スクールアイドル。
学校の部活動としてアイドル活動をしている女子高校生、またはグループの総称。メジャーアイドル、ローカルアイドル、地下アイドルなど公式に『アイドル』と呼ばれる扱いとは異なり、あくまでアマチュアとして歌やダンスを披露する。そのため『アイドル』というよりも部活や同好会といった学校活動と捉えられるのが一般的だ。
ただ、その歴史は既に10年以上続いている。最初は思春期の子供がやるお遊戯会のように扱われていたが、今では老若男女問わず楽しむビッグコンテンツになっている。離島含めた日本全土にスクールアイドル文化が広がっており、日本独自の文化として世界からも認められているほどだ。実際に海外からスクールアイドルをやるために来日する高校生もいるため、そのコンテンツ規模の大きさたるや計り知れない。
スクールアイドルが人を惹きつける魅力というのは数多くあるが、その1つはやはり女子高生グループによるライブを観覧できることだろう。少々下劣な話ではあるのだが、アマチュアでも『アイドル』の名を関している以上、スクールアイドルをやるような子は揃いも揃って美女美少女揃い。そんな子たちがアイドル衣装を纏いステージで歌って踊っている姿を披露すれば、それは男性はもちろん女性にだって注目される。その華やかさこそが魅力の1つだ。
真面目な話に戻ると、魅力の1つとして情熱を感じられるからだろう。スクールアイドルは高校生という短い期間でしか活動できない都合上、人間で最も多感で大切な青春時代を時間に注ぎ込む必要がある。本人たちもそれは理解しており、だからこそその一瞬に情熱を注ぐ。そのためステージ上での彼女たちは常に『本気』。観客はその情熱を感じて心を燃やし、一緒に盛り上がる。そういった『スポーツ』的な熱い要素を求めている人すらも惹きつけるのがスクールアイドルなのだ。
そのように界隈としての人気が上昇していった結果、スクールアイドルのグループ数は黎明期と比べて何十倍、何百倍にも増えている。
その中のとあるグループ、『蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』。石川県金沢市から奥まった場所で、蓮の花の咲く湖の傍らにある私立蓮ノ空女学院。創立100年を越えるこの高校では、古くから引き継がれた伝統が今も息づいている。
その学校では6人の少女たちが前述の名前でスクールアイドルを結成している。
そして、その中に『彼』が1人。女子高なのに何故男子生徒がいるのかは複雑な事情があるのだがここでは割愛。『彼』はそのスクールアイドルのサポーター兼広報係。いわゆる雑用係だ。
そんな彼は今、部室にてデスクトップパソコンを前に頭を悩ませていた。
「アイツらの布教動画ねぇ……」
昨今のスクールアイドルの活動はネットを通じた情報発信が普通であり、スクールアイドルコネクト、通称『スクコネ』と呼ばれるスクールアイドル活動専用のアプリを利用して動画投稿や生放送を行うのが当たり前となっていた。専用のアプリができたことによって視聴者とスクールアイドルがより身近になり、そのおかげでファンが増え人気が上がったグループも存在する。今や動画配信はグループの認知度も然り人気に直結すると言ってもいい。
そんな背景もあり、自分たちのことをもっと知ってもらおうと思い先日のミーティングで挙がった案が布教動画の作成だった。動画編集なので当然彼の作業だ。その内容も彼が決めることになったのだが、如何せんやりたいことだけ投げられて、具体的なことは彼任せとなっている。まさに下請けの請負会社のような重圧を感じていた。
練習シーンを切り取ったりライブシーンを編集するだけであればコンセプトがあるから楽なものの、単純に『布教』と言っても視聴する人に何を伝えればいいのか分からない。
学校? 歴史? グループの戦績? どれをフィーチャーすれば良いのか迷ってしまう。全部織り込みたいが、それでは主軸がない。何か1本の柱を決めないと。彼はそれに悩まされていた。
その時、部室の扉が開く。
「こんにちは――――って、もう来てたんだ。まさか早速動画作ってるの?」
「花帆……。あぁ、まぁな」
顔を見せたのはこの学校のスクールアイドルの1人、彼と同じ1年生の
笑顔を絶やさない元気な女の子。お喋り好きで、人前でも一切物怖じしない胆力の持ち主。ただ元気な分ややお調子者であり、練習好きの先輩に対して『鬼』と言ってしまうほど少々無礼な一面もある。
瞳は青緑色、髪は淡いオレンジ色のボブヘアーで、両側頭部を青いウサギの髪留めで小さく結んでいて触覚のようになっている。顔つきは童顔で可愛らしい。エメラルドグリーンの瞳と太陽のような明るい雰囲気は観る者を吸い込ませるくらい魅力がある子だ。
ちなみにこの学校の女子の制服は
「…………やっぱりスクールアイドルと言えばこれだよな。おい花帆、今からカメラ回すから自己紹介してみろ」
「えっ、そんな急に!?」
「3・2――」
「えっ、あっ、えぇっと……」
「1―――はい」
「日野下花帆です! みんなの笑顔を満開にするスクールアイドルを目標に、いつか花咲けるよう頑張っています! みんなたっくさん応援してね! って、いきなり何をさせるの!?」
「はは、すげーな……」
唐突に自己紹介ムービーを撮られても完璧な笑顔で可愛いアピールをやり遂げられる。まさに太陽の照らされ満開に咲く花のように可憐であり、その笑顔は人を惹きつける。彼女のこの才能は入学当初から見てきた彼だったが、いつ見ても彼女の『光を放つ力』には驚かされる。
今回も改めて彼女の凄さを実感したが、そのおかげで動画のネタをどうするのか方向性が決まった。
部員1人1人の魅力を動画にするだけ。練習やライブシーンの切り抜きなんてものはありふれているが、まず人を知ってもらった方がファンも生まれやすい。個々人を映したホームビデオ的な感じにすれば他のグループとも差別化できるだろうと考えた。
「どうして笑うの~っ? もしかして変なこと言っちゃった!?」
「いや、相変わらず笑顔が綺麗だなって」
「う゛っ……も、もう慣れたもんねその褒め文句! そんなことで喜んだりしないんだからぁ~」
「超ニヤケてるぞ」
「うぐっ!?」
お調子者なところが欠点ではあるが、美少女限定でそれは長所に変わる。頭のネジがゆるゆるなところもそれもまた魅力の1つだ。
「よし、じゃあ動画編集に取り掛かるか」
「え、もしかしてさっきの自己紹介を動画にするの? ちょっと待って! 心の準備ができてない状態で中途半端だったから、できればもう一度撮り直して欲しいなぁって……」
「中途半端であの出来かよ……。動画にするのはそれだけじゃない。切り抜きのために撮り溜めしてたのあっただろ。そこから個人を切り抜く。グループとしてじゃなくて、あくまで個人紹介としてな」
「なるほど~」
「ま、俺としては個人の魅力を発信するってのは少し抵抗あるけどな。お前らを一番良く知ってるのは自分だからこそ他の奴らには知られたくない的な。独占欲ってやつさ」
「あっ、それ瑠璃乃ちゃんや慈センパイから聞いたことある。確か『面倒臭さい古参オタク』とかなんとか。他には『同担拒否はコンテンツ規模の縮小をもたらす』って。なんのことかさっぱりだけど……」
「それだけお前のことが好きってことだよ」
「えっ……!?」
「冗談だ。すぐ真に受けるから面白いよなお前って」
「むぅ~っ!! また馬鹿にしてぇ~っ!!」
その時々の感情によって表情が逐一大きく変化するため彼女を眺めているだけでも飽きない。隣にいるだけで楽しいタイプというのを具現化すると彼女になるだろう。からかいすぎるとこうやってむくれてしまうのだが、それはそれで愛おしい。
「あっ、もうこんな時間だ。そろそろ行くね」
「今日は練習休みだったか。何をするんだ?」
「実は前々から気になってた本がさっき届いたから、練習のないこの日に読み耽っちゃおうと思って」
「相変わらず読書好きだな。精々楽しめよ。明日からまたあの先輩の鬼練習が始まるから……」
「う゛っ!? もう折角新刊が届いてウキウキ気分なのに、テンション落ちるようなこと言わないでよ!」
「わりぃわりぃ。じゃあまた明日」
「うん。動画編集頑張って!」
花帆は部室から退出した。騒がしくはあったが動画ネタのヒントをくれたと思えば彼女の到来は僥倖と言わざるを得ない。頭脳派より感覚派の方がインスピレーションに与える刺激が強いのは、創作の世界だけの話ではないと感じた瞬間でもあった。
~※~
日野下花帆の紹介動画を編集していると、またしても部室の扉が開く。
現れたのは
「お疲れ様です」
「おっ、早速やってんねー」
「お前らも来たのか」
次に入って来たのは花帆と同じ1年生の
さやかは青髪のお下げを水色のリボンで留めている清純派の女の子だ。瞳は青目で、首元の左側にほくろがあるのが特徴的。冬制服ではベージュ色のカーディガンを羽織っており、一種のトレードマークにもなっている。顔つきは整っており、花帆とは対照的に綺麗で美人寄り。
口調は必ず丁寧語であり、生真面目で不器用だが純粋な頑張り屋。そして部員随一のツッコミ担当。特に同級生の花帆や同じユニットを組む先輩といった自身の常識の範疇を超えた仲間たちに囲まれているので、自身の担当の役割を余すことなく発揮している。
特技はスケジュール管理であり、きっちりした生活リズムと自己管理が自然と身についている。更に現役アスリート由来の体力も相まって、幼い頃から習っているフィギュアスケーターとスクールアイドルという二足の草鞋を完璧に両立させている。
瑠璃乃はクアッドテールの髪型に、金髪の毛先に水色のメッシュが入っていて蓮の花の髪飾りで髪を留めている。小柄だが見た目は派手な女の子。楽しい事が大好きな明るいパリピ系女子で、日本語は砕けており敬語は苦手。口調はギャル語だが、それも一定ではなくどこか芝居掛かっているのが特徴的。顔つきはロリ系に見えるが、ややツリ目なので見ようによってはイケメン風に見えなくもない。紛うことなきコミュ強で明るいウェイ系――――
と、それは表向きの姿。実は周りの人の顔色を常に窺い、楽しめていなさそうな人がいると極限まで気遣ってしまう心優しい子。そのせいで精神力が常に削られてしまい、本人曰く『充電切れ』状態になってしまうと無気力ダウナーになり会話もままならなくなるデメリットがある。表向きはみんなを楽しませようとしてテンションは高めだが、裏では誰かの気遣わざるを得ない繊細さ。その二面性が彼女の特徴だ。
「花帆さんから聞きました。動画のネタ、決まったみたいですね」
「あぁ。いい機会だし、グループってよりもグループに所属するメンバーのことを良く知ってもらおうと思ってな」
「確かに、あまりそういったのって投稿したことなかったかも」
「だろ。だから切り抜きとして投稿しようとしてたのを編集したり、こうして新しく収録したり――――な」
「えっ、ちょっ、急にカメラを向けてどうしたんですか!?」
「自己紹介しろってことだよ、さやかちゃん!」
「えぇっ!?」
「考えるな、短めでいい」
既にカメラは回っている。さやかは一旦深呼吸をして心を落ち着かせると、カメラを真っすぐと見て自己紹介を始めた。
「村野さやかです。スクールアイドルを始めて半年。慣れてきつつもまだ未熟な身。これから精進していきますので、皆さん応援よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をして自己紹介を終える。
相変わらずと言うべきか堅苦しいが、突出しない無難な正攻法から1ミリもブレないのが彼女の長所でもある。お堅いように見えるがその微笑みは自然で綺麗なものであり、スクールアイドルとして培った表現力を思う存分に生かしている。花帆とは違ってスクールアイドルを始めた当初はその堅い性格から笑顔も作れない程だったが、自然と見せることができるようになったあたり成長を感じられた。
次に瑠璃乃がカメラの前に立つ。自分から立つとはやる気満々に見えるが、精神力をすり減らす事態にならなければ彼女はどちらかと言えば前のめりな性格である。今のように気兼ねない仲間たちに囲まれていればなおさら気を遣うこともない。
「大沢瑠璃乃でーすっ! 粛々とスクールアイドル、頑張らせてもらしゃーすっ! んなわけで、これからも応援よろよろ~っ!」
言葉遣いはいつも通り砕けているが、それ故に独特の幼く高い声と相まって瑠璃乃ワールドに惹き込まれる。誰1人漏れなく笑顔にしたいという彼女の性格が自己紹介のテンションの高さにも表れている。小柄ながらも愛嬌があり元気を振りまくその姿は見ているこっちまで笑顔で応援したくなる。それ程までの影響力が彼女にはあるのだ。
「お疲れ。2人共いい顔だったよ」
「いいのは自己紹介ではなく顔なんですね……」
「当たり前だろ。スクールアイドルはアマチュアだけど、それでも『アイドル』の名を冠してるんだ。可愛い子目的で動画を観に来る奴なんてたくさんいる。だからソイツら向けにウケるようにもしねーとな」
「自分が可愛いなんてルリは思ったことないけどね。めぐちゃんみたいに自画自賛しまくれるメンタルがあればいいんだけど……」
「可愛い可愛い。自画自賛できるようになるまで俺が耳元で囁きまくってやる」
「それは恥ずかしすぎます!」
「やめてやめて! そんなことされたら充電切れだけじゃ済まなくなるから! 逆に回復しちゃうかも……」
スクールアイドルとして自分を良く見せることはできても、自己評価は謙虚なのが2人が似ているところだ。花帆や瑠璃乃がさっき言ってた『めぐちゃん』みたいに自覚してアピールできれば魅力は上がるのだろうが、着飾らないのもそれはそれで持ち味だろう。
「もう、花帆ちゃんの言う通りキミは一言多いよ。休みだってのにこうして来てあげたのに……」
「悪かったな、生まれつきだ」
「じゃあルリたちはもう行くから。今日はさやかちゃんとゲームをする予定なんだ」
「へぇお前が。珍しいな」
「はい。先日瑠璃乃さんに料理のご教授を依頼されたので、今回は瑠璃乃さんから教えを乞う番です」
「お互いに趣味を分かち合ってんのか。いい休日にしろよ」
「うんっ!」「はいっ!」
部員たちは部活動以外でもお互いの好きなことを教え合っているため仲がいい。蓮ノ空が山奥にあり、外出申請を通してバスを使わないと街にも出られない言わば監獄のため、刺激のある生活をするためには友達と趣味を分かち合うのは良くある話だ。全員が寮生活でお互いの距離が近いというのもあるだろう。
そうやって距離の近さをアピールして団結力を見せる動画もあり、と彼は思ったのだった。
~※~
蓮ノ空のスクールアイドルの部員は6人。2年生と1年生が3人ずつで、それぞれ上級生と下級生ペアでユニットを組んでいる。基本的にはそのユニットごとの活動であり、蓮ノ空のスクールアイドルグループとは言ってもライブをするのはユニットごとが多く、6人揃ってステージに上がるのは数曲に限られる。
というのも蓮ノ空ではユニット活動が過去からの伝統(スクールアイドルがなかった頃も似たような活動はやっていた)として引き継がれており、ユニット名も世襲制だ。1つのユニットに何人という決まりはないが、3つのユニットのどれかに所属することになる。先程部室に来た花帆、さやか、瑠璃乃もそれぞれ別のユニットに所属しており先輩の指導を受けながら実力を付けている。
そして、その先輩たちはというと――――
「るりちゃんたちから頑張ってるって聞いたから、めぐちゃんたちがエールを送りに来てやったぞー」
「やっほー。頭かちかちになりながらやってるってさやが言ってた。だからもみもみしてあげようと思って」
「お疲れ様。休みの日にまで作業を強要したつもりはなかったのだけれど、あなたはやるべきことをすぐに済ませるタイプだものね」
丁度良く部室に来たのが2年生の先輩たち。
慈は茶髪ロングヘアーでスタイル抜群。子役時代にタレント活動を経験しており、その影響からか自分の可愛さを自覚、可愛く見られるための努力を惜しまない。そのため配信や人前でもアイドルアピールを魅力たっぷりでやり遂げられ、明るく話し上手、キュートな発言と仕草で見る者を惹きつける愛嬌を持つ。ただ芸能面での才能はあるものの勉強は壊滅的であり、お調子者かつ話し方もフランクでよく言葉が荒くなるのが欠点。
瑠璃乃とは小学生の頃に家が隣だった幼馴染である。歳は彼女が1つ上だが、お互いに『るりちゃん』『めぐちゃん』と呼び、同じユニットとして活動中。
綴理はピンクの瞳で白髪、紅色のインナーカラーが入っておりショートにしている。いつもぼ~っとしており、独特のワードチョイスで会話する不思議ちゃんである。日常生活は堕落の一言であり、同じユニットのさやか(年下)に世話をされて毎日を生きている。ただそんな彼女でもダンスの才能は卓越しており、まさに天才と言える域に達しているほど。ただ自分でも何故そこまで才能があるのか認識していないマジの天才である。
前述の通りユニット仲間はさやか。先輩後輩の関係だが日常生活における彼女の実権はさやかに握られている(朝起こされたり、弁当を作ってもらったり)ので、先輩としての威厳は皆無である。
ちなみに人のことを『さや』や『るり』、『めぐ』など名前二文字で呼び、自分のことは『ボク』と呼ぶ。
梢は紫髪のポニーテールで、文武両道、眉目秀麗で学院の誰からも一目置かれる存在。それもそのはず生粋の音楽一家のお嬢様であり一挙手一投足が雅やかである。お嬢様としての風格は話し方にも表れており、先ほどの会話からでも分かる堅苦しい語を付ける個性的な口調。幼い頃に見たスクールアイドルのライブに感動し、自分もスクールアイドル活動をしたいがために蓮ノ空の門を叩いた。衣装作り、振り付け、作詞作曲と非常に多才なのも彼女の強みである。
ただ練習になると途端に脳筋になることがあり。長時間の練習でも全く苦にならないほどの体力馬鹿。筋トレが趣味の1つと言えるほどある。
ユニットの相方は花帆。花帆は華麗な彼女のことを尊敬しており、逆に彼女も花帆の純粋さと明るさを評価している。ただ花帆は練習を削りたがる時があり、その場合は彼女が怒りを面に出さない笑みで諭すのが常となっている。
「冷やかしに来るくらいなら差し入れの1つでも持ってこいって話だよ」
「キミねぇ、相変わらず先輩への口の利き方がなってないね」
「1年生の範囲の勉強ですら赤点なのにな、先輩さん」
「くっ! こっちには数学最強の綴理と全てを支配する梢がいるんだから」
「なんで年下相手に1vs3なんだよ……」
「勉強のことになるとめぐ、子供みたいだね」
「留年して花帆さんたちにも置いて行かれないか心配だわ」
「お前らあっちの味方するのかーっ!!」
このように、後輩の無礼に関しても彼女たちはフレンドリーである。先輩後輩関係は確かに存在するものの、友達や仲間としての関係性の方が強いため上限関係はほぼ存在しない。仮に失礼な態度で癪に触っても先の会話のように漫才を繰り広げられるのが関の山だろう。
「そういえば、動画のネタが決まったと花帆さんたちから聞いたわ。メンバーの紹介動画を作るとのことだけれど、
「自己紹介を新しく収録したい。とは言っても冒頭に少し軽く流すだけだから短めでいい」
「よしっ、だったらアピールの達人であるめぐちゃんの出番だね!」
「ボクは自分のアピールは苦手だ。いつも喋ることが思いつかない」
「それでいいんだよ。普通の自己紹介でも尺オーバーする奴らばかりだからな」
「言われてるよ梢」
「あなたもでしょう……」
「なんでもいいけど、連続で撮影するから立て続けに頼むぞ」
なんやかんや言いつつもカメラを向けられたら即撮影の体制に入る。流石は去年からスクールアイドルをやってきただけのことはある。
カメラの先には真っ先に慈が立つ。
「ハロめぐー! 藤島慈だよーっ! 世界中をめぐちゃんに夢中にさせるために活動中! これから私の紹介動画が流れると思うけど、最後まで観て、いや最後まで観なくてもみんなすぐ『めぐ党』さんになっちゃうかも! めぐちゃんの可愛さ、たっっくさん堪能してね!」
「なげぇな。尺オーバーすんなって言ったろ……」
慈の可愛さアピールは部員の中でも群を抜いている。自分が可愛いと自覚し、それを武器にする能力は凄まじく高い。キャラ作りでもなんでもなくこれが藤島慈の魅力なのだ。故に自己紹介パートが1人だけ長くなるのがデメリットである。
ちなみに語尾に『めぐ』を付けるのは決まり文句のようなもので、『めぐ党』は彼女のファンネームだ。
次は綴理が立つ。
「夕霧綴理だよ~。えぇっと、最近スクールアイドルになったよ。好きなものはチョコとケーキ、あとさやが作ってくれるお弁当かな。特技は……寝るのが早い? みんなよろしくね~」
「何をよろしくするのか分からねぇし、最近スクールアイドルになったってのも意味分かんねぇだろうな」
「綴理らしいと言えばそうかもしれないわね……」
綴理らしい脈略を無視した自由な自己紹介だったが、スクールアイドル何も関係がないことに苦笑せざるを得ない一同。
ちなみにスクールアイドルになったのは一年前だが、本人はずっと自分を未熟だと思っていたのでスクールアイドルの『ス』までしか到達していないと思っていた期間があった。最近の出来事でそれが解消されたのでようやくスクールアイドルとして自分を認めたのだろう。
最後に梢が立つ。
「スクールアイドルクラブ2年生の、乙宗梢と申します。目標は『ラブライブ!』優勝。いつも応援してくださっている皆様も、今回初めて見てくださった皆様も、
格式に基づいた丁寧で簡潔な自己紹介と抱負。そして最後は綺麗なお辞儀で締めくくるしたたかさ。この短さでよくこれだけ表現できたものだと何度観ても感心せざるを得ない。完成された振る舞いに見ている者まで姿勢を正してしまいそうだ。
「これで全員分撮影したな。じゃあ後はこっちで適当に作っとくよ」
「個人の紹介もいいけど、しっかりユニットの宣伝も入れといてよね」
「はいはい。注文が多いな」
「でもキミはなんだかんだやってくれる。そういうところ好きだよ」
「男に好きとか言うな。お前はそんな意識全くないんだろうけどさ」
「?」
「とにかく、ユニットを知ってもらえば雰囲気も伝わりやすいと思うわ。頼めるかしら?」
「へいへい」
ユニットは3つ。
花帆と梢が組んでいるのが『スリーズブーケ』。楽曲は花と青春など華やかなテーマをよく採用。歌詞は相手と手を繋いでいるハッピーエンドが多く、可愛い曲が多い。
さやかと綴理が組んでいるのが『
瑠璃乃と慈が組んでいるのが『みらくらぱーく!』。楽曲は一言で言うとわちゃわちゃ系。歌詞はぶっ飛んだものが多く、2人の普段のセリフが芝居掛かっていたり砕けたりしているため、歌詞もそれに合わせてあり、元気な曲が多い。
このようにそれぞれユニットの持ち味がある。各々所属するユニットと自分のイメージが嚙み合っているのは偶然か必然か。どちらにせよ一緒に宣伝しておくべきだろう。
「情報は出そろった。じゃあ本格的に編集を――――」
彼が集中しようとしたその時だった。
またしても部室のドアが開き、そこからこっそり顔を出したのは――――
「花帆? さやかに瑠璃乃も。お前ら帰ったんじゃなかったのかよ」
「う~ん、やっぱりキミだけに任せておくのはどうかなって思って」
「一人で頭を悩ませている仲間を後目に休んでなんていられませんから」
「それに変なところ切り抜かれてもヤダから、ルリたちも口出しさせてもらうぜ~」
特に示し合わせたわけではないが、いつの間にかこうしてぞろぞろと集まって来る。気付けば周りが騒がしくなっているのがこの部の特徴であり、絆が強いところだと彼は感じた。この学校は山奥の閉鎖空間故に都会に比べたら娯楽が少なく、それでお互いが一緒にいる時間も多い。だからこそ結束が固まるのだろう。そういったのもこの学校のスクールアイドル特有だ。
「お前ら最近練習続きだっただろ。折角の休みなのにこんなことで時間潰していいのか?」
「なにをいまさら! 確かに編集を頼んだのは私たちだけど、あんたがここまで本気なんだったら協力するしかないじゃん!」
「
「ボクは……おやつを用意するね」
「それ綴理先輩が食べたいだけですよね……。安心してください、わたしも先輩もお手伝いしますので」
「なんなら今から動画用のショートとか撮っちゃう? なんか今日は充電もりもりでやる気MAXだからバッチコーイ!」
「よーしっ! じゃあみんなで一気に仕上げちゃおう!」
みんなが右拳を突き上げて士気を上げる。
ユニット同士、同じ部活同士の一体感を感じられる。スクールアイドル活動だけではなく、同じ教室、プライベートでの付き合い、配信活動など様々な時間を共にしているからこその絆だろう。個人に魅力ありユニットに魅力あり、更にグループとしても魅力あり。正直動画だけでは伝わり切らない輝きがここにはある。彼がこの部活に入ったのはそれを間近で観たいから。そして1人でも多くの人にこのスクールアイドルを知って欲しいから。
強くて暖かい繋がりを感じながら全員で動画制作に励む。
蓮ノ空のスクールアイドル活動はまだ上昇途中。これからもっと大きな輝きを見せてくれることだろう。