【リメイク版】TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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身売り?

 誰かに心を預けられるのは、どれだけ幸せなことだろう。

 

 誰かを愛することが出来るってのは、それだけできっと幸せだ。

 

 だから、気付かない振りをするのは、間違った選択ではないはずだ。

 

 

「……何かあったのか?」

「どうしたアルト、いきなりそんなこと聞いて」

「いや、その。何だ、フィオが元気がないような」

「気のせいだろ、変なアルトだな」

「そうか。……そうか?」

「ああ。気のせいだ、気のせいだとも。ただちょっと────舞い上がっていたのかもな」

 

 だから、オレは、このままで良い。

 

 誤魔化されてあげよう。騙されてあげよう。

 

 アルトの言葉を鵜呑みにさえしていれば、きっと上手く隠してくれるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 白魔道士は一人、悲しい覚悟を秘めて今日も恋人に寄り添う。

 

 もうすぐ、バーディの示した恋人発表の期限だ。きっと、アルトは上手く誤魔化す手段を考えているんだろうな。

 

 ふと目を離した瞬間、彼はきっと別の女性に愛を囁く。

 

 ならば今この瞬間だけは、自分に向いているその視線を、いじらしく享受していよう。

 

 全て、つつがなく誤解である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言う訳なんだクリハさん。どうしたらオレ、捨てられずにすむかなぁ」

「その展開は予想しておりませんでした」

 

 オレの恋人が何股かけているかわからない件。その事実に枕を涙で濡らしたオレだったが、それをアルトに問い詰める度胸はなかった。

 

 ……本当に不覚なことに。オレはヤツに、心を預けすぎていらしい。

 

 『不貞を働かれていてもいいから、捨てないで欲しい』という気持ちが勝ってしまったのだ。

 

 そんな折にクリハさんから飲みに誘われ、オレは相談に乗ってもらっていた。

 

「私としては、その、バーディ様にくっつかれる恐れがあるので勧めたくないのですが。……勇者アルトと別れたほうが良いのでは? この先きっと、不幸な目に遭うだけですよ」

「……クリハさんなら別れるのか? 相手をバーディに置き換えて、オレの立場だったら」

「いえ、私なら監禁と闇討ちで対応します」

「はは、面白いなクリハさんは。本気で言ってそうに聞こえたよ」

 

 クリハさんの冗談で、少しだけ和んだ。彼女も、鈍感クソ野郎バーディの件で相談があったはずなのにオレばっかり話を聞いてもらって申し訳ない。

 

 でも、誰かに相談しないと、やりきれなかった。

 

「私たちメイドにも、よくあることなのです。貴族の坊ちゃんに誑かされて、都合のいい夜の相手として扱われる。そういった娘は周りが見えていなくて、その悪い男に何でも言いなり」

「……アルトは、オレのことをそんな風に見てるのかな」

「さぁ? ですが、何股もかけている時点で誠実な男ではないかと。そして、最後には……」

 

 クリハさんは、少し脅すように、こう続けた。

 

「娼館で、体を売らされる娘もいました。貴族の坊ちゃんに、金がどうしても必要だからと頼み込まれ、騙されて。その娘は、今も身売りされたままです。今もその貴族が迎えに来てくれると信じて、娼館で働いています。貴族の方は、その娘を身売りした金で新しい女を囲っているのに」

「そ、そんなのって!」

「殿方は、時にどこまでも女性に残酷なのです。愛情より、性欲が前面に出ている方は、特にそう」

「でも、アルトは、そこまでするような奴じゃ……」

「……剣士マーミャと、勇者アルトが婚約した。そんな噂が、数日前に王宮で流れていましたよ? 即座に火消しされ、もう箝口令が敷かれていますけれど。勇者アルトは、レイ様だけじゃなく、マーミャ様にユリィ様、場合によってはリン様やルート様にまで手を出していてもおかしくはない」

「……嘘」

「残念なことに、事実です。……同情しますよ、同じ女性として」

 

 猫目のメイドは、ポンとオレの頭を撫でて、優しく抱き締めてくれた。

 

「また何かありましたら、私に気軽にご相談ください。力になれることであれば、協力しますので」

「……あり、がとう。クリハさん」

 

 そう言って彼女は、席を立つ。これから仕事に戻らないといけないらしい、貴重な時間を潰してまで話を聞いてくれたクリハさんには感謝だ。

 

 なんとか笑顔を作って彼女に手を振り、オレは独り酒場に残る。

 

 ……別れる、か。それも、選択肢の一つなのかもしれない。でも、でも。

 

 アルトが、今更隣に居てくれないなんて考えたくない。奴ならきっと、オレを騙したまま、幸せにしてくれる。うん、大丈夫。

 

 アルトに抱かれた感触は、アルトを受け止めたこの体躯は、色濃く記憶に刻まれている。もう、遅い。もう、別れるなんて、考えられない。

 

 オレはアルトの所有物(モノ)だ。

 

 だから、どう扱われたって彼の傍にさえいられれば、それで幸せで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼みがあるんだ、フィオ」

 

 その日の夜、アルトはこっそり、オレの部屋へと忍び込んできてくれた。今日もするのだろうかと、笑顔を作り服に手をかけたその時。

 

 彼は部屋に入るや、真剣な表情で頭を下げた。何でも、オレにして欲しいことがあるのだとか。

 

 ……別に頭なんか下げなくても、やれと言ってくれれば良いのに。何でもする覚悟はある。

 

 何なら本当に、身体売らされたってかまわない。それがアルトの隣に居る条件なら耐えて見せる。

 

「……いいよ、アルト。何でも言ってくれ、何でもやるから」

「助かる、その、何だ」

 

 だってオレは、アルトが好きだから────

 

「ちょっと一肌脱いでもらって、日頃の慰安を兼ね兵士連中の相手してやって欲しい。何、すぐ終わるから」

 

 どんな、ことだって。

 

「……アルトは、それでいいのか?」

「ん? ああ、そうしてくれると助かるな。大丈夫、俺も近くで見ててやるから」

「あ、そう、なんだ。お前、近くにいて見てるんだ」

「勿論。それにフィオ、お前はこういうの、好きだろ?」

「え、あ、あ。は、はい、好き、かな」

「じゃ、頼んだぞ」

 

 顔から血の気が引いていく。いきなり、どうしてそんな残酷なことを? 昨日までそんな素振りなんて無かったのに、何で。

 

 気付いて、居たんだろうか。オレが、アルトとレイの現場を見ていることを。奴が探知魔法を使ってさえいれば、オレの存在に気付くことなど容易な事だ。

 

 それでなお、気付かない振りをするオレを見て。自分に従うと踏んで、それでいきなり────? やっぱり、ココで別れておかないと、ココでアルトから逃げないと、オレはきっと不幸な目に? 

 

 ……でも。

 

 でも、実は、そんな目的じゃなくて、単にアルトがそう言う趣味なのかもしれない。NTRと言うのだろうか、前世のオレには理解できないジャンルだったが、恋人が別の男と寝るのに興奮するのだとか。変態なアルトのことだ、そうであってもおかしくない。

 

 うん、きっとそう。アルトは、他の男に抱かれるオレを見て、興奮する性癖なだけ。だったら、ちゃんと応えないと。

 

 応えないと、捨てられるかもしれないから。

 

「なぁ、アルト」

「どうした?」

「オレ、頑張るから。一生懸命頑張るから、見ててくれよ?」

 

 声の震えを押さえて、オレはなんとかアルトの前で笑う。

 

「ああ、楽しみにしてるぞ、フィオ」

 

 そう言ってアルトも、残酷に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘーイ!! 皆ノってるかい!?」

「「イエェェェェェェイ!!」」

 

 その、翌日。一晩悶々と決意を固めていたオレは、アルトに手を引かれ、大げさな舞台に連れてこられていた。

 

 オレはもっと、小規模だと思っていた。奴の言い方から複数相手なのは覚悟していたが、精々軍属の偉方か、金持ってる人間数人に囲まれる程度だと思っていた。目の前に一面に広がるのは、視界を埋め尽くさんばかりの大群衆。ざっと数百はいるだろう。

 

 ……まさか、全員相手しろなんて言わないよな? ボロキレになるぞ、オレ。

 

「皆の期待に応えて、なんと彼女が来てくれた!! ヒュー!! 信じられるかい、オレ達のアイドル、勇者フィオちゃんだ!!」

「うおおおおお!!」

「踏んでくれ!! 舐めてくれ!!」

「娘になってくれぇぇぇぇぇ!!」

 

 何より、この兵士たちのテンションがおかしい。知ってる顔もチラホラ、一緒に酒飲んで騒いだ奴もいるし、共に戦場で背中付き合わせた奴もいる。

 

 顔見知りの前で、そういうコトさせられるのイヤだなぁ。と言うか、アルトお前は……。

 

「イエエェェェイ!! 下品なヤジは、NGだぜ野郎ども!!」

 

 逆三角形の変なグラサンをかけ、黒いシルクハットを被った派手なタキシード姿で、異様なテンションのまま司会をやっているオレの恋人に目をやる。キラリ、とオレの視線に気づいたヤツは歯を光らせ笑った。

 

 何やってんの。コイツ、マジで何やってんの? イエエェェイ、じゃねぇよ。

 

「さぁて、今日はみんなのリクエスト通り、勇者フィオのオンステージ!! 忙しい彼女が、時間を割いてまでここに駆けつけてくれた!! さぁ皆、まずは拍手だ!!」

 

 その、アルトの掛け声とともに割れんばかりの拍手音が、せまい劇場に鳴り響く。と、同時にパァンと舞台の脇からクラッカーが鳴り、更に熱狂し大興奮する兵士たち。

 

 何だコレ。このテンションでヤられるのか、オレ。どういうプレイなんだ。

 

「えっと、その、アルト?」

「ノン、ノン。俺は謎の司会者、Mr.ART(アート)さ! さぁて、なんだいフィオ? 聞きたい事でもあるのかい?」

 

 山ほどあるわ。さっきからのその、妙にアメリカンなキャラは何だ。いや、そもそもの話、

 

「この催しは、何なんだ?」

「おいおい、ココにきて今さら何を言ってるんだい? フィオトークショー IN 王都城! 今日のチケットにはプレミアがついてるんだぜ、皆が給料をはたいてここに来てる! 皆フィオのファンさ、凄い熱狂だろ?」

 

 そう言ってアルトは再びキラリと歯を光らせた。

 

 ……トークショー? 相手、して欲しいって、そう言うアレ? 

 

 オレが昨日、涙をこらえて固めた覚悟のやり場は、何処? 

 

「……ろ」

「……ん? 何だい、フィオ────」

 

 ぷるぷると、怒りで頭が震える。良いよな、これはキレて良いよな、オレ。

 

 正中に拳を構え。変なテンションの恋人の鳩尾めがけ、(メル)直伝、渾身のブローを放つ。

 

「依頼の内容は! 一言一句正確に! 伝えろお馬鹿ぁ!!」

「ノォォォォォ!?」

 

 もうちょっとで脱ぐところだっただろーが!! この大馬鹿野郎!! 

 

 

 

 その日。訓練を頑張る兵たちの為に呼ばれた旅芸人がたまたま遅刻し、代わりに急遽開催された白魔導士フィオのトークショーは、兵士の間でチケット争奪戦が発生する大騒ぎとなった。

 

 そのプレミアショーは、フィオとMr.ARTのドつき漫才により開幕。劇場は大いに盛り上がり、兵士たちにとって忘れられない伝説の一日となった。

 

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