こんばんは。お久しぶりです。
なんかのコラボで見たきくりさんが爆裂可愛かったので、番外編です。
とある日の夜、駅前にて。
「ヤダ! 太介君が来てくれないならここから動かない!」
「……ってことなんだ。山口、ちょっと電話で話してもらっても良いか?」
廣井きくりは駄々をこね、岩下志麻は電話越しに頭を下げていた。
◇
遡ること、同日夕方。
新宿FOLT周年イベントと銘打たれた、豪華なミニライブ。新宿FOLTを拠点に置く様々なバンド、アーティストが一同に介し、なんならゲストも呼んじゃおうや、と。
関係性や因縁による
単純に言えば、そんなイベントがあった。
当然SICKHACKも参加し、普段通りに大暴れして──普段と異なる客層もいた為に普通にドン引きされたりもしながら──それでも、今回で得た新規ファンも普段から足繁くライブに通っている古参ファンまで、皆が拳を突き上げ、声を枯らして──イベントは熱狂の渦の中幕を閉じた。
撤収作業を任せたイベントスタッフ等と「必ず
ぶっちゃけ
──といったところで突然、廣井きくりが泣き出した。
「えぇ〜! なんで太介くんいないの!」
背負ったベース、既に赤らんだ頬、潤んだ瞳。
廣井きくりと関わりの少ない者は特に気にせず店内に入り──廣井きくりをよく知る者達は背筋が凍った。
「……マジかよ、今日太介いないのか」
と。
「……確かに、おかしいと思ったんだよな。イベントスタッフの中にもいなかったし」
と。
「てっきり
と。
「……太介君いなくて大丈夫か? 誰が
と。
「いや、そこは志麻様もイライザもいるし……」
と。
「無理だろ。居酒屋ブースト入った酒カスのダル絡みを真っ向から受け止められるのは太介だけだぞ。あぁ……、おしまいだ。
と。
最早嘆き始めた廣井きくりよりも深刻な表情で各々絶望する新宿FOLT拠点の古株達。
ある者は新宿FOLTの店長である
ある者はコンビニに駆け込んで胃薬を買い漁り。
また、ある者は数時間後には来るであろう地獄を受け入れて静かに胸の前で十字を切って。
と。
阿鼻叫喚。
酒も入っていないのに。
…………。
一方、SICKHACKのバンドメンバー。
えぐえぐと泣き出したまま一歩も動かなくなってしまった廣井きくり。
混乱を大きくしないよう、店内に入って他の参加者に「いつものことだヨ〜」とさり気なく説明を済ませる清水イライザ。
スマホのロインの連絡先一覧を下方の
以下、泣き言。
「おかしいと思ったんだよぉ周年イベなのに太介くんの姿見えなかったし!」
「山口、今テスト期間なんだってさ。イベント来れないのは前から聞いてたでしょ」
「覚えてないよそんなの! 嫌だ! 太介くんと一緒に呑みたい! 太介くんに隣座ってほしい! 太介くんが頼んだコーラをチェイサー代わりにして関節キスしたい! どさくさに紛れてほっぺにチューしたい! 太介くんに介抱されたい! 家までおんぶして送ってほしいぃ!」
「うわぁ……」
「廣井さん……」
「姐さん……」
今日のイベントの中核を担うビッグネームの一人が新宿の路上で魅せる、痴態、醜態。
事の成り行きを見守る古株も、廣井きくりを慕う後輩達も、皆一様に一歩下がった。
「んなこと言ってもしょうがないだろ。我慢しろ」
「ヤダ! 太介君が来てくれないならここから動かない!」
「…………」
溜め息。
溜め息。
それから頭痛。
岩下志麻は知っていた。
こうなってしまった以上、うちのリーダーは
「……ってことなんだ。山口、ちょっと電話で話してもらっても良いか?」
仕方なく、電話。
スリーコール経たない内に即電話に出た
「なにぃ……? この板……」
「スマホの存在忘れんな。ほら、耳に当ててみろ」
「うぅ……、太介くん……。どこ……」
『もしもーし、太介くんですよ』
「た、太介くん!?」
「あ、立ち上がった」
「三つ編み弄り始めた」
飛び上がって喜び、スマホを大事そうに耳元に当て、三つ編みの先を弄りながら会話に花を咲かせる廣井きくり25歳。
そのいじらしさに古株や後輩達は各々呟きをその場の実況とし、頭の中で山口太介に敬礼をするのだった。
「ど、どどどどうしたの太介くん!?」
『どうしたのって、志麻さんから電話来たんですよ。きくりさんが
「か、かけてないよぉ! ほら、今日はベースも忘れてきてないし! 下駄だって左右両方履けてるし!」
「当たり前だろ」
「志麻ぁっ! ツッコミ入れないで!」
『え、きくりさん今日ベースも忘れてないし下駄も履けてるんですか!? 凄い! 偉い!』
「デヘヘヘヘヘ〜! でしょぉ? 私凄いよね〜!」
クネクネと身体全体で照れながら談笑に興じる廣井きくり。その様子を店の前から見ていた古株、そして後輩達は。
「太介、ありがとう」
と口々に呟くのだった。
◇
時は流れ、飲み会の真っ只中。
最初の乾杯も終え、バンドの垣根を超えた交流もある程度落ち着きを見せた頃。
しかし飲み会。
その全てを比類無き大勝で納め、やっとの思いで自分が元居た席(飲み会が始まってから皆それぞれ好きな場所へとジョッキ片手に移動しているので、正確には元居た場所から一席分ズレてはいるが)へと戻ってきた廣井きくり。
「落ち着いたか」
しっぽりと優雅に酒を進める岩下志麻から視線を向けられないまま話しかけられ、廣井きくりも日本酒の入った
「うん! 志麻、ありがとうねぇ〜」
少し離れた場所で初対面のバンドメンバーとアニメの話で盛り上がるイライザの笑顔を眺めながら、廣井きくりはしみじみと呟いた。
「太介くんが来てくれないのは残念だけどさ、やっぱり私も少しは大人にならないといけないよね」
「廣井、お前マジで山口に引っ付き過ぎだぞ。相手が高校生だってこと忘れるなよ」
「分かってるって! もう! …………ただ、今のうちにツバ付けておかないとなとか思ってるだけで」
「
「な、なんでもないなんでもない! ほら、なんか頼もっか! あ、
「……はぁ」
話を逸らす為に、元気いっぱいな声で店員に呼びかけた廣井きくり。
岩下志麻は先の未来に残る不安に溜め息を吐きながら、いつものように片手で額を押さえた。
そんな二人の注文を承った店員が去っていった廊下の向こうから。
「すみませーん、勉強してて遅れました」
「え!?!?!?!?!? 太介くん!?!?!?!?!?!?!?!?」
山口太介が現れた。
◇
「もう! 黙って来るなんて酷いよ太介くん! びっくりしたじゃん!」
「お疲れ様です──あ、ヨヨちゃん久しぶり──初めまして、山口太介です。はい、高校生です──そうなんですよ、ひと段落ついたんで」
「話聞いてっ!!」
場に現れるなり場が沸き、廣井きくりと岩下志麻の元に辿り着くまでに様々な人間に挨拶をしていく山口太介。立ち止まって世間話を始めようとした彼の姿を見て、辛抱堪らなくなった廣井きくりが吠えた。
閑話休題。
たまたま空いていた廣井きくりの左隣の座布団──正確には
「太介く〜ん! なんで来たの〜! おりゃ〜〜」
「廣井、山口が可哀想だろ」
「大丈夫ですよ、志麻さん」
「……あまり甘やかすなよ」
「了解です」
「太介く〜ん! 甘やかしてぇ〜!」
「はいはい、お疲れ様ですきくりさん。お酒
ここに来るまでに頼んでおいたのか、ビールジョッキに入れられたコーラとフライドポテトを店員が運んでくる。
山口太介は目の前に置かれた好物を視界に入れて「ありがとうございます」と礼を良いながら、まず廣井きくりの空いたお猪口に酒を
「やっぱ太介くんに
「あざっす」
「この際だから太介くんも飲むぅ? 美味しいよ〜?」
「……きくりさん。俺ってば大人っぽいところありますけど、実は高校生なんですよ」
「ハハハッ! 大人っぽいところ? 太介くんには無いよそんなところ! 格好良くて可愛い華の
「へ、凹む……」
冗談混じりではあったが、自認
落ち込む山口太介の心の機微には気付かず、廣井きくりが山口太介にしなだれかかって肩を組む。手に持っていたお猪口はいつの間にかテーブルに放られていて、左手を肩に回して右手の指で山口太介の頬を突く。そんな体勢。
「太介くぅん。次コーラ頼む時瓶で貰いなよ。そしたら私が注いであげるからさぁ」
「いやいや、大先輩にそんな。恐れ多いですって」
「なに言ってんだぁ! 私と太介くんの仲だろ〜が! ほら、ポテトあ〜ん」
「自分で食べれますよ」
「あ〜ん」
「き、きくりさん?」
「
「……あ〜ん」
「キャー! 良い子良い子! 可愛いねぇ太介くん。よしよし」
「…………」
肩に回されていた左手とフライドポテトを摘んで右手で顔をもみくちゃに撫で回される山口太介。大型犬のような扱い(+油分が付着した右手)に複雑な気持ちなのか、ただ黙って廣井きくりの行動を受け入れていた。
「山口。
「え? わ、分かりました。備えておきます」
見かねた岩下志麻が山口太介に助け舟を出す。
「
「え、なんですか急に」
「なんでもないよ〜」
しかし山口太介は一連の行動を特に問題視していないのか、『酒瓶でぶん殴られたりしたら考えるか』程度の心持ちでしかない。
──もう十分通報出来るレベルなんだけどな。
とは、山口太介の身と将来を心の底から案ずる岩下志麻の心の声。
──Oh……。まな板のコイ……。
とは、アニメトークの
──太介くん、つくづくヤバいのに目ぇ付けられてるよな……。
とは、山口太介と親交があるものの廣井きくりには逆らえないので見て見ぬふりを決め込む新宿FOLTの古株の心の声。
広い広いお座敷に、各々の思考が錯綜する。
しかし一つ言えるのは、山口太介という生贄を捧げることにより飲み会自体はつつがなく──とても楽しく進行しているということ。
◇
午後9時半。
そろそろ二次会に移ろうかという話もチラホラと出始め、古株や1時間程前に合流を果たした吉田銀次郎等を筆頭に参加者を募ったり、おおよその参加人数からスマホで近くの居酒屋に電話で受け入れ可能かのアポを取ったりと、ざわざわと動き始めた頃。
そんなことはお構い無しの廣井きくりが、山口太介の肩に乗せた頭の位置を少しズラしてから口を開いた。
「ねぇ太介くん」
「どうしたんですか、きくりさん」
「なんで、来てくれたの……?」
なんで、とは。
そう言いたげな山口太介の表情を見て、廣井きくりは「だって」と言葉を続けた。
「太介くん、テスト期間中だったんでしょ?」
「息抜きっすよ。ちゃんとお勉強もしてます」
「私が言うのもアレだけど、太介くんおバカだから時間大丈夫なのかなって」
「悪口過ぎる……」
項垂れたことにより廣井きくりとの顔を距離が少し近くなり、廣井きくりが人知れずアルコール以外の要因によって顔を赤くしながらも。
話は続く。
「……俺馬鹿ですけど、真面目に勉強に取り組めるタイプの馬鹿なので」
というか、今日休日ですよ。
こんな夜遅くまで勉強してたら脳みそ
山口太介が笑いながら
「あと、きくりさん来て欲しそうでしたし」
「本当に来るとは思わなかったよぉ」
「実は、電話越しにあえて行けなさそうな雰囲気出してたんですよね。その方がいざ来た時笑えるじゃないですか」
「もうっ! 大人からかうの禁止!」
「ははは、すみません」
笑い合う。
廣井きくりは山口太介の肩に置いていた頭を前にズラし、
「うわ、なんですか急に」
「えへへ〜、枕ぁ〜」
「別に良いですけど、ゲロだけは吐かないでくださいね」
「吐かないっ! ……デヘヘヘヘヘ」
「大人とは思えない笑い方……」
◇
「ねぇ、太介くん。
「もし太介くんが私の所為でテストダメダメで留年とかしちゃったらさ。
「その時は私が面倒見てあげるからね。
「うん。絶対。
「私、頼れる大先輩だからさ。
「なんでもしてあげるから。
「だからまた、こうして
気付けば前回の投稿から1年以上経ってしまっていたみたいです。
待ってていただいてありがとうございました。
バッドエンドではないので、サブタイトルの記号は無しです。
廣井きくり、可愛いっすよね。
そんじゃあね。