伊地知虹夏のbucket list   作:大塚ガキ男

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こんにちは、大塚ガキ男です。UA10000ありがとうございます!



伊地知虹夏はそばにいたい(一緒に帰りたい)

 

 

 

 

「はい、じゃあ以上で帰りのホームルームを終わる。今日の小テスト、自信無かったと自覚してる者はしっかり復習しておくように。以上、号令頼む」

 

 どこか気怠げな担任の声が教室内に拡散され、その声を聞く生徒達も放課後を今か今かと心待ちにしている。

 連絡事項も特になく、いつも通りに終わった帰りのホームルーム。全体での挨拶も終えて、いざ山口太介(幼馴染)の元へと気を逸らせていた伊地知虹夏は、号令が終わってすぐにリュックを背負って山口太介の元へと歩き出した。

 しかし、去り際の担任教師から発せられた言葉に、伊地知虹夏は愕然とした。

 

「……あー、山口。この後時間あるか。あったら職員室まで来てくれ」

「うっす」

 

 すぐにでも山口太介の元へ行き、STARRY(私の家)へ──私と太介くんの家(思い込み)へと向かおうと思っていたところでの、この仕打ち。しかし担任教師は伊地知虹夏の心の内など知るはずが無く、すぐに教室から出て行ってしまった。

 硬直。

 そんな伊地知虹夏の存在に気付いた山口太介が、不思議そうな顔を向けながら問うてきた。

 

「虹夏、どうした?」

 

 問われて正気に戻る。不自然に思われたくないと、必死に頭を回した。

 

「え? あー、その、今日バイトでしょ? STARRYまで一緒に帰ろっかな〜……なんて」

「悪いな。先生、俺になにか用事あるみたいだ。先に行っててくれ」

「ま、待ってるよ! バイトの時間までまだ余裕あるし!」

「用事がどれだけかかるか分からないのに待たせるのも悪いって。俺のことは良いから、気にせず山田と先行っててくれよ。な?」

「むぅ……」

 

 待ちたい。

 何十分でも、何時間でも待ちたい。

 山口太介の隣を歩いていたい。

 しかし、あまり食い下がると面倒臭い女だと、重い女だと思われてしまう。

 自分の気持ちと、山口太介から見た自分のイメージの保持。伊地知虹夏は心から数秒悩み、後者を選ぶことにした。

 

「……うん、分かった! 先行ってるね!」

 

 特に気にしていないフリをして、笑顔で山口太介を見送ることにした。イメージするはドラマなどの物語で目にする良妻。

 伊地知虹夏の選択に、山口太介も安堵し口元を緩ませた。

 その魅力的な口元に伊地知虹夏が釘付けになっている間に、会話は終了。

 

「おう、また後でな」

「気を付けてね〜」

 

 伊地知虹夏に手を上げてこの場を去った山口太介。その背中が教室から完全に見えなくなるまで見送ってから、肩を落として溜め息。大きな溜め息が出た。

 その肩を、ポンと誰かが叩いた。

 

「虹夏、どんまい」

「リョウ……」

 

 ベースケースを背負い、ぼぅっとした表情で伊地知虹夏を見下ろす女生徒、山田リョウ。

 

「太介くんと一緒に帰りたかったなぁ……」

「どうせまた後で会う。気にする事はない」

「太介くんが恋しい……」

「あぁ、早くも太介欠乏症が。ほら虹夏。ここでくよくよしてたら目立つ」

「うん……」

 

 山田リョウに手を引かれるがまま、歩き出す。気落ちしながらもクラスメイトへの挨拶は忘れず、普段よりも力無い足で教室を出る──

 

「あ、山口君。この前ありがとうね、おじいちゃん達メッチャ喜んでたよ」

「それなら良かった。わざわざ伝えてくれてありがとう」

 

 教室を出たところで、伊地知虹夏は見てしまった。

 別のクラスの女生徒に話しかけられ、そのまま談笑している山口太介の姿を。

 微笑む山口太介を見て、心なしか意味ありげな視線を送って()()()()()()()()()女生徒の姿を。

 伊地知虹夏の隣で同じようにその様子を見ていた山田リョウが、これから起こるであろうことを察して先んじて声をかける。

 

「虹夏、ステイ」

「やだ」

 

 しかし伊地知虹夏は止まらず、両拳を握り締めたまま歩き出していってしまった。

 山田リョウはその背中を、呆れ半分興味半分の眼差しで見つめるしかなかった。

 

「あー、行っちゃった」

 

 早歩き。

 早歩き。

 先程までのトボトボとした足取りはどこへやら、伊地知虹夏の両足は目標に向かって力強く突き進んでいた。上履きの裏面が廊下と接地し、ゴム特有の摩擦音を鳴らしながら──伊地知虹夏は、大きめの歩幅で山口太介と他クラスの女生徒の間へと割り込んだ。

 

「太介くん」

「うおっ……ってなんだ、虹夏か。どうしたんだよ」

「先生から呼ばれてるんじゃなかったっけ? 急いだ方がいいんじゃないの?」

「あ、そうだったわ。ごめんね田城さん。そういうわけだから、俺もう行くわ」

「う、うん。またね〜」

 

 田城さんと呼ばれた女生徒に手を振って別れ、それから去り際に「教えてくれてありがとな虹夏」ともう一度振り返ってから、今度こそ職員室に向かった山口太介。伊地知虹夏はなにかを成し遂げたような笑顔で見送り、それから女生徒に話しかけた。

 

「なんかごめんね? 話の邪魔しちゃったみたいで」

「う、ううん。大丈夫」

「それなら良かった。じゃあ、私もう行くね。さよなら()()()()

「さ、さようなら……」

 

 突然の乱入者に呆気に取られたままの女生徒に別れを告げ、反転。スタスタと軽い足取りで山田リョウのところまで帰ってきた伊地知虹夏は、山田リョウから開口一番こう言われた。

 

「虹夏……、性格が悪い」

「悪くて結構だよ。こうでもしないと太介くん、変な女に捕まっちゃうからね」

「……虹夏も大概だと思うけど」

「なにか言った?」

「なんでも。そろそろ行こう」

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

「おっ疲れさまで〜す!」

「お帰り。……って、なんだ。ヤケに上機嫌だな」

「虹夏、太介にすり寄る女子をまた一人排除してご機嫌」

「お前またそんなことしてんのか……」

「い、言い方が悪いよ! 私はただ太介くんの為を思って!」

「太介の為ねぇ。あれ、その太介は一緒じゃないのか」

「太介は先生から呼び出しを食らいました」

「……赤点か?」

「私はそう思ってます」

「太介くんはお馬鹿だけど、ちゃんとテスト勉強とかしてるから大丈夫なの! 失礼なこと言わないで!」

 

 ライブハウス、STARRY。

 伊地知虹夏の姉、伊地知星歌が経営する小規模なライブハウス。

 伊地知虹夏の(ホーム)でありバイト先であり、山口太介と山田リョウのバイト先でもある。

 ライブハウス、STARRY。

 山口太介が教師から呼び出された理由について予想を始めた到着直後の山田リョウと、ノートパソコンで仕事をしていた伊地知星歌。そんな二人に伊地知虹夏は踵を浮かせて怒りながらも、まあ良いかと空いてる椅子に着席した。背負っていたリュックは足元へ。

 会話を終えた山田リョウも隣の椅子に腰を下ろす。バイトの時間まで──STARRYの開業時間までは、まだ時間がある。

 談話。

 

「……太介くん、授業とかで習う分野は普通なのに、なんでバンド関連だとあんなにお馬鹿になっちゃうんだろう」

「虹夏、太介の話ばっかりしてる」

「太介くんいないんだからこうもなるよっ! あーもう! どっかに太介くんの私物無いかな」

「……太介ー、早く来てくれー」

 

 今この場にいない山口太介のことをひたすら考え、背後に黒いオーラが出るほどのレベルで山口太介のことを想う伊地知虹夏。周囲を見渡し、やがてライブハウスの壁際、なんでもない突起に掛けられた衣類を発見する。それが山口太介が昨冬に着用していたままSTARRYに置きっぱなしになっていたダウンジャケットだと理解してからは早く、流れるような動作で立ち上がって掛けられたダウンを剥ぎ取り、椅子まで戻ってきて着席。誰の視線も気にすることなくダウンに顔を埋めた。

 

「あー……」

 

 ダウンの生地越しに、伊地知虹夏のくぐもった声が聞こえてくる。山田リョウは言葉を無くし、ただその様子を見つめながら「これは重症だ」と思うのだった。

 このままでは行くところまで行きかねない。そう察した山田リョウも山口太介の早期帰還を願うが、十数秒と経過した今も山田リョウの言葉に「サイヤ人編のクリリンかよ」とツッコミを入れる者はいない。この場にはいない。

 山田リョウは、そういうことかと山口太介の不在を(うれ)う伊地知虹夏の気持ちを少しだけ理解した。

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

「お疲れ様でーす」

 

 およそ30分後。

 気の抜けた挨拶と共に山口太介が階段を降りてきた。伊地知虹夏は誰よりも早く山口太介の到着を──更に言うなら扉を開ける直前から察知していたので、すぐさま山口太介の元へと駆け寄りたい衝動に駆られたが、山口太介が伊地知星歌と会話を始めてしまった為お預けを食らう。

 

「……虹夏、ダウン隠しておかないと」

「やばっ」

 

 山田リョウの名采配。丸テーブルの上に置かれたままのダウンをすっかり日常と受け止めていた伊地知虹夏にとって、その言葉は飛び上がるほどの威力を秘めていて。

 なんで私、太介くんのダウンを。

 ほんの数分前まで顔を埋めていた自分のことなど完全に忘れ、慌ててダウンを片付ける伊地知虹夏。丁寧に畳まれたダウンは伊地知虹夏のリュックに押し込まれ、それを見ていた山田リョウは思わず「えっ」と素で驚いた。

 何やら楽しそうに話している、山口太介と伊地知星歌。しかしその会話も長くは続かず、山口太介による伊地知星歌の仕事を応援する言葉によって締めくくられた。

 会話の終了。

 伊地知虹夏はその隙を見逃さず、たった今山口太介の到着に気付いた(てい)を装って駆け寄った。

 

「あ、太介くんお帰り! 居残りどうだった?」

「大したことじゃなかった。次の授業で使う教材を運ぶの手伝ってくれって」

「そのくらいの用事なら待ってれば良かったよー」

「どうせSTARRYで会うんだし、別に良いでしょ」

 

 ほんの1時間ほどしか離れていないはずなのに、待ち焦がれた会話。山口太介の心地良い声を両耳でしっかりと味わいながら会話を続け、その際山口太介の口から出た言葉に思わず顔を綻ばせた。

 

「……ふふっ、そっか!」

「? あぁ、そうそう」

 

 当然のように山口太介の口から発せられたその言葉。

 しかし、伊地知虹夏にとってその言葉は重要な意味を持ち。

 こともなげに言ってみせた山口太介に対して、伊地知虹夏の胸中では『好き』の二文字が暴れ回っていた。

 

 

 

 

 

 

()(())





余談ですが、合間に挟まる▽は伊地知虹夏のドリトスをイメージしています。読み方分からないので、ドリトスで辞書登録しました。

感想、評価ありがとうございます!不定期更新ではありますが、これからもどうぞよろしくお願いします!

ではまた。
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