使い魔飯   作:匿名

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『現地魔力』

 爽やかな朝の空気に起き抜け一番、ライオスの驚愕の声が響き渡る。

 

「こ、これは一体……!?」

 

 起きたら手の甲に焼き印が押されていたライオスが信じられない目でルイズを見、ライオスの愕然とした様子にルイズが何処かバツの悪そうな顔で訂正を入れる。

 

「そんな目でこっちを見なくても別に奴隷に打つ焼き印じゃないわよ……、それは使い魔のルーン! サモン・サーヴァントで召喚した使い魔は『コントラクト・サーヴァント』で僕にするものなの!」

「使い魔……、いつの間に契約を? というより昨日の記憶が途中から無いんだが……」

「アンタがごちゃごちゃこっちの神経を逆撫でするようなことばっかり言うからでしょうが! け、契約はアンタが寝てる間に済ませたわよ」

(そ、それは実質的に奴隷の焼き印と変わらないのでは……?)

 

 今時は昔気質のエルフですらそうはやらないであろう蛮行にライオスがドン引きしているのをルイズは意図的に無視した。

 その様子にライオスは困ったぞ、と頭の後ろを掻いた。今まであまりライオスの周囲にいなかったタイプだ。コミュニケーションが苦手なことを重々承知(ただし本人基準)しているライオスにとって、こういう時相手を怒らせないように気を使うのは非常に困難なミッションに感じられた。特に、どこかのタイミングで自分の要求を通さなければいけない時は。

 

「大体ね、平民のくせに貴族にタメ口聞くなんてどこの田舎者なのかしら? 見れるもんなら親の顔を見てみたいわね」

「そうだ! ここは何処なんだ? ……ですか?」

 

 ライオスが『親の顔』のあたりで微妙な顔をし、敬語でルイズに質問をした。確かに、ライオスの(意外にも)高い審美眼からすると、部屋の調度品の質が高いことが見受けられる。学生の部屋らしく、さすがに細やかな額縁に飾られた絵画などの類はないが、装飾のついた化粧台に鏡、天蓋付きのベッドなどからは相当金銭的な余裕のある背景が感じられる。一方で、さまざまな偶然と思惑が重なって王様となった自分の服装を鑑みれば、ケン助は愚か、冒険者時代の鎧すら着ていない。まさかの寝巻きである。

 

(こんなことなら何か自分が王様だって証拠でも持ち歩くべきだったな〜、どんなものがいいんだろう?)

 

 

「アンタ人の話聞く気あるわけ?」

「えっあっ申し訳ないつい考え事を」

「全く、これだから平民は話もまともに聞けないわけ?」

 

 そういえばシュローがインロウなる偉い人証明書の話をしていたな、などとどんどん思考が横道にそれかけたライオスを睨みつけると、ルイズは仕方なく目の前の平民に説明をしてあげた。

 

「ここはトリステイン王国の魔法学院! 本来ならアンタみたいな平民はメイドとか召使いとかじゃないかぎり足も踏み入れられない高貴な学舎なんだから」

「な、なるほど? そうすると、そのトリステイン王国というのは大陸で言うとどこになるんですか?」

「(絶句の表情)」

 

 一瞬、ルイズの思考が停止した。ライオスはこれをスルー。

 

「ト、トリステイン王国を知らないなんて、どんな田舎から来た訳?」

「俺は今はメリニっていう東方大陸の島”だった”場所に住んでいるんだ。故郷はそこからさらに北の方なんだが……」

「東方!? じゃあ何、アンタってロバ・アル・カリイエの方から来たってわけ?」

「ロバ……?」

「アンタんとこじゃどういうか知らないけどね、こっちじゃずっと東の方のことをこう言うの!」

「まあ、確かに反対側の大陸は西方エルフ王国があるくらいで詳しい場所までは知らないが」

 

 ライオス、まだ帝王学および地政学は履修中であった。次元の彼方でなぜか褐色肌の男の眉間に皺が寄ったような気がする。

「まあ確かにロバ・アル・カリイエはエルフの国の向こうにあるわね、ふーん、”これ”がね。別に普通の顔してるのね東方人ってのも」

 

 とルイズはライオスの顔を見て納得し、この話を打ち切ってしまった。

 この、お互いに思い浮かべている地図が違うが故に発生した絶妙に勘を外したすれ違いが、現時点で進行しているとんでもないミスへ気づくのを遅らせてしまっているのだがやはりライオスは気づかなかった。

 

 

 

 あとは、「アンタのために朝早く起きたんだから」ルイズは身の回りの世話を(上から下までの着替えまで!)ライオスにさせ、その間「まあアンタには使い魔としてはあんまり期待してないから〜」とライオスの最近ちょっと出てきた下っ腹を見ながら言われたり幾つかの小言をもらったりしていた。

 その間、ライオスはこの”ちょっと”まずい状況をどうすれば脱することができるだろうか、と考えていた。

 もし今からライオスが『実は自分、職業王様やってます』などと急に言ったところで信じてもらえないだろうし、ましてや自分が呪われていて、その呪いが国から魔物を遠ざけているなどということを言っても笑われるを通り越して頭を心配されかねない。今は国の至る所にあるライオスの”残り香”のようなものが国境を守っているだろうが、それも時間の問題だ。

 

(あ〜、どこかのタイミングで学校の偉い人に言って交渉しなくちゃな〜、こんな時カブルーがいてくれたら)

 

 ライオスが部屋の天井を仰ぐ。その向こうに褐色の美少年の笑顔が浮かび、次元の向こうでカブルー青年が悪寒に震えた。

 

 

 

「くそっ、王はまだ見つからないんですか!?」

「それが全く! ライオスが寝室から出た様子すらないの!」

「とりあえず王の不在は出来る限り隠さないと……! あのバカ何処ほっつき歩いてるんだ! せめて鈴を特定のリズムで振るとかしてくれれば安否は確定するのに!」

「こっちから鈴を振るのは?」

「ダメだ、もし誘拐されているとか、不測の事態でダンジョンに放り出されているとかいった場合、こっちから連絡手段があると言うことが周囲にバレてしまうと致命傷になりかねない! 伝わってくる歩調はライオスだから生きてるのは間違い無いんだけど……」

「これ、もしかしてライオスまた鈴の存在忘れてるとかかな……」

「……」

 

 カブルー青年のこめかみに青筋が立った。

 

 

 ……などと言うやりとりがダンジョンどころか、まさかの別世界にいるライオスに伝わるわけもなく。この時点で彼は(とはいえ王様だし頑張れば故郷に手紙を届けるくらいわけないでしょ)といった感じで微妙に呑気していた。

 

「ほら何ぼーっとしてるの! さっさと行くわよ」

「あ、はい」

 

 

 

 

 ルイズとライオスが部屋から出た時、まるでタイミングを合わせたように二、三部屋先の扉からも同時に女生徒が出てきた。そこから出てきた赤髪の女性は、こちらの存在を認めると、ブーツで大理石の床を堂々と鳴らしながらルイズのすぐ近くまで歩いてきた。

 

「あら、ルイズおはよう。そしてその使い魔さんもおはよう、あなたなんてお名前?」

「おはよう。キュルケ」

「これはどうも、俺の名前はライオスと言います」

 

 握手のために出した右手をルイズがはたき落とす。

 

「こら、あんた私の使い魔のくせにキュルケと話なんかするんじゃないわよ!」

「え、どうしてだ?」

「どうしてもよ! ていうかキュルケもなんでこんな平民に興味なんか持ってるのよ!」

「いやあ? 昨日は遠目で見てるだけだったけど、結構かっこいい顔してるじゃないと思ってたのよ。ちょっとシルエットが丸めだけど、絞ればクールそうな顔してるし」

「な、キュルケまさか、平民にまで唾つけようって誘惑してるわけ!?」

「それこそまさか!? 昨日今日召喚したばっかりの『ゼロ』のルイズから男まで奪うなんてそんな可哀想なことできないわよ。……本人がどう思うかは別としてね?」

「やっぱり唾つけようとしてるじゃない! これは私の使い魔よ!」

「昨日その平民を吹っ飛ばしてコルベール先生に部屋まで”浮遊”で運んでもらっていた子に言われたくないわね〜、おもちゃでももうちょっと大事にすると思うけど?」

「うっ」

「ねえ使い魔さん? 今からでも私の……あれ?」

「うわあ! こんな魔物見たことがない! これはなんていう魔物ですか?」

「うわっいつの間に」

 

 その豊満な胸を寄せあげる悩殺ポーズでダメ押ししようとしたキュルケの視界からいつの間にかライオスが消え、キュルケの背後からライオスの喜びに満ちた声がする。多少びっくりしつつも、キュルケが後ろを振り向くとそこには自身の使い魔と同じ目線で四つん這いになっているライオスがいた。前言撤回、キュルケはちょっと彼を誘うのを保留に決めた。

 

 

「そ、その子はフレイム、サラマンダーっていう種族の幻獣よ、魔物じゃなく」

「サラマンダー! うわあ〜、触っても?」

「え……いや、ダメよ人の使い魔にあんまり触るのはちょっと、それにちょっとフレイムが怯えちゃってるわ。あなた一体」

「あっ……ま、まあ弱まってはいるみたいだけど、大陸が違ったらノーカンって訳じゃないか

「なんて?」

 

 ライオスが目を輝かせながら四つん這いをやめ、今にも触りたいといった様子でキュルケにお願いし、その様子にキュルケも自慢がてらOKを出そうとした。が、すんでのところでフレイムが尋常ではない怯え方をしていることに気づいた彼女は慌ててストップをかける。ライオスが素直に従い、その場を離れてもしばらくフレイムは体を小刻みに振るわせ、キュルケが呼んでもその場を動こうとはしなかった。

 ペットに嫌われるとかそういう次元ではない。キュルケは一族譲りの女の勘と現況への推理の両面からこの平民の得体の知れなさを看破したが、

 

 

「見た目はトカゲみたいだけど瞼がないんだ! この目の形だと強膜輪がないのかな、うちの周りだとサラマンダーって火の精霊のことだったけど西方大陸だと具体的な魔物を指しているのか、あーメモ持って来ればよかった! 尻尾の火は体温調整……のためじゃなさそうだし」

「げ、幻獣見てアンタ壊れちゃったの?」

 

 早口でぶつぶつと独り言を言いながら百面相をしている様子からはミステリアスというよりも不審を感じ、彼女の理性が即座に関わり合いを拒んだ。

 

「じゃ、じゃあお先に失礼、ルイズも早く朝食食べた方がいいわよ……」

「ああっせめて部屋からメモを持って来てスケッチするまでは!」

 

 

 そそくさとキュルケが去った後、ルイズがポツリと呟く。

 

 

「なんでキュルケが幻獣でわたしが”これ”なのよ」

「俺も残念だ」

「なんですって!? わたしに文句があるってわけ!?」

「どうせなら召喚される際に幻獣になるとかだったらなあ」

「はあ?」

「あっいや、こう、変なやつじゃなくてね? 狼とか鷲とか? あとはユニコーンとかになれれば強い魔物ぽかったかなと」

「そっち? アンタ何か怖いわよ……」

 

 もう懲りろライオス。

 

 

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