伊地知虹夏のbucket list   作:大塚ガキ男

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こんばんは!




俺に真実を教えてくれ!!

 

 

 

 

「クソッ……! なんだってこんなことに……!」

 

 ついた悪態は前方から来る風に紛れ、後方へと流れて掻き消されていく。

 本当ならばこんな風に呟いている余裕も無いくらい、息が切れている。

 疲労が溜まって重たくなった両脚が──身体中が酸素を求めて、それに答えるがまま必死に息を吸い込んでまた吐き出す。

 全身運動。

 俺は自転車に乗っていた。自転車に乗って、汗だくになりながらシャコシャコと必死こいてペダルを漕いでいた。

 

 

 

『き、喜多ちゃん、バンド辞めるって……』

 

 

 

 ほんの30分前──15時くらいのこと。

 俺の幼馴染、伊地知虹夏の言葉である。

 

 なにが引き金となったのか、突然俺の手の匂いを嗅ぎ始めた虹夏のことは今は頭の片隅に置いておくに留めるとして。

 そんなに良い匂いがするのかと今の自分の手を嗅いでみるが、汗とハンドル(つまりはゴム素材)の匂いしかしない。虹夏はゴムの匂いが好きなのだろうか。俺も木工用ボンドの匂いとか好きだから、似たようなものか。いやでも、あの時の俺は別にゴムの匂いとかしてなかったはずだ。なら虹夏は何故俺の匂いを。

 ──って、緊急事態だ。そんなこと考えている場合じゃない。

 ……虹夏のアレ、なんだったんだろう。

 ──えぇい、考えるな。

 

 間。

 

 あれから()()()()()俺達はまた椅子に座って、お互い全てを無かったことに──見なかったことにして本番まで『まだかなまだかな』なんてワクワクしながら談笑していた。虹夏と山田の二人は一度楽器を触りにいって念の為調子を確かめてみたりなんかもしながら、迫る本番を刻一刻と待ち侘びていたのだ。

 そんな折、虹夏の元に届いた一本のロイン。

 ロインは喜多さんからのもので、送られてきたメッセージを見た虹夏の顔が酷く青ざめていたのをよく覚えている。

 その顔が脳裏に焼き付いて離れない。

 

「…………」

 

 俺は。

 俺は、もう二度と虹夏の悲しむ顔なんて見たくないんだ。

 今度また虹夏を悲しませてしまったならば、()()()の俺のロックが意味を無くしてしまう。何より、バンドメンバー(先輩方)に申し訳が立たない。

 だから探す。

 探し続ける。

 

「誰か……! 誰か()()()()()は……!」

 

 ギタリスト探し。

 喜多さんの脱退によって、本番直前にして大事なピースの一つが欠けてしまった結束バンドは、急いで新たなピースを──サポートギターを探すことになった。結束バンドを見にチケットを買ってくれた下北沢高校の同級生達に「ごめん、やっぱ今日演奏できないわ」とは言えるわけがないからだ。

 だから、ギタリスト探し。

 俺は自転車を漕いで、そこらにギターケースを背負ってる人がいないかと目的地までしらみ潰しに探して。

 虹夏はロインの後音信不通になってしまった喜多さんの元に──秀華高校まで事情を聞きに。ついでにギタリスト探し。

 山田は、いずれ無断で外出した俺と虹夏に気付いてブチギレるであろう星歌さんへの言い訳役として、STARRYにて待機。

 まぁ、星歌さん怒るだろうなとか考えられたのは外に出た後だったので、これは単なる後付けだ。山田はただ捜索を面倒くさがっただけ。

 兎に角にも、見た目だけ見れば完璧な布陣。

 しかし数時間後に訪れる未来には不安しか無く。

 各々、祈るような気持ちで本番まで足掻くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」

 

 数分後。

 自転車を漕いで漕いで漕ぎまくった俺は、軽く酸欠状態に陥っていた。軽く陥ってしまうほど俺の身体は脆弱なのだと理解していただきたい。

 西武新宿駅前、花道通り。

 しかし、30分近くノンストップで自転車を漕ぎ続けることが出来たのだから、俺にしてはよく出来た方だ。

 出来過ぎてると言ってもいいかもしれない。

 そう前向きに事を捉えながらも、現実は決して揺るがない。呼吸しても呼吸しても身体に酸素が足りず、息切れと度を超えた疲労感がこの先一生続いていくのではないかと予感してしまうほどのしんどさ。

 

「し、死ぬ……」

 

 駅周辺の駐輪場に自転車を停めてきた俺は、息も絶え絶えになりながら幽鬼のような足取りで目的地へと向かっていた。果たして幽鬼に足があるのかは不明だが、この際なんでも良い。あくまで物の例えだ。

 あと授業で習ったから使ってみたかったんだ。

 幽鬼(ゆうき)

 定休日なのか、それとも昼間は開いていないのか、シャッターが閉じている店舗の壁に寄りかかって休憩。目的地はすぐそこだというのに、俺の身体はすぐに動いてはくれなかった。

 疲れ過ぎて瞳に涙すら滲んでくる。袖で額の汗を拭ってから、壁に手をつきながらなんとか立ち上がった。

 

「あれ、山口じゃん」

 

 不意に聞こえた、俺の名を呼ぶ声。誰だか見当をつける前からその声色に安心してしてしまった俺は、自身の意思に反して膝の力が抜けていくのを感じた。

 

「え、ちょっと。大丈夫? 山口? おーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳に、音が入ってくる。

 誰かと誰かの話し声。

 紙面に何かを書き込むような音。

 それから段々と己が目を閉じているのだと理解して──仰向けで寝転がっているのだと理解して、飛び起きた。

 

「ライブは!?」

「あ、起きた」

「もう、心配したじゃない! 聞いたわよぉ? すぐそこで倒れたって」

「し、志麻さん!? 銀ちゃんも!」

 

 青ベースに白を取り入れたスタジャン、背中には強そうな人骨の柄。

 肩のあたりで揃えられた黒髪。

 温度低めな赤い瞳。

 そしていつも冷静でカッコいい低音めな声。

 ──岩下志麻さん。

 きくりさんと同じバンドに所属していて、俺個人も数年前から幾度となくお世話になっている恩人の一人だ。

 きくりさんと遊ぶと『いつも本当にありがとう』とこちらに礼を言うほど常識人。きくりさんと遊べば遊ぶほど志麻さんの中での俺の評価がどんどん上がっているようで、たまに日頃の礼を兼ねて食事に連れて行ってもらってる。

 声が格好良い。

 

「大丈夫? 派手に倒れてたけど、どこか痛むところは無いか?」

「だ、大丈夫です。ここは……」

「新宿FOLTのスタッフルームよ。太介ちゃん、まさか知らないで来たの?」

 

 こちらの容体を気にする志麻さん。その受け答えをしていれば、少し呆れた様子で俺を見下ろす男の人。

 紫色のグラデーションがかった襟付きシャツ。手首には細い銀のバングルが複数。唇にはピアス。

 両サイドの横髪長めのポニーテール。

 柔和な目力、緑色の瞳。

 志麻さんと同じく低音めではあるが、()()をふんだんに感じる声。

 ──吉田銀次郎。通称、銀ちゃん。

 かつて、きくりさんに誘われるがままバンドやライブのことをなにも知らない状態でノコノコと新宿FOLTまでやってきた素人の俺に、()での客としての立ち振る舞いや作法を教えてくれた人。

 新宿FOLTが忙しい日はたまにヘルプで俺を召喚したりするので、それなりに親交が深い。

 メッチャ良い人。

 

目的地(新宿FOLT)に着いたところまでは記憶あるんですけど……」

「私が声掛けたと同時に倒れたからビックリしたよ」

 

 たまたま私がいて良かったね。

 ニヒルに片側の口角を僅かに上げた志麻さん。それは本当にそうだと迷惑をかけてしまったことに関して謝罪をする。

 

「別に迷惑だなんて思ってない。むしろ、こっちの方こそ『いつも廣井が迷惑かけてすみません』と会うたびに謝らなくちゃいけないくらいだ」

「?」

「……その心の底から『あの人が迷惑?』みたいな顔、あんましない方が良いよ。廣井(アイツ)調子乗るから」

「ヤダ。あの子まだ太介ちゃんにお熱なの?」

 

 お熱。

 ……お熱? まあ確かに良くしてもらってはいるが。

 銀ちゃんの乙女な単語変換機能に自身の語彙が増えていくのをやんわりと感じる。

 志麻さんがきくりさんのことを話す時だけに見せる、ほんの少しだけ眉間に皺を寄せた表情のまま返した。

 

「会った時からずっとそうですよ。この前の大雨降った日も山口の家泊まってましたし」

 

 あ、その節はありがとうございました。

 そう言ってどこからか菓子折りを取り出した志麻さん。いただくの何回目だろうと思ったりしながら『ご丁寧にどうも』と言って受け取る。帰ったらみんなにお裾分けしよう。

 ……、

 …………、

 ………………。

 

「──あ、そうだ! 結束バンドがヤバいんですよ!」

「なに、切れたの?」

「普段使いするならちゃんと買い足しておかないとダメじゃない」

「いやガチの結束バンドの方じゃなくて、幼馴染が組んでるバンドの話です」

「良いバンド名じゃん」

虹夏(本人)に是非言ってやってください──ってそうじゃなくて、今かくかくしかじかで」

 

 事情を説明。

 今日演奏する予定だった喜多さん(ギター)が突然辞めてしまったこと。

 本番までに代わりのギターを探さなければならないこと。

 未だ代わりのギターは見つかっていないこと。

 包み隠さず、全てを話す。

 俺の、というか結束バンドの事情を聞いた志麻さんは、顎に手を当てて少し考える素振(そぶ)りを見せた。それから。

 

「……成る程、サポートギターを探しに新宿FOLTまで来たってことか」

「そうなんです……」

「アテはあるの?」

「無いです。きくりさんに電話できれば、イライザさんに──それでなくても知り合いのギタリストの方に繋いでもらいたかったんですけど」

「あぁ、電話出なかったんだ」

「はい……」

 

 四六時中飲酒をして過ごしているきくりさん。今日はライブも無いらしく、それでなくてもきくりさんのオフの平日なんて想像もできない。今頃何をしているのやらと、きくりさんの緩んだ笑顔を虚空に思い浮かべてみる。

 

「イライザも、今日は都合つかないと思うよ」

「え、そうなんですか」

「うん。今日は観たかったアニメ映画の公開日で、主要キャストが登壇とかなんとか昨日の夜言ってた気がする」

「一番大事な用事じゃないですかぁ……」

 

 今日公開のアニメ映画と言ったらアレしかない。あの作品は、山田も絶対に映画館で観たいと鼻息荒くしていた、地上波ワンクール放送の時から伝説となっていたアニメの劇場版だ。

 俺も、山田と予定合わせて今度観にいかないと──って話がズレた。

 つまりは、アニメ好きなイライザさんなら何よりも優先する用事だってこと。

 ましてや場所は映画館。こちらから連絡を入れられたとしても映画が終わるまでは気付くまい。

 肩を落とす。それから、湧き出た疑問。

 

「……あれ、それなら志麻さんはどうして新宿FOLTに?」

 

 自主練だろうか。答えを求めて問うた。

 

「今度やるワンマンライブの日付の調整(打ち合わせ)

「私とね」

 

 ペラペラとクリップで束ねられた紙面を揺らしてそう説明してくれた志麻さん。寝起きで聞こえてた話し声はそういうことか。

 銀ちゃんが頬に手を当てて眉を下げる。

 

「残念ねぇ。ウチも、今日は休業日なのよ」

 

 今日月曜日だし、ね。

 銀ちゃんの言葉に、身体の内からゆっくりと血の気が引いていくのが分かった。

 

「え、じゃあ……」

 

 ごめんね太介ちゃんと困ったように笑う銀ちゃんの声が遠ざかっていくような感覚。可能性が潰えたことを自覚した俺の脳は、次第に絶望感を与えてくる。

 

「…………」

「山口、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。まだなにか方法が」

 

 立ち上がる。ポケットに入れていたスマホで現在時刻を確認し、こうしてはいられないと歩み始める。

 

「急ぐ気持ちは分かるけど、もう少し休んでいった方が良いんじゃない?」

「そうよ。足ガックガクじゃない」

「いや、大丈夫です! 志麻さんも銀ちゃんも、助けてくれてありがとうございました! また今度遊び来ます!」

 

 では。

 二人の方に顔を向けながらも歩みは止めず、ドアノブを下げて今居た一室から出て──

 

「へぶッ」

「いたっ!」

 

 誰かにぶつかって後ろにひっくり返る。背中で床の硬さを感じながら、照明の眩しさから逃げるように眼前に手を翳してゆっくりと体勢を立て直す。

 

「ご、ごめんなさい。前見てなくて……」

 

 頭を振りながら、ぶつかってしまった相手の方を見る。相手に怪我は無いようで(というか体勢を崩してすらないようで)、へーきへーきと俺の謝罪を()()()を持っていない方の手で笑い飛ばした。

 

「──って、きくりさん!? なんでここに!?」

 

 俺は酔っ払いに体感で負けたのかと内心傷付きながら、叫ぶように問う。

 ぶつかった相手、きくりさんはヘラヘラと笑いながら喋り出した。

 

「いや〜、私のベース(スーパーウルトラ酒呑童子EX)探しててさぁ。昨日行った居酒屋回っても無くて……まぁ覚えてる最初の二軒だけだけど。んじゃあ新宿FOLT(ここ)かなって思って来てみたんだよね」

「お前、またベース忘れてきたのか……」

「え、なんで志麻がここに!?」

「丁度良かった。私も、アンタがこの前壊した機材の修繕費のことで話したいと思ってたのよ」

「ぎ、銀ちゃんもいる! え、太介くんどういう関係!? 私に内緒でなんか楽しいことしてた!?」

「実は……」

 

 すべすべくまくま(かくかくしかじか)

 事情を説明。聞き終えたきくりさんはボロボロと大粒の涙を溢し始めた。

 

「うえぇぇぇん! なんて可哀想な太介くん!」

「いや俺は別に可哀想じゃないんですけど……」

 

 聞き終えはしたもののしっかり理解をしていたわけではないらしく、勘で泣いている。酔っ払いだから涙腺も緩いようだ。

 きくりさんは持っていた鬼ころを一息で中身を全て吸い切り、室内にあったゴミ箱に放り投げた。銀ちゃんが「持って帰りなさいよ」とキレていたが、今のきくりさんには届いてなさそうだ。

 

「おいでぇ太介くん……! きくりお姉さんがハグしてあげるからぁ……!」

 

 (むせ)び泣くきくりさん。両腕を広げ、俺の名を呼びながらトテテテと近寄ってくる。

 その小さな歩幅とコミカルな仕草に愛らしさのようなものを覚えながらも、異性と無闇に触れ合うのはなと躊躇う。だからといってスルーするのもなと思案していると、志麻さんがきくりさんの首根っこを──スタジャンの襟辺りをむんずと掴んで止めた。

 

「ぐえぇっ」

「廣井、自重しろ」

「次長? 課長? タンメン? あれワンタンだっけ?」

「はぁ……。酔い過ぎだ」

 

 空中でぶらぶらと揺られる猫のようなきくりさんと、その首根っこを掴んでいない方の手で額を押さえ溜め息を吐く志麻さん。

 褒め言葉として受け取ってもらえるかは分からないが、きくりさんに振り回されて物憂げな表情を見せている今の志麻さんを、俺はなんだか凄く格好良く思った。

 

「私のツテで誰か呼べたら良かったんだけどね〜。昨日スマホぶっ壊れちゃったから無理だわ!アハハハハ!」

「えぇ……」

 

 腹を抱えて大笑いするきくりさん。現代人にとってスマホの紛失って結構な大事(おおごと)なんじゃなかったかと心配するが、当のきくりさんは少しも慌てた様子はない。

 きくりさんのいっそ浮世離れした感覚に内心畏れと感心のようなものを抱く。抱いていると。

 

「──志麻ぁ、呼吸苦し──あっ、ヤバい吐く……」

「ちょっ!? 堪えろ! ここで吐くな!」

 

 首根っこを掴まれていたことで気道が塞がったことが災いしたのか、両手で口を押さえて震え始めたきくりさん。その顔色は真っ白だった。

 志麻さんがきくりさんの首根っこを掴んだまま急いで部屋を出る。恐らくはトイレに向かったのだろう。

 一瞬で消えた二人の姿。

 志麻さんが勢いで開き切った反動でゆっくり閉じてくるドア。銀ちゃんが遅れて「汚さないでね」と声をかけたが、きくりさんに届いているかは不明だった。

 

おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 

 うわ最悪。

 きくりさんのえずく声が廊下の向こうから響いてくる。

 この様子だとギリギリ間に合ったらしい。

 

「……ドア閉めてくれる?」

「……はい」

 

 銀ちゃんに言われるがままドアを閉じる。閉じるついでに帰ればよかったと閉じ終えてから気付いていると、銀ちゃんが俺の背中に声をかける。

 

「あの子のこと、嫌だったら嫌ってちゃんと言いなさいよ」

「嫌なんかじゃ──」

 

 ないですよ。

 そう言おうとしている途中で、ドアを貫通してきくりさんのどデカいえずき声が聞こえて口を閉じる。今フォローしてるんですから自分で自分の首を絞めるようなマネしないでください。

 そんな首絞めたらまたえずいちゃいますよ。

 

「そりゃあ、おんぶしてる時に背中にゲロかけられたりうちのリビングでゲロされたりするのは流石に嫌ですけど」

「色々されてるのね……」

 

 でも。

 銀ちゃんのこちらを憐れむような視線を弾き返すように、言葉を区切ってから。

 

「きくりさんって面倒見が良くて凄い頼りになりますし、一緒にいてメッチャ楽しい人じゃないですか」

 

 同意を求めるように言葉を投げかける。

 しかし銀ちゃんはその言葉に頷くどころかメチャクチャ嫌そうな顔をしていて、きくりさんの普段の行いを察した。

 

「だから、俺からきくりさんを拒絶することなんてありませんよ」

「……太介ちゃん、その言葉絶対あの子の前で言っちゃダメよ」

「恥ずかしいので言いませんって、こんな事。もし言うとしたら、きくりさんの誕生日とかにロインで日頃の感謝の言葉と共に送っちゃうとかですかね」

「ぜ、絶対ダメ!!」

 

 珍しく声を荒げて反対した銀ちゃんの迫力に、思わず面食らう。こんなポジティブな言葉を言っちゃいけない理由が分からないが、銀ちゃんが言うのだからなにかしらの理由があるのだろう。

 ロックンローラーに対しては失礼にあたるとか? 

 いや分かんないけど。

 

「…………」

「太介ちゃん、善性の塊過ぎて逆に悪い子みたいね」

 

 変なことに巻き込まれないか心配。

 溜め息と共にそうぼやいた銀ちゃん。俺はその言葉に対してなにも返すことが出来ず、ただ己の閃きに硬直していた。

 

「……そっか、ロインが」

「太介ちゃん?」

()()()()()がいるじゃん!」

「……太介ちゃん?」

 

 慌ててスマホを取り出す。ロインアプリを開いて友達リストからごとちゃんを選び、トーク画面へと移る。時間が無いので言葉はシンプルに。

 

『ごとちゃんが必要なんだ! 放課後暇だったら連絡ちょうだい!』

 

 ──これで良いだろう、送信。

 

「ど、どうしたの太介ちゃん」

「サポートギターのアテ、一人思い付きまして! 今メッセージ送りました!」

「そう、来てくれると良いわね」

「はい!」

 

 突如として見出した光明に、胸が軽くなる。そうこうしているうちにスマホが震え、慌てて画面を確認。祈るような気持ちでメッセージをタップしてロイン画面へ。

 

『サポートギター見つかったよ。今すぐSTARRY帰ってきて』

 

 しかしロインを開けば、相手はごとちゃんではなく虹夏からだった。凄いタイミングだなと思っていると、続いて着信。

 

『早く』

 

 また着信。

 

『ダッシュ』

 

 続々着信。

 

『帰ったらお説教ね』

 

 終。

 以上の文言によってトークは終了し、以降虹夏から追加のロインが届くことはなかった。

 

「……え、なんでお説教?」

 

 

 

 

 

 





きくりさんのスピンオフ読み始めたら、まんまと志麻様好きになったンゴねぇ……。

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