妖精の尻尾と世界樹の家   作:ゴールドスパイス

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妖精の尻尾 100年クエストのアニメが放送された7月7日のこの日、前々から出してみたいと思っていた小説を投稿させて頂きました。この1話目から原作とは違う物語と仲間でスタート致します。


全てはリンゴから始まった

燃えているかのように美しい夕焼けの中を、1つの金色の星が通り抜けていた。

 

流れ星がよく見える時間にしてはまだ早い。何より、見えている星はどこかへ落下する様子はなく、空の横から横へ真っ直ぐに移動していた。地上から目撃していた人々がふと頭に浮かんだ疑問を解いている間に、金色の星は燃える夕日に溶け込むかのように消えてしまった。

 

「♪」

 

金色の星は上機嫌だった。いや、正確には金色の星に見えるように空を飛んでいた”人物”は上機嫌だった。その人物は、意思を持った星のように真っ直ぐに飛ぶ槍の上に乗り、風を心地よく体に感じながら飛行していた。空が燃えたことに反応して夕焼け色に染まり始めた広大な森林の上空を滑空し、気分が良いのか次に見えてくるきらめく湖面の上をサーフィンのように滑り出した。星が落ちるような速度で湖面の端に到着して滑ると、“ドバーン!!”と爆発したような音を立てて水しぶきが舞う。そして湖の対岸にたどり着くと、着地をすることなく、湖の水が雨となって降るのを背に再び上空へと飛行する。さらに速度と高度を増した星は、飛行中の鳥の群れを追い越し、雲の中を突き抜け、山脈を次々と飛び越える。

 

「お!」

 

声を上げたのは、目的地へと向かうために越える最後の森を越えたからだ。森の上空を飛び越えると、1つの“大きな街”が見えてきた。

 

「見えた見えた、“マグノリア”!!」

 

マグノリアという名の街に無事に到着して少しホッとしたのか、飛行する速度が半分ほどまでに減速する。それでも、速度を失うことなく、夕日に照らされた街の上を飛んで行く。

 

「あー。やっと“ギルド”に帰ってこれた」

 

その人物は“目的地”を視認できる距離まで近づくと、ホームに戻ってきたと感じ、気が抜けて長旅の疲れを今になって感じたかのように疲労交じりの言葉が漏れていた。しかし、吐いた言葉はすぐに風となって飛ばされ、代わりに期待の言葉が出てこようとしていた。

 

 

 

「俺の子供たち、元気でやってるかな?」

 

 

 

金色の星は、妖精に尻尾が生えたようなマークを象徴としている建物に向かって落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん!今日はいい天気~!」

 

金色の星がマグノリアに落ちる2日前、雲がゆっくりと風で流される青空の下で、金髪の少女はその場で立ち止まって背伸びをする。ポカポカとした日光に照らされた金髪は輝きを増し、背伸びによって大きく開いた胸元がより魅力的となって露わになる。

 

「そうだな。加えて、風も心地いいな」

 

同じようにその場で立ち止まる赤髪の女性を爽やかな風が通り過ぎる。風が長髪の赤髪を靡かせ、鎧の下に履いているスカートをそっと撫でる。

 

共に気分が良くなると、草原を再び歩き出した。金髪の少女が歩き出すと、腰に下げた鍵束がチャリチャリと音を立て、赤髪の女性が歩くと、身に纏っている鎧がカシャンカシャンと小さく音を立てた。

 

「ねぇねぇ、ルーシィ。止めなくていいの~?」

 

金髪の少女もといルーシィと、赤髪の女性ことエルザは、足下から聞こえてくる声に耳を傾けた。声の主に顔を向けると、成人の人の二頭身サイズの大きさで二足歩行で歩き、人の言葉を話せる青い猫が2人を呼んでいた。ルーシィとエルザは立ち止まって後方を振り返る。2人と1匹のいる場所から後方に約30メートル離れた場所で、歩きながらも大声で言い合いをしている2人の男子がいた。立ち止まっていると、段々会話の内容が聞こえてくる。もしも喧嘩をしているのなら、仲が悪くなる前に止めるべきだろう。

 

 

 

「あの雲がルーシィの胸に見えるとか、てめェの頭はどうなってんだ!!」

 

「お前こそあれがルーシィの尻とかありえねぇし!!」

 

「青空の下で何言ってんのよ、バカ!!」

 

 

しかし、言い合っている内容は、“見かけた雲の形は俺の方がうまい表現だ”という大層平和なものだった。

 

黒髪の少年は言い合いをしている相手に向かって批判をしながら睨んでいる。ショルダーバッグを身につけているが、上半身の服が脱げてどこかへ消えていることに気づいていない。

 

一方、ツンツンとした桜髪の少年は言い合いをしている相手に向かって批判をしながら威嚇をしている。彼のトレードマークである首元に巻かれた白いマフラーが風で揺れている。

 

「それにしても、30分もあのまま喧嘩ができるなんて、最早コンビだね」

 

 

 

「「誰がコイツとコンビだ!!」」

 

 

 

最後の青い猫ことハッピーの意見に賛同できなかったのか、男子2人は走って前方にいるハッピーに『冗談じゃねぇ!!誰がコイツとなんかと!!』と言わんばかりの表情で迫る。

 

「ルーシィ!俺の方がうまく表現できたよな!!」

 

「いーや、俺だ。俺の方がお前なんかよりセンスがあるに決まってんだろ。」

 

「いい加減アタシの体の話をするの止めてくれるかしら!?」

 

そして勢いで桜髪の少年もといナツと、黒髪の少年ことグレイは、ルーシィに意見を求めてきた。ルーシィからすれば恥ずかしい言葉をお天道様の下で堂々と口にするのは止めてもらいたかった。そこで、彼女は空に浮かぶある雲に目を向けて話を逸らそうとした。

 

「じゃあ、あの雲は何に見える?」

 

ルーシィの細い人差し指で指した先には、二等辺三角形の雲が2つ並んでいた。これで話が逸れ、一旦沈静化するかと思っていたルーシィの考えは思いもしない事態になる。

 

 

 

「エルザの角」

 

「エルザの牙」

 

 

 

この瞬間、今まで穏やかな空気が流れていたのが一瞬で凍り付いた。

 

二人が言ったのは全くの同時だった。考えるそぶりも見せず、『せーの』も無しに自然と出てきた。悪戯心のない素直で自然な言葉。それがナツとグレイの表現だった。

 

「「あっ」」

 

2人は口にした後で言ってしまったことを後悔し、サーッと顔を青くする。次第に体が恐怖で震え始め、ブルブルとしながらも後方に佇むエルザへと目を向ける。

 

 

 

「ほぅ、そう見えるのか?」

 

 

 

赤髪の鬼がそこにはいた。

 

目尻がツンとつり上がっていながらも、透き通った緋色の瞳には怒りが宿っている。怒気がプレッシャーとして解放されたエルザを見て、横にいたルーシィも顔を青くする。しかし、緊迫した状況にも関わらず、予想外の声が聞こえてくる。

 

 

 

「ぶっ…ぷふっ…」

 

 

 

青猫はナツとグレイの面白い表現に、口を手に当てて笑いを耐えていた。

 

 

 

「(猫―――――!?)」

 

ルーシィは空気の読めない猫に対して、心の中でツッコむ。

 

「私の角と牙…お前らが望むなら見せてやろうか?」

 

エルザは拳をパキポキと鳴らして2人と1匹に迫る。

 

「ちょ、ちょっと待って!!アタシは何もしてないからね!?」

 

ルーシィはエルザに対して何も言っていないが、流れで自分も巻き添えを食らうかもしれないと思い、前もって一言言っておく。

 

「そういえば、ルーシィも笑ってたよ!!」

 

「ちょっとぉ!?アンタ、道連れにするつもり!?」

 

エルザが段々近づいてくるのに対し、3人と1匹はジリジリと後退していく。

 

 

 

「逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!???」

 

ナツの一言で、3人と1匹はエルザに背を向けて全力で逃げ出した。ナツは持てる力を全て足に込めて力一杯走り出した。

 

「ごめんなさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」

 

ナツの相棒であるハッピーは、ナツのマフラーを即座に掴んでナツと一緒に逃げ出した。ハッピーが掴んだことで重くなり、スピードが落ちるはずだが、落ちるどころかさらに上がってエルザから少しでも距離をとろうとする。

 

「アタシは何も言ってないからあああああああああああああああ!!!???」

 

「悪かった!!悪かった、エルザ!!」

 

ハッピーのとばっちりを受けたルーシィは、ナツとハッピーが逃げた同じ方向へ走り出す。グレイは謝りながらも、ルーシィと同じようにエルザから逃げ出した。

 

 

 

「待てええええええええええええお前らああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

人をバケモノのように表現したにも関わらず、きちんと謝らずに逃げる3人と1匹に、エルザは怒髪天を衝いた。叫びながら追いかけるエルザの口元からは鋭い牙が出ており、恐怖の余り幻覚で角も見えていた…らしい。

 

“妖精の尻尾”の最強チームは、仕事を受けるために街までの道のりをのんびり歩いていたが、最後は鬼…ではなくエルザから逃げるための全力ダッシュでたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日は依頼を引き受けて頂き、ありがとうございます。…ところで、その、後ろに立っている方々の頭に大きなタンコブが見えるのですが、何かあったのですか?」

 

「いや、問題ない。それよりも、今回の依頼のことについて、詳細をお聞かせ願えるだろうか」

 

「は、はぁ…では、今回の依頼についてお話をさせて頂きます」

 

エルザと話していた男性は、今回の仕事の依頼者であり、ナツとグレイ、そしてハッピーの頭にできた拳サイズのタンコブを時々チラチラと見て心配する様子を見せながら話を始めた。

 

ナツ、ルーシィ、グレイ、そしてハッピーの3人と1匹は依頼者の住む街まで走ってきたが、結局エルザに捕まり、ルーシィを除いてエルザから制裁の拳骨を食らった。その後、お仕置きを受けた一行は依頼者の家に伺い、依頼者がソファーにかけるように促した瞬間、まだ少しお怒りモードのエルザから『お前たちは後ろで立っていろ』と言われてしまった。ナツとグレイは拳骨の痛さに顔を苦痛に歪め、ハッピーはあまりの痛さにシクシクと泣いたままソファーの後ろに立っていた。しかし、明らかに今回のことは自業自得のため、ルーシィは『痛そうねぇ』と心の中で心配だけして、エルザと同じようにソファーに腰を下ろして仕事の内容を聞き始めた。

 

「今回、皆さんに採ってきて頂きたいのは、“プルプルアップル”という果物です」

 

「プルプルアップル?」

 

初めて聞く果物の名前に、ルーシィの頭に?マークが浮かぶ。そして、ギルドに届いていた依頼書にも目を通す。

 

 

 

I want it! Rare fruit! 500000J

 

“求む!希少な果物!”  500000J

 

 

 

「よくマーケットで手にするリンゴとは違い、水分が段違いに多いんです。糖度も高く、食感がゼリーのようになめらかなので、1個食べたらお肌がプルプルになるんです」

 

「1個食べるだけでお肌がプルプルスベスベになるの!?すごい!!」

 

「あぁ。私たちも是非食べてみたいものだな」

 

健康と美容に気を遣うルーシィと、フルーツが好きなエルザはより一層興味を持った。

 

「ですが、そのリンゴが実っている場所は、魔物が多く、魔法を使えない私たちではとても採りに行けません。そこで、フィオーレ王国の中でも有力な魔導士ギルド、妖精の尻尾の魔導士に頼めば、必ず採ってきてくれると思い、依頼を出させて頂きました」

 

「あぁ、おっさん。俺たち妖精の尻尾に任せろ!!」

 

「魔物なんかどーってことねぇよ。すぐに採ってきてやっから、気楽に待ってな」

 

「楽しみにしててね!!」

 

プルプルアップルも美味そうだと思ったが、それ以上に魔物が多いと聞いて、ナツとグレイは暴れられる思い血を滾らせる。ハッピーは小さな猫の手を振って、依頼者の男性を安心させる。

 

「ありがとうございます。因みに、プルプルアップルは読んで字の如く、とてもプルプルしているので、とても柔らかいです。水分が多い分、水風船のように柔らかいため、少しの衝撃で割れてしまいます。十分にお気をつけ下さい」

 

「心得た」

 

エルザがそう言うと、話は終わって荷物を持ち、玄関から出て行こうとする。全員が玄関から出たその時、依頼者の男性がある“噂”を思い出した。

 

「たった今思い出したのですが、今から皆さんが入る森には…“幽霊”が出るそうなんです」

 

「幽霊!?」

 

プルプルアップルというレアフルーツ、そして成功すれば報酬の山分けで1人10万J手に入って家賃を払えるとウキウキだったルーシィの気分が一気に底まで落下する。

 

「えぇ。何でも、まばたきをした瞬間に消えていたり、木の陰に隠れていたのを見て覗いてみたらいなくなっていた…なんて噂が立っているんです」

 

「幽霊かー。炎で炙れば実体が出てくるかもな」

 

「いやいや、そもそも幽霊に実体なんてないから」

 

幽霊と聞いてワクワクしているナツに、ハッピーが冷静にツッコむ。

 

「幽霊か…むしろ会ってみたいもんだぜ」

 

「グレイ、そんなこと言うの止めて!!」

 

グレイも少し興味を持ったのか会ってみたいと言ったのに対し、ルーシィは会いたくないのかグレイをこれ以上喋らせないように言葉で止める。

 

「幽霊…斬れるか?」

 

「(いや、斬れないと思いますよ)」

 

真剣な表情で斬れるかどうか悩んでいるエルザに対して、依頼者の男性は心の中でツッコむ。

 

「と、とにかく、皆さんお気をつけ下さい」

 

「あぁ」

 

依頼人の忠告を受け、一行は互いに顔を合わせる。

 

「皆、行くぞ!!」

 

「「「「おおっーーーー!!!!」」」」

 

エルザの威勢の良い声で、一行はプルプルアップルの実る森へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だらあああああああああああああああ!!!」

 

「おらあああああああああああああああ!!!」

 

一行は大木が入り交じり、草木をかき分けながら森の中を進んでいく。目的のリンゴを探す道中で次々と襲いかかってくる魔物を、ナツが炎を纏った拳で殴り、グレイが氷で造った武器で撃退していく。

 

「そっちはどうだ?リンゴのなる木は見えるか?」

 

「う~ん…それっぽい木は探してるんだけど…」

 

「1本も無いね」

 

魔物との戦闘はナツとグレイに任せて、エルザ、ルーシィ、そしてハッピーはリンゴの木を探していた。依頼者の男性によれば、現在いる森のどこかにあるそうだが、広大かつ木々の密集度の高さから、目的の木だけを探すのは容易ではなかった。

 

「あっ!」

 

リンゴの木を探している中、ルーシィが両手をパンと叩いて何か思いついたような表情になる。

 

「あ?」

 

「何か策でも浮かんだのか?」

 

魔物を倒して戦闘を終えたナツとグレイも戻ってきて、話に混ざる。

 

「うん!いいこと思いついちゃった♪」

 

ルーシィは名案だと言わんばかりの笑みのまま、鍵の束から銀の鍵を1本右手に持つ。

 

 

 

「開け、小犬座の扉、プルー!!」

 

 

 

「ププ~ン!!」

 

天色の魔方陣から、ハッピーと同じくらいの高さに黒く塗り潰した愛嬌のある瞳、そして円錐形の角のような鼻を持つ星霊が召喚された。

 

「プルー!!久しぶりだね!!」

 

「ププーン!!」

 

しばらく会っていなかったハッピーとプルーは、互いに小さな手でハイタッチをする。

 

「それで、プルーを呼び出して、どうするのだ?」

 

戦闘ができる星霊ではなく、ルーシィのような契約者に可愛がられることを主な目的とした愛玩星霊を召喚したことの意味をエルザが尋ねる。

 

「ふふん。プルーの鼻でリンゴの匂いを察知してもらうのよ」

 

「プ~ン」

 

「そういうことか。確かに、匂いを辿るのは“犬”の方が得意だろうからな」

 

「(犬…プルーって相変わらず犬に見えないけど…犬なんだ)」

 

ルーシィの考えにエルザは納得するが、ハッピーはプルーが犬だということに未だに疑問に思っていた。プルーはよく見る犬のように四足歩行で移動しておらず、バケツを被っていない雪だるまに足が生えたかのような見た目のため、“これが犬?”と疑問に思うことも無理はなかった。しかし、ルーシィが他にも契約を結んでいる星霊には、喋る牛や人魚もいるため、ハッピーはルーシィが言うんだからこれでも犬なんだと心の中で納得することにした。

 

「というか、ナツ。お前はリンゴの匂いを嗅ぎ取れないのか?」

 

「リンゴどころか、そこら中木ぃばっかだからいろんな匂いが混じりすぎて分かんねーよ」

 

ナツは滅竜魔導士と呼ばれており、魔法の性質上、彼も普通の人間よりも嗅覚が優れていたことから、ナツの鼻でも嗅ぎ取れるのではとエルザが思ったのは尤もだった。

 

「それも理由の1つ。ナツも鼻がきくけど、プルーは犬の星霊だから、もしかしたらナツには嗅ぎ取れない匂いを感知できるかもしれないから呼んだの」

 

「なるほどな。なら、使えねぇ奴の代わりにプルーに頼もうぜ」

 

「…おい、グレイ。今なんつった?」

 

「あぁ?」

 

 

 

「止めんか!!」

 

 

 

「「あい!!」」

 

グレイの口撃にイラッとしたナツがグレイに噛みつく。しかし、口喧嘩に発展する前に、エルザの一言で2人は今日の仕事前の惨劇を思い出し、本能で喧嘩を止めた。

 

「プルー。ここからリンゴの匂いか、リンゴのような匂いを嗅ぎ取れる?」

 

「プ~ン…」

 

ルーシィはなるべくプルーの目線に合わせるようにしてしゃがみ込み、プルーにお願いする。お願いを聞いたプルーは、皆から離れない程度の距離を移動して匂いを確かめてみる。

 

 

 

「…プーン!!」

 

 

 

探し始めてから十数秒後、プルーは顔をこちらに向け、白く小さな手で森の一方角を示した。

 

「こっちね。プルー、よかったら案内してくれる?」

 

「ププ~ン!!」

 

プルーは“任せて!!”と言うような表情を浮かべ、森の中を小さな足で歩き始めた。ルーシィたちも、プルーの後ろから付いていき、依頼された品に少しずつ迫っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルーの後を付いてから約20分後、一行は草の生い茂る平地から山の傾斜を登り始めていた。日の光が地上にほ

 

とんど差し込まない程密集した木々をかき分けて斜面を上へ上へと登っていく。

 

「…ん?」

 

「どうしたの、ナツ?」

 

すると、ナツはその場に立ち止まって鼻をピクピクと動かし始めた。

 

「この匂い…間違いねぇ!!リンゴの匂いだ!!」

 

「ってことは、ここからリンゴまで近いってことだよ、ナツ!!」

 

「あぁ!!行くぞ、ハッピー!!」

 

「あいさー!!」

 

ナツは山の登りをものともしないダッシュで駆け上がり、ハッピーは魔法で具現化した翼を背中に宿してナツを追いかける。

 

「あのバカ!!勝手に走るんじゃねぇよ!!」

 

「とにかく、私たちも追いかけるぞ!!」

 

「うん!!」

 

「ププーン!!」

 

ナツたちを見失ってはぐれてしまってはいけないので、グレイたちもすぐに走ってナツとハッピーを追いかけていった。

 

 

 

 

「うおっ…!!」

 

「わぁ…!!」

 

ナツとハッピーが先行してさらに山を駆け上がっていくと、鬱蒼とした森の先に大きな光が見えた。森を抜けて光の場所までたどり着くと、その場で立ち止まって驚きの声を上げる。

 

「ナツー!!ハッピー!!どうしたのー!?」

 

「ルーシィ!!皆も早く来て見てよー!!」

 

後ろから聞こえてきたルーシィの声に反応したハッピーが振り向いて、近づいてきた皆を手招きで呼びかける。

 

「おっ…!!」

 

「これは…!!」

 

「すごい…!!」

 

「ププーン!!」

 

グレイ、エルザ、ルーシィ、そしてプルーもナツたちと同じように薄暗い森を抜けて光のまぶしい場所へと到着した。そして、光の先に見える景色に目を奪われた。

 

 

 

「すごい!!これ全部リンゴだわ!!」

 

 

 

邪魔な木は一切立ってなく、視界に入る山の斜面の全てに、リンゴの木が一面に広がっていた。今まで入っていた森とは違い、青空の中心から降り注ぐ太陽の光に照らされたリンゴは、紅い表面をより艶やかに輝かせていた。ルビーのようなリンゴが密となって光り輝くその光景は、一行を少しの間幻想的な世界へと導いていた。

 

「うおっしゃぁー!!リンゴ見つけたぞー!!」

 

「あ!!待ってよ、ナツー!!」

 

一足早く幻想の世界から戻ってきたナツは、近くから漂うリンゴの甘い匂いに我慢できなくなり、リンゴの木へ走って行く。ハッピーもナツの声で我に返り、慌てて追いかける。

 

「すげぇな。木から離れていても、リンゴの香りが漂ってくるぞ」

 

「あぁ。そして、ここまでたどり着けたのはプルーのおかげだな」

 

「ありがとう、プルー!!」

 

「ププ~ン!!」

 

ルーシィは依頼されたプルプルアップルを見事に導いてくれたプルーを感謝の意を込めて抱きしめる。プルーはルーシィに褒められて満足そうな表情を浮かべると、光の粒子となって姿を消し、星霊界へと帰って行った。

 

「ハッピー!!このリンゴ持ってみろよ!!」

 

「うわっ!?」

 

手前にあったリンゴの木に実るプルプルアップルを2つもぎ取り、そのうちの1つをハッピーに渡す。

 

「ルーシィたちもこのリンゴ持ってみろよ!!すげぇ重いぞ!!」

 

「っと!」

 

「ん!」

 

「ちょっと!!乱暴に投げないでよ!!」

 

ナツはグレイ、エルザ、そしてルーシィの分のリンゴを1個ずつ枝から採って3人に投げて渡す。グレイとエルザは片手で難なくキャッチしたが、ルーシィはいきなり投げられたリンゴをどうにか両手でキャッチする。

 

「それにしても、普段私たちが食べているようなリンゴと比べて、実そのものが柔らかいな」

 

「あぁ。依頼主のおっさんが言ってた通りだな。普通のリンゴよりも中に入ってる水分が何倍も多いから、柔らかさはもちろん、重さもそれ以上に重いな」

 

手に持っているリンゴは普通のリンゴよりもずっしりと重く、水風船のようにムニュっとした柔らかさをしていた。

 

「なぁ、もう食っていいか?いいよな?」

 

「そうだな。折角だから1個この場で実食するか」

 

きっと美味であろうリンゴを前にナツは口も体もウズウズとしていた。エルザがやれやれといった表情で言うと、ナツは大きな口を開けて思い切り齧り付いた。そしてエルザたちも手に持つプルプルアップルをシャリッと囓るように食べた…

 

 

 

しかし、待っていたのは、想像を容易に超えるリンゴの濃い甘さと果汁の洪水だった。

 

 

 

まず驚いたのは、リンゴの柔らかさだった。リンゴは本来、生き物の持つ歯や牙でシャリシャリとした固形を噛み砕く食感から始まるはずだが、噛んで感じたのは固形ではなく、リンゴゼリーとリンゴジュースを混ぜ合わせたかのようななめらかな食感だった。噛むというよりも、飲むかのように口に含むと、何十個ものリンゴの蜜を1つのリンゴに濃縮したかのような新鮮で濃い甘みが口の中に広がる。そして飲み込むと、甘さとみずみずしさが一瞬で体の隅々まで浸透するかのような爽やかさが体を支配した。

 

「何これ!?すごいおいしいんだけど!!」

 

「あぁ。こんなに甘いリンゴを食べたのは初めてだ」

 

ルーシィとエルザは、一口食べただけですっかりプルプルアップルの甘さに魅了された。

 

「オイラもっと食べたい!!」

 

「俺もだな。こんなにうめぇリンゴ1個じゃ満足しねぇ」

 

「おーっし!!俺もまだまだー!!」

 

そして既に食べ終えたハッピー、グレイ、そしてナツは2個目のプルプルアップルを食べようと再び実っている果実に手を伸ばそうとした。

 

 

 

「お前たち、まずはそこまでだ。まずは、今回の依頼の分のリンゴを袋に詰めるぞ」

 

 

 

エルザの一言で2人と1匹はリンゴに迫る手を止め、エルザの方を振り返る。

 

「えぇー、オイラまだ食べたいよー」

 

食べるのを止められたハッピーはエルザに不満を漏らす。

 

「それもそうだな。ハッピー。エルザの言うとおりだ。先に依頼の分詰めてから、また食おうぜ」

 

「あぁ。リンゴは逃げねぇから、安心しろよ」

 

リンゴの誘惑に嵌っていたナツとグレイだったが、エルザの一言で仕事モードへと意識を切り替えた。ハッピーはそれでも食べたかったが、今回は仕事でここに来たということを改めて思い出して誘惑を振り払う。

 

「お前たちも食べたから分かると思うが、今回依頼されたものは非常に柔らかい。慎重に袋に詰めるようにしてくれ」

 

エルザが改めて注意を促すと、持ってきていた麻で織り込んだ袋をチームメンバーに1枚ずつ渡していく。

 

「おーっし!!さっさと詰めてまた食うぞ!!」

 

「あいさー!!」

 

 

 

ナツのかけ声を合図に、一斉にリンゴを袋に詰めようとしたその時、ズシン、ズシンと巨大な魔物が近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

 

 

ナツたちが来た道から姿を現したのは巨大な猪。ツンとした褐色の毛を体から生やし、口から2本の鋭い牙が天を向いている。だが、何よりも驚いたのは体の大きさで、従来の猪よりも遥かに大きな巨体で、妖精の尻尾の最強チームをジッと見下ろす。

 

「デカー!?」

 

「随分デケぇ猪だな」

 

「あぁ。恐らく、“モアモアボア”あろう。雑食で成長するのが非常に早く、一撃の突進で民家を簡単に壊せると聞く」

 

「えぇ!?そんな猪がこっちに向かってきたら、ここのリンゴ畑、跡形も無く壊されちゃうよ!?」

 

ルーシィたちの後ろにはプルプルアップルの木があるため、モアモアボアを止めなければ、荒れ地のように破壊されてしまうだろう。そのことを瞬時に判断したナツは拳に炎を纏い、グレイは両手を構え、エルザは換装で剣を取り出す。

 

「ブモオォォォォーーーー!!!!」

 

巨体を支える頑丈な蹄が大地をザッ、ザッと蹴ると、それを合図にモアモアボアが一気に距離を詰めて突進してきた。

 

 

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

 

 

自分の体を竜の体質へと変換させる滅竜魔法で、ナツは炎を纏った右拳で、突進してくるモアモアボアの鼻を全力で殴る。だが、ナツの体全体をスタンプするかのような鼻で突く勢いは、ナツの力技と互角の威力を発揮する。ぶつかり合う力が反動として衝撃波が周囲に走る。

 

パシャン!! パシャン!! パシャン!! パシャン!! パシャン!!

 

その時、衝撃波を受けて枝から引き離されたプルプルアップルが宙に舞い、地に落ちた瞬間に小さな水たまりを作るかのように破裂してしまう。幸い全てのプルプルアップルが落ちたわけではないが、一撃の余波でナツたちの近くの木のリンゴの殆どが落ちてしまった。

 

「ナツ!!今の場所から離して戦わないと、リンゴ全部衝撃で落ちちゃうよ!!」

 

「んなこと分かってるっつーの!!んぎぎっ…!!」

 

衝撃波が尽きた後も力の押し合いは続いており、ナツが両手でモアモアボアの鼻を押している。

 

「アタシに任せて!!」

 

ナツに向かって走りながら、ルーシィは腰の鍵束から金の鍵を1本手に取る。彼女は“星霊魔導士”と呼ばれており、鍵を使用して異世界の“星霊”を呼び出すことができる。

 

 

 

「開け、金牛宮の扉、タウロス!!!」

 

「MO―――――!!!!!」

 

 

 

筋骨隆々としたマッチョな体に、大きな斧を背負った星霊のタウロスをルーシィは召喚した。

 

「タウロス!!ナツと一緒にあの猪をリンゴ畑から引き離して!!」

 

「MO――!!お任せください!!ルーシィさん…」

 

気合い十分のタウロスが突如、ピタッと動きを止める。そしてルーシィのある部分を見て、興奮し始めた。

 

「MO―――――!!!!!リンゴよりもたわわに、プルプルと柔らかそうなルーシィさんの乳、最高―――――!!!!!」

 

「そんなこと言ってる場合かっ!!いいから早く押し返しなさい!!」

 

「お任せください!!ルーシィさーん!!!」

 

ルーシィの乳で英気を養ったタウロスは、背中にしょっていた斧を手に取り、力一杯振り回す。

 

「行くぞ、ウシ!!」

 

 

 

タウロスが斧をモアモアボアの鼻をめがけて振ると同時に、ナツも再び拳を構えた。

 

 

 

「火竜の鉄拳!!!」

「MO―――――!!!!!」

 

 

 

ナツの炎の拳と、タウロスが振り下ろした斧の平が同時に大きな鼻に直撃し、拮抗していた力が押し通り、モアモアボアをリンゴ畑から引き離すことに成功した。

 

「ブモオォォォォーーーー!!!!」

 

しかし、モアモアボアはダメージを受けているが、攻撃されたことで怒り、再び突進してこようとする。

 

「させっかよ!!」

 

突進しようとするモアモアボアに向かいながら、グレイは開いた左手に握った右手を添えて魔力を練る。

 

 

 

「アイスメイク…床!!!」

 

 

 

グレイは両手を地に着けると、魔力から変換された氷が地面をグレイの周りから凍結させていく。彼は“氷の造形魔導士”であり、凍らせることはもちろん、氷で武器やモノを造りだして戦うことができる。

 

「ブモォ!?」

 

氷はモアモアボアの4本全ての足下に到達し、モアモアボアの動きを封じた。

 

「はああああああああああああああ!!」

 

動きを封じるのと同時に、エルザが“換装”をしながらモアモアボアに迫る。彼女は“騎士”と呼ぶ換装によって自身の衣服や武具を一瞬で変化させることができる。亜空間にストックしている鎧や武器の中でも背中から二対の翼が生えた銀色の鎧を纏い、両手と周囲に登場させた数十本の剣が舞い始める。

 

 

 

「天輪!!繚乱の剣!!!」

 

 

 

「ブモオォォォォーーーー!!??」

 

エルザに操作された剣が一斉にモアモアボアの背中に突き刺さる。背後からの鋭い痛みにモアモアボアも痛みの悲鳴が上がる。

 

「!」

 

その時、モアモアボアが力で強引に氷から脱出し、今まで受けた痛みを返すかの勢いでエルザに向かって突進してきた。当然立ち向かうエルザだが、突っ込んでくる巨体を前に、換装で別の装備に切り替えた。

 

「行くぞ!!ナツ!!」

 

「あぁ!!」

 

「行くよー!!」

 

エルザに向かってくるモアモアボアの真上には、翼で空を飛んだハッピーに抱えられているナツの姿が見えた。ハッピーはタイミングを見計らってナツをモアモアボアの真上に投下する。ナツはハッピーから降ろされたのと同時に両手に炎を集める。そして、換装により炎帝の鎧を身につけたエルザも一気にモアモアボアに向かって走って行く。

 

 

 

「火竜の煌炎!!!」

 

「はああああああああああああああ!!」

 

 

 

「ブモオォォォォーーーー!!!!????」

 

 

ナツが真上から放った巨大な火球と、エルザの炎帝の鎧による炎の斬撃を同時に食らったモアモアボアは、ダメージに耐えきれなくなり、巨体でその場を揺らすかのような振動を起こして倒れた。

 

「ちょ…!?やり過ぎ…!?」

 

森の一部が爆発したんじゃないかと思うほどの威力と爆炎が、プルプルアップルの木があるルーシィまで届こうといていた。

 

 

 

「アイスメイク…盾!!!」

 

 

 

ルーシィに爆炎が当たると思われたその時、グレイが目の前に現れ、斜面の端から端を分断するかのような巨大な氷の盾を造形し、爆炎からルーシィとリンゴの木を守り抜いた。

 

「ありがとう、グレイ!!」

 

「おう!!」

 

魔物からリンゴの木を守り抜いたルーシィとグレイは、互いに近づいてハイタッチをした。

 

「ナツもハッピーもよくやった」

 

「まぁな!!」

 

「オイラ頑張ったよ!!」

 

エルザ、ナツ、ハッピーも魔物を討伐したことで、互いにハイタッチをして勝利を分かち合う。

 

プルプルアップルの収穫の途中で魔物に襲われるアクシデントに見舞われたナツたちだったが、妖精の尻尾の中でも最強チームと呼ばれる彼らは、巨大な魔物を難なく倒しきった。そして、モアモアボアは焼いて食べると美味だということが分かったナツは肉をたらふく食えると大喜びし、帰りに持ち帰ることにして、一行はプルプルアップルの収穫作業に再び戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~もう、重た~い」

 

「文句を言わずに運べ」

 

「ぶーぶー、エルザの鬼ぃ」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもなーい」

 

ルーシィはプルプルアップルが大量に詰められた麻の袋をソッと地面に下ろす。通常のリンゴよりも重いとはいえ、1個だけ持つのはルーシィでも簡単だが、何十個ものリンゴを人一人入れる程の袋に大量に詰め込めば、重量は劇的に増して成人の女性くらいの重さになる。鬼のような怪力を持つエルザは余裕のようだが、ごく普通の腕力しかないルーシィには少々辛い山の帰り道となっていた。

 

「…あれ?」

 

「どうした?」

 

「エルザ。確か依頼人から頼まれたリンゴの量って、2袋じゃなかったっけ?」

 

ルーシィは今日の依頼人との会話を思い出す。覚えていた話では、“1袋分は欲しい、できれば2袋お願いしたい”だったはず。しかし、今ルーシィが持っているのは1袋、エルザも1袋、先に進んでいるグレイとハッピーもそれぞれ1袋ずつ持っていて、ナツは倒したモアモアボアの巨体を両手で持ち上げていた。

 

「そうだな。2袋は依頼主に渡すものだ。そして、ルーシィが気になっている残りの2袋はお土産だ」

 

「お土産って…ギルドの皆に?」

 

 

 

 

「いや、子供たちの分だ」

 

 

 

 

「子供たち?」

 

エルザの答えに新たな疑問が生まれてしまった。エルザはどの子供たちのことを言っているのか。ルーシィは妖精の尻尾に入ってまだ3ヶ月程しか経っていなく、入る前は別の街から街を家出という形で旅していたため、マグノリアに住む子供といえば公園で遊んでいる名の知らない元気な少年少女しか知らなかった。現在知っている子供は、マカオという妖精の尻尾の中でもベテラン魔導士の息子のロメオという男の子だけである。偶にギルドで話をすることもあるが、彼に兄弟や姉妹がいると聞いたことはなかった。では、誰のことを指しているのだろうと考えるよりも先に、エルザの言葉が耳に入る。

 

「そうか。ルーシィはまだ知らなかったな。残りの2袋は“フェイド”の子供たちの分だ」

 

「フェイド?」

 

エルザの口から出た名前に、ルーシィの頭に?が浮かぶ。

 

「“金の彗星”という名の方は知っているか?」

 

「き、“金の彗星”!?金の彗星って、ミラさんとよく一緒に週ソラに出ている妖精の尻尾のS級魔導士!?」

 

「あぁ」

 

ルーシィは記憶の中から、金の彗星と呼ばれるフェイドという魔導士のことについて思い出す。彼女が妖精の尻尾に入る前は、どの魔導士ギルドに入るか決めるために、毎週発行される魔法専門雑誌の週刊ソーサラー、略して週ソラを毎週読んでいた。そもそも、この世界では魔法を使える者を“魔導士”と呼び、魔導士が集まる組合を“魔導士ギルド”と呼んでいる。魔導士たちはギルドに届く依頼に応じて仕事を受けることで生業とし、明日の糧を得ている。また、魔導士ギルドはマグノリアの街を含む“フィオーレ王国”に数多く存在しており、人気のギルドは入ることすら厳しいとされている。ルーシィにとって、どうしても入りたい魔導士ギルドの一つが妖精の尻尾だったため、週ソラを読んで一つでも多くの情報を得ようとしていた。

 

妖精の尻尾のことをもっと知る中で、何度も顔と姿を雑誌で見たことあるのが2人いた。そのうちの1人が、フィオーレ王国に誇れる看板娘、前髪を縛った銀色の長髪美女のミラジェーンである。彼女の人気の理由はさまざまだが、敢えて3つ挙げるとしたら、男女ともに釘付けになる魅惑のナイスバディ、微笑まれたら頬が緩んでしまう花のような美しい笑顔、そして、“魔人”と呼ばれるに相応しい魔力と戦闘能力を持つS級魔導士であることが主な理由である。

 

もう1人がフェイドなのだが、ルーシィにとって、雑誌だけを見たフェイドのイメージを一言で表すとしたら、“妖精の尻尾の看板息子”だった。金色の髪で青年のような男は、“妖精の尻尾の顔”とも言えるような存在だった。というのも、週ソラに記載されている妖精の尻尾の内容は、仕事の最中に民家を破壊した、街の建物を倒壊させたというような所謂“やり過ぎた”ことがほとんどを占めていた。しかし、妖精の尻尾はお騒がせの一面を持つ以上に、フィオーレ王国の中でもトップオブトップのハイランクな魔導士が数多く所属しており、『妖精の尻尾と言えば誰?』と聞かれて1,2番目に名の上がるのがフェイドだった。ルーシィは妖精の尻尾に入ってからまだ一度も会ったことはないが、週ソラからの出演依頼の多い人気ギルドである妖精の尻尾の中でも積極的に取材を受けていて、カメラに向かう笑顔は何度も見ており、彼女の印象に残っていた。

 

「アイツには子供が多くいてな、その子供たちに贈るもの…」

 

いつものように話していたエルザの言葉が突然途切れる。いきなりのことに、ルーシィは違和感を覚える。

 

「ルーシィ、これを持っていてくれ」

 

「え?」

 

エルザはボソッと小さな声でルーシィに耳打ちすると、空いていたルーシィの手に返事も待たずにリンゴの袋を持たせる。そして、自由になったエルザの右手に換装空間から剣を取り出す。

 

「ちょ、エルザ!?」

 

突然剣を握ったエルザを見て、ルーシィは戸惑いで体を硬直させる。

 

すると、エルザは剣を持ったまま、帰る道を0時とした方角の中でも4時の方角へ向かって猛スピードで走る。

 

 

 

「誰だ!?」

 

 

 

エルザの大きな声が森の中で反響する。エルザは1本の木の裏側に向かって声を上げるが、名乗りを上げる存在はいなかった。

 

「エルザ!!どうしたの!?」

 

「いや、すまん。今、誰かに見られていたような気がしたのだが、気のせいだったようだ」

 

「もう脅かさないでよ。何も言わないで剣を持つから、斬られるのかと思ったんだから」

 

「ルーシィを斬る訳ないだろう。だが、何も言わなかったのは申し訳ない」

 

「ううん。大丈夫」

 

ルーシィが許してくれたことで、エルザは肩の力が抜ける。警戒を解いて、剣を元の換装の空間に仕舞い、ルーシィの元へ戻ろうとする。

 

 

 

「!?」

 

 

 

エルザがルーシィの元へ戻ろうとして、何かいたかもしれない場所に背を向けて歩き始めたその時、ルーシィは”それ”と目が合ってしまう。

 

 

 

『たった今思い出したのですが、今から皆さんが入る森には…“幽霊”が出るそうなんです』

 

 

 

それは、エルザが何もいないと判断した場所からこちらを見ていた。

 

 

 

「い、い、…」

 

 

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 

 

 

 

 

木の陰から、背の低い老人がルーシィたちをジーッと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「どうした、コブラ?」

 

「何でもねぇよ」

 

コブラという男の耳に、遥か遠くの山の中から女の悲鳴が“聴こえた”が、今はそんなことがどうでもよくなるほどに、崖から望める森の一部分に注目していた。

 

「聴こえるぞ。光の崩れ落ちる…音が」

 

コブラと、彼の体に巻き付いている相棒の大きな紫蛇は、森の木々の変化に期待を寄せる。

 

「気が早ぇな、コブラ。まぁ、速ぇ事はいい事だ」

 

「ここに例の魔法が隠されているんだぜ、レーサー」

 

レーサーという男もまた、コブラと同じように魔法によって変化の生じた森の様子を見て大いに期待している。

 

「…zzz」

 

「暗黒をもたらし、“全ての光を崩す魔法”…デスネ」

 

「伝説の魔法…“ニルヴァーナ”が遂に私たちが手に入れるんダゾ」

 

1人の男は浮かんだ絨毯の上であぐらを掻いて眠っているが、コブラとレーサーの仲間と思われる男と女も、待ち望んだ魔法に胸が膨らむ。

 

「ブレイン、期待してもいいもんなのかい、ニルヴァーナって魔法は…」

 

「見よ」

 

ブレインと呼ばれた男はレーサーの言葉に対し、ターバンの周りに細長い葉を装飾した頭蓋骨が先端となっている杖を、森に変化している場所に向けて指し示す。

 

 

 

「大地が死に始めている。ニルヴァーナが近くにあるというだけでな」

 

 

 

ブレインが指した場所は、山火事による黒煙ではなく、そもそも何かが燃えている訳でもない。“異質な黒い光の魔の粒子”が森の一部分を闇色に侵蝕し、その場所から黒い光が柱となって何本も空へと昇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に見たのか?」

 

「確かに見たわよ!!エルザが何もいないって確認したところから肌の焼けた背の低いおじいさんが木の陰から顔だけ出してアタシのことジーッと見てたんだから!!」

 

幽霊を見たルーシィは、1袋担ぐのにも苦労していたにも関わらず、エルザの分まで持って悲鳴を上げながら全力で山を下りた。ルーシィの火事場の馬鹿力が出すスピードに置いて行かれたエルザ、グレイ、ハッピー、そしてナツもルーシィの後を追って山を下りていった。

その後、依頼主の男性の所まで戻った一行は、約束したプルプルアップルを2袋分渡し、報酬の50万Jを受け取り、依頼達成となったため、妖精の尻尾のギルドがあるマグノリアの街に帰っていた。

 

既に日は暮れて、太陽が西の山に沈んでいく。炎のような夕日がマグノリアの街を照らしているが、街の活気は燃えたままだ。街の中心に伸びている、南端から北端まで伸びた広い中央道を歩いていると、買い物に来た主婦たちの会話や、仕事を終えた者たちがジョッキに並々注いだ飲み物を景気よく飲む様子、そして父・母・子供の家族で楽しそうに街を歩いている光景をよく目にする。中央道を歩くと、マグノリアの街が誇るカルディア大聖堂が見えてくる。カルディア大聖堂はフィオーレ王国が認可している宗教を信仰する信者たちにとって、聖地とされている場所である。そんな歴史的な建物を迂回して進んでいくと、中央道の終わりでそびえる建物が、妖精の尻尾のギルドである。

 

開いたまま固定されている扉をくぐると、ギルドの中で騒いでいる者たちの熱気がムワっとくる。魔導士たちはギルドの二階まで吹き抜けになっている中央ホールに設けられた長机と長椅子に自由に座り、買ってきた食べ物や酒、ギルドの厨房で作られた料理を並べて雑談や笑談に花を咲かせる。もちろん、各々が好きに過ごせる空間のため、料理を食べないで会話に夢中になっている者もいれば、仕事の依頼書を掲示しているリクエストボードを見て明日の仕事を選んでいる者もいる。中には、音楽や演劇の為に設けられたステージでバンドをする者もいれば、地下の遊戯場でダーツやビリヤードをしている者もいる。ギルドの雰囲気やよく来る仕事によっては、食べて騒いではしゃぐといったことを禁じているギルドも少なからずあるが、妖精の尻尾は、禁止にせずむしろ歓迎しているギルドである。

 

活気に満ち溢れるギルドの中に入るとすぐに、前髪を縛った銀色の長髪美女のミラジェーンがこちらにやってきた。

 

「皆、おかえりなさい」

 

「ミラさん、ただいま戻りました!!」

 

妖精の尻尾は1つの大家族のようなギルドのため、仕事から帰って来たばかりのメンバーを労る笑顔の“おかえりなさい”、言われて嬉しい“ただいま”という言葉は、通常の家族にはない意味も含んだ温かさがある。

 

「帰って来たばかりで疲れていると思うんだけど、マスターが皆をお呼びなの」

 

「マスターが?分かった」

 

ミラジェーンに誘われてエルザたちは、ギルドの中央ホールの右手に構える厨房兼バーにやってくる。

 

「おおっ、お前さんらか」

 

バーのカウンターに座っているのは小柄な老人だが、問題児の多い妖精の尻尾の総長のマスターであり、“聖十大魔道”というフィオーレ王国を含めた大陸の中でも、最も優れた魔導士10人のうちの1人に認められた“マカロフ”である。

 

「帰ったばかりで悪いが、ちと重大な話がある。聞いてくれんか」

 

「はい。ですが、一体…」

 

エルザを始め、ナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイもカウンターの席に腰を預け、ミラジェーンは厨房側に入ってマスターの後ろに控える。

 

 

 

「お前さんら…“バラム同盟”は知っておるか?」

 

 

 

バラム同盟とは、“闇ギルド”の中でも“3つのギルドから構成されている闇の最大勢力”である。まず、闇ギルドとは、本来禁止されている殺人や暗殺などの違反の仕事を引き受け続けた結果、正規のギルドの連携の証の魔導士ギルド連盟から追放され、その後も裏で活動をしているギルドである。その中でも、“六魔将軍”、“悪魔の心臓”、“冥府の門”の3つの闇ギルドが闇の世界の中心的存在として“バラム同盟”の一角をそれぞれ担っており、現存する大小数多くの闇ギルドを傘下に従えている。

 

「えぇ。もちろん知っています」

 

 

 

「その中の一角…“六魔将軍”をワシらが討つ事になった」

 

 

 

「えええええええええええええええええええ!?」

 

いきなり裏世界のボスの1つを倒すことになったという結論に、ルーシィから驚きと恐怖の混ざった声が上がる。

 

「マスター…一体どういう事ですか?」

 

エルザの尤もな質問に、マカロフは言葉を続ける。

 

「先日の定例会で、何やら六魔将軍が動きを見せている事が議題に挙がった。無視はできんという事になり、どこかのギルドが奴等を叩くことになったのじゃ」

 

「また貧乏くじを引いたな、じーさん。んで、その役目を俺らがってことか」

 

グレイは“厄介ごとを持ってきやがって…”という意味を含めた言葉を口にすると、見えない疲労を感じたかのようにため息をついてカウンターに頬杖をする。

 

「いや…今回ばかりは敵が強大すぎる。ワシらだけで戦をしては、後々バラム同盟にここだけが狙われる事になる。そこでじゃ…」

 

 

 

「我々は“連合”を組む事になった!!」

 

 

 

「「「「「連合!?」」」」」

 

 

 

「妖精の尻尾、青い天馬、そして、蛇姫の鱗の”3つ”のギルドが各々メンバーを選出し、力を合わせて奴等を討つのじゃ」

 

「6人くれーに俺たちだけで十分だろっ!!てか、俺一人でも十分だ!!」

 

「ナツ、マスターは後々の事を考えてくださっているのだ。その意味を理解せんか」

 

6人の魔導士相手に他のギルドの力を借りるまでもないとマスターに異議を立てるナツをエルザが止める。

 

「…っていうか、ちょっと待ってよ。マスターがその話をアタシたちにするってことは…」

 

「ルーシィの思った通りじゃ。ナツ、ハッピー、グレイ、エルザ、そしてルーシィ…お主にも今回の討伐作戦に参加してもらいたい」

 

「やっぱりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 

3つのギルドが力を合わせなければ倒せないたった6人の敵の強さが恐ろしく、マスター直々の命令にルーシィの絶望は一気に高まる。

 

 

 

「マスター、忘れてますよ。あと2人♪」

 

 

 

ここで、ミラジェーンが“忘れてはならない人がいますよ”と助言をする。

 

「ん?おおっ!!そうじゃった!!」

 

「え!?敵は6人じゃなくて8人なんですか!?八魔将軍なんですか!?」

 

「ルーシィ、落ち着け。相手は6人だ。私たちにあと2人味方がつくんだ」

 

「うわぁ、怯えすぎてすごい汁出てるよ?」

 

恐怖で汗が止まらず、混乱しているルーシィをエルザとハッピーが聞き間違いを訂正して落ち着かせる。

 

「それでね、ルーシィ。あと2人っていうのが…」

 

ミラジェーンが妖精の尻尾の最強チームに入る助っ人の正体を言いかけたその時、ギルドの入り口に人だかりができて騒がしくなる。聞こえてくる声を聞くと、『久しぶりだな!!』とか、『元気にしてたか?』とか、『相変わらずかわいいなぁ』といった言葉を野次馬の中心にいる人物たちにかけているようだった。そして、言葉をかけられた人物たちは返事を返しながら人だかりをかき分け、ギルドの中に入って姿を現した。

 

「2人とも~!!こっちよ~!!」

 

ミラジェーンがギルドの入り口でキョロキョロと誰かを探している人物たちに声をかけて存在に気づかせる。すると、ミラジェーンの声に反応したのか、こちらに走ってきた。

 

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

ミラジェーンたちの所まで小走りでやってきた1人の”少女”は、何もない所で躓き、体の前面を打ち付けるかのように派手に転んだ。

 

「アンタねぇ、新築になってまだ数ヶ月しか経ってない何もない床でどうして転ぶのよ?」

 

転んだ少女の後ろからやってきたもう1人…いや、もう1匹の”猫”は、転んだ少女を心配してはいるが、心配を通り越した呆れの方が大きく、全く…と言いたげにため息をつく。

 

「相変わらずだな。ほら、手をとれ」

 

「久しぶりだなっ!!元気だったか!?」

 

「少し見ない間に大きく…なったか?」

 

「エルザさん、ありがとうございます。それに、ナツさんとグレイさんもお久しぶりです!!」

 

「久しぶりー!!元気だった!?」

 

「まぁね」

 

エルザが転んだ少女まで近づいて手を貸している。そして、ナツとグレイ、ハッピーも1人と1匹まで歩み寄って声をかける。

 

「(女の子!?それに、ハッピーと同じ猫!?)」

 

そんな中、ルーシィは初めて会った少女と猫が、もしかして六魔将軍討伐の助っ人なのかと驚愕している。

 

「ミ、ミラさん!!マスター!!あの女の子と猫は一体…!?」

 

「あら?もしかして、ルーシィは初めて会うのかしら?」

 

「なら、ちょうど良いじゃろ。ルーシィ、互いに自己紹介せい」

 

「え、えぇ?は、はい」

 

すると、ナツたちが助っ人の1人と1匹を連れてこちらまで戻ってきた。ルーシィと、初めて会う藍色の長髪少女と白い体色の猫は互いに視線を合わせる。

 

「えっと…初めまして。ルーシィ・ハートフィリアです。よろしくね?」

 

「ルーシィさん…ですね。初めまして!!」

 

少女はルーシィの自己紹介を聞いて、ニッコリとした笑顔を浮かべる。

 

 

 

「私は“ウェンディ・マーベル”です。よろしくお願いします!!」

 

「“シャルル”よ。よろしく」

 

 

 

右腕に水色の、背中にピンク色の妖精の尻尾の紋章を刻んだウェンディとシャルルは、ルーシィの手を取り、握手を交わした。

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