ラブライブ!~合同企画短編集2024~【完結】   作:薮椿

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高坂姉妹の日常

「何かでかい事がしたい」

 

 私の姉、高坂穂乃果は突然そう私に告げた。何の前触れもなく、唐突に。強いて言うなら通ってる大学の友達からもらったギネス記録名鑑を眺めてたぐらい……って、それが原因か。

 

 大学三年生にもなってまったく精神年齢に進歩がみられない姉に対して私は思わずため息を吐いてしまう。

 

 自分を曲げないのはいい事なんだろうけど、年相応の思考回路を放棄した姉に私は冷ややかな視線と現実をくれてやる事にした。

 

「馬鹿な事言ってないで、目の前の単位の事に集中したら? お姉ちゃん習得単位ギリギリなんでしょ?」

 

「う、うぐっ!? 何で雪穂がその事を知ってるの……っ!!??」

 

「隠すつもりがあるならまず机の上に成績表を放置しない事と、ことりさんに泣きつくのをやめた方がいいよ」

 

「ことりちゃんが裏切ったの!?」

 

「正確にはお姉ちゃんの単位を心配したことりさんが絵里さんに相談して、それを聞いた亜里沙から話を聞いたんだけどね」

 

 まぁそうじゃなくても高校時代に一躍有名人になったわけだし、同じキャンパス内にいれば噂だって耳に入ってくるよね。しかも私が妹だからって理由で教授たちも何とかならないかって相談しにくるし……。残念ながら姉はこういう人間です。手遅れなんです、教授……。

 

 海未ちゃん以外にも言っちゃダメっていっとけばよかったぁ、と頭を抱えて後の祭りを開催している姉を見て自業自得だよと心で呟く。

 

 これで多少は唸り声が聞こえるけど、明日提出のレポートに集中できると思ってノートパソコンに向き直る。

 

「それでも……それでも何か大きな事をやりたいんだよっ!! わーるどわいどだよっ!!」

 

「諦めないの!? というかどれだけの規模の事をしようとしてるのさ!?」

 

「世界レベルの事だよ?」

 

「一介の大学生が出来る範疇を軽く飛び越えてるから、それ……」

 

 まさか諦めてなかったなんて……。しかも世界レベルのでかい事って…………今時小学生でも大人な思考回路してると思うんだけど。

 

 いつから私の姉の思考レベルは大学生から小学生レベルまで落ち込んでたんだろ? 妹として少しだけ恥ずかしいし、何より何でちょっとレベル高めの大学に入れたのかが姉が入学できてからの疑問なんだけど、誰か分かる人いませんか?

 

「ともかく、いつ叶うか分からない理想より、今目の前に迫ってる現実を直視してよ」

 

「取り敢えず手始めに何をするのかを決めないとだね」

 

「聞いて?」

 

「……………………ヒッチハイクの旅?」

 

「それは既に電波な少年たちが決行済みだから。世界はそんなに甘くないから」

 

「じゃあレンタカーの旅!」

 

「難易度下がり過ぎじゃない!? 免許とレンタカーショップ行けば誰でもできるから、それ!」

 

 私の姉は世界をなんだと思っているのだろうか? というか、本気で世界レベルの事=ヒッチハイクの旅だと思っているのなら姉の思い描く世界はどれだけ単純で優しい世界なのだろうか……。

 

 隣で真剣に考えこみ始める姉を横目でちらりと見て、私は一つ溜息を吐く。

 

 姉が言うように何か大きなことをしたくなる気持ちは、実は私だって分からないでもない。年が近い人の功績とか何かを成し遂げた人の話をとかを聞くと、自分も何かして大成功したいなと思う時がある。多分、今の姉はその魔法にかかっているだけなんだろうな。

 

「雪穂―」

 

「何? お姉ちゃん」

 

「取り敢えずトランプして遊ぼっ」

 

「お姉ちゃんは少し言動に一貫性を持ってくれるかなぁ!?」

 

 意外と魔法が解けるのが早かったようで、特に何も思いつかなかった姉は引き出しからトランプを取り出して手慣れた手つきでトランプの束をきっていく。

 

 結局お姉ちゃんが思いつく世界レベルの事はヒッチハイクしかなかったようで、私はそれしか思いつかなかった姉の発想力に少しだけど悲しさを感じた。

 

「二人しかいないからポーカーにしよっか」

 

「そこは普通スピードとかじゃないの? しかも私やるなんて言ってないし」

 

「えー。やろーよー」

 

「明日までのレポートがあるから無理」

 

「そんなの明日の一限の間にやってしまえばいいんだよ!」

 

「その一限目の最初に提出だから今やってるの」

 

「単位一つくらい落としても問題ないんだよ?」

 

「私はお姉ちゃんの背中を見て育ってるから、ちゃんと学ぶべきことは学んでるからね?」

 

 むぅと頬を膨らませて拗ねる姉を見てるとどうしても年上だと思いたくなくなるんだけど。お姉ちゃん今何歳? 精神年齢本当に幼すぎじゃない? 成長が見られなくて私少し泣きそうなんだけど。

 

 お姉ちゃんは暫くぶーぶーと抗議してきたけど、それが私に効かないと分かったからなのか、いつになく真剣な顔でこう言った。

 

「分かった。なら百歩譲って雪穂はレポートしててもいいよ」

 

「何でお姉ちゃんが譲歩する側なの!?」

 

「でもレポートが半分終わった時と、完全に終わった時は私と遊ぶことっ。いいね?」

 

「びっくりする位訳が分からないんだけど!? というか、そのしょうがないなぁって顔やめてよね!!」

 

 まるでわがままな子を見る母の様な顔で私を見てるけど、どっちかっていうとその顔で見られるべきなのはお姉ちゃんの方だからね!? 

 

 そう抗議してみるけど、お姉ちゃんはただその顔で頷くだけで私が譲歩されているという雰囲気を壊させてはくれなかった。

 

 …………なんだかなぁ、最近のお姉ちゃんはいっつもこんな感じでかまってちゃんなんだけど、なんなの? ことりさんや海未さんと何かあったって訳でもなさそうだし、本当に何なの。

 

「…………はぁ、しょうがないなぁ」

 

 私はデータを保存してパソコンの電源を落とす。そしてお姉ちゃんの方を向く。

 

「少しの間なら遊べるから、何かして遊ぶ?」

 

「雪穂……」

 

 お姉ちゃんが驚いて綺麗な目を大きく開いて私を見つめる。

 

 私が苦笑交じりの微笑みを浮かべると、あのμ’sラストライブの日に見せてくれた太陽の様な満面の笑みを浮かべた。

 

 昔から私の好きだったお姉ちゃんの全開るい笑顔。そういえば最近この顔を見ることって全然なかったなぁ……。

 

 今思えば結構大学が忙しいからって、姉ちゃんやお父さんたちと話す機会が少なくなったきがする。そりゃこの顔を見る機会も少なくなってくるよね。

 

「じゃあ取り敢えずトランプしようよ。ポーカーをやるんだったよね」

 

 お姉ちゃんの手からトランプをとって、ポーカーをするためにトランプを振り分けていく。トランプ自体も久しぶりだから少しだけ紙質が指先に新鮮に感じた。

 

「ふっふーん! 穂乃果から勝負を仕掛けたんだから負けないもんねー」

 

「お姉ちゃんは結構大事な所で顔に出やすいから勝つのは私だよ」

 

 せーので配った手札を見る。スペードのエースに二。クローバーの四に八、そしてハートのキングかぁ……予想はしてたけどかなりバラバラだなぁ。

 

 手札を見て暫く考え込む。お姉ちゃんも私と同じように手札が芳しくなかったのか、眉間にしわをよせて小さく唸って考え込んでいる。

 

 という事は二人とも今はハイカード状態で、数字は結構ばらつきがあるからストレートとかの警戒は必要無さそうかな。ならここはちょっと冒険してみて――

 

「オールトレードっと」

 

 手札を伏せて全部捨てる。結局は賭け事なしのお遊びだし、冒険して自分の引きの強さを見極めてみようかな。

 

 山札から新たに引いたカードは全てスペードの3、5、6、7とダイヤの4。結局は四のワンペアが出来上がっただけで後は揃わなかった。

 

 ま、取り敢えずは一組で来ただけでも良しとしよう。そう思ってお姉ちゃんを見ると、三枚を伏せて捨てて、同じ枚数引き直し眉間に寄せた皺を薄くしてた。という事はお姉ちゃんも何か役が出来たって事かな? 感覚的に……ツーペアかな? でもワンペアの可能性も捨てきれないし……。

 

「雪穂、どうする? 勝負する?」

 

「うーん、そうだなぁ……」

 

 可能性としては負ける可能性が高いわけで、本来ならおりる一択なんだろうけど……。ま、いっか。

 

「勝負だよ、お姉ちゃんっ」

 

「それじゃ、オープン!!」

 

 お姉ちゃんの掛け声とともに二人とも一斉に自分の手札をひっくり返して開示する。

 

 そして私は、お姉ちゃんのその手札に頭を数発殴られたような衝撃をうけた。

 

「お、お姉ちゃんこれって……」

 

「ふふん、ファイブカードだよっ!!」

 

 そう言って自慢気にドヤ顔で胸を張るお姉ちゃんの手札は、確かにファイブカードと言えなくもなかった。だって、クイーンが五枚あったのだから。

 

 そう、何故かクイーンが五枚並んでいた。ファイブカードを直訳すれば何らおかしなことは無いんだけど……。本来のトランプは一セット四種類のマークがあって、それぞれAからKまでの十三枚あって、+ジョーカー二枚の計五十四枚で小売りされている。

 

 だから、一セットしか使わないポーカーにおいて同じカードが五枚揃う事などあり得ないわけで、つまりこれは――――

 

「もの凄いバレバレのイカサマじゃん!!」

 

「あいたっ!!??」

 

 お姉ちゃんの脳天に手刀を振り下ろす。それを食らった本人は痛そうに頭を押さえながら何でばれたのかという困惑の表情を浮かべてる。私としては寧ろ何でこれでばれないと思ったのか知りたいし、役もろくに覚えていないのに何でポーカー勝負を仕掛けてきたのかが謎で困惑してるんだけど……。

 

「……お姉ちゃん、私もうレポートに戻っていいかな?」

 

「今度はイカサマしないから!! ことりちゃんに教えてもらったイカサマはしないから!!」

 

「それ教えたのことりさんだったの!?」

 

 あの人は何をうちのお姉ちゃんに吹き込んでるんだろうか……。多分、冗談半分で行ったことをお姉ちゃんが馬鹿正直に信じただけなんだろうけど。この場合イカサマという手段をお姉ちゃんに教えたことりさんに少し怒るべきなのか、それともそんなバレバレの嘘にまんまとひっかっかったお姉ちゃんを嘆けばいいのか……。亜里沙、私はどうすればいいのかな?

 

「もう、次やったら本当にやめるからね?」

 

「えへへ、わかってるよぉ」

 

 少し叱るように言ってみたけど、私の予想に反して少しだけ嬉しそうな顔をするお姉ちゃんに少しだけ拍子抜けしてしまう。……今のやり取りで嬉しくなるようなところってあった?

 

「……なんか、今日のお姉ちゃんおかしいよ」

 

 私がクイーンを一枚抜いて山札に戻したカードをシャッフルして配る時にぽつりと呟いてみる。するとお姉ちゃんは、小首を傾げて頭の上に疑問符を浮かべた。

 

「そう?」

 

「うん、なんか、こう、全体的にテンション高めというかノリが奇妙というか……」

 

「そうかなぁ……?」

 

 お姉ちゃんは自分に配られた手札を見つつ考え始める。

 そして、手札をトレードするのと同時に、笑いながらこう言った。

 

「もしそう見えるなら、雪穂と久しぶりに遊べたからかな」

 

 …………なんじゃそりゃ。妹と遊ぶのなんてそんなに楽しいものでもないだろうに。

 

 でも、何となく。ほんの少しだけお姉ちゃんと遊んだこの時間は懐かしく感じたのは、本当に久しぶりだからなのかなぁ。

 

「…………やっぱり今日は特別おかしいね、お姉ちゃん」

 

 そしてお姉ちゃんの言葉に少しだけ共感してしまった自分も、もしかしたら少しおかしなテンションになってるのかもしれないなぁ。

 

 特別おかしいって何!? と抗議する姉に、私はいつもおかしいって事と嘆息交じりに手元のスリーカードを見せてお姉ちゃんの追撃をかわした。

 

 これが絵里さんから教えてもらったイカサマを使ったといつ気付くかわくわくしながら、私たちはお母さんにご飯だと呼ばれるまで遊んでいた。そんな休日の一日。

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