ぼっちをプロデュース   作:愚地 観音坂

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転がるぼっち、蹴り飛ばすは孤独

 私、後藤ひとりは一人ぼっちだった。幼稚園の遊びの輪に入ることも出来ず、小学校の遠足では先生とお弁当のおかず交換を……あっ、あの時は割り込んできた人もいたか。中学校では部活も入らず放課後は即帰宅。スマホに入るのは親からのメッセージかクーポンのお知らせ。

 

『おい後藤、暇なら俺が相手をしてやってもいいぞ! もうお前の陰湿戦法は見切ったからな!』

 

 後は上から目線の迷惑メッセージくらい。前に対戦ゲームでボコボコにしたことを根に持ってるようだ。

 偶に思う。私はこのままで良いのだろうか。

 でも私は話す前にあって出てしまうし、目を合わせるのも苦手だ。このまま日陰者の人生がお似合いなのかもしれない。

 

「おい後藤、これ見てるのか?」

「ううん」

 

 そう言ってチャンネルを変えながら隣にどかっと腰掛ける彼。……なんで我が物顔で寛いでるんだろう。

 彼の名前は孤月独歩君。いつも迷惑メッセージを送ってくる人。私の家の近くにある大きな家で暮らしてる、所謂お坊ちゃん。彼の実家は日本有数の大企業らしい。遠足の時も重箱に豪華な料理を入れて私に自慢してきたっけ。

 でも、その横柄な態度のせいか友達がいない。つまり私と同類だ。だから友達なんじゃないかと思っていたら、彼はこんな答えを返してきた。

 

「俺とお前が友達? 馬鹿言え、俺とお前じゃ釣り合わんだろうが」

 

 確かにと思った。超お金持ちのイケメンとド陰キャの私、友達になんか大枚はたいてもなれるわけない。端金だと笑われるだけだ。

 なのに家に来たり連絡先を交換してるのはよく分からないけど。

 

 彼がチャンネルを変え、音楽番組に切り替わる。若者を中心に人気のバンドがインタビューを受けていた。

 

『学生時代は教室の隅で本を読んでるフリをしてました。友達いなかったんで』

 

 えっ! そんなゴリゴリのド陰キャでも人気者になれるんですか!? という甘い考えが私の脳内を埋めつくした瞬間だった。思わず立ち上がると孤月君の視線がテレビからこちらに向く。

 

「何だ急に。どうした」

「お父さん見なかった?」

「さっきトイレしてたぞ」

 

 それを聞いた私はすぐにトイレに向かいドアをバンバン叩く。

 

「うおっ!? なになに!?」

「お父さん、ギター貸して!」

「い、いいよ。でもトイレ中にドアバンバン叩かないでね!?」

 

 押し入れからギターを引っ張り出し、鏡の前に立ってみる。自分とは思えないぐらいに様になっているのを見てテンションが上がった。

 決めた。私はギターを極めよう。そして、学校でバンドを組んで文化祭でライブして皆にチヤホヤされるんだ! 

 

「何してんだよ。親父さんビビってたぞ」

「孤月君!」

「珍しくデカい声出しやがって……なんだよ」

「私と一緒にバンドやろう!」

「は?」

 

 

 ◇

 

 

 三年後。

 別に学校でバンドを組むことも無く、文化祭でライブをすることも無く、皆にチヤホヤされることも無く、私の中学の三年間は終わりを告げた。

 

「……あれぇ?」

「おい後藤、今日もスタジオで練習だ。行くぞ」

 

 卒業式を終えた昼下がり。私は孤月君に連れられて練習スタジオに向かっていた。

 

 ギターを始めて少しした時の出来事だった。

 

「お前の才能が欲しい」

 

 孤月君はそう言うと、エレキギターに必要な機材を新しく買い揃え、存分に練習出来る私専用のスタジオを孤月君の家の中に作った。更に、定期的に彼が呼んだ一流のスタジオミュージシャンと共に演奏することでバンドにおける重要スキル『呼吸を合わせる』を習得することが出来た。

 流石に私一人の為にそこまでしてもらうのはと気が引けたが、彼には何やら目的がある様子。兄貴達とは違う道で大成してみせるだとか何とか言っていたが、要するに私をプロデュースしたいらしい。

 孤月君の財力、そして私の才能が噛み合わさった結果、ここにプロ顔負けのギターテクニックを持つ超中学級のギタリストが爆誕したのである。

 

「……中学三年間、あっという間だったね」

「そうだな」

「バンド……組めなかったね」

「お前のコミュニケーション能力不足だ」

「孤月君だって……」

「何故その辺の雑草と馴れ合う必要がある。俺にそんな暇は無い」

 

 バンドメンバーが集まらなかった原因は主に二つ。まず私に勧誘なんて出来るはずも無いし、その役目は孤月君にお願いするはずだった。しかし、

 

「才能ナシ」

 

 木曜日の夜にやっているバラエティ番組のように、報酬目当てに演奏してくれた候補メンバーをバッサリと切り捨てる。結局、彼が認める様な才能を持つ人は現れなかった。

 二つ目だが、孤月君はバンドメンバーには加わってくれなかった。彼曰く、「悔しいが、俺には後藤と肩を並べる程の才能は無い」とのことだ。ギター、ベース、ドラム、キーボードetc.色んな楽器を人並み以上に出来るのに本人は頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「……高校こそは絶対バンド組む」

「態々下北沢の方まで行くんだ、少しは成果を出したいところだな」

 

 私達二人共、高校は地元の横浜を離れて下北沢の秀華高校を選んだ。自分の過去を知る人間がおらず孤月君のお眼鏡に適う人もいるかもしれない。通学に二時間も掛かるのは痛手だけど。

 

「……あれ? 孤月君、家こっちじゃないよ?」

 

 いつもの帰り道かと思いきや途中で道が変わる。

 

「今日は下見がてら別のスタジオで練習する。これから使うことになるんだ、早めに慣れておくべきだろう」

「別のスタジオ?」

「ここから下北沢まで毎日通っていては、登下校で少なくとも四時間は浪費してしまう。そこで聡明な俺は、下北沢に俺達の拠点を置くべきだと考えた」

「拠点……」

 

 なんかカッコいい響き……! 

 

「下北沢駅から徒歩十五分、買収した土地に今までと同じ設備を整えた別荘を建てさせた。四月からそこで俺とお前で共同生活をするぞ」

「へー、そうなんだ。……え? 共同生活?」

 

 もう一度彼の言葉を頭の中で反芻する。買収した土地にいつもと同じ環境を整えて、四月からそこで私と孤月君で共同生活……? 

 

「……こ、孤月君、それってもしかして……!」

「気持ち悪い勘違いをするな戯けが。俺は女を殴るのに抵抗は無いんだぞ?」

「あっ、孤月十字掌はやめて」

 

 青筋を立てながら彼は拳を握り締める。孤月十字掌とは彼お得意の必殺技である。彼が好きなアニメから取ったネーミングらしい。

 彼の提案は非常に魅力的ではある。通学時間の大幅な短縮にきっと豪華な食事も出るのだろう。ふかふかの高級ベッドといくら音楽を流しても音の漏れない防音バッチリの自室。私自身が大金持ちになったと勘違いしてしまう程だ。

 だがしかし、年若い男女が同じ屋根の下というのは世間から見て如何なものだろうか。きっとお父さんやお母さんは反対するだろう。

 

「言っておくが、お前の両親からの承諾は得てある」

 

 あっ、良いんだ。でもそっか、孤月君うちにだいぶ馴染んでたもんね。ジミヘンやふたりも私より孤月君と遊んでたし。未成年なのにお父さんの晩酌に付き合ってたりもしたし。料理とか絶対しなさそうなのにお母さんに料理習ってたし。

 

「……やはり、俺との共同生活は流石に嫌か。ならば近くの土地をもう一つ買収して俺はそこに」

「い、嫌じゃないよ!」

 

 ハッキリ言って、孤月君との共同生活は別に嫌では無い。そもそも嫌なら今まで家に入れていないのだから。

 それよりも私が懸念しているのは、彼への負担がかかり過ぎるのでは無いかということ。いやもう既にかかりまくっているのだが。

 これまでもギター関係の費用に加えて、テスト勉強も彼に見てもらっていた。そのおかげでテストの順位が五十位を切ったことが無い。そこから更に食事や生活品諸々の費用まで嵩むことになる。彼は端金と言って笑いそうだが、私達庶民にとって大問題だ。

 

「でも、流石にこれ以上負担になるのはなるべく避けたいっていうか……」

「今更だろ」

「で、ですよねー」

 

「決まりでいいな」と話を切り上げて駅に歩を進める孤月君。それに合わせて慌てて足を動かす。

 

「俺とお前はあくまで業務的な関係だ。お前は商品、品質を高める為なら俺は何だってする。だから、もう出費の話はするなよ。少しでも俺に恩を感じているのなら、結果で示して見せろ」

「……はい」

 

 今日まで中学生だったとは思えないその風格に、私は思わずそう返事するしか無かった。彼についていけば、きっと私の夢は叶う。そう信じよう。

 

「……今の俺、最高にキマっていたよな?」

「……そうだね」

 

 これはちょっぴり残念な幼馴染と私が、音楽史に伝説を刻む物語だ。

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