伊地知虹夏のbucket list   作:大塚ガキ男

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こんばんは!喜多ちゃんお誕生日おめでとうございました!




君に、胸キュン。

 

 

 

 

「ですから、私はこう思うんです。イソスタの親しい人リストって、そのリストに入っていない人達は逆に言ってしまえば親しくない人リストってことになっちゃうんじゃないかって」

「あー、分かる。だから俺も怖くて使ってないよその機能。あとリールもよく分かんないし、ハイライトもちゃんと意味分かってないまま『()()()みたいなもんか』くらいの気持ちで使っちゃう」

「なんの話をしてるんだろう……」

 

放課後。

目的地、STARRY。

その道半ば。

俺は道端で偶然会ったごとちゃんと喜多さんの二人と話しながら歩いていた。

ごとちゃんと喜多さんの背にはギターケース(即ちギター)が背負われていて。

喜多さんのギターケースを見て「そういえば山田に多弦ベースを買い取ってもらって、ついでにギターも借りてるんだよな」と流れるような思考で()()に対する説明を頭に浮かべたりなんかして。

 

「…………」

 

そろそろ梅雨の季節か、なんて最早涼しくもなんともないぬるい風に身体を撫でられながら溜め息を吐いたりしつつも、俺達はSTARRYに向かって歩き続けていた。

並びとしては車道側から俺、ごとちゃん、喜多ちゃんという順。

車どころか自転車もあまり通らない路地なので、横並びでの会話も許していただきたい。

車や自転車が来たらすぐに(はし)に寄るよ。

じゃないと(はじ)だからね。

…………。

 

「なにかな、ごとちゃん」

 

思考の波をぷかぷかと浮かんでいる間に、ピンクジャージの可愛い後輩からジッと見つめられていることに気がつく。もしかして俺の心の中のしょうもないダジャレを聞かれてしまっていたのかとにわかに焦る。

疑問のままに問うてみれば、ごとちゃんは「えっ」と一瞬言葉を詰まらせてから。

 

「おっお兄さん、なんで髪の毛ボサボサなんですか……?」

 

と四方八方に跳ねまくっている俺の頭髪のだらしなさを指摘され、手のひらで触れるたびにしなったり戻ったりする毛先に触れながら釈明。

 

「あぁ、これ。放課後に社会科の先生と資料室の片付けをしててさ。多分その所為だと思う」

 

手に取るだけで指が灰色に染まるほど埃を被っていた古い教科書の感触を思い出しながら、俺は笑って答えた。

 

「そ、そうなんですね……」

「『わざわざ放課後に先生のお手伝い?』みたいなガチ困惑の視線送らないでよごとちゃん。傷付いちゃうでしょ」

「へへへ……」

「否定して?」

「──山口先輩、イソスタのアカウント教えてください!繋がりましょうっ!」

「イソスタ?あぁ。勿論良いよ」

 

ごとちゃんから奇異の目で見られたことに内心ショックを──受ける間も無く、喜多さんが話を切り替える。ごとちゃんもこれ以上言いたいこともないのか、喜多さんに後を託すように半歩後ろに下がって息を潜めてしまった。

ごとちゃんが良いなら良いか、と自分を納得させて、喜多さんにイソスタのQRコードを見せる。

喜多さんは「フォローします!」との言葉の通りにすぐさま俺のアカウントをフォローし、イソスタからの通知を辿って俺も喜多さんのアカウントをフォローし返したのだった。

なんて眩しい投稿なんだ、喜多さん。

ハッシュタグの数が凄いぜ、喜多さん。

 

「キャー!後藤さん見て!青春よ青春!山口先輩にだけ見せるリョウ先輩と伊地知先輩の柔らかくて優しげな表情の数々!お出かけしている投稿から部屋でボードゲームをしてるプライベートな投稿まで!これをイソスタに難なく上げていることからも3人の仲の良さが窺える!」

「ぐわっ!青春!?目がッ!目がァッ!」

「き、喜多さん!?ごとちゃんには駄目だって!」

 

俺のアカウントの投稿を見た喜多さんが、過去に俺が上げた投稿をごとちゃんに(片手で肩をぐわんぐわんと揺さぶりながら見せる。良かれと思って行ったその行動も、しかしごとちゃんは青春コンプレックスを患っているのですぐさま目を背けて──それだけでは飽き足らず、両目を押さえて身悶えをしていた。

 

「ご、ごめんなさい!私まだ()()が苦手な人がいる日常に慣れてなくて!」

 

地面をのたうち回るごとちゃんに、喜多さんと二人して駆け寄る。数秒の介抱の(のち)に落ち着きを取り戻したごとちゃんは「ご、ご迷惑をおかけしました……」とヨロヨロ立ち上がった。

大丈夫なのだろうかとふと覗き込んだごとちゃんの瞳には『孤独』『(ひとり)』と文字が刻まれていた。

 

「後藤さん、ごめんね?」

 

立ち上がったごとちゃんの顔を覗き込むように、喜多さんが眉尻を下げて謝罪。その時にはもうごとちゃんの瞳から文字は消えていたので、結束バンドの中では一番鬼滅の刃を知ってそう──でお馴染みの喜多さんが『上弦の鬼?』とツッコミを入れることもなかった。

謝罪を受けたごとちゃんは慌てた様子で鼻の下を伸ばしている。

 

「き、喜多しゃん……。か、かかかか顔が、顔が近いです……」

「そうだぜ喜多さん。ごとちゃんのパーソナルスペースって人一倍ビッグで有名なんだから、あまり近いとごとちゃんが破裂しちゃうよ」

「お、お兄さんも近い……」

 

ここは天国……?

俺と喜多さんの顔を左右交互に見ながら鼻の下を伸ばし続けるごとちゃんがそんなセリフを呟いたところで、俺と喜多さんはようやく距離を取るという選択肢を取れたのだった。

 

「──それから私、言いたいことがあったんです」

 

地面を転がったことによってごとちゃんのピンクジャージに付着した汚れを、俺と喜多さんの二人がかりで払ってから。

ようやく3人が再び歩き始めてから。

喜多さんが話を切り替える為に普段よりも多少声を張ってハキハキと切り出した。

 

「言いたいこと?」

「あっ、もしかして私のギターの教え方がゴミだからコーチを変えて欲しいとかそういうアレですかね……。へへへ、すみませんこんな陰キャが一丁前にギターを教えるとか大任を請け負ってしまって……」

「そ、そんなわけないでしょ!?予想で傷付いて道端で溶けないで!」

「これからは下水道にて人目を憚りひっそりと生きていきます……」

「側溝に流れていかないで!」

 

デロンデロンと高めの粘度で溶け出したごとちゃんを俺と喜多さんの二人がかりで以下略。

また3人で歩き始めてから、喜多さんは。

 

「なんで私だけ『喜多さん』呼びなんですか?」

「え、ごめん郁代ちゃん」

「…………」

 

その問いかけに含有された()()のような感情を察した俺は、慌てて呼び名を切り替える。

しかし郁代ちゃんは予想に反して喜ばず──そしてごとちゃんのように形態変化もせず──ただただ白け〜〜た表情と冷めた瞳で俺を見ていた。

 

「ヤバ!選択肢ミスった!」

「……山口先輩」

「はい!」

「……私、名前で呼ばれるの嫌なんです」

「そ、そうなんだ!ごめんごめん!」

 

素敵な名前なのにね!とフォローを入れるのを思わず躊躇ってしまったほど、郁代ちゃん──喜多さんの眼が怖かった。さっきまで山田のオフショットに真夏の太陽のごとく明るく元気に喜んでたのに、今や身体から冷気すら発しているほどの凍てつき具合。

 

「じゃあ、私が()()()()()に呼ばれたいか分かりますよね?」

「き、喜多さん?」

「違います」

「マジかよ引っ掛け!?やっぱ郁代ちゃんって呼ばれたいんじゃん──痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 

答えの見えぬ要求に頭を悩ませているうちに、また誤答。喜多さんは温度の低い満面の笑みのまま、ノールックで俺の足の甲を踏んだ。

いや、踏んで()()

しかも踵で。

グリグリと。

 

「喜多!?」

 

グリグリ。

 

「郁代!?」

 

……ッ、グリグリ。

 

「喜多郁代!?」

 

グリグリ。

可能性のある呼び名を片っ端から試していく。

呼び名によって足の甲に感じる痛みの強弱こそ違えど、足を踏まれているという事実は止めどなく続いていた。

 

「喜多()()()!喜多()()()ならどうだ!!」

 

目を瞑り、僅かな望みに賭けてごと()()()と同じように接尾辞をつけて呼んでみる。

これで駄目ならそろそろ俺の足の甲の骨がポッキリと逝ってしまいそうなくらいだったが、果たして喜多さんは──いや、喜多()()()は、ニッコリと心からの笑顔を咲かせ、右手を挙げてこう言った。

 

「はいっ!喜多です!」

 

眩しっ。

片腕を顔の前に翳し、喜多ちゃんの笑顔から目を護る。

喜多ちゃんは気にした様子も無く、光を放ったまま俺の方へと近寄ってきた。

 

「山口先輩!これからはキチンと()()()付けしてくれないと、私怒っちゃいますからね?」

 

腰に両手を当て、俺に顔を近付けながらそう言った喜多ちゃん。顔の近さは眩しさと比例するのか、と腕越しに目を細める。あっ、俺の腕勝手に降ろさないで。え?ガード禁止なの?そうなんだ。

 

閑話休題(キターン!)

 

「……それで、カット変わったら(ちょっと目を離した隙に)どうしてごとちゃんがツチノコになっちゃってるわけ?」

「私に聞かないでください!……後藤さん?大丈夫?」

「ミィ……ミィ……」

「良かった、大丈夫そうだね」

「ツチノコになってるのに!?」

 

喜多ちゃんの眩しさ極まりないスマイルもやがては終わり、早いところSTARRYに行こうかと各々話し合っていた頃。

ふとごとちゃんの方へと振り返れば、俺と喜多さんは視線を遥か下──地面まで下ろさざるを得なくなっていた。

ピンク色のツチノコ。

いや、そもそもツチノコの通常カラーも知らないけれど。というかツチノコをこの目で見たこともないけれど。

それでも、俺と喜多ちゃんの前にはツチノコがいた。ノソノソと、蛇行(まさしく)しながら地面を這っている。しかし行く当てはないのか、表情にはそこはかとない哀愁のようなものが窺えた。

極力ツチノコごとちゃんに視線を合わせる為、二人しゃがんで話し合う。

 

「……なんだか、悲しそうな表情してますね」

「あぁ。これがごとちゃんの凄いところなんだ。ごとちゃんを見てると否応無く庇護欲が湧いてくるだろ?」

「それは山口先輩も同じだと思いますけど」

「え?」

「──さて、どうしましょう?ここまで形を変えられると、私達に出来ることも無いような……」

「うん?あ、あぁ。そうだね。この場で出来ることも無いし、時間経過で戻ることを期待するしか無いかも。STARRYまでツチノコごとちゃんを連れて行ってみて、それまでに治らなかったら虹夏と山田にも相談しようか」

「そうですね。後藤さん?触るわよ」

 

こんなところ人に見られたら、という思いが俺と同じように喜多ちゃんの心の内にもあったのだろう。話し合いも早々に終え、喜多ちゃんがツチノコごとちゃんに向かって両手を伸ばした。

ツチノコの大きさの相場なんて知らないが、ツチノコ状態のごとちゃんは両腕で抱えるくらいの大きさだ。ペットみたいにリードを付けて連れて歩くわけにもいかないし、抱っこで運ぼうとした喜多ちゃんの判断は賢明だ。

 

「ミ、ミィ……!」

 

しかしツチノコごとちゃんは──えぇい長ったらしい──ノコちゃんはそれを拒絶した。ギュッと閉じた両目からボロボロと涙を流し、何度も首を横に振っている。誰がどう見ても()()と分かるリアクションだった。

 

「そ、そんな……」

 

喜多ちゃんもまさか泣いて拒絶されるとは思っていなかったのか、軽くショックを受けていた。

それでも放っておくわけにはいかず、めげずに話しかけた。

 

「で、でもね?後藤さん。その身体のまま一人でSTARRYまで歩くのは大変なんじゃ」

「ミィ……!ミィ……!」

「そうか、分かったぞ!」

「な、なにが分かったんですか?山口先輩」

「ごとちゃんが喜多ちゃんを拒む理由──それは喜多ちゃんが陽キャ過ぎるからだ!」

「そんな!?私はただ普通にしてるだけなのに!」

「勿論、喜多ちゃんは悪くないよ。ごとちゃんだって、常日頃から喜多ちゃんを苦手に思っているとかそういうわけじゃないはず」

「な、なら!」

「でも、今のごとちゃんはツチノコくらいにまで身体が縮んでしまっている」

「……つまり?」

「つまり、その身に受ける陽キャオーラのダメージも割合的に大きくなってしまうんだ!」

「私って陽キャオーラ放ってたの!?」

「喜多ちゃんが陽キャで、ごとちゃんが陰キャだったが故の悲しいすれ違いさ。誰も悪くないんだ……」

 

ね、ごとちゃん。

慰めるようにノコちゃんの背中を撫でると、俺の代弁を感謝するように卑屈に頷いていた。

意外とサラサラしていた。

 

「……後藤さん、山口先輩に触られても嫌がらないのね」

 

ツチノコから想像する手触りよりも幾分か柔らかく心地良い触り心地に撫でる手を止められないでいると、その様子を見た喜多ちゃんが唇を尖らせてボヤいていた。

フォローを入れる。

 

「まぁ、俺は喜多ちゃんほど陽キャ(社交的)じゃないからね」

「それだけじゃ納得出来ません!後藤さん、私も触って良いでしょ?」

「ミ゛ッ!?ミィ……!ミィ……!」

「嫌がってる」

「どうしてっ……!」

 

喜多ちゃんが手を伸ばすと、喜多ちゃんが触れようとした部位だけ凹ませて避けるノコちゃん。何度も手を伸ばし、その度に避けられ続けた喜多ちゃんは、遂には頭を抱えてしまった。

 

「まぁ、ごとちゃんが人間に戻った時に聞いてみるしかないんじゃないか。──そら、ごとちゃん。持ち上げるよ」

「ミィ」

「ちゃっかり抱っこにも成功してる!もうっ!」

 

胴体を両手で掴み、ゆっくりと持ち上げる。その際猫みたいに胴体だけドゥルンと伸びたが、持ち上げ続ければ胴体以外も付いてきてくれた。

胸の前に抱える。

抱え易いベストな位置を探る為何度かノコちゃんを軽く浮かせて微調整。浮かせる度にノコちゃんが「ミッミッミッ」と声を漏らしていたのが堪らなく愛らしかった。

そういえば。

ごとちゃんが人間体だった時に背負っていたギターケースはどこに消えたのだろうか。

辺りを見渡してみるが、あんなに大きなギターケースなのにどこにも見当たらなかった。

 

「ミィ」

「へぇ、身体の中にあるんだ」

「会話も出来るようになってる……」

 

ノコちゃんが言うなら、と喜多ちゃんと並んで歩き始める。胸の中のノコちゃんは静かに口を閉じているが、それはなにもツチノコ状態に限った話ではなかった。

 

「後藤さんが山口先輩にだけ接触を許す理由……。うーん」

 

しかし、隣の喜多ちゃん。先程までのマシンガントークはどこへやら、自分だけがノコちゃんに触れられない理由を黙々と探っている。

俺は慰めとはぐらかしの両方の意味を込めて声をかけた。

 

「喜多ちゃん、今悩んでも仕方ないんじゃないか?」

「でも気になるものは気になるんです!私、後藤さんと友達になれたと思ったのに!」

「……ごとちゃん、喜多ちゃんのこと嫌いってわけじゃないんでしょ?」

「ミィ」

「ちょっとくらい触らせてあげても良いんじゃないか?」

「ミ、ミィ……」

 

駄目らしい。

歩き続ける。

あと交差点を数度右左折すればSTARRYに辿り着くといった具合の現在位置。歩みを進めた分だけSTARRYが近付き、STARRYが近付くにつれて『ごとちゃんが戻らなかったらどうしよう』という不安が頭の中でドンドンと大きくなっていく。

 

「あー、分かりました!」

 

ギターボーカルに相応しい、ハリのある声量。腕の中のごとちゃんと同時に驚き、いきなりどうしたんだとノコちゃんと同時に喜多ちゃんを見る。

俺達の視線をリアクションと認識した喜多ちゃんが、清涼感に満ちた笑顔をこちらに放ってきた。両手はノコちゃんで塞がっているので、二人してその眩さを直で喰らう。

 

「後藤さんが山口先輩にだけ接触を許す理由、分かっちゃったんです!」

「あ、あぁ。まだ考えてたんだソレ」

「ミィ……」

 

このままでは日の元に出た吸血鬼の如く身体が火に包まれかねない。せめてもの軽減方法として身体を半身にしてみるが、喜多ちゃんが器用に回り込んできてしまったので俺の企みは無駄に終わった。

その無駄の無い足運びはバスケの助っ人とかで培われたのかな。

偉いね喜多ちゃん。俺尊敬しちゃうよ。

 

「話の続きですけど」

「そうだったね」

「今日、どうして学校が違う私達とSTARRYに行く時間が被ったのか、その理由って覚えてます?」

「覚えてるに決まってるでしょ喜多ちゃん。先生と一緒に資料室の片付けをしてたらから……だよね?」

「自分の事で不安にならないでください」

「ミィ……」

 

ノコちゃんのことで頭がいっぱいになっていた所為だろうか。ほんの数時間前の記憶に自信が持てなくなってしまう。

しかし腕の中のノコちゃんが肩をよじ登ってあちらこちらへと跳ねた俺の髪の毛を()み始めたので、そこでようやく自信を取り戻した。

ありがとうノコちゃん。俺の髪で良かったら存分にお食べと頭を撫でておいた。

 

「山口先輩が資料室の片付けをしていた──それが今回の悲しい事件のミソだったんです」

「悲しい事件」

「後藤さんに触らせてもらえなかったのが悲しかったので」

「あー……」

「兎に角!ここまで来たら分かりますよね?」

「ごめん。なにも分からない。喜多ちゃんが名探偵みたいで可愛いなくらいしか考えられな──うわっ!眩しっ!なんで輝き増してるんだよ喜多ちゃん!」

 

閑話休題(キターン!!)

 

「『手に取るだけで指が灰色に染まるほど埃を被っていた古い教科書の感触を思い出しながら』──山口先輩、こう言ってましたよね」

「そこ地の文だから、正確には言ってないんだけど……まぁこの際なんでも良いよ」

「そこまでの()()が置いてある資料室、もしかしてカビ臭かったんじゃないですか……?」

「そりゃあ勿論、俺も先生もマスクを外せないくらいの──まさかッ!?」

「はい!そのまさかです!」

「ミィ?」

「山口先輩は資料室の掃除をしたことによってカビの臭いが身体に移っていて、ツチノコになった後藤さんはその臭いに()()()を憶えたから懐いた──これが事件の真相だったんです!」

「そうか!ごとちゃんは家にいる時間の半分くらいを押し入れで過ごすほどの押し入れ大好きっ子!カビの臭いには慣れ親しんでいるってわけだ!」

「はい!」

「凄いよ喜多ちゃん!事件解決だ!」

「はい!」

「じゃあ事件も無事解決できたし、早くSTARRY行っちゃおうか!虹夏と山田に喜多ちゃんの名推理を存分に伝えるとしよう!」

「いえ!」

「え?」

 

変なスイッチが入っていた喜多ちゃん。

しかし事件も解決し、当の本人も満足そうにしていたのでそれとなくSTARRYへと誘導しようとしたのだが、喜多ちゃんは元気に否定。

肩透かしを喰らった俺は、間の抜けた顔で喜多ちゃんを見つめてしまう。

喜多ちゃんはニッコリと笑って、対面から俺の隣へと移動してきた。意図が読めないその行動に、腕の中へと戻ってきたノコちゃんと二人して首を傾げた。

 

「き、喜多ちゃん……?」

「ミィ……?」

「──なので、こうやって山口先輩の側にいれば私にもカビの臭いが移って、後藤さんに触らせてもらえるようになると思うんです」

「多分違うんじゃないかな──ちょっ、ちょっと!距離近くない!?」

「近くないですー」

「近いって!なんで俺の肩に頭くっ付けてんの!」

「動かないでください。近ければ近いほど臭いって移るんですよ。……山口先輩お腹薄過ぎないですか?ちゃんとご飯食べてます?」

「食べてる!食べてるから!密着したままお腹さすらないで!」

「あれ〜?もしかして山口先輩緊張してるんですか?」

「そりゃそうでしょ!喜多ちゃんちょっと距離感ヤバいよ!いつもそんなんしてんの!?クラスの男子勘違いしちゃうって!!この小悪魔ちゃんめ!」

「……山口先輩も勘違いするんですか?」

「するよ!今も背中に変な汗かいちゃってるし!」

「ふーん……」

 

陽。

陽。

陽。

下北沢高校にはあまりいないレベルの陽のオーラに当てられて、ヘスティアの縄に触れたわけでもないのに心の声をペラペラと自己開示してしまう。

腕の中のノコちゃんもあまりの恐ろしさに目を閉じて震え、明滅してしまっている。

一歩下がる。

一歩詰められる。

一歩下がる。

一歩詰められる。

一向に空かない俺と喜多ちゃんの距離は、俺の背が塀に触れるまで続き、ニヤニヤと笑う喜多ちゃんに下から見つめられながら、俺はなんとか空へと視線を逃している状態。

喜多ちゃんが笑顔を絶やさずに話しかけてくる。

 

「やーまぐち先輩っ、顔見せてください」

(いーや)ですっ」

「見せてくれないと、カビ成分を摂取する為に抱き付いちゃいますよ?」

「…………」

「山口先輩?」

「き」

「き?」

「喜多ちゃんのエッチ」

「…………」

「あ、嘘嘘!嘘で〜す!ドッキリでしたぁ!ごめんって!俺の背中に腕回さないで無言で頭頂部押し付けてこないで!髪型崩れちゃうよ!?セットとか大変じゃないの!?良いの!?」

「ミッ」

「あぁ!このムードに耐え切れずにごとちゃんが破裂した!」

 

 

 

 

 

 

 





山口太介:年下に弱い。

喜多郁代:口実を作るのが上手い。

後藤ひとり:喜多さん、人の足とか踏むんだなとか思った辺りで記憶が無い。気付いたらSTARRYに着いてた。

ツチノコ:落ち着く匂いがしてのんびりしてたらその匂いの主が〝青春〟始めたからつい爆ぜてしまったノコねぇ……。



本当は喜多ちゃんの誕生日とかに投稿出来たら良かったんですけどね。そう上手くはいきませんよね、何事も。
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