(自称)先生の超親友兼連邦生徒会副会長、紫青ライラ 作:ふしあな
今回は先生とライラの絆ストーリーです。前回、ライラの銃について多くの意見ありがとうございます。
次回からアビドス編かな……
連邦捜査部シャーレが正式に発足された。
あの“失踪した”連邦生徒会長が特別に呼び出した顧問である大人…【先生】の存在だったり、“誰でもシャーレの部員に勧誘する事が出来る”という並外れた権限を持つ存在は一部に強烈な印象を残したが、あくまでそれだけだった。
大衆の殆どはまた連邦生徒会が変な事をしているよと思い、記憶の奥隅に捨て置かれるはずのその名前。だがそのシャーレとやらに所属した【部長】の名前を見て、大衆は驚きと混乱に包まれる事になる。
「いやぁ〜乱世乱世。ここまで騒ぎが大きくなるとは……」
そんな【部長】の名前を“紫青ライラ”…彼の元々の肩書は“連邦生徒会副会長兼連邦生徒会長代理”…つまりはかつてのキヴォトスNo.2であり、連邦生徒会長が居なくなった今、本来ならトップに立つはずの人物が連邦生徒会で新しく出来た謎の大人率いる部活の傘下に入ったというのだ。
その混乱はいかほどなモノか。
シャーレの部室の中で連邦生徒会の制服を着崩し、筋肉とハリがチラリと扇状的に見える脚を投げ出しながら、その透き通った青髪を広げる少年はスマホを片手に笑いながら備え付けのソファーにて横になっているのだった。
「“ライラ……行儀が悪いよ”」
そんな少年の姿を見ながら苦言を口にする大人の女性こそ、今キヴォトスでライラと共に有名になっている【先生】その人である。黒いパンツスーツを着こなしキッチリと整えられた姿で椅子に座っている先生はペンを動かしながら会話を続ける。
あの日、彼岸の厄災狐と呼ばれた少女をライラが退け、私がそのビルの中でリンから手渡されたのは今も手元にあるタブレット端末である【シッテムの箱】であった。どうやらこのシッテムの箱とやらは連邦生徒会長が残したオーパーツであり、連邦生徒会の誰もが起動できなかった代物。だがこれは連邦生徒会長が呼び出した大人である先生なら使えるとの事で渡されたのだった。
そうしてそれを手にした先生は頭に浮かんだ言葉を入力すると、目の前の景色は白い無機質な部屋から半壊しているが海と空が綺麗な教室に変わっていた。その中にいた少女…曰く、シッテムの箱の在住AIで先生の専属秘書と名乗った少女アロナの力によってキヴォトスの行政権を手にする事ができたというわけだ。その時、一悶着あったが、今は割愛しようと先生は目の前でダラける少年を見る。
(“本来なら、私の上司になるはずだった子、か”)
姿勢を崩してソファーに身を投げ出しているそんなダラけた姿でさえ、先生は何故か油断してはならない気がした。それはライラが纏う空気か、それともこのキヴォトスをたった1人で背負っていた少年への敬意と畏怖か。
連邦生徒会という学園都市キヴォトスの全土の上に立つ行政機関の副会長。そんな彼が行政権を有しているサンクトゥムタワーの制御権を持っていない訳がないと思うし、持っているとアロナも言っていた。
『んにゃ。確かにサンクトゥムの制御権の一部は持ってますが……』
そんな先生の質問に、ライラは気恥ずかしそうに頬を掻きながら解説する。
曰く、連邦生徒会副会長としてライラに付与された権限はあくまでライラ1人に収まる程度のモノであった。それだけでも破格な代物だとサンクトゥムタワーの重要性が分かる人間からすれば叫びたくなるモノだか、ライラにとって単に仕事が増える元凶である以上あまり良い想いはしていないというのが現状であった。
『でもそれはあくまで俺だけしか使えない制御権なんです。連邦生徒会的にも、俺的にも権力が一点に集中するのはマズイと思いましてね……』
たった1人しか使えないというのに、それを毎日数えるのが億劫になる程使うのだ。
おおよそライラのデスマーチの原因がそれである事は置いといて、目を背けては行けないのはキヴォトスの権力がたった1人の生徒に委ねられているのが問題だとライラは説く。
『分かりやすく言うのなら!』
『ぶっちゃけキヴォトスの私物化とか興味ないわけで!!』
なんならあの悪夢のような労働から解放させてくれるのなら副会長という座さえも信用できる人に二束三文で売り払う覚悟まで決めていたライラにとって、今までの少ない時間であろうとも善性の人であると磨いた審美眼が告げていた先生の存在は非常に好意的に写っているのだ。
そんなライラの独白に毒気が抜かれたのか、先生のライラを見る目が柔らかくなる。今まで誰にも相談出来ずに頑張ってきた少年がようやく肩の力を抜けるようになったのだと考えれば私が先生としてこの場に来た理由のひとつになる。と先生である女性は微笑みながら、こう言い手を差し出した。
『“なら、これから一緒に頑張ろうね。ライラ”』
『……はい、先生。これからよろしくお願いします』
そんな先生の手をライラは一瞬の迷いもなくしっかりと握り返す。
この時から、きっと2人の間には親愛にも似た強固な絆が結ばれたのだろう。
(“それからも色々とあったなぁ…”)
まだキヴォトスに赴任して1ヶ月も経っていないのに、様々なトラブルと出会った先生は最早半生可な事では驚かないほど図太くキヴォトスに順応し始めていた。それはそれとしてこの書類の山には慣れなさそうだが。
「あ。先生ちなみにここの文は間違えてますし、こっちはこう書いた方が適切ですね」
「“ありがとう……”」
先生が座っている椅子の後ろから覗いたライラが一瞬のうちに書類のミスを2つ見つける。ライラには便利で優秀なアロナの補助も無いと言うのに、自分と同じ量の書類を軽々と終えてしまう姿はやはり歴戦の激務をこなしてきたのだと心のなかで敬礼しておく。
(ちなみにこれぐらいはまだ全然軽い方です)
(”直接脳内に!?”)
だが所詮その書類の山はライラから見れば1時間もあれば終わる代物。全盛期では自分の身長ほどある書類の山を半日で片付けなければならないと考えれば全然マシな方なのだと先生の書いた書類の訂正やミスを指摘したり、直したりしていると次第に仕事が終わりに向かっていった。
「“っっ!終わったー!!”」
「お疲れ様です先生。」
これなら問題ないだろうとライラは書類を纏めながら、先生を労う。ソファーとの備え付けの机に並べた急須と湯呑みの中に見える深みのある鮮やかな緑色。そしてそこに綺麗に大皿に盛られたお茶菓子と言わんばかりのおかきたち。
「はい。お茶です…少し休憩しませんか?」
「“いいね!……あれ?緑茶??”」
そんな並べられた和の代物に先生は目を丸くし、ライラが見た中で一、ニを誇るレベルで先生は素早くソファーに移った。先生からすれば驚いたのだろう。まさかこんな所で本格的なお茶が飲めるなんてと香る匂いに集中しながらふと思い出す。
あれ、シャーレの物資の中にお茶とかあったけ?と。
実は未だ色々と物資の不足が多いシャーレの部室の中で嗜好品などは全てライラが密かに収集していたモノを大放出している。今日こうして出された玉露とお茶菓子も全てライラがいつか密かに楽しもうとしていたモノであった。
「ええ。まあたまにはこういう贅沢も許されるでしょう」
「“……じゃあありがたく貰うね”」
ライラの私物が大盤振る舞いされていることに先生も気がついたが、ライラの片目を閉じて人差し指を立てて口元へ持ってきているサインを見せられたら流石の先生も何も言えなくなる。ここはライラの顔を立てて頂こうと先生は口を付けたのだった。
そうしてお茶の味とお菓子に舌鼓を打つこと少し。こうしている間にもシャーレへの仕事が尽きることは無い。深刻な依頼から、簡単な依頼まで。本来なら連邦生徒会に突然作られた組織に前者の依頼は送られてこない筈なのに、色々と混ざっているのはおそらく元連邦生徒会副会長が居るからだろうとライラは歯痒く思っている。
「“ねぇ……ライラ。この依頼なんだけど”」
「拝見します………そうですね。先生はどう思いますか?」
そうした依頼の中で混ざっている怪しすぎる依頼。どこからどう見てもシャーレの地位、或いは先生かライラの身柄を狙ったあからさま過ぎる依頼を前に先生とライラは苦笑しながら一つの答えを出す。
「「“どう考えても、私(俺)たちを狙った罠”(でしょう)」」
ここまであからさまで分かりやすいのは先生に書類が行く前にライラが弾いたり、密かに調査させているのだが今回は何故かここまで来てしまったらしい。ちなみに余談だが連邦生徒会宛ではなく、シャーレに直接来る依頼はどうやら先生の持つシッテムの箱の秘書…アロナ(ライラには見えないが今もライラに手を振っているらしい)が整理してくれているらしい。
「へー……アロナ、ですか」
「“うん。どうやら私以外に見えないみたいだけどね”」
青色の髪にピンク色が微かに浮かび、白い大きなカチューシャを頭に付けた大体10歳ぐらいの少女。青目のその少女は青と白のセーラー服を着てシッテムの箱の内部に常駐しているらしい。
「……青髪青目、ねぇ……」
「“ん?どうかした?”」
ライラの脳裏で満面の笑みを浮かべながら走り去っていった連邦生徒会長…姉の姿を幻視した気がしたライラは苦々しく思いながら先生にはなんでも無いと返すしか無かった。……まさか度重なる激務を嫌に思った姉が先生の持つオーパーツの中で幼児退行して先生に甘えている。なんて事ありえるはずがないのだから。
「いえ、なんでもありませんヨ」
「“ライラ?……ま、まあライラがそう言うのなら”」
ここで先生から見ればアロナの姿を聞いたライラが何故か某名探偵のウサギさんが犯人である某熊の紳士を見つけた時の様な目つき悪っ!という状態でシッテムの箱を見ているのだ。どっからどう見ても何かあったのだろうと先生は口にしたかったが先生も大人である。何でもないのなら何でもないのだろうと(半透明な)アロナを見るとそんなライラの視線に慌てた様にシッテムの箱の中に引っ込んでいった。
一体何だったんだろうか。
と先生が首を捻っていたら、ライラが一枚の依頼を取り出した。
「……おそらく、これは緊急性のある依頼ですね」
「“……どれどれ??”」
曰く、不良が暴れているからどうにかしてくれと言った至極ありふれた依頼。だがその不良が暴れているところが色々と不味く、どの学校も手を出しづらい場所にあると言うのに、そこで大規模な破壊が行われれば多くの人が迷惑すると言った感じ。
「多分気分が上がってしまって暴れてしまっただけだとは思うのですが……」
「“もしもを防ぐために見に行くんだね”」
はい。とライラは肯定する。かつての副会長時代に多くの不良を更生させてきたライラだからこそ今回の一件は少し気分が昂って激しく遊び散らかしただけだと思うが、もしも企業が裏で手を引いていたりしたらマズイから調査だけはしておこうという名目で先生を動かす。
「はい。そのためには一応先生にも来て頂こうかと……」
「“そんな改まらなくても良いよ。行こう”」
まあ、真実はライラにとってこの案件などそれこそSRTに任せれば良い。それでも自分たちで行くのは単に先生のキヴォトスでの知名度を上げるためである。今、シャーレに入ってくる依頼の大半はライラのかつての功績を前提にしている節がある。だが、シャーレはあくまで先生という顧問の下にライラという部長の名前がある。それをできるだけ早く且つ、多くの人間に熟知させなくてはならない。だからこそ細々としたこういうプロパガンダ擬きをする必要があるのだった。
「ありがとうございます。先生のことは俺が守るので」
「“そう言えばライラの武器ってハンドガンなんだね”」
ズボンのベルトに付けた左右のホルスターから二丁のハンドガンを引き抜きリロードなど一通りの動作確認を終えて先生が呟く。今まで多くのキヴォトスの生徒と関わってきたけどサブマシンガンやスナイパーライフルはありふれどライラのようなハンドガンは珍しいと口にした。
「ええ。まあ、2丁拳銃というロマン極振りですけどね」
「“いいじゃん!2丁拳銃!!”」
そんなライラが今持っている銃は“ベレッタ92”と呼ばれるオートマチックピストルで、白を基調に緑と青色の線が互い違いに入った鮮やかな銃を二丁持っていた。これがいつものライラのロマン溢れるトゥルーハンドである。
「これ以外の銃を使う時はまたお見せしますね」
「“あれ?それだけじゃないの?”」
そんなライラのロマンに男心くすぐられた先生(♀)はキャッキャしながらライラの言葉に首を傾げる。ひとつの銃に固執する訳ではないけどキヴォトスの生徒たちは決まった武器をずっと使っているという印象がある。壊れたりしたら別みたいだがそれでも同じ種類の銃を使っているのを見たことがあるのだ。
「勿論同じハンドガンですよ。一応」
「“えっ、何その反応”」
ライラも変わらず基本的に使うのはハンドガンだけだが、過去にはショットガンやスナイパーライフルなどを使っていた名残がライラの秘密の武器庫の中に仕舞われている。勿論、その中にライラのスペアとして置いてあるハンドガンという区分だけどハンドガンとは言い難い威力を出せるライラが懇意にしているマイスターの手によって生み出された銃たちが。
「……いつか見せてあげますよ。機会があれば」
「“楽しみにしてるね”」
だけどライラにとって基本的に使うのはこの銃たちである。いつかこれ以上に合う武器が見つかったらそちらに乗り換えるかもしれないが、大方全ての武器を試してたどり着いたこの2丁拳銃の戦い方が自分に一番合っているのだろうと納得しながら先生と共にシャーレを飛び出したのだった。
「“ライラ、本当にこっちで会ってるの?”」
「………先生、逆方向です……」
なんて一幕もあったが、おおよそ問題なく先生とライラは進んでいった。まあ最も昼下がりのおやつの時間まで少しあるこの時間は、基本的に銃撃戦などと言ったイザコザが減る時間である。道を歩いている生徒も呑気に先生とライラに手を振ったりしているのを返しながら2人は進むのだった。
「やっほー!副会長に先生ー!」
「“(手を振り返している)”」
「もう副会長じゃ無いぞー!!」
忙しげに走る生徒がハイタッチを求めてきた時は、2人ともハイタッチをして通り過ぎていくなど、シャーレや先生といった存在は日に日に好意的に受け入れられているとライラは確信していた。
「“………ねぇライラ”」
「はい?どうしましたか?」
そんなライラの楽しげ…と言うより生き生きとした姿を見て、先生は少しだけ聞きたいことが浮かんできてしまった。この質問はもしかしたらライラにとっては蛇足なのかもしれない。でも先生は、大人として『先生』になったのだからライラという『生徒』が1人だけ我慢しているかもしれない事は到底許せることでは無かった。
「“ライラは副会長を辞めて本当に良かったの?”」
先生は知っている。ライラが密かに副会長としての業務をまだ続けていることを。
先生は知っている。多くの生徒がまだライラの副会長を望んでいることを。
……そして先生は知っているのだ。ライラが先生よりもずっとずっと前からキヴォトスを守り慈しみ愛してきたことを。
だからこそ疑問に思うのだ。そこまで自分の身を、時間を、お金を捧げてまでキヴォトスに尽くしてきたその姿はもう『立派な1人の大人』として言っても間違いでない彼が、こんなまだ何も成していないただ上から命令するだけの『大人』に従う理由が、先生には分からなかった。
「“どうしてライラはそこまで私を受け入れたの?”」
シャーレが何と言われているか先生も知っている。そしてその言葉を覆そうと一番頑張っているのはライラだと言うこともよく知っている。だからこそ先生は余計分からないのだ。どうしてそこまで全てを抱えようとするのかを。
きっとライラのそれを知らなければ、私は正しくシャーレの先生…いや、大人としての『先生』になれないと、何故かどこかで確信していた。
「………受け入れた、ですか」
そんな先生の嘘偽りは許さないと言うかの様なまっすぐな視線を前に、呟く。
ライラが最初に先生に感じたのは運命。だけどそれだけではライラはシャーレに干渉する事は無かっただろう。あくまでその評価を見るだけだった。そう、あの時先生までも後ろとは言え戦場に立つまでは。
「だって貴女は逃げなかったじゃないですか」
「“逃げなかった?”」
「はい。今こそシッテムの箱があれど最初あの時、貴女は逃げなかった。銃弾という自分を簡単に殺せる恐怖から。」
「“………それは先生としてだからだよ”」
あの時、ワカモとFOX小隊たちと言った不確定要素も含みながらそれでも先生は凄惨な戦いの場から目を逸らす事は無かった。キヴォトスの生徒たちにとって銃弾とは別に多少痛いだけで済むが、先生は一発でも撃たれれば死にかねないと言うのに。
「だからです。そんな貴女だからこそ俺は『先生』を『先生』だと認めたのです」
死の恐怖には抗えない。例え当たらないと思っていても、銃声を聞けば身がすくむ様な思いをしただろう。前世の記憶があるライラだって最初は怖かったのだ。例え当たっても痛いだけで済むと言ってもだ。だからこそライラは先生が思っている以上に先生のことを高く評価している。
恐怖を前にしても、屈する事なき気高き精神。
子どもを導く『大人』として『先生』として満点だと
「貴女の様な大人は初めてだ。」
ライラは副会長として多くの大人と出会った。だからこそ大人の汚さ、見苦しさ、誤魔化しその全てを見てきたし知っているのだ。そういう生き方をするのが大人だと知っている。そしてこの『先生』がそういう大人とは違うとライラは信じた。
「信じてみよう。……これが俺の答えです」
「“そっか……”」
そう信じたのだライラは。そんな真っ直ぐとした信頼の瞳を前に先生は、その信用を噛み締める様に深く頷いた。一体どれほどの時間が経ったのだろうか。その時間の中で一体どれほどの想いが先生の心の中を渦巻いたのか。
……だけどひとつ言える事は分かる。
先生は決してこの眼差しを裏切る事は出来ないと心に刻んだ。
「“じゃあその信頼に応えられる様にがんばるね”」
「………まずは書類のミスを減らして下さいね」
そう微笑む先生に照れた様に呟くライラの言葉が先生の胸に刺さったのかオーバーリアクションと共に崩れ落ちた。それもその筈、今日に至るまでライラの修正が入らなかった書類は存在しないのだ。まだキヴォトスの書類形式に慣れていないからとは言え、些細なミスまで見逃してライラに迷惑をかけている先生にとっては心が痛いモノだった。
「“うっ……が、頑張るから……”」
「期待してますよ」
そう言いながらたどり着いた頃にはもう夕方になっていた。日は半分暮れ、辺りの影にはもう夜の空気が漂っていた。互いの顔さえ分からぬ黄昏時に2人はようやくその場所へと姿を現した。
「“……ここだよね”」
「はい。書類に記載された場所は、ここですね」
この場に来てすぐ分かるほど濃い火薬の臭い。暗くなってよく見えないが奥の方には砲弾の様な何かがバケツらしい形状の近くに放って置かれているのが見える。ライラの感覚にも先生のシッテムの箱にもこの近くには敵がいない事を確信したのち、その砲弾の近くに駆け寄る。
「“………これって”」
「スプレー缶に、水の入ったバケツの中に浮かぶ燃え殻……」
シッテムの箱のライト機能と、ライラの持っていた小型の懐中電灯でその場を照らすと、そこにあったのはどうやら争いとはかけ離れた物品があるだけだった。一体これはどういうことだろうか、ライラが頭を捻った時だった。
「“花火でもしてたのかな?”」
「随分季節外れですね!?」
だがそうにしか見えないとライラは鼻を鳴らす。煙草の様な独特な臭いもしないし、危険性がある様にも思えない。落書きの跡やら焦げた痕があるのを考えるとやはり花火でもしていたのだろうか。
「……ですが、そうですね。そうとしか思えな……」
「おいおいおい!!ここをどこだと思ってる!!」
先生の言葉に納得したと口にしたその時だった。目の前の通路からヘルメット団たちが姿を現したのは。…どうやら逆光になっているようで少女たちから見て先生とライラはこの場へと迷い込んだ生徒の様に見えているみたいだ。
「“私たちは……”」
「なんだろうとここに来たって事はタダで返すわけがないよなぁ!!??」
先生が弁解するよりも先に、銃を取り出したヘルメット団たち。この場は相当見せたく無かった場所なのか。一触即発の空気に包まれたその場は互いにいつでも銃を引き抜ける様に張り詰める。
「この場で暴れていると聞いたのだが」
「ああ??……まあ、楽しんでいたのは確かだけど?」
ライラの問いに含みある答えを返したヘルメット団のリーダーらしき子。
その後の一瞬の沈黙ののちにその子の怒号と共に戦闘は始まる。
「見られたら仕方ない!!痛い目見てもらうよ!!」
「……仕方ない。先生、軽く鎮圧しますよ」
「“うん!……支援、開始!!”」
先生のシッテムの箱が輝き、ライラの支援を開始する。ライラにとってはこれが初めてのシッテムの箱付きでの支援だろうか。五感が拡張されるような感覚。現状全てを認識できるというのにその情報に翻弄されない不思議な全能感が思考を駆け巡るとライラは思った。
《ライラ戦闘中……》
「うぅ」
「鎮圧成功しました」
そうして戦うこと数分。速攻で落とし続けたライラには少々の負傷があったが、殆ど完勝といっても過言では無いあり様だった。それもその筈ライラは前線には出ないと思われがちだが、いつでも戦える様にはしているのだ。
「“お疲れ様”」
「はい。………じゃあ答えてもらおうか」
「答えるって言われても………」
未だ銃を手から離さないライラを前にして伏せながらヘルメット団たちは口籠る。この場所へと乗り込んできたのには何か理由があると思ったが、まさか本当にただの第三者だとは思うまい。
「は、」
「は?」
「花火で遊んでただけなんだよ………」
真相はこうだ。
去年の花火の残りを偶然手に入れたヘルメット団の少女たちがふざけ倒しすぎてロケット花火を一斉に点火。だがその花火はどうやら威力や音を魔改造されたミレニアム製だったので、まるでC4爆薬が連鎖して爆発したかの様な派手な音と衝撃が発生したのだ。
「“じゃああのスプレー缶は……”」
「………流石に焦げ跡をそのままには出来ないでしょ」
その時に発生した黒く汚れた煤や灰などを片付けても、結構しぶとく黒ずんでこびりついてしまった。とは言え清掃業者を呼ぶのもお金が掛かるし放っておくのも副会長の傘下の街の手前、出来ず。少女たちが考えついたのが上から似た様な色のスプレーをかけて誤魔化しておこうと言う事だった。
「…………とりあえず、今度から派手な遊びは迷惑にならない場所でしましょうね」
「はい………」
少し前なら追加で手榴弾でも爆発させておこうかとなったところが今はどうにか元通りにしようとするその善性へと傾いた心にライラもとやかく言いたい事を全部飲み込んで、今回みたいな事にならない様に気をつけよう。としか言えなかった。
そんなライラの姿に色々と飲み込んだんだろうなと先生は思ったが、それを言うのは野暮なのだろうと口を噤んだ。その後、特に大きな問題では無かったとして報告書に書く証拠だけ写真に収めて、ライラと先生はシャーレへと帰って行った。
「……先生、お疲れ様でした」
「“うん。ライラもね”」
予想外…いや、ある意味予想よりも面倒ごとにならずに済んだと言うべきか。平和に終わった今日の依頼と共にシャーレの業務も終了である。先生もライラも休もうと道を別れたのだった。
【紫青ライラの絆ストーリー1・日々の業務】
紫青ライラはカフェに来ない仕様になっている(呼ばれれば来る)為、スケジュールで極小確率で見つけれるのを期待するしか無い。今回のストーリーは絆ランク3で解放できる設定である。
ちなみにこれは知る由も、知る必要もないが先生への無償の信頼をライラに問い詰めて“逃げなかったからだ”と回答したこの一連の質問と回答の流れはライラが凶弾に斃れるまでに負った重傷の身でありながら先生を庇っている間に起きる謂わば、バッドエンドに至った世界線でしか聞けない会話であるはずだった。
執筆意欲に繋がるので、感想、評価をよろしくお願いします。