「あら起きたのかい。丈夫なこって」
目を覚ますとムキムキの肉体を持つ女が、こじんまりとした椅子に身を縮めて座っていた。リンゴらしき果実を剥いている。イカつい見た見た目とは裏腹に、手先は器用で皮は切れることなく全て繋がったまま、果実を丸裸にした。
この珍妙な光景を見ると、俺はようやく一仕事終えたという気になる。ここはよくお世話になる診療所で、幼馴染のゲレッカがいつものように看病してくれているのだと分かった。
いつもの通りだった。全身に包帯を巻かれベットに雁字搦めにされていることを除けば。
「おはようゲレッカ。とりあえずこの拘束解いてくれよ」
「ダメだ。ルイスはいつも完治する前に修行するから、あたしが縛っといたんだから」
「てめえの仕業かよ!」
「あらそんな口の利き方していいのかい? アンタは今あたしに生死を握られてるんだよ?」
果物ナイフを向けられれば、俺はぐぬぬと押し黙るしかない。
ゲレッカはさも楽しそうに笑いかけた。
「トータス達は海軍に連れて行ったよ。船長と幹部の首、それに海賊船と宝石に雑貨その他諸々合わせて2300万ベリー! 色々と差っ引かれて船長の首一人分しか貰えなかったけど、この町なら半年は持つね。お手柄だよ」
瑞々しい黄金色の果実が俺の目の前に置かれる。
これはなんのフルーツなんだろうと考えつつ、それを口の中に頬張った。
それで、ようやくある事を思い出す。
「そういえば例のブツはどうなってる?」
「ああ、悪魔の実かい? 上層部に取られちまったよ」
「かーまたかよ! いくら俺たちが平社員だからってピンハネが酷えぜ」
俺たちの肩書きは秘密結社バロックスワークスという胡散臭い企業の平社員だ。
2年前、崩壊寸前だったウイスキーピークを買い取り、その町民たちを全て社員として認めるという前世の大企業もびっくりの無茶苦茶な会社だ。
実際のところ、バロックスワークスのおかげでうちの町の財政は劇的に改善した。その一方で海賊たちと戦う最前線となってしまった。俺たちウイスキーピーク生まれは心中複雑である。
怒りに任せて、もう一欠片果物を口に入れようとしたとき、その異常な味に気がついた。
「ヴォエ! ペッ! ペッ! なんじゃこのクソまずいフルーツは!? ゲレッカてめえ俺に何食わせやがった!?」
まるで腐った魚の内臓のような味をしたそれを吐き出すと、ゲレッカは腹を抱えて笑った。
「あーはっはっは! そうかい、そんなに不味いのかい! 悪魔の実ってやつは」
「あ、悪魔の実! お前さっきそれは上にやったって……」
「いやーあんまりにも上の連中が気に食わなくてね。それでちょっと誤魔化したのさ。アンタ、悪魔の実食べたがってたし」
「おいおい確かにそりゃ事実だがよ、これが何の実か分からねえ以上迂闊には食べたくなかったんだがな……」
「いいじゃないかい、どうせこの機会逃しゃ、悪魔の実なんざ一生食べられないさ。この実のことは一通り海賊たちから情報を得てるよ。そこのメモに書いておいたからよく読んでおくんだね」
渡されたメモには、これまたマッチョな体に似合わず、丁寧な丸っこい字で悪魔の実の詳細が記されていた。
もしかしてゲレッカって女の子なんじゃないのか?
瞬間、ヒュンと果物ナイフが俺の頬を通過した。
いやあ、ゲレッカはとても可愛らしい女の子だなあ(滝汗)
気を取り直してメモを一通り目を通した。
「『ゲルゲルの実』スライム生成人間ねえ……」
俺の食べた悪魔の実は、俺の知らないものだった。
そもそもこの世界におけるスライムとはなんぞや。半液体状の体に間抜けな顔がくっ付いたドラクエ的なイメージしかないぞ。
何はともあれ実践あるのみ。
とりあえずこのぐるぐる巻きの包帯で拘束されては何も始まらん。
念じればゲルゲルのスライムくんが出てくるのだろうか?
試しに右腕で念じて見るとにゅるにゅると出でくる出てくるドロドロの半液体。
うわなんじゃこりゃきっもちわりい……。
ゲレッカもなんか引いてるし。いやお前が食わせたんだからな?
しばらく半液体を絞り出すと、それらがゆっくりと人の形になっていった。
俺と瓜二つの姿形となった。服の数から包帯の位置までぴったり同じ。
「おいお前、喋れるか?」
俺は出来上がった俺のコピーに話しかけた。
「おうよ相棒。これがゲルゲルの実の能力だ。よろしくな」
どうやら普通に話せるらしい。
「お前は俺のコピーだな? それであってるな?」
「ああ、そうさ、相棒よ。俺はお前のコピー。でも全部能力は互角だぜ?」
なるほどこれは面白い。
つまりゲルゲルの実とは、本人の複製を作り出す能力らしい。
「もういいかい? ルイスが二人いて気持ち悪いったらありゃしないよ。さっさと能力を解除しな」
ゲレッカ言うので仕方なく、コピーをゲルに戻して体の一部にする。
原作にはなかったが、なかなか汎用性のある能力だ。これは鍛え甲斐のありそうでら今からウズウズしてくる。
「それから今回の件であたしとアンタのナンバーズ昇格が決まったらしい。そのうち本社からエージェントが来るからね」
マジか。
ナンバーズと言えばバロックワークスでも一握りしかならない幹部じゃねえか。
まあ複雑ではあるがとりあえず喜んでおくか。
数日後、本部からエージェントがやってきた。
どこかの国の王族に仕える騎士のような格好をした美男子。
「おお、美しい! そこのシスター! 貴方こそがミスマンデーの名を継ぐにふさわしい」
見ればあろうことかゲレッカを口説いているじゃないか。あの筋肉ムキムキ女のどこが美しいのか。俺には理解できねえぜ。
「困ります、Mr.2ニューイヤーズ様! アタシのようなのに美しいなどお戯れが過ぎます」
「いやいや君は美しい! 男どもを差し置いての怪力。素晴らしい肉体美。是非とも私のコレクションに加えたい」
本気で嫌がるゲレッカを哀れに思った俺は、とりあえず止めに入ろうとする。
するとニューイヤーズなる男が怪訝な顔をする。
「近づくな! 下賎な男め! 私は男が嫌いなのだ! 全くどうして世の中に男などという気品のかけらも無い低俗な者が存在しているのか……」
「お、お言葉ですが、貴方だって男では……?」
「何を申すかこの無礼者! 私はオナベだ! 女らしい気品さと力強さを兼ね備えたMr.2ニューイヤーズ様とは私のことよ!」
ドビーンだな。
この会社大丈夫だろうか……。
さて話を進めるとどうやらこのニューイヤーズという女? は俺たちにナンバーズという称号を与えやってきたエージェントで、その中でも数字が若い方が優秀と聞いている。
つまりバロックスワークスのトップ層なのだ。こんなのでも。……あれ、おかしいな、こんなやつ原作に居たっけ……?
「まず先はどの麗しい肉体を持つ女性にはミスマンデーの称号を。そして、誠に不本意ながら貴様にはMr.9の称号を与えよう。これからも我がバロックスワークスのためにしっかりと働くように」
そういうと、ニューイヤーズは霧と化してその場から消えてしまった。
とにかく俺はバロックワークスのビリオンズ(所謂実行部隊。俺は主に賞金稼ぎの主力としてみなされていた)からエージェントMr.9に昇格したのだった。
ん? Mr.9? どこかで聞いた方あるような……?
「彼女はキリキリの実の湿霧人間。この辺り一帯のスカウト兼監視を任されている実力者よ。命が惜しければ逆らわないことね」
「ん、マーマーマー。そういうことですな、ミスウェンズデー」
あっれぇ……!?
なんだかすごく見たことある人たちがいるんですけど……。
「申し遅れたわ。私が貴方のパートナー。ミスウェンズデーよ。バロックスワークスのためにお互い頑張りましょう」
「わた、マーマーマー。私がミスマンデーのパートナー兼このウィスキーピークの市長を任されたMr.8だ」
あ、ああああああああああ!?
ビビとイガラムじゃねえかああああああ!?
俺はモブじゃなかった! いや原作的にはモブみたいなもんだけど! 超脇役だけど!
なんで今まで気がつかなかったんだ!?
このバトルスタイル、妙な口癖、まさにMr.9じゃねえかああああ!?
やべえ、俺、原作のネームドキャラだったよ!!
どうする? 俺、どうする!?