そして英雄は愛を知る   作:カニ漁船

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前回のあらすじ 新しい担当厩務員がついた


ラファエルという男

 イアンから告げられた衝撃の一言。目の前にいるコイツが、俺の担当だと?

 

「それじゃあラファ。今日から頑張ってね。仕事は昨日教えた通りだから」

「は、はい!」

 

 え~……マジかよ。さっきから震えてるし、大丈夫なのか?コイツ。

 けれど、油断はしない。今までは関わることもないだろうと思ってたから深く考えてこなかったが、こういうヤツこそ腹に一物抱えている可能性がある。他のお世話係同様、俺に対して何かをする可能性は十分にありえるわけだ。

 

(やることは変わらねぇ。コイツにも今までのヤツと同じことをして、引き剥がしてやる)

 

 なよなよしてるが、コイツだってその内俺を虐げるはずだ。そうなる前に、俺への恐怖を植え付ける……そうすりゃ、俺に関わろうとも思わない。いつも通りだ。

 早速餌やりの時間。ラファエルは一生懸命飼葉桶に餌を移しているが。

 

「ヒヒーン!」

「わー!?まま、待って待って!僕の腕は餌じゃないよ!?」

 

 途中で、アイツの腕を噛む。餌と間違えたとかそんなもんじゃない、わざとだ。予想外だったか、それとも唐突だったからか。ラファエルは尻もちをつく。

 

「イテテ……」

 

 そうだ、これまでと変わらないことをすればいい。そうすりゃ勝手に離れていくからな。

 馬具の装着。先輩らしき人物に教えてもらいながらラファエルが装着しているが……途中で俺は走り出す。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

「ラファエル!取り合えずはな……もう離してるな」

 

 ッチ、アイツ引きずられる前に離しやがったか。これは失敗だな。

 

(まぁいい。他にやれることはたくさんあるからな)

 

 そんでまぁトレーニングの時間だが、ここでは特にやることはない。トレバーがやってきて、俺に騎乗するぐらいだ。

 トレバーはラファエルがいることに少し驚いていた。どうやら、それなりに知っている仲らしい。

 

「なになに?今日はラファエルがエリュシオンの世話してんの?」

「あ、トレバーさん。そ、そうなんです!実は僕、初めて担当を持てたんですよ!」

「へ~……え゛?担当?お前が?」

 

 おい、トレバーも分かりやすいぐらい動揺してんじゃねぇか。信じられねぇって目で見てんぞ。それでいてなんでラファエルは目をキラキラさせてんだよ。

 

「僕、担当馬を持てたの初めてで……!一生懸命頑張るつもりです!」

「あ、あ~……そうなのか。まぁ頑張れや色々と

「はい!頑張ってエリュシオンのお世話をします!」

 

 安心しろよトレバー。病院送りとまではいかずとも、俺をお世話をするのが嫌ってくらい分からせてやるからよ。

 その後もラファエル相手に今までのお世話係と一緒のことをやった。タックルをかまそうとしたり、蹴りを入れたり、また噛んだり。俺ができることを全部乗せした。

 ラファエルもその度に悲鳴を上げていた。

 

「わぁぁぁぁ!?」

「待って待って!落ち着いてエリュシオン!ステイステイ!」

「だから僕の腕は餌じゃないってぇぇぇぇ!?」

 

 何なら追いかけ回したりもした。その甲斐もあってか、一日が終わる頃にはラファエルのヤツは疲労困憊。疲れ切っていた。

 

「こ、これが……担当、を持つ、ってことかぁ……」

 

 ……アレ?思ったより効いてなくねぇか?いやいや、まさかそんなことはねぇだろ。

 

(今日一日だけで分かったはずだ。分からねぇから……次の日からも同じことをするだけだ)

 

 同じことを繰り返せば、いつの日か俺を担当するのが嫌な日が来るはずだ。その日が来るまで辛抱強く待てばいい……それでいいんだ。

 

 

 次の日も、その次の日も。ずっとラファエルをいびり続けた。俺を世話するのが嫌になるってぐらい暴れ続けた。そんな日が1週間も続いたんだ。普通のヤツならとっくに投げ出している。

 ……なのに、ラファエルの野郎は。

 

「よ~し、そろそろコツも掴んできた!今日もよろしくね、エリュシオン!」

(なんでコイツ全く意に介してないの?)

「あ、エリュシオンちょっと待ってね。虫がいるから……ほ、ほら、あっちいけって!」

 

 なんでもないように接してくるんだよ!?

 おかしい、ラファエルの身体には生傷がたくさんあるはずだ。俺によってつけられたもの、痣だってある。普通なら嫌で仕方ないはずだろ?他のヤツらはとっくに止めた段階だった。なのになんでこいつはいまだに俺に関わろうとするんだよ!マジで理解できん!本物のバカなのかコイツは!?

 

(まさか、本当にドMなのか!?)

 

 ……だったら!今まで以上にやってやる!

 その後も同じどころか苛烈にしていったのだが……ラファエルは毎朝毎朝俺のところにやってきては。

 

「今日もよろしくねエリュシオン!あ、そうだ!君が気に入るかなって思って……」

 

 なんでもないように振舞いやがる。どんなにボコボコになっても、痛い目にあっても変わらねぇ。ラファエルは……ずっと俺のところに来やがった。

 

(本当に何なんだコイツ……)

 

 なんていうかこっちが疲れてきたんだが。だからといって止めるのはプライドが傷つくし。どうすりゃいいんだよ、これ。

 

 

 

 

 

 

 ラファエルが俺のお世話係に就任してから1ヶ月が経過。というかそろそろ年越しって時期。ラファエルはいまだに俺のお世話係を続けている。どんだけ痛い目にあわされても、何でもないように接してきやがる。

 蹴りを入れられてせき込んでいたし、腕を噛まれていたそうにもしていた。常に追いかけ回されていつもゼェゼェしてるのに、俺のお世話係を降りようともしねぇ。

 

「イテテ……もうちょっと上手くやれたらなぁ」

 

 ラファエルはそうぼやくが、上手くやったところで俺のやることは変わらんぞ。前のお世話係共を見てたら分かるだろうが。

 というか、ラファエルを嘲笑していたやつらも最近では心配するようになってきたし。

 

「ラファエル!お前本当に大丈夫か!?」

「え、うん。大丈夫だけど……」

「無理すんなって!あの悪魔に毎日手酷くやられてんじゃねぇか!」

 

 お前らバカにしていたのに心配する心はあるのな。普段の仲は悪くないのか?

 

「いい加減イアンさんに言った方がいいんじゃないか?担当外してくれ、って」

「そうだよ。他の馬を担当した方が絶対に良いし、なによりこのままじゃマジでボロボロになるぞ?」

「入院するのはさすがに嫌だろ?お前も」

 

 そうだそうだ。とっとと諦めろ。そうした方がお前のためだろ。俺のようなヤツには関わらん方が、お前にとっても幸せだろうが。

 ラファエルはというと……キョトンとした表情をしていた。はっ?

 

「僕は、別に大変だとは思ってないですよ?」

「「「はぁ!?」」」

 

 えっ、お前嘘だろ!?あんな目にあって大変じゃないだと!?コイツマジもんのバカかよ!

 

「だって、あぁいうのも愛嬌じゃないですか?」

「あれを愛嬌で済ませていいわけないだろ!」

「どう考えてもこっちを殺しに来てるって!命の危機しか感じねぇよ!」

 

 え?俺のアレはアイツにとって愛嬌だと思われてたの?……いやいや、おかしいだろいくらなんでも!どうなってんだコイツのメンタル!

 

「それに。嬉しいんです、初めて担当を持てたのが」

「にしたってよぉ……もうちょっと選んでも罰は当たらないと思うぜ?」

「ううん、むしろ僕はエリュシオンが担当でちょっと嬉しいですよ」

 

 なんであんな目に遭っておいて嬉しいんだよ……コイツマジでドMなんじゃねぇのか?

 

「ほら、エリュシオンってなんだか子供みたいじゃないですか?自分の気に入らないことに癇癪を起こす手のかかる子、っていうか」

「こっちを殺しにかかってくる子供なんて聞いたことねぇぞ」

「それに、みんなエリュシオンのことを怖がってる。いつもひとりぼっちじゃないですか。凄く悲しいことだから、それはダメだなって」

 

 ……。

 

「だから、僕だけは見放さないようにしようって、そう決めたんです。別に苦じゃないし、楽しいから問題ないですし!」

「お前がそう言うなら別にいいけど……」

「でも、辛かったらマジで言えよ?相談乗るから」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ひとりぼっちになる、か。上等じゃねぇか。孤独に過ごせるんだったら、それに越したことはねぇ。誰にも裏切られることはねぇんだから。

 けど、どういうわけか……ラファエルの言葉が頭にずっと残り続けていた。

 

(自分だけでも見放さない、か……)

 

 どうせ嘘に決まってる。言うだけなんて誰にでもできるんだ。いつかきっと、俺を見捨てるはずだ。信じるに値しない言葉。そのはず、なのに。

 

『……随分とまぁ、真剣な表情で語るじゃねぇの』

 

 この言葉は嘘じゃない。そう思わせるだけの、信念のようなものを感じた。俺の、気のせいだろうがな。

 

 

 明けた次の日。

 

「エリュシオ~ン、ご飯だよ~」

 

 ラファエルの野郎が餌を飼葉桶に入れる。いつものように噛む……()()()()()()。餌が運ばれてくるのを待って、アイツが離れたら食べ始める。どうでもいいがアレだな、何となくこっちの草の方が美味い気がする。

 

「そうだ!エリュシオンはもっと食べないと!」

 

 そして餌を追加するラファエル。大分入れてくるなコイツ……まぁいい。まだ腹には余裕があるからな。大人しく待って、また餌を食べる。

 

「おい、エリュシオンのヤツが何もしてねぇぞ?」

「いつもなら噛んでくるのに……何があったんだ?」

「ラファエルのヤツ、気づいていないのか?」

 

 周りから戸惑うような声が聞こえるがどうでもいい。餌を食べて過ごす。この後はトレーニングか。

 馬具を装着。にしても、結構窮屈なんだよなコレ……もう動くか。

 

「あ、待ってエリュシオン!まだ全部装備し終わってないよ!」

「ラファエル!馬具から手を離せ!言って聞くような相手じゃっ?」

 

 動こうと思ったらラファエルの制止する声。ッチ、まだかよ……相変わらず作業がおせぇなコイツ。仕方ねぇから()()()()()()

 

「よしよし、良い子だね。もう少しで終わるからね」

「ブルル……」

 

 さっさとしろ。早く動きたいんだよこちとら。

 

「お、おい。エリュシオンが素直に言うこと聞いたぞ!?」

「変な物でも食わせたのか?もしかして悪い夢でも見てんのか?」

 

 おい、悪い夢ってのはどういうことだ?

 つーか、これはアレだ。コイツの場合暴力を振るったら喜ぶドMの可能性が高い。今までのように振舞っていたら、むしろコイツを喜ばせるかもしれないってことだ。そんなもん気持ち悪すぎて無理だ。吐き気がする。だから大人しくした方がコイツにとっては良いはずだ。それだけだそれだけ。

 

「……よし、終わったよ。行こうか」

「ヒヒン」

 

 やっと終わったのかよ。んじゃ、とっとと行きますかね……てか、この後会うのトレバーじゃねぇか。今日こそアイツを振り落としてやる。

 

「なんか上機嫌だな、エリュシオンのヤツ……」

「いっつも耳絞って不機嫌そうにしていたのに、珍しいこともあるもんだ」

「……へぇ。やっぱり、エリュシオンとラファエルの相性は良かったんだね」

 

 そうだ。勘違いしないように一応ラファエルを小突いておく。

 

「いっ!?……たくない?」

(あんまり調子乗るなよ?いつでもお前を蹴る準備は出来てるんだからな)

 

 気を許したわけではない、断じて。




次回辺りは未勝利戦を書きたいわね(海外の新馬戦にあたる)。
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