(自称)先生の超親友兼連邦生徒会副会長、紫青ライラ 作:ふしあな
はい。今回から前作同様ブルアカのプロローグ入りです。
ちなみに先生は女先生固定ですがどんな姿でも良いです。各自思うがままの先生像を想像して読んでいただいて構いません。…髪色だけ黒に固定したのは許してね。
実はライラと仲良くなるだけなら男先生の方が早かったりするんだよなぁ。
……私のミスでした。
私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。
結局この結果に辿り着いて初めて、あなたとあの子の方が正しかった事を悟るなんて…。
目の前の座席に座る一人の少女。その胸には大きな穴が開き、白色であるはずの服は赤黒く染まっている。
……今更図々しいですが、お願いします。
先生。
目に映るのは、壊れた街。滅んだ世界、私を見下ろす二つの影
きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で同じ選択をされるでしょうから。
ですから…大事なのは経験でなく、選択。
あなたにしかできない選択の数々。
あなたにしか救えない生徒がいる事を。
遠くで銃を構える狼耳の少女、近くで片膝を付き涙を流す青目の少年
責任を負う者について、話した事がありましたね。
あの時の私には分かりませんでしたが…今なら理解できます。
大人としての責任と義務。そしてその延長線上にあったあなたの選択。
『……俺たちの間違いだった。』
その男の子とは会ったこと無いけど、何故か私は泣いてほしく無いと思った
それが意味する心延えも。
『……けど、先生。貴女だけでも』
私に手を伸ばすその手、そして微笑む男の子
だから先生。
私が、私の弟と共に信じて敬愛する大人である、あなたにならこの捻れて歪んだ先の終着点たちとは、また別の結果を。
まるで器の中の水が私に移されたかのような、不思議な温もりと力強さ
けど目の前で、まるで機を伺っていた様な何かが────
そこへつながる選択肢はきっと見つかるはずです。
だから先生どうか。
『王子よ』『王子よ』『我らが王子よ』『立つが良い』『王子よ、悲願を果たせ』『王子よ、愚かな王子よ』『心臓なき亡骸でも構わん』『我らが悲願を……』
目に映るのは……悍ましいまでの、白
(“ど、どうしてこうなったの……!?”)
キヴォトスでは珍しいというより今まで見た事がなかったヘイローを持たない大人である通称【先生】である女性は車に乗り込みながら、内心白目を向いた顔で生徒3人に囲まれた席に座っていた。
それもその筈、先生は数十分前キヴォトスの連邦生徒会の廊下にて目を覚まし首席行政官“七神リン”の言葉に乗せられ、あれよあれよと車に乗ってしまった。一応、先生の名誉のために言っておくが先生は決して超チョロいわけでも騙されやすいわけでも無い。大人として先生としての使命を果たす心構えもあるし、何よりこの今のキヴォトスの危機を救える唯一の大人として頼られた以上は熟すという責任感もあった。
……話を戻して、そんな先生が呼び出されたキヴォトスの危機とはズバリ連邦生徒会の行政権の失権である。秩序を失ったキヴォトスは瞬く間に荒れ果て、一時期は出所不明の武器の流通が5000%増加したり、今まで比較的大人しかったはずの不良やスケバンたちの暴走など少なくとも混乱が加速していってる。
その混乱の是非について聞くため、三大校(ミレニアム・トリニティ・ゲヘナ)から手が空いている四人が連邦生徒会に押し寄せている時に先生を案内しているリンと鉢合わせた。色々と口早に捲し立てる四人が言いたいことはひとつ“連邦生徒会長と副会長がどこにいったか?”である。
(“連邦生徒会長は失踪して……?”)
副会長は過労により、病院のベッドの上にいる。それをリンから聞いた時の四人の顔はそれはもう言葉では表し切れないほどの苦痛と、驚愕と、敵意が入り混じった表情。
かれこれ副会長とやらが倒れて1ヶ月経つらしいのに、まだ目を覚ます気配がない。一体どれほどの負担を連邦生徒会は副会長に背負わせてきたのかと4人が厳しい瞳を向けるリンはだからこそ先生が呼ばれたのだと言った。
連邦生徒会長が呼んだフィクサーにしてこれから先生が顧問を務める連邦捜査部【シャーレ】の先生たる女性だった。なんて言われてもあまりにも急展開すぎて受け入れるにはまだ少しばかり時間がいると先生は心の中で思った。かくなる上は……
「“そういえば、副会長ってどんな子なの?”」
まず、コミュニケーションを取らなくては始まらないと先生は、同じ様に車に乗りながらも一言も喋らない少女たちに聞いた。連邦生徒会長の失踪には驚きさえしていても、副会長まで今は居ないと聞いた瞬間に少女たちの表情は明確に変わったと先生は密かに【副会長】がキーマン(この場合キーウーマンになるのか?)では無いかと確信していた。
「……副会長、ですか」
「そうですね。色々と言えますが、やはり一番は……」
ミレニアムサイエンススクールから来た早瀬ユウカ…通称ユウカが最初に先生の問いに乗り、それに続く様にトリニティ総合学園から来た羽川ハスミ…通称ハスミも考える様に口に指を当てる。
「「「「……男子生徒であること(よね/ですね/だと思います)」」」」
「“………男の子?”」
少女たちが語る副会長…その名前も紫青ライラはキヴォトスで唯一の男子生徒である。性別という側面だけ見ても珍しい彼は、非常によく目立つということでもある。……キヴォトスで唯一というだけあって、男子生徒は副会長だけらしい。
「彼のおかげで救われたという人も多いですからね」
「……まあ余程の筋金入りでは無かったら、彼の支援を受けた事があるでしょうね」
その後に人となりを聞いていても、善性の人であることは間違いない様だ。キヴォトスでもあぶれてしまった生徒たちの支援を行ったり、各学校へ自らの脚で赴き、問題解決まで付き合ってくれたりと彼が居ない連邦生徒会は間違いなく信頼も信用もできないだろうともしもを笑いながら話しているが、決してそれはウソでは無い事を先生は感じていた。
「“じゃあ今から向かう先は…その筋金入りということかな?”」
ここで先ほどの先生がキヴォトスに来た経緯に戻るが、先生が今からフィクサーとして動いてもらう専門の機械を置いてある場所に向かえばいいだけの話だったのが通信機器からの話によるとそのシャーレに必要な物資を置いてある場所が不良たちに占拠されているとのことだ。しかもその占拠しているボスが【彼岸の厄災狐】という二つ名を持つ少女であると。
そうなると今から私たちが向かうのは副会長の支援を拒んだ生粋の悪ガキなのか。そう尋ねる先生を前に四人の空気に緊張が走る。
「………ええ、かつて副会長率いるSRT連合軍と引き分けたと言われる厄災」
「少なくとも学園最強格でないと相手にならないとだけ……」
矯正局と呼ばれる特にやらかした生徒を収容する場所から脱走した1人。トレードマークは一番目立つ場所に刻まれた紅色の狐紋章と、彼女の顔を覆うヒビが入ったままの狐の仮面。その少女の名前は……狐坂ワカモ。
その実力は非常に高く、暴虐であり、破壊を徒に運ぶ厄災。
一時的に彼女を消耗させることは出来たとしても、彼女を下せたのはこれまで副会長たった1人のみ。この今いる4人の中でも最も武闘派なハスミでさえも直接戦うことは御免被りたいとまで言わせるほどの相手。それが狐坂ワカモであった。
「“………今から行って大丈夫なのかな?それ”」
「勝てるかどうかはともかく、どうにか退かせられる所までは持っていけます」
間違いなく矯正局から脱走したての装備では、型落ちもいい所だ。それでいても尚、こちら側の戦力不足を気にしなければならないほどの相手の強靭さ。だが問題はないとユウカは確信していた。
(不知火防衛室長から届いたこれって……)
ユウカのスマホのダイレクトメッセージに入っていた不知火カヤ直筆のサインと、そこに書かれているとある病院の住所と病床の番号。それで分からないほどユウカは暗愚ではない。
これは副会長が眠っている病院の住所と場所だ
連邦生徒会が絶対に隠しておきたい、おかなくてはならない秘所にして聖域。
(………そういうこと?)
狐坂ワカモが副会長を狙うのは当たり前の話だ。自分を矯正局にぶち込んだ相手への復讐心をユウカは分かっていた。だからこそこの情報は切り方を間違えなければ非常に強い切り札となり得る。
だからこそユウカは頭を悩ませる。
最悪、身の破滅どころかミレニアム全体の危機になりかねないこの切り札を。できれば切らずに済めば良いなとユウカは雑談に興じながら頭を悩ませるのであった。
「そろそろ着きます」
そうしてその後はキヴォトスについて差し当たりのない事を聞いたりしながら着いた先には上がる炎と、発砲音。そして壊されていく街並み…どう取り繕っても戦場であるその場所に先生の顔が引き締まる。ここはもう、先生の知る世界ではない。
「……った!痛った!!違法JHP弾じゃない!」
「伏せてください。ユウカ。それとホローポイント弾は別に違法では無いですよ」
「うちの学校では違法なの!傷跡が残るし…」
ユウカとハスミのボヤキを聞きながら、やはりキヴォトスの生徒の耐久力は並外れていると実感できる。銃弾が当たっているというのに痛いの一言と軽くのけ反るだけで済むとかいう異次元の耐久性。
「先生は私たちの後ろに」
「外の大人は一発でも銃弾が当たれば不味いと聞いています。」
絶対に先生を護りますと意気込むチナツとスズミ。
やだ…カッコいいと頼りになる姿に心をときめかせる先生を見て、少女たちも頼られて悪い気はしないのか目の前で暴れている不良たちに4人は先生の下す指揮を待った。
どうして少女たちは先生の指揮を待っているのか。それは先ほど車の中で会話した時に、先生から申し出があったのだ。自分が指揮役として後ろからバックアップしても良いかという提案に最初は難色気味だった少女たちも、全く違う所の生徒との共闘には不安もあったし、連邦生徒会長が呼び出した先生とやらの実力も知りたかったため、最終的にはその提案を受け取ったのだった。
そうして、先生が口を開こうとしたその瞬間。
横から、1人の少年が飛び出してきた
「ちょっと……待った!!」
「はっ!」
セイアの言葉を聞き、目を覚ましたライラがひとまず思ったことは体の疲れが無いということだ。今までデッカい重機乗せてるのかいって思うほど重かった肩コリが解消され、世界も輝いて見える。
こんな気分初めて!もう俺、何も怖くない!と盛大なフラグを立てながらも、ライラは即座に動ける様に準備をする。1ヶ月近く寝ていたというのにこの身体の柔軟性は変わっていない。まるでバネの様に病床から跳ね起き、近くにあった携帯と銃を懐にしまい部屋を飛び出す。病院服だがこの際気にすることはしない。…まあ最悪どこかでジャージでも調達すれば良いかと思いながらナースステーションに一言言って病院を飛び出した。
後ろでは何〇〇病室の患者さんが起きて脱走して行きましたぁ!!だとか、1ヶ月寝たきりだったのでは!?とか、うぁぁぁふ…副会長が廊下を練り歩いてる!だとか聞こえたけど知らない。聞こえないふりをする。
「……………」
病院から飛び出し、連邦生徒会の象徴であるサンクトゥムタワーをこの場から目視できる方角と高さから今ここが大体d.u地区のどこであるのかを察する。となれば、おそらくこの場所なら“あの子たち”に通信を入れたら間違いなく連邦生徒会に着くまでに合流する事ができるとライラは走りながら電話のキーパットを慣れた手つきで素早く入力し、何処かへ電話をかける。数回のコールの後、問題なく切れた電話の後を見てライラはこれで一安心とばかりに速度を落とす。
「あれ?副会長じゃね?」
「ホントだ。最近見かけなかった副会長じゃん」
ゲヘナの制服を着ている2人の生徒に手を振りかえして、一枚ずつ写真に写って最近何があったとか聞いておく。こうして普通に生きている生徒から聞こえる生の今の声は意外とバカにできない。
「えー?あー!そう言えばデモやろー?って話」
「私も聞いた。副会長が不当に軟禁されてるって……」
副会長ここにいるけど。ウケるー!という声を聞きながらライラは考える。
デモは某レッドウィンターの工務部の十八番であったはずだが、まさかキヴォトス全土であのデモが伝染したというのかとは考えたくは無い。まさかそのデモ神輿に据えられているのが自分とは一体何があったのか。
「それ以外何か聞いたことある?」
「うーん。後は……何だっけ」
「不良が増えてるのはいつものことだし…ゲヘナが荒れて委員長が片付けてるのもいつもの事だし……あ!そうだ」
不良たち…その正体は色んな学校から溢れてしまった生徒たちである。その生徒たちの受け皿が今まで無かったから不良としてあれ荒んだ生活を送ることしか出来なかったが、そこに最低限の支援を挟むことでより深い闇にそれ以上堕ちていかずに済むという戦法である。自費を切ったが、それでも治安維持のためだと考えれば安い。ゲヘナが荒れてるのはノーコメントで。ヒナ委員長がんばれマジ頑張れ。とライラは脳内で半泣きになっている白髪幼女と言っていいその姿に敬礼した。
「「先生!」」
「………先生?」
聞いたことないと首を傾げるライラにゲヘナの生徒が解説する。とは言っても上層部の事はあまり知らない一般生徒であるから深い所までは分からないみたいだが、どうやら
連邦生徒会長が呼んだ“大人”
その“大人”はとある“部活”の顧問を務めるらしい
その“部活”は連邦生徒会と同じ権力を持つらしい
という三つのことが噂に流れている。
「………会長が?」
「らしいよ。ヤバくない?」
おいこら、姉上。聞いたことないぞ。とライラは脳内で一瞬思ったが逆にそこまで考えて失踪したのかとライラは閃いた。……そうして思い出す。姉の仕事から逃げてリン首席行政官に捕まり泣きながら仕事をしている姉の姿。
………うん。無いな
そんなライラの脳内とは引き換えに、ゲヘナの生徒たちは聞いてはならない事を聞いたのでは?と気がついてはいけないことに気がついてしまった。連邦生徒会のNo.2である副会長でさえ知らない“大人”の存在。どう考えても怪しさしかない。
「………そっか。ありがとう。この恩はどこかで」
「いいよこれぐらい!……副会長もがんばってねー!」
「応援してるよー!!」
そんな事を考えていると、信号が青に変わった。
親切なゲヘナ生2人にもう一度手を振ってから、ライラはまた走り出す。そんな中、やはり考えることといえば【先生】とやらの存在だろうか。
話も聞いたことのない大人。そしてそれを呼んだであろう失踪中の姉。
まず呼んだとなると外の世界からだろうか。もしかしたらライラの脳内にある記録と同じ世界から来た大人かもしれない。それだったら話はしやすいだろうか。先生はどんな人だろうかとライラは珍しくその人に想いを馳せることをしていた。
「……っこの模様は……っ!!」
そうして走ること少し。道の向こうに見える“とある模様”を目にしてライラの瞳がまん丸と驚く。そこに書かれていたのは特徴的な紅色で狐模様を刻まれたコンクリートの壁。
こちらを見つめる様なその紅はライラの警戒を最大限に引き上げる。
ライラはこの模様をよく知っている。ライラはこの模様をよく覚えている。
不意に思い出したのは戦いの記憶。いつかは1人で、いつかは自分が最も信用している小隊を率いて、いつかはSRT連合軍を率いた時。必ず彼女は敵として姿を現す。
そんな彼女に付けた二つ名は【彼岸の厄災狐】
彼女の名前は……狐坂ワカモ
「矯正局で大人しくしてるって話じゃ無かったのか…!?」
勿論ライラは既にワカモを捕まえて矯正局に送っている。
矯正局での彼女は、二つ名とは程遠い模範囚人として過ごしていたと報告で聞いていたがまさか脱走していたとは。そりゃ確かに治安も荒れるはずだとライラは内心納得した。
「………………」
放っておくべきか、おくまいか。
今は連邦生徒会に向かう方が大切だとしてこの場を見過ごしてもいいが、その場合被害が激しくなる。その間に無辜の生徒が被害にあってしまえばなど考えればライラは副会長として見過ごせるものでも無かった。
「………えぇい!」
ライラは方向を90度回転させ、ワカモが暴れているであろう破壊音のところに向かうことにした。おそらくこの破壊音と書かれた模様で電話した相手も同じ事を考えているだろうと信頼しながら。
そうしてライラが向かった先で立っているゲヘナ・トリニティ・ミレニアムと言う三大校の生徒の後ろに立つ黒髪の女性。……その姿を見て、ライラは自らの判断が間違いでは無かった事を悟る。
「ちょっと……待った!!」
振り返る黒髪の大人。目と目が合うその瞬間、互いに感じる不思議な懐かしさ。
陳腐な言い方をすれば、これこそ運命の始まり。出会いの運命、運命に導かれたという言葉をこの日初めて2人とも心から納得する。
「“君は……”」
「……色々と言いたいのですが。まずは初めまして。私は」
そんな一瞬だけの目と目が合った沈黙は先に先生が口を開いた事で、その均衡は破られる。色々と言いたい事はある。色々と聞きたいことがある。だけどその全てを今は飲み込んで、ライラはまず自己紹介から始めることにした。
「副会長!」
「ご無事でしたか!!」
そうして口を開こうとしたその最中、横からユウカとチナツから声がかかる。ライラにとって、この場で知っているのはミレニアム生徒会のユウカと、トリニティの正義実現の副委員長であるハスミだけだが、チナツの肩章を見てゲヘナ風紀委員であることが分かる。
「……とりあえず、説明を」
「はい……私たちは」
ユウカが語る一連の騒動。副会長が姿を見せなくなった1ヶ月前から少しずつ副会長についての噂が広まっていき、二週間前からは治安も悪化。そうしてようやく今連邦生徒会にこの混乱について尋ねようとするとその場で連邦生徒会長の失踪と副会長が倒れていることがリンから発表され、その混乱を治めるために外から大人である【先生】を呼び、今からその先生が顧問を務めるビルが不良に占拠されているのを奪い返すためこの場に来た事を丸々、それでいて分かりやすく教えられた。
「……なるほど」
「“ライラくんだっけ?……手伝ってくれる?”」
「先生!?」「……ですが副会長が居れば……」
現状を聞き、先生からの手伝って欲しいとの声。
この時点で、というより最初からライラは先生を手伝う気でいた。ゆえにこの質問の答えはただ一つ。
「ライラでいいですよ。……ええ、先生。上手く使ってくださいね?」
「“ありがとう。ライラ”」
勿論、先生が指揮するだろうとそのつもりでライラは先生と握手をする。
今までに無いほどのライラの清々しい微笑み。
────────それを見る、視線がひとつ
狐坂ワカモにとって連邦生徒会副会長・紫青ライラとは、一言で言うのなら愛おしくて、狂おしくてたまらない自分がこの世に居る存在証明である。紫青ライラという光が強くなればなるほど、自分の存在が“彼の敵”である証明になる。それはまるでヒーローとヴィラン。魔王と勇者と例えられるほどに決して混じる事のない二人は、ワカモにとって絶対的な運命であったと思い出す。
ワカモの心と身体を灼き続けるあの孤高なまでの青色の眼差し。慈悲深き聖者と名高い彼。それ故の孤高の人。そんな絶対的な輝きが、太陽が、恵みの光が、己だけをまるで焼き尽くさんと“私だけを見るその瞳”に込められた烈火の意思。あの光を独り占めにすることが出来たのなら。
(………本当は、満たされておりましたのよ?)
暗い牢獄で1人、鎖に繋がれたワカモは特に身動きを取ることもせず微睡みの中に微笑みながら浸っていた。思い出すのは、ワカモとライラの最終決戦。ライラがワカモを追い詰めた先の決戦。
何度も、何度も、何度も。痛み分けを続けた果てに。
遂に副会長はワカモを追い詰めた。互いに消耗し切った末の決戦。後にそれが【紅蓮華の決戦】と言われたが、そんな生優しいモノではなかったとワカモは疼く身体を抑えながら何千回、何万回と微睡む夢の中で再生する。
血と硝煙と汚れに汚れ仮面も殆ど破壊された私と、同じ様に汚れていた彼と彼の命令が下るまでただ私の喉元を噛みちぎらんと猛る戦意と高揚を抑えながら睨み合ったFOX小隊。どちらとも言わず、私たちはただ相手を貪り尽くさんと壊し合った。
戦いの先。美も醜も、善も悪もない。まるで自分の勝利を満たすためだけにあるかの様なあり様の決戦。……この高揚をこの時の絶頂をワカモは決して言葉にしたくは無かった。言葉などと言った無粋なモノでは決して片付けられる訳のないこの熱。それは一つの傷となって今もワカモの心も身体も満たされているのだ。
(………ああ、本当に見事でしたわ)
そう。ワカモは満たされているのだ。気がついた時から延々に満たされることが無かったこの衝動。理性という箱にずっと穴が空いているかの様な衝動をいつの間にかワカモは抑える事さえもしなくなってしまった。
逆らうぐらいなら、抗うぐらいなら。この衝動の思うがままに壊せばいい。暴れればいい。傷つければいい。そうしていつの間にかワカモは【彼岸の厄災狐】と呼ばれて畏れられる様になってしまった。
そうして出会ったのが、紫青ライラ。
あのワカモを見下ろす透き通った青色とは裏腹に、まるで燃える炎を孕むかの様なネツの巨星。その瞬間、ワカモは灼かれて心の底から魅了された。
(……あなたの愛だけが欲しいのです)
何もかも捧げてしまいたくなる。恐ろしいほどの渇愛。…いやもはや愛でも、哀でも、アイであってもいい。だけどその時ライラにとってワカモとは“少しイキの良い不良”の1人に過ぎない。ならどうするか。
だからワカモはこれまで以上に衝動に溺れた。
もはやワカモの方が衝動を後押しする程には。
そうしてワカモと副会長(FOX小隊含めて)は何度もぶつかり合った。それこそ数えきれないほど小競り合いをし、何度も何度も武器を交えた。ワカモが率いるスケバンや不良たちの軍勢と副会長とSRTの軍勢と言ったまるで合戦の様なぶつかり合いもあった。
(ああ、あの戦いも、この戦いも傑作でしたわね……)
いつかワカモのトレードマークと恐れられた狐仮面に付けられた一筋のヒビ。それはいつかの戦い。ワカモが集めた不良たちとライラが率いるSRT連合軍との最早ひとつの戦いと名前が残るほどのぶつかり合いの最中。
ワカモは集めた不良の本陣さえも陽動に使い1人単身単騎で、ライラの居るSRT連合軍の本陣に急襲した。振り下ろした銃剣をライラはその手に持ってい銃のバレルで防ぐ攻防を何度も繰り返した後、まるで相打ちとばかりにライラの肩章とワカモの仮面に大きな傷が入ったのだ。
あの戦い以降。ワカモはライラの視線が“イキの良い不良”ではなく、“狐坂ワカモ”という一個人を相手にしていると特に実感することになった。後は私と同じ愉悦だけだったというのに。
(………後悔はありませんわ)
天晴れだった。とワカモはあの決戦を思い返す。
鍛えた技術。身につけた技能。磨き上げたセンスや場当たりの発想も瞬発力も全て、全てぶつけた。………ああ、だからこそ満たされているのだろう。
楽しかったのだ。まるで最高級のディナーを浴びるほど喰い尽くし、そして極上に美味い最高級のケーキ屋のバイキングまで付いていた。今のワカモは満腹だった。だからこそこうして特に何かするわけでもなく、ただ鎖に繋がれていた。
今までも何度か牢屋の外から聞こえた脱走するのにどうかという誘いの声。薬屋気取りの狂科学者も、芸術家気取りの盗賊も。どいつもこいつもワカモを誘う。だがそのたびにワカモは思うのだ。
ああ…コイツらは、なんと哀れな存在なのだ。と
満たされる事を知らない飢えた獣。ただ一度もその身を灼く光にあったことも、手を伸ばして恋焦がれた事もない酷く哀れで、駄々をこねる童にしか見えないのだ。
「……ああ、ですがね……」
勿論、そんなワカモにも許せない事が一つあると小さく呟き、厳重に塞がれたその部屋のその牢獄の繋がれた鎖から金切り声が上がる。まるで莫大な力が鎖にかかっているかの様な不調和音を聞くのは誰もいない。…それを上げているワカモ以外は
「…………ライラ様が、連邦生徒会副会長が」
そんなワカモが許せない事とはひとつ。
牢屋の外から聞こえる副会長が姿を見せなくなった噂。連邦生徒会が副会長を弑逆したという噂。連邦生徒会が副会長を不当な手段で貶めたという噂。
認めない。認めてなるものか。
あの人の絶対の敵は私だけだ。あの人を傷つける資格も、傷つけられる資格も私との間にしか無いとワカモは確信している。ワカモにとってのヒーローが。キヴォトスのヒーローであるはずの彼が、あってはならない方法で貶められているのだとするのなら。
「確かめなくては、証明しなくては……!」
今一度思い出させなくてはならない。今一度知らしめなくてはならない。
【彼岸の厄災狐】の名を。誰もが恐れて、あの人を正義であると知らしめたあの決戦をもう一度始めなくてはならない。
そう考えていた時には、もうワカモはこの檻を滅茶苦茶に破壊して脱走していた。別にいつでも脱走できていただろうと思えるほど簡単に鎖を千切り、檻を捻じ曲げ牢は紙を裂くかのようにバラバラになった。
そうして【彼岸の厄災狐】は解き放たれた。
歪んでいるが、あまりにも重すぎる純愛を抱えながら今日もワカモは暴れる。
そうして今日は、かの連邦生徒会の所有するビルへと攻め込んだのだ。
そこには失踪した連邦生徒会長の所有物が収められているという噂なのにワカモの想像以上の警備の手薄さ。これはハズレかとワカモが後ろを見た瞬間だった。
「…………は?」
そこにいたのは親しげな笑みを浮かべた副会長の姿。
ワカモの脳みそ「爆発する」
ちなみに最初のブロット上では、先生とライラの前世は夫婦設定でした。
大恋愛ののち、卒業と同時に籍を入れた2人は順調に愛を深めて幸せな家庭を築いました。勿論そうすると次第に愛の結晶である子どもが出来るのですが妊娠した先生の腹には何故か見覚えのなく、触れられない輪っかの様なモノが浮かぶ様に。【黒服】と名乗る謎の男の手引きより、先生が産んだのは金髪の悪魔の様なツノと尻尾と翼が生えた異形の子。
勿論、そんな子が現代に受け入れられるわけもなく黒服の手引きでそんな子が集まる場所へと先生とライラ(前)は手放すのですが、その直後にライラ(前)は死亡。幸せに産まれてくるはずだった子どもは異形で、これから少しずつ傷を埋めるはずだった最愛の彼さえも失った先生は失意の中、キヴォトスに現れます。
そこには、最愛の彼とよく似た男の子が現れて。彼しか知らない様な先生の情報を口にして先生はキヴォトスで(子どもと)夫と一緒に暮らして……
とやりたかった所ですが、どう考えても先生が先生やれるメンタルでは無いし間違いなくライラと先生の共依存にしかならないのでやめました