春なのにくそ熱い日差しを背に受けて、バイト先に向かう。こんなことなら、もう少し薄手の服を着てくるんだった。
大体、最近は季節の変わり目がなくなってきているよな。春が終わればすぐに夏といった具合に。これじゃ遊び心がない。
「おーい、来たぞ。とっとと開けてくれ」
とまぁ、そんなことをぼやいているうちに目的地に到着だ。家からそんなに離れているわけでもないので、暑い暑いと文句を言っているのも半分暇つぶしというか、そこまで深刻なことってわけでもない。いや、暑いは暑いんだけどな。
「はーい、今行くよ」
快活な声とともにドタドタと走る音が響いてくる。別にこっちとしてはそこまで急いで貰わなくてもいいんだけどな。けど人を迎い入れる立場だったら俺も急ぎはするか。そうこう思案しているうちにガチャリという音とともに扉が開かれる。
「相変わらずの5分前行動。いやぁ優秀だね」
出迎えたのは俺の雇用主、もとい金沢ミズキだ。中学までは同級生でそれなりに仲良くしていた。高校は一緒じゃないけれど、こうして顔を合わせる機会は非常に多い。
学校ではセナにプライベートではミズキにボッチを解消してもらっているわけだ。
1つムカつくところとしては俺から見てもみてくれがいいことだけだ。セナにしろ、こいつにしろ俺の周りには美形が多くて困ったもんだ。
「癖みたいなもんだからな。セナのやつがいつも早いし」
「セナちゃんは昔からそうだったからね。相変わらず面倒くさい女してる?」
面倒くさい女って、またドストレートだなこいつ。まぁ、あんまり否定できないのが辛いところではあるけれど。というか、お前が言うなよな。
「あいつがいなかったら俺の学生生活が破綻しているくらいには世話になっているよ。最近はあいつが一層モテだしているから危機感を持っているとこだ」
「コウちゃんが付き合っちゃえばいいじゃん」
「馬鹿言うなよ。俺にそんな気はないさ。でも、最近はあいつと仲良くしようといろんなことをしているんだぜ。ちょっと前もカフェに行ってきたしな」
「またベタだねぇ。どうせセナちゃんが行きたいって言ったんでしょ? セナちゃんは昔からミーハーだから」
「確かにあんまり楽しい場所ではなかったかもな」
正確に言えばカフェの雰囲気自体は悪いものでもなかったんだけどな。結局のところ楽しくなかった要因は、俺たちに問題が有るわけで。
「それも勉強だ若人よ」
ただ知ったような顔でこいつに言われると、それはそれでムカつきはするな。
「同い年だろうが。今日、一応セナも誘ったんだけど、やっぱり来てないか」
「ハハ、セナちゃんが来るわけないじゃん。コウちゃんも分かっていて言うあたり人が悪いなぁ」
「俺はお前らに仲良くしてもらいたいだけだよ。友達だからな」
こいつとセナは仲があまりよろしくはない。いや、小さいときは俺も含めて仲良く遊んでいたので、ある時を境に疎遠になってしまったというのが正しいか。
「それがセナちゃんにとっては信じ難いんじゃないの? まぁそれでなくても僕とセナちゃんには色々と有ったわけだしね」
「別に深く詮索するつもりはないけどな」
「そう? 気になるなら教えてあげてもいいんだよ」
小首を傾げると短く切り揃えられた髪が微かに揺れる。それを目で追ってしまったことについては弁解のしょうがない。全く同じ生き物でどうしてここまで差ができるのかね。
「興味がないわけじゃないけど、あいつに悪いだろ」
これは本心。正直に言えば、気にならないと言えば嘘になる。何となくの予想はできなくはないが、あくまで予想であって欲しくはある。
触らぬ神に祟りなし、というわけでもないけれど今の俺にとっては知らなくていいことなのは間違いない。
「相変わらず優しいねぇ。惚れちゃいそうだよ」
よく言うぜまったく。こいつのこういう軽薄なところだけは好きになれないんだよな。といっても昔からこいつはこんな感じだったし、今となっちゃ慣れっこだけどな。適当に流しておけばいいんだから。
「馬鹿なこと言うなよ。で、今日の仕事は何をすればいいんだ?」
「はぁ。僕の友達は相変わらず冷たいね」