ぼっちをプロデュース   作:愚地 観音坂

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ドドドド難産


始まるぼっち、見届けるは孤独

「……どう、でしょう?」

 

 即興で合わせを行った後、スタジオには静寂が流れる。

 虹夏ちゃんとベースのリョウさんは顔を見合せてから、こちらに向き直って口を開く。

 

「……天才?」

「ヤバすぎ」

「あ、ありがとうございます……」

「ホントに凄いよ! 君は最高のギタリストだ! ってよく言われない?」

「そ、そんなことは……あったりなかったり……えへへ」

 

 コメント欄にいそうなコメントをどうもありがとうございます。スタジオミュージシャンの方々にも褒めてもらえることはあるけれど、歳の近い人達から褒められるのは違う味わい深さがある。

 

「っていうかこれじゃ私達完全にお荷物だぁ〜! 頑張るよ、リョウ!」

「うん」

 

 もう一回やろうとお願いされ、再びギターを構える。彼女達の様子が何だか少し前までの私の様で微笑ましく感じた。

 ……この人達は、今までの人達とは違ってめげたりしないんだ。私も最初はスタジオミュージシャン達の圧倒的な技量の前に逃げ出すこともあって、その度に孤月君に尻を叩かれてたのに。あっ、比喩じゃなくて物理的にね? 

 そこから数回合わせを行った後、スタジオを出て椅子に座って休憩する。丸いテーブルを囲って世間話が始まった。

 

「ひとりっていつからギターやってるの?」

「えっと、中一ですかね……」

「じゃあもう三年目なんだ。どこかのギター教室とか通ってた?」

「あっ、そんな感じですね……」

 

 あながち間違いじゃないと思う。

 

「そういえば、さっき電話してた人って?」

「あっ、幼馴染です……報連相はしっかりしろってうるさいので……」

「会社の上司か何か?」

 

 私を含んだ会話にしては珍しく弾んでいるのではないだろうか。見知らぬ人達と一緒に演奏するというイベントをこなした私は遂にコミュ障からレベルアップしたんじゃないか!? ……え、質問に答えてるだけ? 

 

「なんか、ひとりちゃんのギターって『guitar hero』みたいで好きだな私」

「えっ!?」

「あっ、知ってる? ギターの動画上げてる人なんだけど」

「あの人は超上手い。ひとりにも負けてない」

「だよねー!」

 

 それ私ぃー! ど、どうしよう。言わない方がいい……よね? 流石に本人の前でそれ言ってるって気づいたらきっと凄く恥ずかしいもん。うん、黙っておこう。

 

「ああいう人気の人も、私達の知らないところでいっぱい努力してるんだろうな。なんか音で伝わってくるよね!」

「そ、そうですね。えへへ……」

「なんで嬉しそう?」

 

 こうして努力を認めてくれる人がいることは嬉しい。……前に、環境に恵まれてるだけだなんて言う人もいたけど、根底はそこじゃない。あの狭い畳の部屋で孤月君に聴かせてた大切な思い出があるから、今の私があるんだ。

 そこからあっという間に時間は過ぎ、遂に私達の出番がやってきた。今回はボーカルなしのインストバンド。その分演奏を頑張らないといけない。

 

「ぼっちちゃん、あんまり緊張してない? もしかして結構慣れてる?」

「あっ、はい。ちょこちょこイベントに出させてもらったりすることあって……」

「おお! やっぱりベテランさんなんだね!」

 

 そしてライブに出るための名前として『ぼっち』という渾名までもらった。あぁ、なんてハイセンスな渾名なんだろう。呼んでもらえて実に光栄だ。

 ステージに上がった私は虹夏ちゃんのMCを聴きながら辺りを見回す。すると、壁際にもたれ掛かる見慣れた姿を見つけて思わず笑みが零れてしまう。

 

「初めて、結束バンドでーす!」

 

 見ててね、孤月君。

 

 

 ◇

 

 

 ライブを終えた私達。お客さんは少なかったものの、想定より演奏が凄かったためかかなり盛り上がってくれた。

 

「今日は本当にありがとうぼっちちゃん! 最高のライブだったよ!」

「うん。これならもっとチケットはけたね」

「え、えへへ……お役に立てて良かったです……」

 

 少し打ち解けてきた私達が楽しく談笑しているところに、彼はつかつかと歩み寄ってきた。

 

「後藤、来たぞ」

「あっ、孤月君」

 

 実家から戻ってきた彼はいつも通り不敵な笑みを浮かべていた。別に大切な話というわけでもなかったのだろうか。

 ちなみに何故彼が案内もなくここに来れたのかというと、私の位置情報が常に共有されている為である。

 

「えっと、この子がぼっちちゃんの幼馴染?」

「あっ、はい。孤月君、この人達が……」

「下北沢高校二年の伊地知虹夏さんと山田リョウさん」

「あれっ、何処かで会ったっけ?」

「私の名も知れてきたということか」

 

 自分達の名前を当てられてきょとんとする虹夏ちゃんと誇らしげな笑みを浮かべるリョウさん。流石孤月君、既に調査済みだったようだ。そんな彼女達に彼は丁寧に挨拶した。

 

「初めまして。秀華高校一年、孤月独歩です。どうぞよろしく」

「あっ、ご丁寧にどうも」

「よろしく」

 

 その後、改めて自己紹介した二人から孤月君は私に向き直る。

 

「というか、ぼっちちゃんってなんだ」

「私の渾名だけど……」

「……まぁ、本人が気にしてないならいいか。それより俺は感動しているぞ。遂にお前が人様の役に立とうと自分から動いたんだからな」

「そ、それほどでも……」

「いいや、それほどの事だ。今夜は唐揚げパーティーと洒落込むか」

 

 ハッハッハと高笑いをあげながらわしゃわしゃと私の頭を撫でる。公然の面前で恥ずかしい気持ちも湧いてきたが、それ以上に嬉しかったためそんな気持ちは押さえ込んだ。彼が私を撫でるなんて滅多に無いことだ。

 

「さて、そんなことは置いておくとして」

 

 あれ、置いといちゃうの? もっと褒めて? 

 

「伊地知先輩、ギャラの話ってどうなってます?」

「え?」

 

 私が目をぱちくりさせると、孤月君は虹夏ちゃんとリョウさんをちらりと横目で流し見た。二人の表情がまた一瞬固まる。

 

「今回のサポートの件です。後藤とはその辺の話はしましたか?」

「あっ、いや、全く……」

「……後藤」

 

 孤月君がギロリと睨んできて、私はビクッとなる。孤月君のそのプレッシャーは長年付き合ってきた私からすれば慣れっこではあるけれど、初対面の虹夏ちゃんやリョウさんにとっては大変ご立腹のように捉えられたようだ。

 

「お前はプロのギタリストとして金を稼ぐ身だろう? 何故その事を話していない」

「だっ、だって孤月君が好きにしろって……」

「……俺の認識が甘かった。いいか後藤。お前はプロだ。収益を得ている以上アマチュアではない」

「うぐっ……は、はい……」

 

 孤月君の言う通りだった。『guitar hero』となった私はもうアマチュアではなくプロのギタリストなのだ。

 虹夏ちゃんとリョウさんは当然驚いている。

 

「それで、どういう経緯で今回後藤はサポートを申し出たんですか」

「えっ?」

 

 孤月君が虹夏ちゃんの方をギロリと見る。その迫力に気圧されたのか、虹夏ちゃんはあわあわとしながらも正直に事の成り行きを説明した。

 

「……成程、分かりました。ではそのギャラの件についてですが」

「あ、その前にちょっといいかな。色々ツッコミどころはあるんだけど」

「どうぞ」

「えっと……君達の関係って、一体……?」

「ギタリストとその雇用主です」

「こ、雇用主?」

 

 虹夏ちゃんからの質問に孤月君は淡白に答える。虹夏ちゃんとリョウさんは状況がいまいち掴めていない様子だった。

 

「こちらのアカウント、ご存知ですか?」

 

 そう言って孤月君が差し出したスマホの画面を二人は覗き込む。そこに映っていたのは『guitar hero』のチャンネルページだった。

 

「あっ、このアカウントは知ってるよ! チャンネル登録もしてるし!」

「というか、さっき話してた」

「動画で演奏しているのが後藤です。俺は主にチャンネル運営をしています」

「へぇーそうなんだ。……って、えっ? ぼっちちゃんが『guitar hero』!?」

「そうなります」

 

 虹夏ちゃんもリョウさんも、私があの有名な『guitar hero』であると知って驚愕している。

 

「確かに動画と同じギターだしジャージも一緒だね」

「あっ、このジャージお気に入りなので……」

「じゃ、じゃあ私、超有名人にサポートギター頼んじゃったってこと!?」

「そうなります」

 

 虹夏ちゃんは大慌てだ。私がプロである事実にまだ驚いているようで、青くなったり赤くなったりと忙しく表情を変えている。一方、リョウさんはというとノートにサインが欲しいと私に頼み込んでいた。

 

「す、すみません……黙ってて……」

「あっいや! 全然大丈夫! むしろ嬉しいくらいだから!」

 

 虹夏ちゃんは手をブンブン振って私の謝罪を制止する。そして、少し落ち着いたところで孤月君に向き直った。

 

「……それで、そのギャラの話なんだけど……おいくら万円?」

「そうですね……普通のミュージシャンならば大体三万から五万ぐらいが妥当かもしれませんが、後藤はチャンネル登録者百万人越えの有名人。かと言ってチャンネル登録者×三円なんて大金払えるわけもありません。しかし安く見られても困りますし……」

 

 虹夏ちゃんの不安げな顔に私もだんだん申し訳なさが増長してきた。何か良い折衷案は無いかと私は無い脳を働かせる。

 

「あっ、あの、孤月君……」

「何だ?」

 

 私は恐る恐る話しかける。

 

「えっと、虹夏ちゃん達を私達の活動に誘ってみるのはどうかな……なんて」

「「え?」」

 

 虹夏ちゃんとリョウさんは揃って素っ頓狂な声をあげた。

 私達の活動に参加するということは、つまり孤月君に雇われるという意味だ。そこから発生する賃金でギャラを何とか出来ないだろうか。

 

「……つまり、お前は先輩方とバンドを組みたいと。そういうことだな」

「う、うん……技術的にもそんなに悪くは無いんじゃないかな……」

 

 私は小さく頷いた。虹夏ちゃん達の演奏技術にはまだまだ未熟な点も多々あるけれど、私と同じように特訓すれば、まだまだ伸びるかもしれない。それに彼女達と一緒に演奏していて、今までにない楽しさと居心地の良さを覚えたのは事実だ。今の私に何か成長をもたらしてくれるに違いない。

 

「お前が意見するとは、今日は珍しいことの連続だな」

 

 私がそんな提案をすると、孤月君は少し笑いながら呟いた。無理もない。私は今まで自分から何かを提案したことなんて殆ど無かったのだから。

 

「そうだな……ハッキリ言って、先輩方の実力はまだまだだ。とてもお前に見合っているとも思えない」

「……っ」

 

 ある程度その返しは予想出来ていた。今まで何人もの人を切り捨ててきた孤月君だ、虹夏ちゃん達の加入を認めるとは到底思えない。

 

「だが、評価出来る点があったのも確かだ。中でも一番大きかったのは……お前が今までで一番楽しそうだったこと、かな」

「え?」

 

 しかし、意外にも彼は虹夏ちゃん達を肯定的に捉えていた。私、そんなに目に見えて楽しそうにしてたのかな。

 

「じゃあ……!」

「お前が本当に組みたい奴なら、否定するわけにもいかない。そう言ってしまったからな」

「あ……うん!」

 

 孤月君は虹夏ちゃんとリョウさんの方に向き直る。

 

「……後藤はこう言ってるんですが、如何でしょう? 俺のもとで一緒に音楽をやってみませんか?」

「えっと……本当に私達で良いの?」

「……はい! お願いします!」

 

 私が深く頭を下げると、虹夏ちゃんはゆっくり歩み寄って私の手を握る。

 

「……ありがとう! じゃあ、これからよろしくね! ぼっちちゃん!」

「……はい!」

 

 虹夏ちゃんは笑顔でそう言ってくれた。私は思わず目頭が熱くなる。

 

「……山田先輩は?」

「私も……やる」

 

 リョウさんが小さく手を挙げる。孤月君が少し意外そうな顔をした。

 

「……てっきり断るタイプかと」

「私達もバンドメンバー集めてる途中だったから。それに、馬鹿にされたままじゃ終われないし」

「そうそう! 絶対孤月君をギャフンと言わせてみせるからね!」

「……あまり期待しないで待ってます」

「ちょっと! そこは期待しててよ!」

 

 虹夏ちゃんは不満を溢すも、私はその姿が微笑ましくて思わずふふっと笑ってしまう。孤月君はいつも通り無愛想に振る舞っているけれど、口元は少し緩んでいたのを私は見逃さなかった。

 こうして、私達は仲間になった。孤月君は相変わらず無愛想に、虹夏ちゃんは明るく元気に、リョウさんはクールに、そして私はオドオドと……

 でも、そんな私を受け入れてくれる仲間がここにいる。それが何より嬉しくて堪らなかった。

 




正直見切り発車だったなのでどうやって結束バンドと絡めていこうか迷いましたが、かなり妥協してこの形になりました。
変に考え過ぎるべきではなかったかもしれません。
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