【リメイク版】TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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吹雪?

【アルト視点】

 

「大事な話があるんだ。アルト、俺に時間をくれねぇか」

 

 それは、フィオ達が帰って来て早々のことだった。

 

 快活剛胆を体現している天下無双の槍使い、俺の頼れる仲間のバーディが、俺に相談に乗ってくれと頼んできた。

 

 ひどく、思いつめた表情で。

 

「それは、急ぎなのか」

「出来れば、今日中に話をしておきたい」

「……分かった。今夜は、開けておこう」

 

 普段のバーディからは信じられないほど、真剣な表情だ。

 

 この男は普段こそおちゃらけているが、仲間の為ならかなり熱くなる性質を持っている。

 

 真剣な悩みなら、ぜひ力になってやりたい。

 

「……」

 

 本音を言えば今夜はフィオに会って、前のデートの時に強引に迫ってしまった件を謝りたかったが。

 

 ……まだ怒ってるだろうか。愛想をつかされたりしてないだろうか。もし嫌われてたらどうしよう。

 

「……おい、アルト。聞いてるのか?」

「え、あ。すまない、上の空だった、何の話だったか?」

 

 む、いかん。フィオのことを考えていると、ついついぼーっとしてしまう。

 

 自重だ、自重。

 

「はぁ、今夜の話だよ。ゼア・グロッセ・ブラスタ。俺達が集まる店の名前だ、夕刻8時に予約を入れとく。出来れば誰にも見られず、来てほしい」

「ああ、分かった。場所は?」

「このチラシをもっておけ。地図も載ってる、迷うなよ。じゃあ、今夜」

「ああ」

 

 バーディは俺に地図を渡した後、暗い表情で鍛錬場に向かっていった。兵士達と訓練の予定だが、あの様で指導など出来るのだろうか。

 

 こつん、と何も無いところでバーディがよろめく。

 

 重症だ。あの男が、あんなに覇気がない姿を晒したことはなかった。これは、気を引き締めて夜の相談に臨まなければならない。

 

 ヤツの渡してきた紙切れに書かれた地図を頭に入れながら。俺もバーディと別れ兵士との訓練に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……アルト、ヤった女から責任取らずに済む方法を教えてくれぇ……」

「帰って良いか?」

 

 夕刻8時。約束の時間。

 

 約束の店が妙にピンクな通りにあり、かつ女の子が並んでいたので嫌な予感はしていたのだが。

 

 まさか、呼び出されたのがキャバクラだとは思わなかった。入店すると、セクシーな衣装を着た娘が、楽し気に話しかけてきてくれた。

 

 ……香水の匂いがキツイ。ああ、何でこんな事に。

 

「何だよぅアルト! お前まで俺を見捨てるって言うのかよ!」

「見捨てない理由があるか。誰を押し倒したのか知らないが、ヤった事には責任をきっちりとだな……」

「覚えてないんだよ! 酒に酔い潰れて前後不覚になってだな、気付いたらお互い全裸で寝てたんだぞ、そんなんで責任なんかとれるかよ!!」

「……いや、取れよ。明らかにヤってるじゃないか」

 

 ああ。フィオとのデートを先延ばしにして、俺はここで何をやってるのだろうか。というか覇気がなかった原因は、好みじゃ無い女性をヤった後悔なのか。コイツぶっ殺してやろうか。

 

「酒だってそんなに飲んでなかったはずなのに! 旅の疲れなのか? 異様に酒が回るのが早くてだな、うぅぅ」

「なら、今回の任務中の話なのか」

「そうだよ、畜生。なんで俺が貧乳の責任なんぞ……!」

 

 ……待て。

 

 今回の旅に同行した、女性だと? しかも貧乳で、バーディと、仲が良かった女性って……? 

 

「オイコラ貴様ぁ! 誰に手を出したか言え! 言え、早く!」

「オア!? や、止めろ頸が閉まってる、は、放せアルトォォォ!!」

「言えバーディ。貴様、誰に手を出した!!」

「クリハだよ!! あのメイドの!!」

 

 ……そういえば、今回の旅にはあのメイドも同行していたのだったか。なんだ、そっちなら何も問題ないな。

 

「なんだ、なら初めからそうと言え」

「ゲホ、ゲホ。何だっつぅんだよアルト───あ、そっか。お前さんフィオ狙いだっつってたな」

「まぁ、そういう事だ」

「はぁ、まだ諦めてなかったのかお前。無理無理、アイツが男に靡くとか想像も出来ん」

「……そうか」

 

 もう、俺と恋仲なんだがな。まぁ、今はそれを語るまい。

 

「ヘーイ、バーディサン。ズイブン元気、ナイネー?」

「来てくれたかジェニファー!! 傷付いた俺を、君の胸で慰めてくれぇー!!」

「HAHAHA! バーディサンは甘えん坊サンネー!」

 

 宴もたけなわになると、俺達の席に彫りが深い爆乳の美女が現れた。彼女はバーディの隣に座り、肩を寄せて耳元で何かを囁いている。

 

 ……ジェニファーさんが来てから、一瞬でバーディの顔が明るくなったな。これ、俺がここに居る意味あるか?

 

 ああ、俺は一体何をやってるんだろう。

 

 俺もフィオに会いたい。そして癒されたい。

 

「ソコの、格好いいオニーサンも、ズイブンションボリネー?」

「……ああ。自分が存在する意味に、悩んでいるんだ」

「オーゥ、ソレは誰シモ一度はマヨウ事でショー。ケレド、誰にも必要とサレナイ人間はイマセーン。元気、出してクダサーイ」

 

 ジェニファーさんはそう言って、よしよしと俺を慰めてくれた。

 

 ありがとう、その通りだけどそうじゃない。

 

「何だよアルト、俺からジェニファーまで奪うのか!? お前はもうモッテモテなんだから我慢しろ畜生め!」

「いや、その。なんだ、俺が今悩んでいる原因はお前なんだが」

「うるっせー! いつも一人だけいい思いしやがって」

「面倒くさいな、この男」

 

 つまるところバーディは、自分のヤらかした事の責任を取りたくないと、愚痴りたかっただけらしい。

 

 彼は大きなボトルワインを頼むと、ジャニファーと共にグラスを開け、騒ぎ出した。

 

「喧嘩は、良くないデース。ジェニファーは、皆のジェニファー。リピートアフタミー?」

「ジェニファーは皆のジェニファー……。うおお! ジェニファーちゃーん!」

「HAHAHA! お触りは、NOデスよ?」

 

 ……俺はジャニファーの乾杯の音頭に合わせ。

 

 死んだ目で、ゆっくりグラスを掲げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 バーディはその後もずっと、ジェニファーさんに愚痴り続けた。最低な愚痴なのに、ジェニファーはうんうんと頷いて優しく慰め続けた。プロってすごい。

 

 程よくワインを飲み続けた後、やがてバーディはジャニファーの膝枕で寝息を立て始めた。

 

 ……結構な額になるぞ、お会計。まさか俺も払うのか? ……ああ、やってられない。

 

 

「アルトサン、難しい顔、シテマスネー。何か、悩みがあるナラ、聞きマスヨー」

「ジェニファー……」

 

 悩みと言うか、疲れというか。フィオに会いに行きたいというか。

 

 そうだ。どうせ金をとられてしまうなら、少しフィオのことを相談してみるか。

 

 バーディも、酔いつぶれて聞いていなさそうだ。

 

「その、ジェニファーさん。実は最近、恋人を怒らせてしまいまして。どう謝ろうかと悩んでいます」

「ンー? ハハァ、アナタにはキュートなガールフレンドが居るのですネー。オーライ、オーライ」

 

 俺の悩みを聞くと、ジェニファーは歯を光らせて笑った。

 

「謝るヨリ、喜ばせマショー。サプライズでデートに誘っテ、グッと彼女を胸に抱イテ、情熱的に謝リ、愛を囁イテベッドに誘う。これで、万事オッケーよ!」

「いや……、彼女はベッドがあまり好きじゃないんだ。というか怒らせた原因は、調子に乗って迫りすぎたからなんだ」

「オーゥ、シット! それはダメネー。無理矢理は、良くナイ。ソンなんじゃ、百年の恋も冷メチャウヨー」

 

 強引に誘った事を離すと、ジェニファーさんは顔をしかめて首を振った。

 

 やはり、デートの時の一件はよくなかったな。

 

「なら俺は、どうしたら誠意を示せるだろう?」

「まず信用を取り戻しマショー。紳士的に、お姫様を扱うヨーニ、彼女を大事にシテアゲマショー。次からベッドに誘う時も、紳士的にアプローチして、優シク誘うと良いデース」

 

 ジェニファーの話に、俺はフンフンと頷いてメモをとる。やはり、本職の女性は頼りになるな。

 

 勇者パーティに、恋愛関係で相談できる人はいない。今のうちに、いろいろと聞いてみよう。

 

「ありがとう、ジェニファーさん」

「ドウイタシマシテー」

「他にも聞いておきたいことがあるのだが……」

「何デモ聞いて下サーイ。その代わり……?」

「ああ、好きなものを頼んでくれ」

 

 そう言うと彼女は、メニューから高価そうなワインを注文した。

 

 何というかジェニファーは、凄くパワフルだな。笑顔がまぶしい。

 

 彼女はこの笑顔で、疲れた冒険者を癒しているのだろう。きっと、大変だろうな。

 

 ……そう言えばフィオは、どんな顔で笑うのだろうか。

 

 俺は少し照れながら、ニシシと口元を曲げ、甘えたように身体を寄せてくるフィオの笑顔を想像した。

 

 どうやら俺はもう、相当フィオに頭を焼かれてしまっているらしい。

 

 隣に居るのがフィオなら、どれだけ今日は幸せだったか。

 

「ヘイ、ホールドミー!」

 

 恋人に想いを馳せていると。ジェニファーは豊満なバストを広げ、腕を開いた。

 

「え、えっと、その」

「彼女に、謝ル元気、分けてアゲマース。ハグミー、ドーユゥアンダスタン?」

「えっと、その。俺には、恋人が居て……」

「ノンノン、ハグは、挨拶。カモン、腕を開きっパナシはシンドイデース」

「え、ああ」

 

 ふむ、挨拶ならば仕方ない。彼女に急かされるまま、俺は体を預けジェニファーに胸いっぱい抱き締められた。

 

 その豊満な弾力はまさに宇宙的な神秘を秘めた超新星爆発であり、俺が今まで体験したことの無い理想郷(アルカディア)へと誘う扉であった。

 

 顔にピッタリと吸い付いて、形を変えズブズブと肉の中に埋もれていく感触。母体の中のような温もりと、男の下半身をくすぐる刺激が混ざり合い、弾け飛んだ。

 

 まさに、ビックバン。

 

 ……そうか。これが、巨乳か。これが、女性の胸か! 

 

 

「────っ、ぷはっ!!」

「オーウ、少し元気出た顔になったネー。アルトサン、グッドラック! 私は、応援シテマスヨー」

 

 凄まじい、体験だった。俺は、目の前で微笑むジェニファーと、その胸を。

 

「ありがとうございます」

「ワッツ?」

 

 取り敢えず、両手を合わせ無言で拝んでおいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 

 

 結局、俺はジェニファーさんに一晩中フィオの相談を続けた。

 

 帰り際に会計額を見て目玉が飛びでたが、良い経験だったと思う。

 

 正直なところ水商売の人に、あまり良い印象はなかったけれど。

 

 毎日毎日、疲れた人間の心を癒すのは簡単なことではない。彼女達は俺達と同じように、目の前に居る人を救っている。だからこそ、商売が成り立つのだ。

 

 俺は店を後にしたあと、彼女らに確かな敬意を覚えた。

 

 

「ふぃー、財布がスッカラカンだぜ。アルトが夜通し嬢に付き合わせるなんて意外だったな。背負って帰って貰おうと思って、お前を呼んだんだが」

「2度とそんな目的で俺を呼ぶな。まぁ、良い社会勉強になったから今回は良しとするが」

「プックク、まさかアルトがキャバにハマるとはな。次から声かけるようにするぜ」

「いや、結構。良い経験になったが、1度で十分だ。もう行くことは無いだろう」

「照れるなって、ボンヤリとだが一応見てたんだぜ? お前がジェニファーちゃんに……」

「なぁバーディ、何を見てたんだって?」

 

 

 バーディと並び。アジトへと戻る道すがら。

 

 俺が聞きたくて堪らなかった、愛しい少女の声がした。

 

「うお、フィオか。珍しいな、こんな朝っぱらから」

「まぁ、ちょっと野暮用でな。それよりお前ら、珍しい組み合わせだな。何処に行ってたんだ?」

「昨日誘っただろうが、ゼア・グロッセ・ブラスタだよ。ジェニファーちゃんに、久々に会いに行ったんだ。相変わらず、すんごい爆乳だったぜ!」

 

 振り返ると、そこには白魔導服を着た少女─────フィオが立っていた。

 

 フィオはにこにこと、不自然なくらい明るい口調で俺達に話しかけてきた。

 

「珍しいな、アルトも行ったのか。ゼア・グロッセ・ブラスタ」

「ああ、結構楽しんでたみたいだぜ。ジェニファーちゃんと一晩中イチャイチャしてやがった、他の四人娘には見せられねぇ姿だったな」

「ふぅん」

 

 そうか、昨日の飲み会にはフィオも誘われていたのか。どうして、彼女は来なかったんだろう?

 

 ああ、そうか。そういえば確か、俺がフィオにそういう店に行かないでくれと、懇願したんだったよな。

 

 なるほど。ソレで、昨日フィオは、バーディの誘いを断ったのか。

 

「ふぅーん」

 

 チラリと、目が合う。愛しい、恋人と。

 

 

 

 

 無邪気な笑顔で人懐っこくバーディに微笑む、金髪を揺らす純白の少女。

 

 その彼女の瞳だけは、ブリザードが吹き荒れる荒野の如く、冷徹で無感情な眼だった。

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