こんばんは!遅くなってごめんね!
休日。
といっても世間一般からすれば単なる月曜日であり、休日となっているのは下北沢高校の生徒達のみなのだが──とにかく休日。
学校の創立記念日だか、なにかの振替休日だか。何故休みなのかは山口太介にも伊地知虹夏にも山田リョウにもてんで思い出すことはできないが、取り敢えずは休日。
そんな休日の午後、STARRY。
四人掛けの丸テーブルに、伊地知虹夏が突っ伏していた。
「あー……、太介くん遅いなぁ」
想い人の不在を嘆きながら、鼻から大きく息を吸う。
突っ伏した顔とテーブルの間には山口太介のタオル。それから近くに放られたジップロック。その表面に貼られたシールには『5月6日:体育』と可愛い丸文字で書かれていた。
「…………はぁ」
空気を吐く為に顔を上げた伊地知虹夏の表情を一言で表すならば、ご満悦。隣に座って静観を貫いていた山田リョウが、堪らず口を挟んだ。
「虹夏、流石に引く」
「なんで? 良い匂いだよ」
「匂いの良し悪しじゃなく、他人の私物を勝手に自分のものにするのは良くない』
山田リョウらしからぬ正論。その言葉は『お前どの口が言ってんねん』とそのまま自身の胸に突き刺さりかねない鋭さだが、それでも山田リョウは言わずにはいられなかった。
行っては行けない方向に進み続けている友を──大股で勇ましく突き進んでいる友を引き止める為。もしくは、もう一人の友の未来を守る為。
正義感、それか使命感。
とはいえ、山田リョウも以前からこんな
しかしここ最近になって、伊地知虹夏の異常性に気付いた。気付いた時にはもう既に遅く、「これは素直に応援できない」と慌てて舵を切ったのだった。
そんなこんなで、複雑な立ち位置に立たされている山田リョウ。応援したい気持ちが芽生える時もあれば、今のように制止せざるを得ない時もある。
陰ながら関係を支える親友ポジなら、主人公とヒロインにはもっとまともな恋愛をしてほしいと心の中で静かに叫ぶのだった。
「うぇへへへ……」
山田リョウの心境なんぞ
山田リョウは溜め息と共に肩を落とし、周囲に助けを求めることにした。しかしノートパソコンに向かっていた伊地知星歌に視線を向けても黙って首を横に振られ、音響機材を弄っているPAに視線を向けてもゆらゆらと手を振られるのみ。
孤立無援。
溜め息。
独りになってまで伊地知虹夏の奇行を止めるほどの
「太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん太介くん……」
「太介君、気の毒ですね〜」
「うっせー」
余った袖で口元を隠したPAが、クスクスと笑いながら伊地知星歌に話題を振る。身内の痴態という話題はばつが悪いのか、伊地知星歌は目すら合わせずにそのセリフを一蹴した。
伊地知星歌の態度をどう思ったのか、ふとスマホを確認したPAは笑顔のまま音響機材のなにかのつまみを上げた。
デデデデデデデデデデデデドンッドンッ♪
デデデデデデデデデデデデドンッドンッ♪
「……は? なんだこの音」
ライブハウスの照明がゆっくりと落ち、辺りが薄暗くなる。それからSTARRYに備え付けられたライブ用の大きなスピーカーから、どこかで聴き覚えのある音楽が流れ始めた。
どこかで聴いたことあるけど、曲名なんだっけと伊地知星歌が記憶の中から答えを手繰り寄せていたところで、STARRYの入口が開いた音。照明が動いて階段を照らす。
丸テーブルに突っ伏していた伊地知虹夏のドリトスが大きく跳ね、慌てて嗅いでいたタオルの片付けに入る。つまりはそういうこと。
コツコツと、ゆっくり階段を降りてくる足音。照明も動きを追い、同時に前奏が終わった。
「あなたと私が夢の国
森の小さな教会で
結婚式をあげました」
昭和レトロなブラウンスーツが似合いそうな、色気のあるテノールが鼓膜をくすぐる。歌唱用に声色を変えてはいるが、その芯には聴き慣れた声。
予想だにしなかった山口太介の登場の仕方。伊地知虹夏が歓喜して胸の前で小さく手を叩き、山田リョウが背筋を伸ばしたまま耳を傾け、伊地知星歌が頬杖をついて目を細める。
山口太介指定の音源を流した
四人分の視線を向けられた、階段を降りてくる足。それから胴体。右手にはマイクを握っていて、やがて
「照れてるあなたに虫達が
くちづけせよとはやしたて
そっとあなたはくれました」
記憶に無い
デュエット曲であることを忘れさせるほど、歌声として完成させる技術。
例を挙げればキリが無く──例を挙げねばどうしようもなく歌を聴き入ってしまい、心の奥底への侵入を許してしまう。
伸びのある声、心地良く震えるビブラート。
そんな山口太介の歌唱、時間にして数十秒。
しかし誰も秒数なんて数える暇もないほど、山口太介の歌声に圧倒されていた。
山口太介はマイクを下ろし、伊地知星歌に向かって
「……言い訳あるなら聞くけど」
その頭に、伊地知星歌が冷たい言葉を投げる。良いものを聴いたという満足感と、何をやってるんだこいつはという怒りがごった煮にされたような顔をしているが、トータルでは不機嫌のようだ。
山口太介が頭を上げる。
その手のマイクがもう一度口元へ。
「赤青黄色の──」
「って、サビいくなコラッ!」
「──いたたたたたた! 両こめかみをグリグリしないでくださいよ!」
▽
「……で? なんであんな登場の仕方したんだよ」
数分後。
場所は変わらずSTARRY。
カウンターチェアに足を組んで座る伊地知星歌と、床に正座する山口太介。見下ろし、見下ろされながらの構図。
伊地知星歌からの呆れたような問いかけに、山口太介は後頭部をかきながら答えた。
「いやー、納得してもらえるほどの理由は無くてですね。ただ……」
「ただ?」
「俺なりの
理由を聞いた伊地知星歌はやはり納得はしなかったが、情状酌量くらいはしてくれるらしい。溜め息を吐いてから、仕方無ぇなと呟く。その裁量には身内に対する優しさのようなものがふんだんに加味されていた。
「……はぁ。演者よりも浮かれてどうすんだよ」
「すみませんでした」
「いや、マジで怒ってるわけじゃないから。……お前の歌、久し振りに聴けて良かったし」
本気で落ち込むなよと伊地知星歌がフォローの為に
「え!? 星歌さん今なんて!?」
「うるせぇな。星歌さん↑やめろっつってんだろ。顔近ぇんだよ」
「PAさ〜ん! PAさんのお陰で俺星歌さんに褒められちゃいました!」
「良かったですね〜」
褒められたことが嬉しかったのか、今回の協力者であるPAに報告を入れる山口太介。PAものんびりと笑って返し、山口太介は小さくガッツポーズをした。
「星歌さんに褒めてもらえるなら、わざわざ◯ASRACから正規に歌詞コード引用してきた甲斐があったってもんですよ」
「え、なに? 歌詞コード……? ハァ?」
「こっちの話です。──兎に角、以後気を付けます。あ、歌ってほしい曲あったらロインして下さい」
「気を付けるつもり無ぇじゃねーか。……あー、じゃあSeptember」
「Septemberって、EW&Fの?」
「……そーだよ」
「はは、了解っす。名曲ですもんね」
「……早く行けよ」
「歌う時は一緒に踊りましょうね」
「……
突然の歌唱に怒りながらも、最後にはリクエストまでしてみせた伊地知星歌の可愛げ(天然由来)に山口太介が温かい目で微笑んだ。
シッシッ。
山口太介の温もり溢れる視線をうざったく思った伊地知星歌が片手で小さく追い払う。それに素直に従い、山口太介はようやく伊地知虹夏と山田リョウの元へと向かうのだった。
「お帰り太介くん、歌すっごい上手だったよ。……って、顔色悪くない?」
「ありがとう虹夏──あ、ちょっと待って」
タオルを片付け
それを見た山田リョウが「ついさっきまでトリップしてたのに」とその切り替えの速さに驚愕し、話しかけられた山口太介は会話を途中で切り、履いているジーンズのポケットから酸素缶を取り出した。伊地知虹夏の指摘通り、その顔は少し青ざめている。
「凄い太介。◯ラえもんみたい」
「それってポケットのこと? それとも俺の顔色のこと?」
シュコー。
酸素缶のカップ部分を口元に当て、大きく酸素を吸い込む山口太介。どうやら歌って酸欠になったらしい。
「前者」
「……っぷはぁ。タネは秘密」
「タネあるんだ」
「そんなことより太介、その歌声を早くネットに上げるなどしてバズるべき。そして広告収入を私と折半するべき」
「なんで山田と折半すんのかは分かんないけど、ネットに上げる気はないよ」
俺、打たれ弱いから。
親指で自分を指し、キメ顔でそう言った山口太介。欠片も格好良くはないが、伊地知虹夏だけは心のカメラのシャッターを連写で切った。
山口太介が席に着く。その際、一瞬の隙を突いた伊地知虹夏がバレないように山口太介の方へと椅子を寄せたのだが、やはり山口太介に気付かれることはなかった。
二人の距離は近い。しかし山口太介も伊地知虹夏もこの距離に違和感を覚えはしないので、尚更始末が悪かった。
山口太介が感慨深そうに口を開く。
「遂にこの日が来たな」
「そうだね。あと数時間でライブかー!」
山口太介の言葉を受けた伊地知虹夏が背もたれに体重を預け、笑いながら天井を見上げる。山田リョウは小さく息を吐いた。
結束バンド、初ライブ。
ベースとドラムとギター。3つのピースが集まったことによりバンドとしての
STARRYの開場は17時からで、開演は18時。現在時刻は13時なので、まだ時間は充分にあるといった状況。
本日のライブはブッキングライブ方式という、複数のバンドが順番にステージに立つライブハウス主催のライブ。その中に結束バンドも名を連ねており──というわけだ。
「チケットも無事
「…………」
「リョウ、どうしたの?」
気合い十分、といった様子の伊地知虹夏とは違い、いつも通りの無表情ながらもどこか影を感じさせる山田リョウ。敏く気付いた伊地知虹夏が問いかけた。
重たげな口が開く。
「……懸念事項が、一つ」
「「懸念?」」
山田リョウの口から出た言葉に、伊地知虹夏と山口太介が声を合わせる。
山田リョウの感情のこもっていない瞳が二人を見る。
「私達は、一度も
「「…………」」
その言葉に、全員同じ人物を思い浮かべた。
「喜多さんか」
喜多郁代。
ギタリスト募集のビラを見てやってきた(というか山田リョウ目当てでやってきた)高校一年生の女子。人当たりがよくギターが弾けて歌も歌えるということで、来たその場でメンバー採用された。
それから数週間、STARRYで仲を深めたりライブで演奏する曲の相談をしたりと色々なことがあった。今日演奏するスコアも、自分達の出番中どういった段取りで進めるかも話はしてある。伊地知虹夏と山田リョウは今まで何度も練習で合わせてきた。
あとは17時までにリハーサルを済ませて本番に臨む──それだけ。
しかし喜多郁代は結束バンドの合わせ練習だけはどういうわけか毎度参加出来ず、いつも何かしらの用事と重なって不参加となっているのだ。
懸念。
山田リョウが続ける。
「というか、思い返してみればあの子がギターを弾いているところを見たことがない。私は、あのギターケースは空なんじゃないかとすら思ってる」
淡々と事実だけを告げていく山田リョウの声色は冷たい。伊地知虹夏はフォローを入れようと言葉を探すが、困ったように笑うことしかできなかった。
「あ、あははは。確かに……?」
「おいおい。俺は喜多さんのギター見たことあるぜ」
「弾いてた?」
「いや、俺が見た時はチューニングしてる感じかな。ただ、黒くて格好いいギターだったぜ」
「流石に中身は入ってたんだ」
「あのさ……。山田も虹夏も、大事なメンバーを信じてやらないでどうするんだよ」
「信じてないわけじゃない。疑ってるだけ」
「それって一緒じゃないか?」
「違う、……はず」
はず。
自分の中に生まれた疑念が真実であってほしくないのか、それともただ確証の無い自分の言葉に保険をかけただけなのか。山田リョウは二文字だけ付け加え、静かに目を伏せた。
それによって場に少しばかり沈黙が生まれる。どうしたものかと誰もが口を噤む中、沈黙を破ったのは山口太介だった。
パンパン、と手を叩く。
「はいはい、この話はこれで終わりな。放課後になれば喜多さんも来ることだし、今当人不在の中あーだこーだ言ったってしょうがないだろ?」
「そ、そうだね!」
「…………」
「楽しい話しようぜ。気分下がってたら良い演奏なんてできないだろ? だって──」
「音には感情が現れやすいから、でしょ? あはは、太介くんに言われちゃった」
「……虹夏。もしかして俺の楽器音痴のことをイジってる?」
「イジってませーん」
「か〜! 見たかよ山田!? 今度二人でぎゃふんと言わせてやろうぜ!」
「なんで私まで頭数に……」
一度は流れた不穏な空気。しかし山口太介が話題を変え、そこに伊地知虹夏が乗っかったことで霧散。
あまりにもストレートかつ剛腕な切り替え方に山田リョウも流石に違和感に気付いたが、こちらを思いやってのことだと知っていたので気付いていないふりをした。
「リハは何時からやる?」
「喜多ちゃんが学校終わったら連絡くれることになってるから、それ次第かな〜」
「了解。じゃあそれまでは各々精神統一ってわけか」
「そんなガチガチに決めていくもんでもないけどね〜」
山口太介が想像で物を言う。的からズレた言葉に伊地知虹夏が笑い、山田リョウが黙って流す。
間。
「二人共、今日は演者なんだ。身の回りのことはできる限り俺がやるから、二人はしっかりと本番に備えてくれよな」
山口太介が爽やかに微笑む。気持ちを切り替えていた山田リョウがほうほうと呟く。
「じゃあ太介、肩揉んで」
「っしゃ、任せろ」
「……ああああああ」
山口太介の両手が唸る。山田リョウの肩のツボを的確に押し込み、押された山田リョウの口から濁点を伴った地響きのような母音が流れ出る。
「もう! 太介くんをパシらないで!」
口の端から涎が出るほどの快感に打ち震えている山田リョウと、筋持久力が尽きたのかマッサージの力が弱まってきている山口太介。そんな二人の狭い間に伊地知虹夏が慌てて割り込んだ。
「太介、結束バンドがメジャーデビューしたら私の専属のマッサージ師として雇ってあげる」
「そりゃあ嬉しいな。それまでに筋トレしておくわ」
「だ、駄目! そんなの駄目だよ!」
妙な約束事を交わしてしまった山田リョウと山口太介の口を伊地知虹夏が両手でそれぞれ塞ぐ。何故駄目なのかと言えば、その
伊地知虹夏の
「──虹夏は、太介になにか頼まなくて大丈夫なの」
「へっ?」
その瞳には、少しばかりのイタズラ心を孕んでいた。
山田リョウが伊地知虹夏の耳元で囁く。
「……合法的に太介に
「りょ、リョウ……!」
「グッジョブ虹夏。私は席を外す。羽目は外さないように」
「上手いこと言わなくていいの! もうっ!」
そう言って席を立った山田リョウの背中に伊地知虹夏が振り返ってぷんぷんと怒る。
しかし山田リョウが去り、山口太介と二人きりになったことを自覚した伊地知虹夏の心拍数が、徐々に徐々に早くなっていった。
「……山田の奴、急にどうしたんだ?」
何も言わずに外に出て行った山田リョウ。上って行った階段の方を、山口太介が怪訝な表情で見ていた。
「ちょ、ちょっと外歩いてくるって!」
伊地知虹夏がテキトーに理由をでっち上げる。山口太介も疑う理由は無いのか、「流石の山田も緊張したか」と自分なりに納得していた。
落ちつけ私。折角のチャンスを逃すなと伊地知虹夏は深呼吸をしながら自分に言い聞かせた。
口を開ける。
それから声を出す。
「た、太介くんっ!」
「おう、どうした虹夏」
しかし存外に大きな声が出てしまい、口を開けたまま固まって顔が赤くなる。名を呼ばれた山口太介は片眉を上げて言葉の続きを待っていた。
かっこいい。
山口太介の顔を食い入るように見た伊地知虹夏が心の中で叫び、発した自分のセリフに続く言葉を探す。
「あ、あのっ……」
私と付き合って。
──いやいや、欲望が漏れ過ぎだ。却下。
私だけを見て。
──今言う意味が分からない。駄目だ。
私にキスして。
──段階を飛ばし過ぎだ。引かれる。
ハグさせて。
──彼なら了承するだろうが、それだけで我慢出来る自信がない。
匂いを嗅がせて。
──良いわけがない。変態だと思われる。
「あの……、そ、その……」
「どうしたんだよ。目が背泳ぎしてるぞ」
疑問を通り越し、こちらを心配するような目で見てくる山口太介。意を決した伊地知虹夏は、テーブルに両手を強く置きながら声を上げた。
「──手を!」
「?」
「て、手を! 握ってくれませんかっ!?」
「手ぇ? 別に良いけど、なんで敬語?」
はい、握った。
伊地知虹夏の
宙をくるくると舞い、元の位置に着地。それなから再びぶんぶんと左右に振られてから──笑った。
「…………へへっ」
「虹夏?」
「…………た、太介くんの手だぁ」
「虹夏さんや?」
「…………」
「顔真っ赤にしたかと思えば、笑顔でめっちゃ俺の手にぎにぎしてくるし。緊張してたんだな、虹夏も」
うんうん。
呑気な山口太介が頷く。
伊地知虹夏は山口太介の右手を両手で触っている。握ったり撫でたりして、十二分にその感触を確かめている。
「……太介くんの手、大きいね」
「まぁ、虹夏に比べたらな」
「…………へへっ」
「虹夏?」
伊地知虹夏は止まらない。
山口太介の右手を自分の方へと引き寄せる。山口太介とて腕が伸びたりはしないので、引かれるがまま席ごと伊地知虹夏の近くへ寄る。
伊地知虹夏は山口太介の右手を自身の頭の上へと動かし、置いた。それからセルフで左右に擦り──つまりは頭を撫でているような状態に。
「…………えへ、えへへ」
「なんだ、頭撫でて欲しかったのかよ。言ってくれればいいのに。ほーら、よーしよしよしよしよし」
某ゴロウさんのように、伊地知虹夏の頭を撫でまくる。山口太介の右手が行ったり来たりしている伊地知虹夏の頭上。それに合わせて伊地知虹夏のドリトスが寝たり跳ねたりする。
伊地知虹夏がニヤニヤと恥ずかしそうに笑う。
山口太介がそんな伊地知虹夏を見て笑う。
「…………」
「私たちもいるんですけどね〜」
人目も憚らず──というよりかは自分達だけの世界に入ってしまった伊地知虹夏と山口太介。
顎が外れるほど口を開けて唖然とする伊地知星歌と、口元を隠してクスクスと笑うPAに見られているとも気づかずに。
▽
「……そろそろいっか」
場面転換、山田リョウ。
伊地知虹夏の恋路応援モードに入った山田リョウは、席を外してSTARRYの近辺をあてもなくぐるぐる歩き回っていた。美味しそうなハンバーガー屋を見付けたり、美味しそうな洋食屋を見付けたりして、気付けば20分ほど経過していた。
もう良いだろうとSTARRYへと戻ってきた山田リョウは、階段を降りて目に飛び込んできた光景に言葉を失った。
「…………」
「に、虹夏……? なんで俺の手の匂い嗅いでんの? 虹夏? おい虹夏?」
スンスンスンスン。
山口太介の右手を両手で掴み、匂いを嗅いで嗅いで嗅ぎまくる伊地知虹夏。そして、そんな伊地知虹夏の行動を理解できず必死に声をかけ続ける山口太介。
「…………羽目じゃなくて
山田リョウは伊地知虹夏の奇行をそう結論付け、全てが面倒くさくなってもう一度階段を上り直すのだった。
「おい帰んな。
背中にかかる伊地知星歌の声は、聞こえていないふりをして。
神曲:てんとう虫のサンバ
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