ふと、とある人物を思い出した。原作では先生が訪れる前に亡くなり、一人の生徒に深い自責の念と後悔を与えた人物。
梔子ユメ。彼女はこの世界でも変わらず、すでに故人となっている。
俺は二年前、彼女とアビドスの砂漠で接触した。
......もう確実に助けられない状態だった。
最初から助ける気はなかった。それをしてしまえば、この世界はきっと、予測不可能な方向に転がっていくから。
だから俺は、基本的にトリニティ自治区から出ず、特にアビドス勢と関わることを避けた。
助ける気が元々なかったとはいえ、俺だって人の心はある。せめてどこかで小鳥遊ホシノと出会った時に教えられるように、例の手帳の場所だけでも確実にしたかった。それが、今の自身にできる唯一の弔いだと思った。だから、俺は声をかけた。
「初めまして、梔子ユメ」
「......君、は......誰......?」
「俺は七望ネムリ、あなたが残したものの在処を確かなものにするために来た」
彼女は虚ろな目をしていた。俺の言葉に反応し、精一杯微笑もうとしていた。
「君は、ホシノちゃんの友達......かな?」
「いや、彼女は俺を知らない。ただ、俺は彼女のことも、あなたのことも知っている」
「そっかあ......」
「あなたは、手帳をどこに残したんだ?」
「どうして......ううん、それは、いいや。それを知って、どうするの?」
「小鳥遊ホシノに伝える。あなたの連絡は彼女にしっかりと伝わっていないから」
「......そっかあ、じゃあ、君に伝えるね」
彼女はぽつぽつと言葉を落としていく。しかし彼女の言葉は、俺の耳にはノイズとして処理された。
......どうにも手帳の在処はこの世界では完全に不確定のものである必要があるらしい。
この世界は時折、"こうあるべき"と定められたものを覆そうとすると、強制力が働くのか、ノイズやらモザイクとして知ることができなくなったり、少々認識の修正を行うことがある。おそらく、俺はイレギュラーな存在故にそれを認識できる。
結局、彼女がどこに手帳を置いたのかは不明だ。少なくとも、この世界ではそう定められてしまった。
「じゃあ......ホシノちゃんに、よろしく、ね」
そう言い残し、彼女は気を失う。
せめて、少しでも発見が早まるように、彼女を入り口に連れて行こう。
これくらいなら、きっとこの世界も許してくれるだろう。そう考えた。
過去を振り返り、俺は考える。
あの選択は間違っていなかっただろうか。もう少し早くアビドスに行っていれば―――――。
......いや、きっと修正されるだろう。
ならせめて、今は彼女が早く見つかったことを祈ろう。二年前の話だが。
......さてこれからアビドスに行かなければ。
原作通り、阿慈谷はアビドスを助けに行く。なら俺は、それに付いていくだけだ。それが今の俺の、役割だから。
この作品では、ユメ先輩は亡くなりました。
世界の修正力云々はこの作品内だけの設定ですのでお許しを......。