ

 

肉体を離れ、剥き出しになったライラの精神を有ろう事かクズノハは信頼を盾にして自らのモノへと取り込もうとしたのだ。

 

「く、ふふふ………まあ、良い」

 

そんな事、只の生徒では無いライラには相当難しい事ではあったがクズノハにとって不可能では無い。

 

わざわざ()()()()()()()()()()治療を装い、()()()()()()()()()()()()()()を薬と偽り何度も何度も摂取させる事でクズノハとの繋がりを強固に、より強固に繋ぎ上げる。

 

今日こそその集大成。正妻気取りの動かないガラクタの人形とその影武者も、学園全てを捧げるつもりの姉気取りも、遥か遠くから細い縁を繋げようとする偽りの嚮導者たちも。良き縁・悪しき縁全て問わず断ち切られ、ライラはクズノハの夫として一生を共に過ごす。

 

今までその準備をクズノハはしていたのだ。無垢な信頼はクズノハを恍惚とさせ、己の血肉がライラの口の中で咀嚼され嚥下と共にライラの体内でクズノハ自身が薄くとも満たされているのを見ているだけではしたなく絶頂の渦に呑まれていた。

 

「……焦らしてくれる。これも旦那様からの試練と受け取っておこう」

 

妖艶に微笑むクズノハ。目論見が崩れたというのにクズノハはそれも想定通りであったと彼に触れた尻尾の位置を静かに撫でながら、次にライラが目を覚ました時に言うはずだった証を口ずさむ。……結婚したと言うのにわざわざ“主”やら“お前さま”などではなく、旦那様だけで通用するのだから。

 

そんな事を考えながらクズノハはこの【夢】へと侵入してきた同じ予言者である(同類では無いが)同じ狐の何某へ向けて指を動かす。例えその場に居なくてもライラの縁とここに来るまでに犠牲にした四肢の一つでもあればどれほど物理的に、概念的に離れていたとしても呪いを与える事ができる。

 

「………旦那様は知らぬのだろう」

 

では、今更になってだが何故クズノハはそこまでライラに執着をするのだろうか。

クズノハのライラへの執着は普通に度を越している。嘘と欺瞞を厭わぬ姿はもはや親愛という単語だけで表せるモノでは無い。

 

「妾は独りじゃ」

 

そこにはクズノハの“自覚してしまった孤独心”があった。

クズノハが生徒として生きていたのは遥か昔…まだ百鬼夜行連合学院ができる前に生きていた生徒であった。だがその時の記憶など最早忘却の果てに行き、今クズノハに残っているのはこの地に残りキヴォトスと“向こう側”の境界を守り、維持する事。別にその役割に意味を求めたことも、何か思うこともなかった。

 

あの日までは。

 

「……のう。気がついておったか?旦那様」

 

またいつもの様に【黄昏の寺院】と名付けられた境界の果てに来た百花繚乱紛争調停委員会の委員長と会おうとまるで機械的に姿を現したそこに、旦那様…ライラは立っていた。

 

その瞬間、クズノハの心から、魂から一目惚れという単語を理解した。

この世の…キヴォトスの理から外れた存在。生まれがそうでは無い。その精神があまりにも生徒とかけ離れている。それでも尚、寄り添おうとするそのあまりにも眩しすぎる意志の光。

 

「最初は、妾は諦めようとしたのじゃぞ?……今を生き抜く生者に妾の恋慕は重すぎる」

 

だがそれはあくまでクズノハがライラに好意を持った経緯だ。

何故そこから執着に至るのか。色々と理由はあるが一番の理由はクズノハが己に掛けた恋のおまじないが理由であった。そのおまじないの効果は少しだけ対象の好意を引き上げると言うモノ。だがこれはあくまで好意を強い好意にするだけであって、好意を愛に増幅するモノでは無い。ましてや相手が自身に好意を抱いていなければ効果は発揮されない。……そうしてそのおまじないは見事成功した。ライラは無防備な姿をクズノハに晒すほど心の距離が近くなった。それはつまりライラにとってそれほどクズノハを想っている証拠になる。謂わば両片想いという事実を前にクズノハは自重の紐を断ち切っていたのだ。

 

「……今は、まだこれで良い。」

 

満足はしていない。たかが月の満ち欠けが一周回った程度の睦言の時間を邪魔されたクズノハはいまだに怒りが消えそうにない。だが過ぎてしまった事を悔やむだけでは次に巡ってくる機を見失う。であるのなら静かに待っているのが得策であろうとクズノハは一人、新婚生活になるはずだった母屋の屋根の上で微笑んだ。

 

「………今は、な」

 

 

そして、次こそ──────

 

 

───────共に【終わり】を見届けよう

 

 


 

 

 

「………っくっ!」

 

「……セイア?」

 

深い眠りの海に緩やかに沈んでいく体感とは打って変わり、無理矢理起こされたというのに不快感はない。クズノハと共にいた場所よりかは些か浅いが、今だにこの場所が【夢】の世界であることに変わりがないからだろうか。

 

だがそれ以上に気になるのは、何かが焼ける不快な臭い。決して牛や豚、鶏などと言った食べる肉が焼けた良い臭いではない。その臭いで急速に意識が浮上したのかライラが目を開けた目の前には先ほどまで一緒にいたクズノハではなく、セイアがいた。

 

「や、やあ……ひさしぶり、だね」

 

「その腕と脚は……!?」

 

百合園セイア。キヴォトス三大校のひとつ“トリニティ総合学園”の生徒会であるティーパーティーに所属する一人で、ライラの数少ない親友の一人である。セイアは眠ることで未来を見る事が出来る(任意にはできない)異能を持っており何度かこうして【夢】の中で会話を交わした事がある。

 

そんなセイアの華奢な右腕と左脚は赤く焼け爛れており、酷い火傷が出来ている。

綺麗に整えられているブロンドの髪も、金色の狐耳もどちらもどこか焦げ臭く何かあった事だけは確かみたいだ。

 

「まあ気にしないでほしい。」

 

「……気にするが!?」

 

大丈夫だ。問題ない、軽傷だ。という態度を取るセイアを前に流石のライラも驚愕を隠せない。現実世界のセイアは非常に貧弱だが【夢】の中においては、セイアの存在はある意味無法だ。そんなセイアがこの夢の世界でそこまで大きな傷を負うとは

 

「名誉の負傷みたいなものさ。」

 

夢の中だから肉体に直接的なダメージは無いが、傷を負っていることには間違いないためこれ以上の無茶は出来ないとセイアは語った。

 

「……治るのか?」

 

「もちろん時間を掛ければ、だが……」

 

そんなセイアにライラは心配そうに問う。現実の肉体と比べてこの夢の世界は色々と法則が異なっている。まさかこれからずっとそのままでは無いかというライラの密かな心配は、苦笑混じりのセイアに否定される。

 

「……もし傷跡が残ったら君に責任をとってもらおうかな」

 

「…………なあ、セイア」

 

その後の軽口にライラは顔を険しく問う。

やはりおかしい。どう考えても今のセイアに傷つけられる存在は本当に限られる。そして傷つけられるほどの人物が今のセイアを狙う利点もない。特に何か問題も起きていないからわざわざセイアも深追いする必要もない……だと言うのにそれほどの重傷は。

 

「その傷は一体誰につけられたんだ?」

 

「……………すまない」

 

そのライラの質問には答えられないとセイアは悲痛な顔で沈黙する。どうやら何度か口を動かすがその呟いた口の動きを読む事も、音になって聞こえる事も出来ない所を見ると間違いなく口封じされている。

 

「………それ以外の、何かはあるのか?」

 

「いや、これだけさ。…それ以外は特に何の問題もない」

 

未来視の異能も特に問題ない。だから本当にセイアが負った傷とその犯人と犯行を口にすることだけが禁じられたのだろうとライラは確信を深める。となればこれ以上聞くのは野暮だろう。狐を突いて中から魑魅魍魎が出てきたら目も当てられない事態へとなりかねない。

 

なら他に聞くことと言えば……

眠りを妨げられた事だろうか。別に不快感があるわけではないがやはり寝ようとしている所を叩き起こす様なマネをされたら流石に一言言ってやらねばならないとライラは思った。

 

「………まあなら良いが。こっちは気持ちよく寝ていたんだがな……」

 

「………………はぁ」

 

そんなライラのボヤキに、セイアはお前は何を言っているんだと言いたげにため息を吐き、衝撃の一言を口にした。

 

「まったく…君は現実世界でどれほど時間が経っていると思う?」

 

「え?……ま、まあ数日ぐらい?」

 

現実と法則が異なると言っても時間のズレまでは無い。夢の時間にいる分だけ現実世界の時間は進む。そう考えたら十数時間から数日程度しかまだ経っていないのだろうとライラは答える。

 

「………答えは1ヶ月だ」

 

「1ヶ月!?」

 

そんなライラの甘い考えを悟っているかの様にセイアはジト目で回答を答える。およそ一月もの間、ライラは寝ていたのだとセイアは答えた。連邦生徒会の彼の執務室で倒れ伏しているのを誰かが見つけて、そのまま秘密裏に病院へと搬送。病名は過労であると判断されたが、そこから一向に目を覚まさないのだ。

 

「だ、だとしたらマズイよ…夢の中で寝てる場合じゃ無いよ」

 

「まさしくその通りなんだなぁ……」

 

そんな事を聞いてライラの額から冷や汗がタラリ。今、ライラの目の前には大量に積まれた書類の山と空き瓶と連邦生徒会の仲間たちがいい笑顔で俺の復帰を手まねいている幻視が打ち込まれている。

 

そんなライラの姿に遠目になったセイアが白くなったかの様に言葉を呟いた。連邦生徒会長代理兼連邦生徒会副会長ほどでは無いが、セイアもトリニティ総合学園の生徒会長のうちの一人である。その忙しさは並大抵のものでは無い。

 

「見ている感じでは………」

 

「いやいい。言いたいことは分かる。サンクトゥムの行政権だろう?」

 

ついに頭を抱え出したライラに追撃とばかりの今連邦生徒会で起きている混乱の内容をセイアが伝えようとするのを片手で制し、答える。

 

連邦生徒会の象徴、シンボルとも言えるサンクトゥムタワーと呼ばれる連邦生徒会の行政権を司るその塔を動かせるのは連邦生徒会のみ。だがその連邦生徒会長が失踪して代理である副会長に制御権が移った事により混乱は発生しなかった。…そう、つまりライラが倒れて以降キヴォトスの行政権は事実上失われていると言う事である。

 

「……そこまで分かっているなら話は早いね。」

 

「ああ。どうやら起こしに来てくれた様だな。感謝する」

 

つまりこれら全ての混乱を今から収めなくてはならない。そうだね無限書類地獄だね。そう悟ったライラは心の中で泣きながら平定まで何日掛かるかなと冷静に考えながらセイアに向けた一言が余計であって、筋違いであったモノということを密かに恥じた。

 

「ならさっさと起きて現実世界で顔を見せてくれ……この場では、少し温もりを感じにくい」

 

「はいはい……終われば絶対に向かうさ」

 

寂しげに耳を伏せるセイアの姿にライラの頬も緩む。立場的にも能力的にも互いに人に寄りかかりにくい事を理解しているからだろう。なかなか二人だけという時間を現実世界で取ることは難しいが、それでも時間を作ると約束した。

 

そうしてライラは目を覚ますように念じながら目を閉じる。クズノハほど深い所に場所を作られては自分で帰ることは出来ないがセイアとよく会うここぐらいの浅さだったら目を覚ますことなど難しく無い。

 

 

そうして少しずつ、意識が覚醒していく───────

 

 


 

 

 

 

「………行ったか」

 

ここからも光の粒子となって消えていったライラの影を見つめながらセイアは一言呟く。ずっとライラを観ていたセイアにとって“この現状”は大まかに言ってノーマルエンドと言って差し支えないだろう。

 

あり得たかもしれない最悪のバッドエンドは、あの場であの腐れ狐の手中にライラが堕ちる事であった。そうなってしまっては最後どう足掻いても、誰が足掻いても絶対にキヴォトスは滅びる。あれはそうなる未来の分岐点だったのだ。

 

「いつつ……」

 

滅びの未来を回避するために、セイアは右腕と左脚を犠牲にする事でどうにかライラを奪取することが出来た。あの腐れ狐は“儀式”の最中だったからしばらくは動けない。しばらくは警戒が必要だろうがあの腐れ狐に勝てる生徒など存在しない。ある意味で警戒するだけ無駄だが……

 

「まったく、私の旦那に色目を使うなんて……」

 

皮肉な事にあの腐れ狐はキヴォトスの支配とかに興味は全く無く、あの場所から動こうとしない、動くことが出来ない究極の引きこもり。腐れ狐の興味は全て私の旦那にあるとセイアもまた妄言と共に困ったな…と言わんばかりの息を吐いた。

 

「最初に彼を見つけたのは私なんだぞ?」

 

あのド腐れ狐だけでは飽き足らず、彼と戦い自分だけが彼を分かってあげられる愛があると暴走する仮面狐もそうだし、いつか彼が情報撹乱のために使ったなんちゃって忍者狐もいるし、自分がライラの伴侶になれば百鬼夜行は安泰だと考える百鬼夜行版私(能力面では向こうが劣るが…)もいるし、何より厄介なのはあの小隊だ。彼に“使われる”事を至上の悦びと本気で想い、彼に命じられれば文字通り何でもする狂信者。そのくせ彼に見せる面だけは良いから彼も気に入ると言う悪循環……

 

「あれ?……よくよく考えれば私の旦那様、狐に好かれすぎでは??」

 

百合園セイア←狐耳持ち

 

「……ま、まあ私が正妻だからな??」

 

※そう言う事実は無い

 

「あの日、出会った時から相思相愛だからな…うん」

 

※セイアの存在しない記憶である。

まあ確かにセイアとライラの縁は長い。一体いつから知り合い始めたかと言われると定かでは無いが何度も、何度もこうして夢の中で出会い、話は続き互いにその場所で上の立場になった時、夢の記憶が自分の妄想でないことが分かった。セイアの未来を視る事ができる辛さとライラのたった一人ぼっちの男子生徒という違いはあるが同じ孤独感を埋められるのは同じ孤独を抱えているモノであるのは道理だ。そうして瞬く間に互いは惹かれ合い、夢の中で出会うことだけが楽しみになった。

だが(交際については)存在しない記憶である。(2回目)

 

「………ひとまずおいといて、ふむ……」

 

まあそんなセイアの妄言と嫉妬はさておいて、現状はノーマルエンドのルートをそのまま走っている。ゲームで言うのなら今の状態を維持したのなら誰もが不幸にはならないエピローグかハッピーエンド、バッドエンドどちらにも転がる可能性がある。

 

「まだ色々と足りない…か」

 

そう、まだバッドエンドの種は消えていないのだ。そしてこれから幾つもその種が生まれる未来が見えていると思うとセイアも流石のため息に耳もヘニョる。見なかった事にしてゲヘナの風紀委員長よろしくライラの布団の中でギャン泣きしても良いのだが、そうするとキヴォトスが滅びる。

 

八方塞がりだが仕方ない。今でも見えているもしかしてのバッドエンドは大抵があの腐れ狐どもが旦那に手を出して修羅場となってキヴォトスが滅びる。風が吹けば何とやらとは言うが痴情のもつれでキヴォトスが滅びたとなると流石に笑い話にもなりやしない。

 

「まずは……あの“先生”とやら」

 

ライラが昏睡した事によりキヴォトスの行政権が一時停止した事による混乱を収めるためにあの首席行政官殿はキヴォトスの外から連邦生徒会長が指定したフィクサー…通称【先生】を呼び出しキヴォトスの混乱を解消する。

 

そして先生が顧問を務める連邦捜査部シャーレという部の設立に伴い、副会長の一部業務をシャーレに下請けさせことで連邦生徒会長失踪の混乱さえも収めてしまうと言う魂胆なのだろう。実の弟の副会長でさえも計算に入れた連邦生徒会長の計算は見事に人の心が無い。……いや、或いはあるからこそ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おいおい……!!」

 

現れるキヴォトスの大人。その姿は特に何か変わりはない。生徒と同じ女性だが頭にヘイローがないところを見るにおそらく銃弾一発でさえマズイ存在であるのは確かだ。黒目黒髪で何か特出することはない。足を舐めてたり、生徒をコンクリ責めしているところが見えたがその先生と生徒の性癖の話だ。見なかった事にしようと、セイアは先生からの注目を外そうとしたその時だった。

 

「待て待て、待ってくれ……!」

 

その時、不意に映る今から一日もしないうちの“確定した”未来。

目を覚ましたライラは間違いなく即座に跳ね起き、病院を飛び出す。まるで何かに誘導されるかのようにライラは狐坂ワカモとシャーレの先生の戦闘場所へと突っ込む。そして……

 

「その未来は聞いていないぞ!?」

 

何故かライラは、副会長はその場でシャーレへの入部を決める。それも連邦生徒会副会長としての立場を半分以上捨ててまでシャーレの“部長”になる。本来の流れなら、ライラはまだまだシャーレに加入する未来など無かったはずなのに……

 

未来見てる場合じゃねぇ!とばかりにセイアも意識を覚醒させるのであった。

 

 

 






【夢】

海のようなモノ。
浅瀬であるのなら専用の装備を使えば呼吸できるが、深海は人智の及ばぬ深淵である事と同意義である。

従って、深海に自らの城を携える彼女の所業はゲマトリアによるとキャンパスを用いず空に絵を描くに等しい。まさに神業であると言っている


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