ぼっちをプロデュース   作:愚地 観音坂

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迷えるぼっち、跳ね除けるは孤独

 高校生活が始まってからひと月が経過した。相変わらず友達は一人も出来ず、休み時間は話しかけてもらえるという一縷の望みをかけた片耳イヤホンで過ごしている。

 残念なことに孤月君とは別々のクラスになってしまった。偶にこっちのクラスに来るけど、その間私達の周りには誰一人として近づいては来ない。相変わらず彼は周りの人に距離を置かれていた。

 

「おい後藤、最近歌詞が問題になって炎上したバンドがあるらしいぞ。俺達も気をつけなければな」

 

 私の前の席の子から奪い取った椅子に足を組みながら座る彼は、サラサラの前髪を触りながらそう言う。でもそういう危ういラインを攻めるのもロックだなぁとは思うけど。

 

「それにしても、中々お前に見合う奴は見つからないな」

 

 入学した際の自己紹介では、「バンド演奏に自信のある者は俺のもとに来い、報酬も出すぞ」という謳い文句で募集をかけたらしいが、数人集まった程度でその人達も全員首を切られた。

 彼のこだわりは凄い。しかし、私としてはある程度の演奏が出来る人且つ仲良く出来そうな人なら誰でもいいと思っている。その方が私目立てるし……。

 

「……やっぱり、ある程度は妥協した方が良いんじゃ……」

「俺にメンバー集めを任せたのはお前だろう。お前が本当に組みたい奴であるなら、俺はそいつを否定はしない。だが、今までの奴らではダメだと感じたのはお前も同じだろう」

「それはそうだけど……」

 

 その時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。孤月君は去り際に、そういえばとこちらを振り向く。

 

「今日は一人で帰ってくれ。少し実家に顔を出さねばならん」

「えっ……!?」

「毎日リムジンで通ってるとはいえ、流石に家の場所は分かるだろう?」

 

 じゃあなと足早に教室を出ていく。

 私と孤月君は毎朝共にリムジンで登校し、リムジンで下校する。気分によっては歩いて寄り道したりも。だがしかし、高校に入って寄り道したのはただの一回だけ。物覚えの悪い私が道なんて覚えられるはずもなく。そもそもあんまり窓の外見ないし。

 

「……その内迎えに来てくれるよね」

 

 真っ直ぐ帰ることは諦め、今日はその辺をぶらぶらしてよう。孤月君もいないから今日はレッスンも休みだろうし、休暇を満喫するんだ。

 何をしようかな。動画の収益でお金はいっぱいあるし、何か家族へのプレゼントを探してみるのも良いかも。

 私は早速プレゼントのリストアップを始めた。ロッカーから教科書を取ってくるのを忘れて。

 

 

 ◇

 

 

「……迷った」

 

 待ちに待った放課後。リムジンで実家に向かった孤月君を見送り、その辺を散策していた結果、人気の少ない公園にたどり着いてしまった。

 少し歩き疲れた私は背中に背負ったギターを下ろし、少し錆びたブランコに腰掛けて一息つく。少し揺れる度にキィキィと軋む音が哀愁を漂わせる。

 

「……孤月君大丈夫かな」

 

 総資産百十一兆円を誇る超大企業、孤月コーポレーションの御曹司。上にお兄さんとお姉さんがいるって言ってたっけ。態々別荘に住んでるぐらいだし、あんまり仲良くないのかな……。

 実家に呼ばれたってことは、何か大切な話があるってことだよね。……やっぱり、私と一緒に暮らしてることが不味かったのかも……。もしかして私、追い出される!? 

 

「……そうだ、今のこの気持ちを音にしてみよう」

 

 聴いてください。「夢半ばでパートナーに捨てられた女の鎮魂歌」。

 近所迷惑にならない程度の静かな音色を奏でる。この曲がどうか孤月君まで届きますように。そしてどうか早まらず、私を捨てませんように。

 

「……ふぅ」

「すごーい! ギター上手いね!」

「ファッ!?」

 

 急に投げかけられた陽気な声。思わず私はブランコから転げ落ちる。

 

「わわっ、大丈夫!?」

「は、はい……」

 

 先程の声の主、サイドテールが可愛い女の子がこちらに慌てて駆け寄る。彼女の手を借りてその場から起き上がった。

 

「驚かせちゃってごめんね。私、伊地知虹夏っていうの。高校二年生だよ」

「あっ、後藤ひとりです……高校一年生です……」

 

 もじもじと手を合わせて視線を斜め下に向けながら挨拶をする。家族や孤月君以外と話すのは珍しいからまだ慣れない。

 虹夏ちゃんは興奮した様子で続ける。

 

「偶然通りがかったんだけど、ひとりちゃんのギターが上手くてつい聴き入っちゃったよ! バンドとか組んでたり?」

「あっ、いえまだ……」

「そうなんだ……」

 

 すると彼女は少し考えた様子を見せる。

 

「ちょっと今困ってることがあるんだけど、この後って空いてたりする?」

「あっ、はい。特に用事とかは……」

「……もし良ければなんだけど、うちのバンドでサポートギターしてくれないかな? 突然ギターの子が辞めちゃって……今日だけで良いの!」

 

 バ、バンド!? しかも歳の近い子達と一緒に弾ける!? 

 私としては願ってもない事だ。是非受けたいところだが……。

 

「……えっと、一回上に確認しても良いですか?」

「あっ、もしかしてもう事務所に所属してたりとか?」

「そういう訳じゃないんですけど、一応許可取らなきゃいけない人がいて……」

 

 そう言って孤月君に電話を掛ける。お願い、出て……! 

 そして私の願いが通じたのか、僅か三コールで電話が繋がる。

 

『なんだ』

「あっ、もしもし、孤月君?」

『俺に掛けてきたんだろうが』

「えっと、私って他のバンドのサポートギターとかして大丈夫かな? 困ってるみたいだから協力したいんだけど……」

『……お前が人助けとは珍しいな』

「そ、そうかな……」

『好きにしろ。後で俺も行く』

 

 そう言って彼は電話を切った。……私って、そんなに冷たい人間に見えるのかな。

 

「あっ、大丈夫だそうです」

「ホント!? 良かった〜。じゃあライブハウスまで案内するからついてきて!」

 

 私と伊地知虹夏ちゃん。この出会いがこれからの運命を変えることになるなんて、今の私は夢にも思わなかった。

 

 

 ◇

 

 

 静寂に包まれた広い車内。読んでいた章が終わり、俺は眼鏡を外しながら栞を挟む。そして窓の外を一瞥した。

 歩道を歩くのは俺と同じく放課後を迎えた学生達。ワイワイ騒ぎながら何処かに寄り道をするかどうか話し合う。俺とは違う世界に生きる人間達。

 ……そう思っていた。

 先日、珍しく後藤と共にゲームセンターに赴いた。ふたりちゃんが好きなアニメのキャラのぬいぐるみを取りたかったらしい。絶対に来ることは無いと思っていた場所にあいつは俺を連れていった。

 

 イヤホンを着け、『guitar hero』の動画を再生する。チャンネル登録者数は百万人以上おり、総再生回数は十億を超えた。勿論俺の編集や宣伝方法などが作用しているのは事実だが、それ以上に後藤のギターテクニックが人々を魅力したことを重要視しなければならない。無名だった彼女が、たった三年程度でこの成果を出したことはハッキリ言って異常の一言に尽きる。

 

 そして、そのことは当然親父や兄貴達の耳にも入っているに違いない。今日呼びだされたのも恐らくそのことについてだろう。

 孤月の御曹司として決められたレールの上で安寧を享受するのか、それとも……。

 リムジンが止まり、運転手によってドアが開かれる。

 

「着きましたよ、独歩様」

「あぁ」

 

 都内の高級住宅地にそびえ立つ豪邸。降りて目につくのは大きな噴水と広大な庭。昔から俺は、この家が嫌いだった。

 実家のメイドに案内され応接室に通されると、そこには既に見知った顔が揃っていた。

 

「やぁ、久しぶり独歩」

「……あぁ」

 

 椅子に座ってこちらに軽く手を振るのは孤月家長男、孤月優一郎。親父の後継者の座に最も近い男だ。俺とは対称的な爽やかな雰囲気が気に食わない。

 

「独歩〜! しばらく見ない間に随分背が伸びたんじゃない?」

「……鬱陶しいぞ」

 

 いきなり抱きついてきて頭を撫でてきたこの女は孤月家長女、孤月愛弓。現在大学生であり、孤月の抱えるアパレル会社を任される為の勉強中だ。四つ下の俺をいつまでも子供扱いして甘やかしてくる。……実に癪に障る。

 

「……親父、俺を呼び付けた用件はなんだ」

 

 姉の手を払い除け、俺は奥に座る親父を鋭い目つきで見据える。

 孤月コーポレーション現社長、孤月寂雄。子供達の我儘にもある程度寛容な面を見せるが、将来に関しては最適解をこちらに押し付けてくる。俺にとっては毒親だ。

 

「お前ももう高校生になった。そろそろ将来についてハッキリさせておこうと思ってね」

 

 座りなさいと着席を促され、兄と姉両方から離れた位置に腰掛ける。

 

「うちの子会社を育ててみる気は無いか? お前の手腕なら安心して任せられる」

「断る。俺は俺のやりたいようにやらせてもらう」

「……『guitar hero』だったかな。動画を見させてもらったよ」

 

 コーヒーを一口啜り、手を組み直しながら話を続ける。

 

「確かにあのチャンネルの伸び方は異常だ。彼女はきっと素晴らしい才能を持っている。それは認めよう」

 

「だが」と一呼吸置いて、

 

「お前が態々私の提案を蹴ってまで縋り付く理由が分からない。世界には彼女より上手い人達がまだまだ沢山いる。何故、音楽なのかな?」

「……確かに、アンタの言う通りに動いていればきっと困ることは無いんだろうな。こいつらを見ていれば分かるさ」

 

 兄と姉を一瞥し、再び目を合わせる。

 

「だが、そんな人生に何の価値があるんだ? ただ決められたレールの上を進んで、甘い蜜を啜るだけなんて御免だ」

 

 その時、ポケットの中のスマホが震える。親父が頷いたのを見て電話を取った。

 

「なんだ」

『あっ、もしもし、孤月君?』

「俺に掛けてきたんだろうが」

『えっと、私って他のバンドのサポートギターとかして大丈夫かな? 困ってるみたいだから協力したいんだけど……』

「……お前が人助けとは珍しいな」

『そ、そうかな……』

「好きにしろ。後で俺も行く」

 

 そう言って電話を切る。鞄を取って俺は応接室のドアに手をかけた。

 

「パートナーからの呼出だ、俺はもう行く。これから面白いことが起きそうなんでな」

「……そうか。ならば好きにやってみるがいい。君の活躍に、期待しているよ」

「……気色悪い」

 

 足早に実家を出ていき、リムジンに乗り込む。

 

「ここに向かってくれ」

「かしこまりました」

 

 運転手に目的地を告げる。俺達に新たな仲間が出来る、そんな予感がしていた。

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