使い魔飯 作:匿名
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」
「”ゼロ”のルイズじゃあしょうがないだろ!だって”ゼロ”なんだぜ?」
などという言葉を皮切りに、男と少女の周囲の人間たちが笑い出し、目の前の少女を揶揄するような言葉が飛び交う。
ルイズと呼ばれた少女は、そのヤジに言い返しながら、彼女たちの講師であろう壮年の男性に詰め寄って”春の使い魔召喚の儀式”のやり直しを要求していた。
その様子を横目に、男は周囲を見回して状況把握に努めた。それは彼の過去の経験によるものであり、未知の状況に放り込まれた際に生き残るための必須技能であった。それは彼が『冒険者』をやめた後でも錆びつくことはなかった。
(言葉が通じるということは思ったより遠方ではないのか?周りに立っている人々の格好は上等なものだし、着ている服の仕立ても良い…。持っている杖は知っているものより短いが、もしかしたら俺の知らない流派のようなものがあるのかも。今の状況、聞こえてくる内容からするとどこかの魔術学校の実験中の事故に巻き込まれたとかだろうか?で、あればどうにかしてみんなと連絡を取って…)
そのように状況を冷静に考察していた男の目線がある一点を通り過ぎ、急に首ごと巻き戻る。急にソワソワと落ち着きのない動きを始めた男が、座り込んでいた草原からスッと立ち上がり真っ直ぐに歩き出す。その挙動の脈絡のなさに何人かの生徒が気味悪げに後ずさりしたが、男は不幸にもそれに気づかなかった。そしてたまたま彼の歩いた先にいた生徒のうちの一人、金髪で胸にバラを刺した男子生徒にザッ、ザッ、と無遠慮に足音を立てながらずい、と近づき話しかけた。身分差とか関係なく初対面にしては近い距離に生徒の顔が引き攣る。
「き、キミ僕に何か用が」
「すまない、聞きたいことが一つあるんだが」
「む、失礼じゃないか平み」
「あ、あの魔物は何ていう名前なんだ?あんな目玉だけのヤツ見たことがなくて」
「おい!この青銅の」
「浮いてる原理は?どうやって代謝してるんだろう!見た目通り大きな眼だとしたら浸透圧で空気から栄養を摂取してるのかと思うんだけどどう思う?」
「ちょっ」
「ああすまない、初対面なのに名前も聞かずに君の名前を教えてくれないか?」
「おいルイズ!!!君の呼び出した平民を何とかしないか!ゼロのルイズはまともな使い魔どころかまともな平民も呼び出せないのか!」
「誰が”ゼロ”ですって!?」
「今はそっちじゃない!」
どうやら”ゼロ”というのは何らかの蔑称らしい。おどけた劇のようなやり取りを見物し、くすくすと笑う生徒たちの間を
肩を怒らせルイズがどしどしと歩き、まだ状況に気づいていない男の背中の前で止まると、在らん限りの力を込めて男の背中を叩いた。
「おっ!?」
「『おっ!?』じゃないわよアンタ!」
男がルイズの方を振り向く。身長差は30サント程、BMIも10は違うだろうか?
ルイズは完全に男の顔を下から見上げるような形となり、その身体は男の影にすっぽりと覆われている。その顔を確認しようとルイズが男と目を合わせた瞬間、何故か僅かに気圧されたように感じる。
後になって思えば、それは男の持つ独特な雰囲気に潜むある威厳を僅かながらに感じ取ったからなのかも知れない。が、今のところルイズは自分が平民に僅かでも萎縮したという事実に逆上した。
「あ、アンタ」
「ああ!君が俺を召喚したっていう子だよな。周りの話を聞く限り俺を呼んだのは事故か何かなんじゃなんだよな?これは提案なんだが、ここは一つ、俺を一旦送還した後に改めて別の使い魔を召喚するとかしてはどうだろうか?せっかく召喚してもらって申し訳ないがどうやら人間を召喚するのはイレギュラーなんだろう?」
「おいおい?こりゃ傑作だ!ゼロのルイズが平民に使い魔になるのを拒否されてるぜ」
「え?いやそういうつもりじゃ」
太っちょの男子生徒がルイズを小馬鹿にする。すると、ルイズの鬼(ここでは一般的なワ国に居住する人種としてのオーガを指さない)のように吊り上がっていた眉が逆にスーっと平坦になり、完全な無表情になった。そのあまりの迫力に男は驚き、一体何を間違えたのか?と理由は分からないながらにあわあわと必死に取り繕いを考え始めた。
「どうやらアンタにはまず何よりも先に躾が必要なようね……」
「いや俺はただお互いのために……あ!そうだ!俺が代わりに使い魔になる魔物を連れて……は来れないか。ならイヅツミにここまで来てもらっ」
グゥ〜〜〜。
根本的にずれた内容の代案を矢継ぎ早に繰り出していた男の腹から音が鳴り響き、男とルイズが固まる。周りの生徒たちのひそひそとした声も完全にやみ、あたりが静寂に包まれた。数秒して、
「……ぶぷっ」
男の視界の端で褐色で赤髪の女生徒が耐えきれないと言った様子で声を漏らす様子が捉えられ、同時に目の前の少女の無表情の顔にヒビが入った。声だけで誰が笑ったのかがルイズには分かったらしい。
「ご、ごめん。その、このお腹の音は呪いのようなもので」
「『アンロック』」
そこで男の記憶が途切れただろうことは誰の目から見ても明らかだっただろう。その後、ルイズと呼ばれる少女を馬鹿にした生徒たちが学校と思しき建物の方へ飛び去ったのち、少女は髪の薄い講師のもとで間抜けな顔を晒す男に口付けをしていた。その様子を見ながら私は思った。ライオス、君は相変わらず空気の読めない男だな。