ぼっちをプロデュース 作:愚地 観音坂
「さて、全員揃ったな」
「はいっ!」
「はい、どうぞ伊地知先輩」
「まずこの状況を説明してください!」
虹夏ちゃんの意見に孤月君はきょとんとする。
新しく虹夏ちゃんとリョウさんをメンバーに加えた私達は、放課後に孤月君と私の家に集まっていた。そして案内されたベランダには既に使用人さん達の手によってアフターヌーンティーの用意が整えられていたのだった。
孤月君がお坊ちゃんであることを知らない先輩方はこのもてなしっぷりに驚きを隠せずにいた。
「……アイスブレイクの為のアフターヌーンティーだが?」
思わず敬語も崩れていた。
「アイスブレイクってこんなに気合入ってるものなの……?」
「アフターヌーンティーが楽しめる所なんて、その辺に沢山ありますよ」
「えぇ……」
「な、慣れてください……」
慣れとは恐ろしいものだ。ご飯は健康は勿論味も見た目も最高級な物が出てくるし、お風呂にはテレビもスピーカーも付いてるし、トイレの蓋は自動で開く。一つ一つの濃いイベントが今ではすっかり日常の一部として溶け込んでしまっている。
「うまうま」
お腹が空いていたらしいリョウさんは真っ先にスコーンにありつく。
「あっ、リョウ意地汚いよ!」
「マナーは気にしなくて結構ですよ。多少の慎みは持って欲しいですが」
マナーを気にしていたのか中々手をつけなかった虹夏ちゃんも孤月君の言葉を聞いて恐る恐るケーキを取る。そして美味しかったのかその頬が綻んだ。私も苺のケーキを取る。うん、美味しい!
黙々と静かにアフターヌーンティーを堪能する私達。少し気まずくなってきた。
「……んー、何か話題が欲しいね」
「ではこれを使いましょう」
孤月君がパチンと指を鳴らす。するとどこからともなく黒いスーツを着た女の人が現れ、彼にある物を渡してすぐに消えた。黒服さん、いつもお疲れ様です。
「え、誰今の」
「あ、黒服さんです……孤月君が呼ぶと来てくれます」
「指パッチンで分かるものなんだ……」
孤月君が手に持っているのは顔一個分程度の大きさのサイコロ。目にはそれぞれ使えそうな話題が書かれている。昔のバラエティ番組にあったアレだ。
「よっ」
コロコロと転がって出た目は……
「休日にしていること、か」
「私は家事とか服見に行ったりとかかなぁ。あと美味しい物食べに行ったりとか!」
「廃墟探索したり古着屋巡ったりしてる」
「えっと……ギター弾いたりとか」
み、皆結構ちゃんとした休日過ごしてる……! いやギター弾くのがちゃんとしてないわけじゃないと思うけど。
「……あっ、でもこの前は孤月君と一緒に出掛けました」
「そうなんだ。どこ行ったの?」
「えっと、ゲームセンターとか映画館とか……」
「意外。なんかそういうとこ行かなそう」
「いえいえ。サブカルチャーは結構嗜んでますよ」
孤月君は紅茶を優雅に啜りながらそう答える。
「独歩はいつも何してるの?」
「……プラモデルの組み立て、ですかね」
彼は基本仕事で忙しい毎日を送っている身だが、決して休んでいないわけではなく、ちゃんと趣味に没頭する時間も存在する。最も彼の趣味の大体はうちのお父さんによっていつの間にか仕込まれていたものなのだが。プラモデルもその一つであり、一時期買いすぎてお母さんに怒られたお父さんが保管先として孤月君に預けたのがきっかけだ。ジャンルは機動する戦士が大半を占めている。
「コレクションルームもありますよ。俺の作り上げた宇宙戦争のジオラマ見ますか?」
「う、うーん……また今度にしようかな……」
ちなみにそのコレクションルームは私の部屋より広かったりする。プラモデルに負ける私って……。
「……ふむ。紅茶も少し冷めてきたし、そろそろ今後の方針について話し合いましょうか」
再び指を鳴らすと、黒服さんによってホワイトボードが用意された。席を立った孤月君がマジックペンを走らせる。
「現在揃っているのは、ギター、ベース、そしてドラムのスリーピース。ここに加えるとすれば、ボーカル、ギター、キーボードがメジャーだろう」
それぞれ書いた文字を輪っかで囲い、コンコンと叩く。
私としてはやはりボーカルがいないとやはりバンドとしての華に欠けるような気がしてならない。歌があるのとないのとでは、曲に対する印象も大きく変わってくるはずだ。
「後藤、お前は何が必要だと思う」
「……えっ、なんで私に!?」
「何故だと? 二人を引き入れたのはお前だろう。ならば最後までメンバー集めはお前がやれ」
「しょ、しょんなぁ……」
た、確かに孤月君に珍しく意見してまで入れたのは私だけど、これからも私が全て責任を持つというのは流石に重荷が過ぎるというか……!
「ボーカルと言えば、昨日のライブだと逃げちゃったギターの子がボーカルやる予定だったんだよ。あの子どこ行っちゃったんだろ」
「ほう。その人、ボーカル一本ですか?」
「ううん、ギターボーカル。あの子練習に一回も来なかったから腕前は分からないんだけどね」
その時、リョウさんが口に含んだケーキを飲み込んだ後にボソッと呟く。
「……そういえば、ぼっちと同じ制服着てた気がする」
「え? ……あーっ! 確かに!」
虹夏ちゃんもそれに食いついた。私と同じ制服、つまり同じ秀華高校に通う生徒ということ。
「ほら、あんなピンクジャージで学校に行かなくて良かっただろう? やはり俺の判断に間違いはなかった」
「……た、偶々だもん」
私の愛用のジャージを馬鹿にしよってからに……。ダサいからやめろと休日以外は没収されているのだ。
孤月君は早速スマホを取りだして生徒の割り出しに挑む。
「その生徒の特徴は?」
「えっと……髪色は明るくて、背はぼっちちゃんと同じくらいかな。あと性格も明るそうだったよ」
「結構アバウトですね……まぁ大方割り出せたんですけど」
「今ので!?」
「こいつでは?」
そう言って孤月君はスマホの画面を私達に見せる。そこには、虹夏ちゃんが言った通りの特徴を持った女生徒が写っていた。
「あっ! この子だよ!」
「この人が……」
私は思わずその写真を凝視してしまう。写真のポーズを見るだけで分かる陽キャオーラ。私とは違う世界に生きる生き物だ。
「引き入れるかはともかく、先輩方とは一度話しておくべきなのでは?」
「そうだね……じゃあいけそうな時に呼び出してもらえないかな」
「分かりました。明日連行してきます」
「連行て……」
虹夏ちゃんは苦笑いしつつ、気を取り直すかのように紅茶を啜った。
一旦メンバー集めの話を区切った孤月君は、次にスケジュールについての話を始める。
「お二人共、アルバイトなどは?」
「昨日のライブハウスあるでしょ? あそこ私のお姉ちゃんが経営してて、そこでバイトしてるんだ」
「私も」
「辞めるという選択肢は?」
「人手が少ないからちょっと無理だね……」
「そうですか。まぁ上手く両立出来るようサポートは惜しみませんので、何かあれば遠慮なく言ってくださいね」
「うん! ありがとう!」
孤月君は虹夏ちゃんのその言葉に頷きつつ、今度は突然挙手したリョウさんの方を見る。
「山田先輩、何か意見ですか?」
「ごめん、お金が無いのでサポートして欲しい」
瞬間、虹夏ちゃんは動いた。一瞬でリョウさんを椅子から引きずり下ろし、背中に跨って顎を掴んで引き上げる。関節技、キャメルクラッチである。
この間、僅か一秒にも満たない出来事であった。
「ば、馬鹿な……この俺にも見えなかった……だと!?」
孤月君はその早技に愕然としている。珍しく彼は恐怖を感じているように見えた。こんなのは妹のふたりに捕まえた虫を突きつけられた時以来かもしれない。
「孤月君、リョウは甘やかさなくていいからね」
「わ、私は今日野草しか食べてな、うっギブギブ……!」
「お小遣い多いんだから無駄遣い辞めれば問題無いよね?」
「……まぁ、うちの給与も多いので上手くやりくりしてください」
虹夏ちゃんを恐れてか特に助け舟を出すこともなく、孤月君は淡々とそう言い放つ。
……大丈夫かなこの人達。私の抱いた一抹の不安を余所に、日は暮れていった。
その後、帰りに私達の共同生活のことを聞いた彼女達の反応は言うまでもないだろう。
敬語を貫くか、やめさせるべきか