こんばんは。大塚ガキ男です。ランキングに乗ったりして大喜びしたりしています。ありがとうございます。
「すみません、約束があるので……」
「えーいいじゃん。俺たちと遊ぼうぜ」
「だから、あの……」
「うわぁー」
見るからにナンパだ。
仮にフラッシュ暗算の途中にこの場面の写真が一瞬組み込まれていたとしても、俺は回答時に迷わずナンパと答えるだろう。
フラッシュ暗算大失敗。
さて置き。
街中──更に言うならば、下北沢のど真ん中。駅から歩いて1分と経たない辺り。道幅の狭い路地にて。学校終わりにSTARRYに向かっている途中、俺は白昼堂々のナンパを目撃していた。
制服を着た赤い髪の女の子。その背にはギターケースを背負っている。
この前きくりさんからベースのアレソレを教わった俺だから分かる。あれはギターケースだ。
ベースケースがあるのか知らないけど。
というか分ける意味あるのか? 一緒だろ多分。
話を戻す。
ギターケースを背負った女の子の行く手を塞ぐように立つ、制服を着た3人の男子達。茶色に染められた髪と、少し日焼けした肌。それから手首に結ばれたミサンガ。その立ち振る舞いや喋り方からは堂々とした自信のようなものが感じられる。
まさにナンパ。
凄いや、ナンパされたことないから知らなかったけど、ナンパって本当にあるんだね。
女の子と男子達は制服のデザインが似てるので、もしかしたら同じ高校の生徒だったりするのだろうか。
それにしても、なんでこんなところでナンパしているんだろう。高校同じなら(仮定)高校で話しかければ良いのに。
考えても仕方がないか。
「…………」
話している感じを見るにどう見ても友達同士の遣り取りではないし、どう見ても彼女は困っているし嫌がっている。
助けなければ。
「…………」
ここで問題点が一つ。
知らない男子高校生(しかもチャラめ)と話すのはメッチャ怖いってこと。
そもそも俺は複数人の男子に喧嘩を売れるほど──まあ売るつもりはないけど話しかける以上どうしても険悪な空気にはなる──強くはない。
まるでタイマンならなんとかなりそうな口振りだがそういうわけでもない。
それに、あの男子達の目を盗んで、女の子の手を引いて窮地を脱することが出来るほど走りに自信があるわけでもない。
腕力無し、脚力無し、体力無しの三拍子揃っての俺というわけだ。
なんて悲しい自己紹介だ。
あとで星歌さんにダル絡みしよ。
「…………」
しかし。
だからと言って。
俺にこの場を見て見ぬフリをするという選択肢は無い。
素知らぬ顔で横を通り過ぎ、本当にすぐ近くというところにあるSTARRYへの階段を降りるという選択肢は、どこにも存在しないのだ。
「よし」
今日の昼は、珍しく学食ではなく虹夏の手作り弁当だった。
学食という、その道何年何十年というキャリアを持つ食堂のおばちゃん達に勝るとも劣らない腕を持つ虹夏の美味しいお弁当を食べたことによって、平常時よりも活性化されている(ような気がする)俺の脳みそ。
普段はあまり役に立っていない気もする俺の脳みそが、この場における最適解を導き出す。誰も血を流さず、禍根も残らず、無傷で女の子を助けられるような夢のプランを提案してくる。
決心。
ならば、善は急げだ。
「や、やめてください! だから行かないって言ってるじゃないですか!」
「はー? なに、抵抗しちゃう感じ? ならこっちも」
頑なに良い返事をしない女の子に苛立ったのか、複数人の中の一人の男子が嫌がる女の子の手首を掴みそうになる。これはマズいと、急いで道の真ん中に躍り出る。女の子と、男子達──それからそこらの通行人数名からの注目を集めるように大きな声をあげながら、派手に転んでみせた。
「──うわあああっ!!!!」
「「は?」」
手首を掴もうとした男子も、掴まれそうになった女の子も、俺を見て二人して同じ言葉を発する。
あとの男子二人も大概似たようなリアクションだ。
〝なんで? 〟
心からの疑問の言葉を一文字という小さな枠組みの中に強引に押し込め、男子達と女の子はその場に硬直したままそう言った。
俺は突き刺さる視線を他所に片膝を両手で押さえ、悪質なファールを食らったサッカー選手のように地面を転がる。
車通りの少ない路地で良かった。
「痛────い! 膝擦りむいちゃったぁ! 痛い痛い痛──────い!」
「な、なんだコイツ……、お前等知り合い?」
「いや知らん」
「誰コイツ」
「君のツレ?」
「ち、違います」
「あ────ん! 血ぃ出てるかも────! ママ────! 助けて虹夏ママ──────! 痛いの痛いのとんでけして──────!」
「…………なんだコイツキモ過ぎるだろ。い、行こうぜお前等」
「お、おう」
「ヤベェ奴見ちまったな」
侮蔑というよりかは、憐憫。それから少しばかりの畏れの感情。男子達はそんな感じの目線で俺を見たあと、こんなのと関わり合いになるのはマズいと足早に去っていった。腹式呼吸を意識し、その背中に追撃。
「うわ──────んッッッッ!」
完全勝利。
女の子を助け、それでいて止めに入った俺自身も怪我を負わない完璧な作戦。唯一想定外なことを挙げるとするならば、この場に残された俺の心だけはキチンと傷付いているということ。
少しでも正気に戻れば、今度こそ本当に泣いてしまいかねない。地面に仰向けで寝転がったまますぐには起き上がらず、落ち着いて空を眺めることにした。青く、どこまでも澄んでいる下北の空を。
達観。
もしくは諦念。
呼吸を数度行えば、大声を出したことによって出たアドレナリンもどこかへ言ってしまい、頭の中に平静が訪れる。落ち着いて思考が出来るようになる。
「…………」
死にてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜。
これだったら無理にでも突っかかって袋叩きにされた方が100倍マシじゃ〜〜〜〜〜〜ん。な〜〜〜んでそれなりに衆目のある下北沢の街中で幼児プレイしなくちゃいけねぇんだよもうSTARRYから歩いて1、2分のとこなのによ〜〜〜〜〜知り合いに見られたらどうすんだよもうこの通り歩けねぇじゃねぇかよ〜〜〜〜〜〜〜この近くにお気に入りのハンバーガー屋あったのによ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「……お空、綺麗」
一向に起き上がらない俺を見た通行人が、なにごとかと足を止め始める。そんなことお構いなしに──というか気にしていられないくらいのメンタルなので、両手で顔を覆ってシクシクと泣く。胎児のように横向きで小さく丸まりながら、このクソったれな世界が一刻も早く消えてなくなりますようにと心の中で何度もお願いする。
「……あの、大丈夫? 絆創膏、使う?」
ふと、地面に転がっている俺に降りかかる声。聞き覚えのあるこの声は、俺が助けた(?)女の子の声だ。
顔を覆ったまま答える。
「早く行きなよ……、ここにいたら君まで変な目で見られるから」
「怪我してる人を放っておけないわ。ほら、大丈夫?」
しかし女の子も思いのほか心根の優しい人らしく、俺が本当に怪我をして泣いていると思い込んで心配してくれている。
折った両膝の裏にスカートを畳ませて、お行儀良くしゃがんで俺を心配する女の子。鞄の中を漁っていて、どうやら絆創膏を──絆創膏が入っている救急ポーチのようなものを探しているらしい。
いらぬ心配をかけるわけにもいかないので弁明。しかし気を遣わせるわけにも恩を売るわけにもいかないので、その辺り上手く濁して。
「転んだだけだから大丈夫。よく見たら全然怪我してなかったし」
「そ、そうなの? 無理してない?」
だからまたナンパとかされる前にどこかへ行ってください。そう言いたいのだが、女の子は俺の膝に手を当てて怪我の具合を確認し始める。
「打撲とか、アザになってたら大変よ。お父さんお母さん近くにいる? 連絡先分かる?」
「……あの、俺別に本当に子供ってわけじゃないから」
そんなに幼く見えるか? んなわけない。俺だって制服着てるし。
「俺高校生。転んでも受け身取れるから、怪我とかそんなしないの」
けれども女の子は俺の主張にあまり耳を貸しているような様子もなく、何を言ってるんだと言いたげな表情でこう言った。
「でもさっき泣いてたじゃない」
「…………」
勿論嘘泣きだが、目撃者にとってそれが嘘か誠かなんて関係無い。衆目の中声を上げて泣いていた、その事実だけで十分なのだ。
つまりは、
しかも、モロに急所を。
強がる。
「と、兎に角。俺は大丈夫。怪我なんて一切してないし、一切泣いてもいない。心配してくれてありがとうね」
「泣いてないは嘘でしょ。というか、大丈夫? 歩けるの?」
怪我をしてないと主張すれば、公衆の面前で大泣きをしたヤバい奴だと思われる。
その主張をしなければ、公衆の面前で怪我して大泣きしたヤバい奴だと思われる。
同じヤバい奴なら、俺だって強がりたい。
制服に付いた土埃を払って立ち上がる。女の子も同じタイミングで立ち上がり、未だ心配そうな表情で俺の顔を見上げてくる。
「……もしかして、あなた私を──」
こんな良い子を無意味に心配させてしまった罪悪感にこれ以上精神を苛まれないうちに、さっさと退散させてもらおう。なんかバレそうだし。
「じゃ、じゃあ、俺はこれで! 助けてくれてありがとう。ギターがんばってね」
「え、えぇ。お大事に……?」
脱兎の如く。
未だなにか言いたげな女の子に背を向け、スタコラと逃げた。
それから曲がり角を二回ほど曲がり、STARRYへと繋がる地下階段を見てようやくホッと一息つく。慣れないことをしたせいで、なんだかドっと疲れた気がする。
トボトボと重たい足取りで階段を降り、なんら躊躇うことなく重たいドアを開けた。
▽
「お疲れ様でーす」
いつもの通り。
気が抜けた挨拶と共に開けたドアを潜る。
ドリンクを提供したりするカウンターでパソコン作業をしていた星歌さんが「おう」とこちらを見向きもせずに返してきた。
「星歌さん冷たい」
「うるせーな。今仕事してんだろうが」
「仕事と俺、どっちが大事なんですか?」
「仕事」
「くぅ〜」
「なんだそれ……」
カウンターチェアごとこちらに向き直り、肩肘をつきながら心底呆れた表情で俺を見る星歌さん。思わず笑ってしまう。
「やっと俺のこと見てくれましたね、星歌さん」
「見ないと長くなりそうだったからな。あと星歌さん↑やめろ。業界人っぽい発音すんな喧嘩売ってんのか」
星歌さんのツッコミの通り、俺は星歌さんのことを星歌さんと呼んでいる。成果のイントネーションではなく、星歌さんの言う通り喧嘩のイントネーションで呼んでいる。
しかし勿論喧嘩は売っていない。この呼び方は俺なりの敬意と親しみのようなものだ。
本当に嫌ならやめるけど、星歌さん毎回そう言いつつもころっと話続けてくれるから好き。
「文字だから伝わりやしないのに」
「はぁ?」
「なんでもありません。星歌さん、お仕事頑張ってください」
「? おう」
あまり話しかけ過ぎると本当に邪魔になってしまうので(もう既に邪魔してるけど)、ダル絡みはここらで引き上げさせてもらう。
丁度星歌さんとの会話が終わったタイミングで虹夏から声をかけられる。振り向けば虹夏が笑顔で寄ってきたので(山田となにやら話し合っていたらしい)、思わずその頭を撫でそうになった。
危ない。
本当に。
「あ、太介くんお帰り! 居残りどうだった?」
「大したことじゃなかった。次の授業で使う教材を運ぶの手伝ってくれって」
「そのくらいの用事なら待ってれば良かったよー」
「どうせSTARRYで会うんだし、別に良いでしょ」
虹夏と山田は結束バンドのことがあるんだし、使える時間は少しでも多い方が良い。
だから俺を待つ必要はないし、先に行ったことを悔やむ必要もない。そんな意味を込めて発言すると、虹夏は嬉しそうにはにかんだ。
「……ふふっ、そっか!」
「? あぁ、そうそう」
俺の今の発言でなにをそんなに嬉しそうにしているのかは分からないが、虹夏が嬉しいなら俺も嬉しい。
世界はそういう風に回っている。
二人して微笑み合う幸せな時間。そんな時間が5秒と経った辺りで、山田が会話に合流。
「なんだ、てっきり追試の民かと思ったのに」
「……あのな山田、俺だってキチンと勉強したとこは大丈夫なんだからな」
この前のギターとベースの一件から、俺の頭が著しく悪いものだと誤解されているような気がする。俺はバンドマンではないのだから、ギターとベースの違いが分からないのも仕方がないだろう。
しかも、頭の悪さを山田にからかわれるのだけは本当に心外だ。
なんなら今日やった小テストの結果で勝負するか?
挑発的に勝負を持ちかけると、山田は聞こえてないフリをして椅子に着席した。おい鞄からスピリットサークルの4巻を出して読み始めるな。てかそれ俺が半年前くらいに貸したヤツじゃないか。
焦らずゆっくり読んでね!! (ヤケクソ)。
こんな態度を取られても別にムカつかないのは、ひとえに山田のキャラクター性あってのものだろう。クールだけどどこかユニークな立ち振る舞いというか、憎めないというか。
「……俺、山田が運転する車に轢かれても許しちゃうわ」
「どういう宣言!? ──って、そんなことはどうでも良いから、ちょっとそこ座って!」
ツッコミを終えた虹夏はスルリと俺の背後に回り、俺が背負ったリュック越しに背中を押してくる。分かった分かったと背後からかかる力と一緒に、幾分楽ちんに感じる歩行に身を任せる。
黒い丸テーブルを囲むように置かれた椅子4脚。そのうちの一つに腰を下ろし、右にはもう既に座っていた山田、左には俺の後に腰を下ろした虹夏という並び。
虹夏がリュックからA4サイズのコピー用紙の束を取り出す。大体厚さ1センチくらいはあるだろうか。
「この前の太介くんがスーパーお馬鹿だったから、あの後すぐギタリスト募集のフライヤー作って色んな場所に貼ってみたんだけどさ」
「ただのお馬鹿だけでもいただけないのに、枕にスーパーを付けるな」
サイヤ人か俺は。
「って、そのフライヤーは知ってる。『知り合いに配って!』って虹夏が俺にそれと同じくらいの量の束渡してきたじゃん」
「その節はありがとね。ちなみに、残りはどのくらい?」
虹夏からの問いに、俺は少々誇らしげに答える。
「全部配ったよ」
「スゴ!」
「太介、良くも悪くも顔が広いから」
「と言っても全員に一枚ずつ渡しただけじゃなくて、友達の知り合いにも渡してもらったりしてるけどな」
今頃どこまで回っているやら。
と、俺が配ったフライヤーの行方に思いを馳せてみる。
「それでも凄いよ! ありがとう太介くん!」
満面の笑みで喜びを表現する虹夏。眩いくらいのソレに思わず目を細めながら、俺はこう返した。
「虹夏が喜んでくれて嬉しいよ」
「え。そ、そう? なんか恥ずかしいね」
「あぁ。俺も」
メッチャ恥ずい。
言わなきゃ良かった。
顔あっつ。
無意識下で一句詠んだところで、山田がちょいちょいと俺の制服の袖を引っ張る。
「太介、太介。私もお腹いっぱいになったら喜ぶ。だから今日の夜ご飯とか」
「そーかよ。俺は別に良いけど、虹夏に聞いてよ。作ってくれるのは虹夏なんだし」
「虹夏良い?」
「うーん、良いよ」
「ありがとう虹夏。太介にも間接的に感謝しておく。はい、これ私の喜んでる顔」
「……ほぼ変わんないな」
山田が自信満々に見せつけてくる、当人曰く
「そんなこんなで太介くんの多大なる助力に感謝したところで、ここからが本題」
「おう」
「うん」
「そろそろ、一人くらい連絡来ないかなぁ」
「「……あー」」
少し眉を下げた虹夏に、山田と二人して同じ母音を発する。
虹夏が(あるいは山田が)作ったフライヤーには、デカデカと『ギタリスト募集!』と書かれていて、下の方には連絡先とSTARRYの住所が載せてある。フライヤーを配り始めてから早くも1週間くらい経つ。電話でも直接STARRYに来るでも、そろそろ一人くらい来ないものかというのが虹夏の意見らしい。
「気長に待とうよ。慌てて募集して、やってきた一人目を即採用ってちょっとロック過ぎじゃないか?」
ロック。
俺はロックンローラーでもなければドウェイ◯・ジョンソンでもないので、ロックが果たして何を意味する言葉なのか、何を定義している言葉なのかは分からない。しかし言わんとしていることは二人にも伝わったようで、確かにと綺麗にハモった言葉が返ってきた。
「気持ちは分かるけどな。俺だって結束バンドが世界に羽ばたく姿を早く見たいもん」
「……ありがとー」
ぐでーん、とテーブルに上体を流して分かりやすく落ち込んだ様子を見せる虹夏。一瞬山田と目を合わせて確認するが、別に本気で落ち込んでるわけじゃないようだ。
一安心。
一安心したところで、一度席を立つ。
虹夏がすぐに顔を上げ、問うてくる。
「? どうしたの」
「トイレ」
「おっけー」
ちょっと気まずいから離席して空気をリセットしたかったという気持ちも、勿論ある。しかしトイレに行きたかったというのも嘘ではないので、心置きなく男子トイレへと向かう。
1分後。
トイレから出てきた瞬間、虹夏から声をかけられた。
「あ、太介くん! ギターの子見つかったよ! やったー!」
「これで結束バンドも正式に始動」
大層嬉しそうにしている虹夏の姿と、真顔で拍手を送る山田の姿。
それから、そんな二人から歓迎されて照れ笑っている、ギターケースを背負った赤髪の女の子の姿を目撃することとなった。
赤髪の女の子がこちらに気付き、笑って挨拶をしてきた。
「あ、始めまして。私、喜多──」
目が合う。
女の子の挨拶の言葉が止まる。
俺の心臓も一瞬止まる。
1秒、2秒。
それから、俺と赤髪の女の子──二人同時に、互いを指差しながら叫んだ。
「「あぁ────────っ!?」」
みんなそんな読んでくれるなら続き書くしかないじゃんね!ということめ急いで書き上げました。ありがとね。
感想や評価、ありがとうございます!引き続き正座してお待ちしております!応援よろしくお願いします!
ではまた。