【リメイク版】TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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アイドル!

【アルト視点】

 

 ……俺は今、悪夢のような光景を目撃してしまっている。これは夢か、幻か。

 

 フィオ・ミクアル。

 

 勇者パーティの仲間であり、愛すべき俺の恋人である彼女が。

 

 

 ────親しげな様子で、爽やかな兵士の青年と二人で歓談している。街の片隅の、小さな喫茶店で。

 

「……っ!?」

 

 目の前の光景が信じられない。その男は気安くフィオの髪を撫で、フィオはフィオで触られたことを気にも留めずケラケラしている。その髪を、誰の許可を得て触っているのか。

 

 フィオはやがて、彼の肩をトントンと叩いて立ち上がり、笑顔で別れを告げた。男は名残惜しそうに敬礼している。その顔からは、フィオに対する何らかの感情を感じた。憧れ、だろうか。懸想、だろうか。

 

 ……さて。一体誰だ、あの男は。

 

 

 

 

 

 

「と、いう事だバーディ。お前はフィオのことはなんでも知っているだろう? 教えてくれ」

「面倒くせぇ奴が面倒くせぇ話を持ってきたなオイ」

 

 俺はその光景を見てすぐさま、真相を究明すべくバーディの部屋を訪ねた。

 

 乱雑に武器や防具が散らかるこの部屋を訪ねる奴は少ない。ここなら、バーディと二人きりで話せる。

 

「フィオが見知らぬ男と歓談してるなんて、これは一大事ではないか」

「そうかぁ。……そうかぁ?」

 

 俺にはフィオに直接問いただしにいく度胸は、なかった。

 

 ……フィオに問い質しても、恐らくはぐらかされるだろうし。口の上手さで、フィオには勝てないからな。

 

「十中八九、知り合いの兵士に声かけられて駄弁っただけだと思うが。アイツ、男友達は多いからな」

「だが、兵士側は下心がありそうだったぞ。こう、目線がイヤらしかった」

「というか何でそんなことを気にするんだ、アルトが。フィオが男捕まえたって良いだろ別に。それともお前、フィオ狙いなの?」

「ああ。凄く気になるから、教えて欲しい」

「だよな、だったらなんでフィオのことなんか知りたがるんだ?」

「……いや、だから俺はフィオが気になるから知りたいと言っている」

「分かった分かった、フィオにもプライバシーが有るから興味本位で……。ん? 今なんて言った?」

 

 ……真面目に相談したいのに、バーディと会話がなかなか噛み合わない。

 

 何というか雑に、適当に対応されている感じがする。フィオはバーディの親友のようなものと思っていたが、興味ないのだろうか。

 

「スマン、アルトよ。お前は、フィオが気になるの?」

「ああ、気になっている」

「確かに、やつの行動はいつも奇想天外だ。警戒しないと、何をしでかすか分からない。そういう意味だよな?」

「いや。フィオに女性として、好意を持っている」

「HAHAHA! いや、ちょっと待て、ええええ?」

 

 バーディは珍獣を見るような、困惑に富んだ目で俺を凝視した。

 

「いや、確かに本命を一人決めろといったけどさ……。よりによってソコかよお前」

「よりによって、とはどういう意味だ」

「いや……。ああ、もういいや」

 

 バーディは頭痛をこらえるような仕草をした。

 

 さっきからなんなのだ、この態度。

 

「その、聞くぞ。フィオのどこが好きだ?」

「……。えっと、その。顔?」

「天下の大英雄アルト様が、ずいぶんとゲスいことを言うじゃねぇか。フィオに影響されたか」

「いや、気付けば好きになってたからな。だから、いきなりそんなことを言われても分からなかった」

「オイオイ、オイオイ。これ、マジな奴? 罰ゲームのドッキリとかじゃなくて?」

「俺は、仲間に嘘は吐かん」

 

 俺がフィオを好きになることが、そんなにおかしいだろうか。彼女は普段はアレだが、実は優しく快活で、とても魅力ある娘だと今は思える。俺は胸を張って、フィオが好きだと宣言しよう。

 

 ……可愛いフィオの頼みだし、彼女と付き合っていることは内緒にしているが。出来るならば、みんなの前で公言して堂々とイチャつきたい気持ちもある。

 

 それに、バーディと例の約束も有る。それとなく、フィオを説得していかないとな。

 

「……お前さ、ただでさえ妬まれまくってるってのに。ここからフィオまで掻っ攫ったら、城中の兵士敵に回すぞ? その覚悟はあるか?」

 

 ところが、当のバーディは渋い顔をしていた。彼との約束を守っている形なのに、何が不満なのだろう。

 

「……と言うか、城の兵士がフィオと何か関係あるのか?」

「大有りだよバカヤロー」

 

 バーディは両手を上げ、やれやれと肩をすくめた。俺に呆れているのがよくわかる。

 

 何か俺に問題があるなら、教えてほしいものだが。

 

「そうだな、最初から説明してやるか。俺達がどうして高額な報酬で雇われていると思う? その資金源はどこだ? 全て王様か?」

「……む、国王では無いのか?」

「違うよ、それだけじゃない」

 

 それは、バーディの言うとおりかもしれない。俺は資金のやり取りや交渉事は確かに苦手だ。この辺はバーディやフィオ、ルートに任せっきりだ。

 

「俺達勇者パーティはな、主に三つの支持母体がある。一つ目は民衆。彼等は魔族をやっつけてる俺達に好意的だ。寄付金や武器を提供してくれたり、宿を借してくれたり色々協力してもらってんだぞ」

「なるほど」

「そして、民衆からの1番人気はお前さんだアルト。なんてったってウチのパーティの中心だからな」

「……いや、まだ俺には力が足りない。中心などと、過大評価だ」

「そんなことねぇんだがなぁ……。まぁいい、次の支持母体の話だ。王族貴族、コイツらが主な俺達の資金源。民衆の寄付金も有り難いが、コイツらの出す額は桁が違う。その代わり、隙あらば婚姻関係を結ぼうと令嬢を押し付けてきたり……俺たちを政治利用しようするから、あまり頼りたくない相手だな」

「そういえば俺も令嬢を紹介されたな。だが、殆どの娘は俯いてばかりで、心の底では嫌そうに見えた。出来れば、ああいったことはやめて欲しいな」

「いや、あの娘らが俯いてたのは四人からプレッシャーが……。いや、もういいや。最後の支持母体は、この国の軍部だよ。そして、ここでの人気は民衆とは大きく異なり、お前さんが1番嫌われている。何でか分かるか?」

「……俺が、弱いからか?」

「アホ、しょっちゅう手柄を持っていかれるからだよ。俺たちの活躍が広まれば広まるほど、軍部は何をしてるんだと後ろ指をさされる。ヤツらだって必死で戦ってるのに、可哀そうなことだろう」

「むぅ……」

「しかも軍部の大半が男性だ。日常的に女に囲まれてる俺達が妬ましくて仕方ないんだろ。特にお前」

「何故、特に俺なのだ?」

「うん、死ね。んで逆に、軍人から人気があるのはウチの五人娘だな。女日照りの軍部では、訓練とかでアイツらに会えるのが貴重な娯楽らしい。顔だけは良いからな、うちの連中」

「なるほど」

 

 と言うことは、フィオも兵士から人気があるということか。そういえば、あの男も兵士だった。

 

 ……正直に言って、フィオが人気なのは意外だった。彼女と一晩共にするまで、フィオから女性としての魅力を感じたことがなかった。

 

 フィオとの会話は、まるで同性と話すようなのだ。だがその気安さも、大きな魅力になっているのだろう。

 

 現に今、俺は彼女のすべてに惚れ込んでしまっている。

 

「という事はまさか、フィオにもファンがいるのか」

「……ん?」

 

 正直、俺はバーディの話を聞いて少し焦った。

 

 フィオの魅力に気付いているのは、俺だけだと思っていたからだ。まさか他にもフィオ狙いの男がいるとは。

 

 ……不安になってきたぞ。フィオが浮気をしているとは思わないが、彼女は押しにとても弱い。

 

 強引に迫られれば、場に流されて受け入れかねない。そんな事、絶対に許すわけにはいかない。

 

 彼女の人気がどれほどかは分からないが、男の影が有るなら早々に介入して……。

 

「というか、軍ではフィオがぶっちぎりで1番人気だぞ? 8割くらい、フィオ派じゃねぇかな」

「……え?」

 

 フィオが、他の四人を抜いて1番人気? 全体の八割!? 

 

 ……何を言っているのだバーディは。そんな訳がないだろう。

 

 だってあの、フィオだぞ? 

 

「そんなに怪訝な顔をしてやるなよ。まぁ、気持ちは分かるがな……。ほらアイツ、見てくれは可愛いだろ? んでもって、アイツは戦闘が起こる度に何してた?」

「……俺達と共に最前線で闘っていた」

「それじゃ半分だな、50点。アイツはいつも、魔王軍との闘いの終わった後も、真っすぐ兵舎に行って重傷な兵士を夜通し治療してやがるのさ」

 

 バーディの話を聞いて、俺は衝撃を受けていた。

 

 ……知らなかった。フィオがそんなに献身的な事をするとは思っていなかった。

 

「前さ、俺の飲み仲間が負傷したって聞いて、病院に見舞いに行ったんだよ。そしたらさ、フィオの奴が深夜だってのにせっせと働いててさ。オレじゃなきゃ助けられない奴がいる、なんて格好つけたことを言って。毎回、フィオだけで千人近く救ってるそうだぞ」

「……」

「あとさ、戦闘前に兵舎とかに行くと、大概フィオがいて兵士達と笑い合ってるんだ。“大丈夫だよ、そうビビるな。どんな状況だろうと、命さえ有れば助けてやる。ここにオレが居るから安心しろ。”なんつって」

「フィオは、そんなこと一言も……」

「そう言う奴なんだよ、アイツ。寝る間も惜しんで自分達を癒やしてくれるフィオが、兵士達に好かれない訳がない。彼等にとってフィオはお姫様、戦場に咲く花、地獄に現れた女神だ。お前さんが殺したいくらいモテモテな現状でも、背後から刺されてない一番の理由は“フィオを毒牙に掛けてないから”、これに尽きる」

 

 ちょっと待て。そこまで妄信的に慕われているのか、フィオは!? 

 

「なんとフィオのファンクラブまで組織されてるらしい。聞くところによると鉄の戒律があるらしく、1人で抜け駆けしようものなら地獄を見るんだとさ」

「なんだそれは、物騒な」

「さっき一人、金玉つぶされた奴がいたと聞いた。なんでも、フィオと2人で喫茶店で飯食ったんだとよ」

 

 ……。

 

「……ふむ。ではもし、俺がフィオに手を出したらどうなる?」

「奴らを甘く見るな。相手がお前であろうと、殺す気で襲い掛かってくるぞ。……まぁ、捕まれば即座にミンチに加工されるだろうな」

 

 ……。

 

「まぁ、そう言うことだ。そもそもフィオは攻略難易度も超高いぞ? 大人しく他の四人から選んでおけ、それが一番無難だから」

「……そうか。すまん、失礼する」

「あいよ。じっくり悩め、少年」

 

 そうか、フィオはそんなに大人気な兵士達のアイドルだったのか。

 

 ふむ、俺って奴は、フィオに何をしでかしたっけ? 

 

 

 

 

 

 恐喝、強姦、覗き、買春etc……。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 ……今後は、俺もフィオと付き合っていることを隠していこう。それに、多人数相手の戦闘訓練も増やしておくか。

 

 誰だって、ミンチになりたく無いものだしな。

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