伊地知虹夏のbucket list   作:大塚ガキ男

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こんばんは!




喜多郁代はやり直したい(たすけがほしい)

 

 

 

 

「あっ、お兄さんお怪我はどうですか。私の所為で本当にすみませんでした……」

 

 山口太介と喜多郁代の倒錯染みた遣り取りも、時間さえ経てばそれなりの落ち着きを見せ。周囲からどこか隔絶された二人の空間に、各々ゆっくりと身を任せるまでの落ち着きに至っていた。

 喜多郁代が怪我人である山口太介の頭を撫でたり背中に手を当てたりして看守(みまも)り、ツッコミを放棄した山口太介がどこか遠い瞳でそれ等を受け入れている状況。

 伊地知星歌が気を遣って持ってきたクッションは、今や誰にも使用されずに椅子の上に置かれてしまっていた。

 そんな中、後頭部に片手を当てながら申し訳なさそうな表情と共にピンクジャージの後藤ひとりが参上。床に並んで座る二人の前に立ったまま会話を続けることを悪しとしたのか、それとも山口太介に庇われた一件に申し訳なさを覚えているのか、後藤ひとりはその場で正座した。

 後藤ひとりの登場を助け船だと解釈した山口太介が、歓迎するように笑う。

 

「ごとちゃんの所為なんかじゃないって」

「で、でも」

「俺が運動音痴だからこうなっちゃっただけ。それに、ごとちゃんに怪我が無いなら俺はなによりなんだよ。……だから土下座やめてね」

「いえいえ……」

「いえいえじゃなくってさ! ほら喜多さんも見てるし」

「喜多さん、これが後藤ひとり()という人間の生き様です」

「土下座しながら変な宣言しないで!」

「そ、そうなのね」

「喜多さんも無理やり納得しないで!」

 

 閑話(二人がかりなら土下座を)休題(スムーズにやめさせられるらしい)

 

「あれ、ごとちゃん。そういえばさっきまで虹夏から怒られてなかった? ほら、ごとちゃんまだあっちにいるじゃん」

 

 どういう状況? 

 隣で聞いていても理解が及ばなかった喜多郁代が、山口太介が指差した方向に視線を移す。

 そこには、腕を組んで「何度も言うけどさ」と説教する伊地知虹夏。

 そんな説教をペコペコと頭を下げながら「すみませんすみません」と繰り返す後藤ひとり。

 それから、そんな二人の間に立ち「うんうん」と神妙に頷く山田リョウの計三人がいた。山田リョウには伊地知虹夏の説教を止めることは出来なかったらしい。

 ……どういう状況? 

 見ても理解出来なかった喜多郁代の頭が真っ白になりかけたところで、後藤ひとりは当然といった声色で説明を入れた。

 

「あっ、あれは私の分身です。でも長くは持たないので、時間経過でカビになって消えるかと」

「はえー」

「ぶ、分身? 後藤さん、分身するの?」

「喜多さん、あまり深く考えちゃ駄目だ。ごとちゃんって凄え面白い子なんだなってぐらいに納得しておくと良いよ」

「そうなんですね……」

 

 山口太介から説明を受けた喜多郁代が、言われた通り浅めの思考で目の前の状況を受け入れてみる。

 成る程、こうした方が色々とラクだ。

 喜多郁代は肩が軽くなったような感覚と共に、少し息を吐いた。

 そうやって生まれた一瞬の沈黙の間に、後藤ひとりは瞳に涙を滲ませて自分の胸を労るようにさすった。

 

「うぅ……、虹夏ちゃんに引っ叩かれた胸がヒリヒリする」

 

 どうやら静寂によって身体に残る痛みを思い出したらしい。

 

「…………」

「ご、ごとちゃん! 俺達に用事があったんじゃなかったのかな!」

 

()()()の発言に、()()()()()が嫉妬の眼差しと共に口を閉じる。

 山口太介は良くも悪くも察しが悪い()があるので「あぁ、喜多さん胸無いもんね」と思ったわけではないが、喜多郁代から放たれた一瞬の殺気を感じて、本能的に話を前に進めた方が良いのだと理解した。

 促された後藤ひとりが背筋を伸ばす。

 

「あっ、そうでした……。喜多さんに聞きたいことがありまして」

「聞きたいこと?」

 

 喜多郁代が言葉を繰り返す形で続きを促す。促された後藤ひとりは、一度深呼吸してから切り出した。

 

「さ、さっき喜多さんに手当してもらった時、指の皮が硬くなってました。……かなりギター練習してないと、そうはならないはずです」

 

 さっき。

 お手伝いという形でSTARRYのアルバイトに加わっていた喜多郁代が、後藤ひとりからドリンクを教わっていた時のこと。

 喜多郁代からの視線に緊張してしまった後藤ひとりは、サーバーから注いだコーヒーを溢れさせ、カップを持つ手に火傷を負ってしまったのだ。

 喜多郁代による迅速な看護もあり幸いにも大事には至らなかったのだが、後藤ひとりの手の甲は未だほんのりと赤くなっている状態。

 喜多郁代からの看護を受けた際、後藤ひとりは感じたのだ。

 喜多郁代はギターが弾けないが、弾こうとしなかったわけではないのだと。

 指の硬さから伝わった、弾こうと足掻いた努力。

 後藤ひとりはソレを、如実に感じ取っていた。

 

「逃げ出したって言ってるけど、本当は練習してたんですよね……。本当は、バンド続けたかったんじゃないですか……?」

 

 後藤ひとりの言葉が喜多郁代の胸を打つ。

 怯えたように逸らされている瞳こそ決して交わらないが、後藤ひとりに()()()は無いのだというのがハッキリと感じ取れた。

 天井から降り注ぐライトが、喜多郁代の目尻に僅かに浮かんだ涙で反射する。感情の昂りにより、ほんの少し赤くなった頬をありのままに照らし出す。

 

「後藤さん……」

「もっ、もしかしたら楽器を弾くのは人より苦手なのかもだけど……、努力の才能は人一倍あるから大丈夫です……」

 

 普段の自分からは想像もつかないほどの文字数を話した後藤ひとり。身体への負担は少なくないのか、顔が青ざめてきている。山口太介が気付いて介入。

 

「だってさ、喜多さん。ごとちゃんもこう言ってるし、帰ってきてくれないかな」

 

 山口太介に続きを引き継いでもらうこととなった後藤ひとりはこれ幸いと、喜多郁代からの視線が外されたことによる開放感に包まれながら、ゼェハァと深呼吸をするのだった。

 

「で、でもっ……」

「虹夏も山田も、きっと喜ぶよ。……今はデコイごとちゃん──デコちゃんを説教してるけど」

 

 山口太介は苦笑いながら、視線を伊地知虹夏と山田リョウの方(あちら)へと向ける。喜多郁代も一瞥したが、それでも尚表情は晴れなかった。

 

「私、本来ならライブ当日(あの日)、ちゃんと皆さんに理由を話すべきだったんです。でも打ち明ける勇気が無くて、ただ辞めますとだけ伝えて……」

「今日、ちゃんと謝れたじゃないか。それでバイトも手伝ってくれたんだし、喜多さんが気に病むことなんて無いよ」

「でも……」

「虹夏も山田も、喜多さんを許せないほど怒ってるならそもそもSTARRYまで連れてこないって。二人も喜多さんに戻ってきてほしいから、こうしてバイト手伝ってもらったりしたんだよ」

「…………」

 

 曇る喜多郁代に、山口太介が様々な言葉でアプローチを試みる。

 しかし未だ踏ん切りが付かないのか、喜多郁代の口からは否定の言葉しか出てこない。

 ──こんな私が。

 ──またみんなに迷惑を。

 自らで生成した負の言葉達が、刃となって背中を刺す。自力じゃ手が届かず、一人で抜くことは叶わない。

 しかしそれでも、いつまでも刺さったままではいけない。

 誰かが助けてやらねば。

 引き抜く際は酷く痛むが、それでも誰かが刃を抜いてやらなければ。

 

「──喜多さん」

「はっ、はい」

「今決めた。喜多さんの言う通り、例え虹夏と山田が反対したとしても、俺はごとちゃんと二人で喜多さんを結束バンドに引き入れることにする」

「へ?」

「これで、喜多さんの懸念通りになったとしても意見は2対2だ」

「に、2対2?」

「分かるだろ。賛成でも反対でも、もう一つ()()の票が入ればどちらかに傾くんだ」

 

 山口太介の瞳が喜多郁代と交わる。

 

「あとは喜多さんの気持ちだけだ。負い目とか過去の失敗とかじゃなくてさ、喜多さんが本当はどうしたいのかを教えてくれよ」

「っ、私は。……」

 

 何かを言いかけて、口を閉じた。

 交わっている視線。山口太介が無言のままゆっくりと続きを促せば、喜多郁代はコクコクと頷いてから、やがて簡単な質問を投げかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、いいと思うよ。私もなんだかんだ、喜多ちゃんが戻って来てくれたら助かるし」

「伊地知先輩……」

「ギターが増えたら音が賑やかになるし、ノルマも4分割」

「素直な言い方しなよ、山田」

 

 それから。

 未だ分身の後藤ひとりに説教を続けていた伊地知虹夏と、止めることすら出来ず置物と化していた山田リョウの元に行き。

 三人で頭を下げて理由を説明し、喜多郁代の再加入を提案し。

 紆余曲折を経て。

 それなりの時間を要し。

 それでも最後は、また結束したのだった。

 

「あっ。でも先輩達、今のパリピバンド路線はやめた方がいいですよ。毎晩踊り狂ってるんですよね?」

「どこ情報!?」

「山口先輩も、ダンスなんてしたら危ないですよ?」

「だから、俺ってそこまで虚弱じゃないって!」

「でっ、でもさっき転んで鼻血出してましたよね……」

 

 私の所為ではありますけど。

 後藤ひとりからの思わぬ追撃を受けて、山口太介は「痛いところ突かれた……」と肩を落とした。

 

「その痛みでまた怪我するかもね」

「やかましいぞ、山田」

 

 したり顔でそう付け加えた山田リョウ。山口太介がジト目でツッコミを入れて、トーク内容は移ろっていくのだった。

 

「それにしても、無事メンバー揃って良かったな。これで結束バンドも本格始動か」

「そうだねぇ。まさか今日揃うなんて」

「バンドメンバー! 嗚呼……! これで私は先輩達と第二の家族に……! つまり私はリョウ先輩の娘……!」

「……なんかヤバい子引き入れちゃった?」

「案ずることはない。何故ならば、虹夏も相当ヤバいから」

「なんだとーぅ!?」

 

 伊地知虹夏の懸念に、山田リョウが澄ました顔で燃料を投げ込む。

 つい先程まで場に流れていた真面目な空気もすっかり弛緩し、各人に笑顔が戻り始めたSTARRY。

 しかしそれでも燃料は燃料。

 山田リョウによって投下された燃料は無事着火し、伊地知虹夏の両拳が山田リョウのこめかみへと吸い込まれた。

 

「ぬぐああああああああああああああああ」

 

 響き渡る情けない断末魔。喜多郁代としてもここまで格好悪い姿はNGなのか、なにも見えていないフリをして山口太介と後藤ひとりの方へと向き直った。

 

「後藤さん、山口先輩! これからよろしくね!」

「あっ、は、はい。よろしくお願いします」

「よろしく、喜多さん」

「私がリョウ先輩の娘ということは、二人もそうなるのよね?」

「え?」

「俺、山田と同い年だよ」

「つまり私達も家族!」

「きっ、聞いてない……」

「……山田が親ということは、自動的に虹夏も親。つまり父と母の枠が上手い具合に収まったのか。……いやなんで俺も子供枠なんだって話ではあるけど」

 

 親戚の叔父さんとか、なんか適当な良い感じの役割あるだろ。

 山口太介が自らの役割に照れ笑いながらそう呟いたところで、するりと言葉が差し込まれる。

 

「──だって以前、太介は私のことパパって言ってたから」

 

 山口太介が思考を中断して視線を向ければ、そこには折檻を終えた山田リョウが。会話に加わってくる山田リョウの頭部の形こそいつも通りに見えるが……。

 

「しっかり凹んだ。でも、凹んだあと引き戻されたから。つまり痛さ2倍」

「……ヤバ〜」

 

 顔を青く冷めさせてドン引く。

 する側もされる側も人体の構造としてあり得ない力が働いているような気がする。しかし、伊地知虹夏の両拳が山田リョウのこめかみへと伸ばされる一瞬に、前腕に浮かんでいた筋を見てしまっていた山口太介は、あながち嘘ではないのかもしれないと生唾を飲み込むのだった。

 

「リョウ先輩の言うように、山口先輩は息子!」

「……まぁ、もうこの際息子で良いよ」

 

 山口太介が内心震えている間に訂正を入れるのも憚られるほど話が進んでいて。

 山口太介は吐いた溜め息に諦念を滲ませ、渋々納得することにした。

 

「そして私の弟ということに!」

「えぇ!? せめて長男だろ!」

「お兄さんが弟……ごくり」

「しかも俺ごとちゃんよりも歳下(末っ子)かよ!」

「ただいま。いやー、リョウのこめかみ戻すの大変だった〜」

 

 騒がしくなってきた場に、自らの肩を労るように揉みながら、少し疲れた表情のまま戻ってきた伊地知虹夏。しかし息つく暇も無く、山口太介が泣きついた。

 

「虹夏助けて! このままじゃ俺、山田の息子かつ喜多さんとごとちゃんの弟にされる!」

「もうっ! 訳わかんないこと言わないの! 喜多ちゃんのギター見るって話だったでしょ!」

 

 しかし端折(はしょ)りに端折(はしょ)られた言葉で意味が伝わるはずもなく、ボケているのだと思われて柔らかい叱責を受ける。

 違くて、とすぐさま弁明するほどこの件に対して真剣ではなかった山口太介は、それでも取り合って貰えなかったという事実に涙目でふざけ気味に呟いた。

 

「虹夏マッマ……」

「はいはい、なんでもいいから現実に帰っておいで」

 

 ツッコミすらされず、全てを受け入れ気味の伊地知虹夏に手を握られ、喜多郁代のギターが置いてある壁際へとトボトボ連れて行かれる。その後ろを山田リョウが早歩きで追いかけた。

 

「虹夏、太介の教育方針について相談が」

「リョウも、いつまでも乗り続けないの! ほら、みんな集合!」

「むぅ……」

「はい! 分かりました!」

「はっ、はい」

 

 伊地知虹夏の声かけにより、家族──結束バンドのメンバーが集合。未だ手を握られたままの山口太介も同席しているが、伊地知虹夏はその手を離すつもりはなかった。

 

「それで、喜多ちゃん。ギターが壊れてるって話だったけど」

「そうなんです。いくら練習しても本当に弾けなかったので、壊れてるんじゃないかって。ボンボンって低い音しますし……」

 

 伊地知虹夏に促された喜多郁代が、しゃがんで自らのギターケースのチャックを開けながら語る。やがて見えてきたギターの姿に、後藤ひとりが声を震わせながら指摘を入れた。

 

「え、それベースじゃ……」

「あはは、私そこまで無知じゃないって。ベースって弦が4本のやつでしょ?」

「弦が6本のとかもあります……」

 

 後藤ひとりの更なる指摘を補強するように、遅れて喜多郁代のギターを覗き込んだ山田リョウが冷めた目で答えを出した。

 

「それ多弦ベース」

「…………」

 

 場が凍る。

 衝撃の事実を突きつけられた喜多郁代は勿論のこと、それ以外の面々もあまりの居た堪れなさに発言なんて出来ない状況に追い込まれていた。

 一秒、二秒。

 それから、喜多郁代が声を押し殺して「うぅ……」と涙を流し始めた。

 

「お父さんからお小遣い2年分前借りしたのにぃ……」

 

 音も無く涙を流す喜多郁代を哀れんだ山口太介が、失敗を笑い飛ばすように明るさを務めてフォローを入れる。

 

「き、喜多さん。ドンマイドンマイ! そういうこともあるよ! 俺もギターとベースの違いって今でもキチンとは分からないし!」

「それはそれでどうなの」

「前に私のベース(ギター)見た山口先輩、『黒くて格好いいギターだね』って褒めてくれたのってそういうことだったんですか……」

「お兄さん……」

「えぇ……。なんで気付かなかったの太介くん」

「太介がそこで気付いていたら、もっと早く対処出来ていたのに」

「俺が悪いという方向で話纏めようとしてない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……山口先輩は、私が戻ってきたら嬉しいですか?」

 

 喜多郁代に結束バンドへの再加入を勧めていた山口太介。しかしアプローチが難航し、頼りの後藤ひとりも会話を任せて独りでゼェハァ深呼吸をして、それでも対話の末に背中の刃が今まさに抜かれようとしていた頃。

 喜多郁代が、山口太介(先輩)を試すように言葉を溢した。

 問いかけを受けた山口太介が。

 

「勿論。メッチャ嬉しいよ」

 

 笑って返す。

 底抜けに明るい表情を目の当たりにした喜多郁代は、内心驚きつつも続けて問いかける。

 

「山口先輩、歌がお上手なんですよね? もし私が結束バンドに戻ったら、私に歌を教えてくれますか?」

「あぁ。なんでも教える」

 

 断られない。

 予想と違う返答に、存外に気を良くしてしまった喜多郁代。なんで断らないの、と目の前の先輩に疑問を抱く。しかしどれだけ見つめてみてもボロも答えも出ないので、質問を続けることにした。

 

「私、ショッピングとか映えるスポットに行くの大好きなんです。私が結束バンドに戻ったら、私の買い物に付き合ってくれますか?」

「うん。俺で良ければ。重たい荷物は持てないかもだけど」

 

 断られない。

 いっそ怯えてしまうほどの包容力に、喜多郁代は先輩を見る目を細めた。

 荷物持ちをさせようとしているのに、嫌な顔一つしない先輩。何か裏があるのではないかと山口太介を顔を見つめ続けてみて──答えに辿り着いた。

 

「…………そっか、そうなんだ」

 

 先輩は打算も下心も何もなく、ただ喜多郁代()に戻ってきてほしいだけなんだ。

 ──眩しい。

 ──眩しくて、そして綺麗。

 ──そんな存在が、私を照らしている。

 喜多郁代が見開いた目。その中の瞳に、山口太介の微笑みが映る。移って、写って、網膜を焼き──脳のどこかの神経を焦がした。

 唇が震える。それでも、何とか平気なフリをして喜多郁代は山口太介に向かって問いかけた。

 

「と、友達が言うには、私って結構()()()タイプみたいなんですけどっ」

「そう? 喜多さん軽そうに見えるけど……あー、ごめん。勝手に人の見た目をどうこう言うべきじゃなかったよな」

「山口先輩が思ったことを教えてください。私、()()()ですか?」

「……いや、重たくない。むしろ、軽そうに見える」

 

 喜多郁代からの質問に、首の後ろに手を当て困ったように、照れ笑いながら答えた山口太介。

 喜多郁代は、伊地知虹夏が立っている方を一度盗み見てから。

 弾けるような笑顔を見せ、しかし細めた瞳から山口太介(先輩)の顔をしっかりと見つめるのだった。

 

「……ふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ(本編に入れようと思ったけど前後が繋がらなかったのでここで消化させてくださいのヤツ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、お疲れごとちゃん。ごとちゃんのお陰で喜多さんも無事に戻ってきてくれたよ」

 

 ありがとうね。

 バイトも(とお)に終了している時間帯だというのに、未だSTARRYに残って談笑を続けている結束バンドのメンバー達。

 そんな中、誰とも会話が続かずに独り居心地悪そうにしている後藤ひとりを見つけた山口太介が、隣に立って会話を切り出した。

 

「あっ、はい……。そうですね……」

 

 後藤ひとりが伏目がち──というか決して交わらないほど視線が下方に向けられているだけ──な瞳のまま返す。

 

「…………」

「…………」

「……ごとちゃん、なんか変だね」

「そっ、そんな真正面からディスられるとは……」

「あぁ、いやいや! そうじゃなくて。なんかよそよそしいというか、気まずそうというか」

「…………」

「なんかあったの? 俺で良ければ相談に乗るよ」

「…………」

「おーい、ごとちゃん?」

「……おっ、お兄さんの所為です」

「俺?」

 

 予想外の矛先に、山口太介の片眉が吊り上がる。その反応を怒りの前触れの解釈したのか、後藤ひとりは慌てて弁明した。

 

「ちっ、違います! 私別に怒っているわけじゃなくて! ……ただ、ちょっと寂しかったといいますか」

「寂しかった? それまた、なんで」

「…………」

 

 どう伝えたものか。

 後藤ひとりは必死に言葉を選ぶ。山口太介(お兄さん)を傷付けず、それでいて自分の主張をさりげなく伝える為に。

 

「怒らないから教えてよ。……あー、これだと逆に怒りそうに聞こえるか」

「…………」

「俺は、ごとちゃんが悲しそうにしてるのが嫌だ。だから、俺に解決出来るなら是非とも教えて欲しいんだ」

 

 山口太介が後藤ひとりをまっすぐに見つめる。視線は合わないながらも、ヒシヒシと感じる光属性の眼差し(ビーム)に後藤ひとりは「うぅ……」とスリップダメージを受けながらも、そこまで言うのならと渋々口を開いた。言葉は纏まっていないながらも、山口太介の温厚さを信じて話始めた。

 

「私、この前の初バイトの日、内心少し楽しみにしてたんです」

「ほう」

「でも結局何にも無くて、どこかガッカリしたまま家に帰って……遅れて風邪も引いて」

「なにがガッカリだったの?」

「…………」

「怒らないって」

「……だ、だってお兄さん、この前の電話で『私の初バイトの日名前で呼んでくれる』って言ってたのに、結局言ってくれませんでしたし……」

 

 心の準備してたのに……。

 言葉の末尾にそう付け加えた後藤ひとりの声色は、どこか年下としての幼さを思わせるウジウジとしたもので。

 山口太介は後輩のいじらしさにキュンとし、そのピンク頭を撫で回してやりたい衝動に駆られる。しかし同時に、よそよそしさの原因を知ってスッキリしたように笑った。

 それから、後頭部をかきながら返す。

 

「あー、そっか。星歌さんにメンチ切られててすっかり忘れてた」

「め、メンチ?」

「いやこっちの話。ごめんね()()()()()()

「ン"ン"ン────ッッッッ!?!?!?」

「えぇ!? なんか急にぼっちちゃんがドッスンみたいに地面に落ちたんだけど!! なんで!?」

「ピンクのドッスンって初めて見た。メスかな」

「言ってる場合か!」

 

 

 

 

 





喜多郁代、狡猾だし他人の物とか関係無く奪い取りそうだなというある種の安心感もある。

またね!
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