「コウちゃんさぁ。一つ聞きたいんだけど、セナちゃんの友達に新山さんっているでしょ?」
「俺はそこまで仲良くはないけどいるな」
確かセナと同じクラスの明るい子だ。中学から一緒だったはずだけど、あんまり記憶がないんだよなぁ。基本的にはセナの友達って感じで、俺からしたら知り合い程度の仲だ。
「あの人って、セナちゃんといつごろから仲良かった? 少なくとも僕たちが仲良く遊んでいるころではないでしょ?」
「別にそんなの気にしたことなかったけど、そうだなお前とセナがギクシャクしだした時くらいからか」
少し考えてみる。
小学生の高学年くらいから頻度は少なくなっていたとはいえ、中学生の半ばくらいまでは3人で遊ぶことが多かった。少なくともその時までは、新山さんの存在を感じることはほとんどなかったといってもいい。新山さんを認識するようになったのは、中学生も後半になってからのはずだ。
そんな俺の発言を聞いてこいつは得心したように何度か頷き口を開く。
「やっぱりね」
「やっぱりってなんだよ」
「いや新山さんと僕って下の名前が一緒なんだよ。だからセナちゃんが僕を上書きしようとしたのかなって」
「たまたまだろ。ミズキっていう名前の人間なんて男でも女でも山ほどいるしな」
なんだったら、学校探せばもう一人や二人はいそうだし。
それならよっぽど、セナや俺の名前のほうが珍しいくらいだ。
「まぁ、考えすぎだとは思うんだけどね」
「自覚があるなら大丈夫だな。というかいつまでダラダラ喋ってるんだよ。早くやることやろうぜ」
さすがにこの気温の中、野ざらしはきつい。こいつも察して家に入れくれればいいんだけど、俺から直接言うのは厚かましいよな。
「あぁ、それなんだけど。今日は仕事はなし。もちろん、バイト代は払うから安心してよ」
「何かあったのか?」
「単純に兄貴がいないんだよ。デートに行っちゃってさ」
やれやれといった身振りをしながらミズキは言う。もしかしたら若干呆れているのかもな。お兄さんがドタキャンするのは、それなりにあることだしな。
そもそも俺の雇用主はこいつだけど、仕事自体はこいつのお兄さんから振られる。そのお兄さんがいないんなら仕事がないのもしょうがない。
「お前のお兄さんイケメンだしなぁ、そりゃ彼女の一人や二人くらいはいるか。まったく兄弟そろって美形なんて羨ましい限りだな」
「まぁ、たしかに僕は顔はいいけどさぁ。これはこれで色々と大変なんだよ?」
「うざ」
ちょっとは謙遜しておけよ。いや、冷静に考えると謙遜するほうがかえって嫌味かもしれないな。そういう意味だとこの話題を振った俺の負けか。
「ハハ。でもコウちゃんだって中々イケてるよ。それにコウちゃんのお姉さんたちも美人だしね。うちの親もよく美人姉妹だって言っているよ?」
あっけらかんと笑ってこいつは言うけど、俺の心はゲンナリだ。思い浮かべたくもない2人を思い浮かべてしまったんだから。
大体、あのゴリラ共にそんな評価をしているとは、申し訳ないが見る目が無いと言わざるを得ないな。あいつら、外面がいいだけで家での傍若無人振りは凄まじいぞ。一回、こいつの親御さんに見てもらいたいくらいだ。
「ぜひ、お前の親御さんには再考してもらうとして、バイトがないなら今日は帰るとするか」
「えぇ。どうせ暇なんだから、僕と遊びにでも行こうよ」
「お前と遊びに行くと変な噂になりそうだからいやだ」
特にこいつは有名人だからな。クラスで噂された日にはたまったもんじゃないぜ。タダでさえ風当たりが強いのに、もっとハブられることになるぞ。
「ハハ。やっぱり、冷たいねコウちゃんは。セナちゃんとは一緒に遊びに行ったんでしょ?」
「お前とは違ってあいつは面倒くさい女だからいいんだよ」
あと、断られるの前提で誘ってくるやつの誘いなんて受けたくないしな。変に予防線を張っているところは昔のまんまだなこいつ。
「そう。それじゃあコウちゃんまたね」
ほら、すぐ引き下がっただろう?
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