【リメイク版】TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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後日談「男の意地」

【アルト視点】

「貴殿を勇者アルトとお見受けする。拙者、王宮警備隊12番隊副隊長、豪炎のガルドと申す者」

「そうか」

「勝手は承知しているが、どうか拙者の挑戦を受けて頂きたい。返答や、如何に?」

「……分かった、受けよう」

 

 俺が剣を構えたのを見て、男は満足そうに笑った。

 

 彼は無言で剣の柄を握り、俺達は相対する。緊迫した空気が、訓練所を包み込む。

 

「いざ」

「尋常に……」

 

 そして多くのギャラリーが見守る中、闘いが始まった。

 

 激しい剣閃が轟き、無数の風切り音が木霊する。

 

 

 何故俺は、いきなり決闘を申し込まれているのか。それは、バーディの流した噂が原因であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーディ、少し尋ねたいのだが」

「何だよ、英雄様?」

 

 以前から手合わせを求められることは多かった。だが最近、妙に回数が多くなったのだ。

 

 俺も休む暇もなく、ひっきりなしに挑戦され続けるのだ。

 

 気になったので兵士の事情に詳しいバーディに、理由を聞いてみた。

 

「……俺は英雄じゃない、俺が助けたのはフィオだけだ。俺が何もしていなくても、世界はフィオに救われていた」

「はいはい。で、聞きたいことって何だ?」

「ああ。最近、妙に試合を挑まれることが多くなってな。それも、全員がフィオのファンらしい。バーディ、心当たりはあるか?」

「あー、心当たりしかねーわ」

 

 以前、バーディはフィオの人気について話してくれた。そんな彼なら、何か知っていて不思議ではない。

 

 案の定、バーディは何かを知っている様だ。

 

「ああもひっきりなしに挑んで来られると、フィオといちゃつく時間が取れない。何とかしたい」

「そりゃ無理だ。むしろ、今の状況はマシな方だぞ? お前とフィオの関係が公になったら、内乱勃発まで有り得たのに」

「そんなにか。フィオの人気はそんなレベルなのか」

「ああ、そんなにだ。ところがどっこい、奇跡的にデモすら起きてない。それはお前さんの功績だけどな」

 

 バーディはそういうと、トンと俺の胸を叩いた。

 

「俺の?」

「ああ。お前さんがフィオを救おうと星を叩き切った瞬間を、みんな見てたからな。だからお前とフィオの関係が明るみになった時、フィオファンの約半分は受け入れてくれたんだよ」

「半分……」

「ああ。そいつらはフィオを恋愛対象(あこがれ)として見てた連中ではなく、可愛い娘(マスコット)のように可愛がってたオッサン世代の兵士だ。歳を食ってるだけあって、地位も発言力も高い。上官がフィオの恋愛を受け入れたら、自然と下っ端も押さえつけられるって訳だ」

「なるほど。それは……ありがたい話だ」

 

 そうか、ファン全員がフィオを恋愛対象に見ている訳ではないのか。あのライブにも、娘になってくれと絶叫している将軍が来てたな。フィオに白い目で見られていたが。

 

「この半分ほどの連中は穏健派と呼ばれ、今のフィオファンの主流だな。お前が余程やらかさない限り、今後この連中がお前に手を出してくることは無いだろ」

「それは良かった。安心した」

「だが、穏健派は半分だけだ。他にもいくつか派閥があるぞ。例えば、『フィオがNTRされた事に興奮する派』の連中。コイツらは、お前とフィオの情事を想像して興奮しているらしい。近寄らない方が良い」

「王都兵は大丈夫なのか?」

「最も危険な連中は、『力ずくでフィオを襲って寝取ってしまえ派』の奴らだろう。フィオが一人になった瞬間、複数人で襲う計画を立てていたヤベー連中だ」

「……何だと? おいバーディ、そいつらの名前と居場所を教えろ。分かってる範囲で構わん、今すぐ皆殺しにしてやる」

「落ち着け、こいつ等はもういない。穏健派の連中が、血祭りにあげて山に埋めたらしいから」

「穏健派とは一体……」

 

 ……もうフィオを脅かす奴がこの世に居ないなら、それで構わんが。

 

「だが穏健派にも属さず、フィオも諦めきれないヤツも当然存在している。そういった連中が、お前に模擬戦を挑むんだ」

「何でまた、模擬戦?」

「ソレなんだがな。俺が『フィオは強い奴が好きだ。アルトに勝てたら振り向いてくれるんじゃねーか?』って噂を、兵士の間に流しておいた」

「……お前が?」

「感謝しろよ。フィオに何するか分からない連中の行動を、お前に挑んでいく方向で固定してやったんだ。その方が安全だろう」

「……道理で、道を歩くだけで山のように果たし状を手渡されるわけだ。だが、ナイス判断だバーディ。フィオに迷惑がかかる状況よりずっと良い」

「だろ? 穏健派の連中も、そいつらの気持ちは分かるからかお前への挑戦は容認している。比較的健全な行動だしな」

 

 ……まぁ、フィオに被害が行く可能性もないしな。

 

「と、言う訳だ。暫くは忙しいだろうが、惚れた相手がフィオなら黙って受け入れろ」

「分かった。恩に着るぞ、バーディ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いう話を聞いた俺は、せっせと現れる挑戦者を撃破し続ける日々を過ごしていた。

 

 魔王がいた時より、ずっとハードな日常になっている。だが、腕利きがこぞって挑みに来てくれているのは、鍛錬として申し分ない。

 

 今闘っている男も、親衛隊の副長クラスだ。太刀筋も鋭く、見切りもうまい。

 

 後ろに挑戦者の列が出来ているのが惜しくて仕方がない、この男ともう少し打ち合ってみたかった。

 

 ……案外、俺は現状を楽しんでいるのかもしれない。毎日のように猛者達が挑戦してくれるのは、良い経験になる。

 

 戦士である以上、自らの剣の上達はやはり嬉しいモノである。

 

 だからこれも幸運と考えておこう。何事も、ポジティブに受け止めるのが人生を楽しむコツだ。

 

 やがて剣戟の弾く音は鳴り止み、俺は男の武器を両断した。そのまま彼の首筋に剣を突きつけ、決着。

 

 俺は剣を引き一礼すると、男は床に伏したまま「手合わせ、感謝する」と一言だけ呟いて、悔しそうにその場を去った。

 

 少し声が震えていたな、泣いていたのだろうか。いや、野暮なことは考えないでおこう。俺にはまだまだ挑戦者が待っているのだ、切り替えねば。

 

 

 

「我こそは王都親衛隊9番隊小隊長、ラオ。いざ尋常に手合わせをお願いしたい」

「わかった。受けよう」

 

 

 ギャラリーの中から、一人の男が姿を現す。彼が次の挑戦者だろう。

 

 俺は、その男に向き合い、再び剣を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【フィオ視点】

「なぁ、バーディ。最近アルトが構ってくれないんだが」

「うるせぇフィオ。暇なら一人で色町にでも行ってろ」

 

 アルトが星を斬り、国を救って一か月ほど。

 

 オレ達勇者一行は勲章だのをたくさん貰って、貴族的な立場になっていた。

 

 そして王国各地に行かされて、凱旋という名の羞恥プレイを強いられる日々を過ごした。

 

 来る日も来る日も社交パーティの毎日。ストレスで胃が焼け爛れるかと思った。

 

 最近になってようやく凱旋ラッシュも収まり、自由な時間が出来た……のだが。アルトは恋人であるオレを放ったらかしにして、来る日も来る日も修行に明け暮れている。

 

 おかしい、こんなことは許されない。

 

「お前からもアルトに言ってくれよ、魔王軍も撤退したし今更修行する必要なんかねぇだろって」

「自分で言えばいいんじゃねぇの? まぁ、もう少ししたら落ち着くから待っててやれ。つまりアレだ、兵士連中も男の子なんだよ」

「男の子だぁ? ……ああ、なるほど。これからは大規模な戦闘もなくなるだろうし、アルトの腕も衰えていく一方。アルトが最強であろうこのタイミングで勝負を挑みたいんだな。全盛期のアルトと試合したとなれば、そりゃあ良い自慢になる」

「……お、そうだな。そんな感じのアレだ。アルトが女にうつつを抜かしてるならともかく、兵士の想いに真面目に向き合ってるんだ。恋人ならどっしり構えて、黙って見てろ」

「むぅ。でもなぁ、最近あんまり話せてないし、一日くらい……」

「そんなの自分で言えハゲ」

「だって、面倒くさい奴と思われたらヤだし」

「大丈夫だ、お前は既にかなり面倒くせぇ」

「良いから、お前からアルトに上手いこと言えよバーディ。お前に面倒がられた所でオレは痛くも痒くもねぇ」

「そしてタチ悪ぃ……」

 

 何でもいいから、アルトとイチャイチャしたい。上手くアルトにこっち見てもらう方法はないものか。

 

 バーディの部屋でワインを貪りながら、オレはウンウンと頭をひねっていた。

 

「あ。そーだ、良いこと思いついた」

「あん? ……よく分からんが止めた方がいいと思うぞ。こう言う時のお前の思いつき、ほぼ空回るだけだから」 

「空回らねーよ。なんで思いつかなかったんだろ、こうしちゃ居られねぇ。よし、アルトに会いに行ってくるわ」

「あっ。……変なことしなきゃいいんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アルト視点】

「無念……」

 

 これで本日、7人目の相手を撃破。訓練場で俺に挑もうと並んでいる人間も、大分少なくなってきた。

 

 何やら彼等も話し合って、挑戦者は日に10人前後になるよう調整してくれているらしい。地味にありがたい。

 

 さて、次の挑戦者は……? 

 

「やっほアルト」

「……む」

 

 随分と意外な顔だった。いつもの様に気さくに笑いかけてくる次の挑戦者は、真新しい剣を片手で抱えていた。

 

「ルート? なぜお前が……、いや。まさか、そういうことなのかルート?」

「うん。意外かい、アルト?」

「正直、意外だった。……ルートお前、剣振ることなんて出来るのか? 近接戦は、事故ると死ぬぞ?」

「余計な心配はいらない。ただ君は、全力で僕を迎え撃って欲しい。付け焼き刃だが剣術の基礎は学んだし、急ごしらえだが剣も打って貰った。僕は、君に挑む剣士としてここにいる」

 

 ルートは、新品であろう剣を抜き、悠然と構えた。構えに少し粗は目立つが、成る程、基本的なことは出来ている様だ。構えを見れば、その剣士の練度はだいたい分かる。

 

「そうか。無粋なことを聞いてすまないルート」

「良いよ。正直、君とフィオの関係はすごく意外だったけど……。うん、君ならまぁ納得出来るかな。僕は踏ん切りを付けに来てるんだ、手を抜かないでくれ」

 

 そう、複雑な笑顔を俺に向けたルートは、後ろ足に体重を乗せ、重心を低く落とした。

 

 ……来るようだ。

 

「いざ、尋常に」

「ああ。来いルート」

 

 その一言を合図に、女顔の剣士は1歩、鋭く踏み込んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数合打ち合った後。

 

「……参った。あーあ、やっぱりアルトは強いな」

 

 俺の目の前には剣が折れ、地面にしゃがみこんだルートが居る。

 

 正直、かなり強かった。失礼なことに、俺はルートを侮っていたらしい。

 

 ルートは片手で剣を握り、もう片方の手で小さな球を放り投げる独特の戦闘スタイルだった。精霊のアシストなのか、球の軌道が複雑怪奇に捻り狂い、的確に俺の剣技を妨害してきた。 

 

 初めて見る、初めて戦う戦闘技法。俺と戦う為だけに新たな技法を習得してくるという、ルートの本気ぶりが伺える戦いだった。

 

 彼は何度も俺達のパーティの危機を救い、支え、そしてパーティで魔王討伐に最も貢献した勇者。そんなルートが、苦手な近接戦だからといって弱いはずがないだろうに。

 

「いい試合だったルート」

「よしてくれ、慰めは。ああ、案外クるな……悔しさ。戦ってくれてありがとう、アルト」

「ああ」

 

 ルートは裾を軽く払って立ち上がる。その頬には、一筋の光が走っていた。

 

 ……これ以上言葉を交わす必要はないだろう。俺はルートから顔を背け、次の挑戦者へと目をやる。

 

 

 本日最後の相手であろう、その男は無言で壁にもたれ佇んでいる。

 

 全身フードの小柄な男だった。凄く不気味なその兵士は、体から剣気のかけらも感じない。さては、魔法使いだろうか。

 

 

「次の挑戦者はお前か」

「……おう」

 

 そのフードの男は一言だけ喋り、俺の前へと歩んできて。

 

 俺の正面に立ったかと思うと、バサリとフードをまくりあげ、その正体を現した。

 

「剣士だと思ったか!? 残念、オレだ!」

 

 

 

 

 ……その怪しいフードの中から出てきたのは、ドヤ顔で手を組んでいるフィオだった。

 

 

 

 

「フィ、フィオ!?」

「ちょ……?」

「踏んでくれ!」

「舐めてくれ!!」

「結婚してくれぇぇぇぇ!!」

 

 場が阿鼻叫喚に包まれる。そりゃそうだ、なぜココに来たのだフィオは。

 

「え、フィオ? 俺と戦いに来たの? と言うか、お前はこの催しの意味を理解しているのか?」

「意味? あれだろ、全盛期のお前と戦っときたいって言う熱い催しだろ? ルートまで来てるとは驚いたぜ、お前もやっぱ男の子なんだな」

「……あー。この場面だけは、君に見られたくなかったんだが。何で来るかなぁ、空気読んでよフィオ」

「え、何で凹んでるのルート。あ、あれ? あんまりオレは歓迎されてないかんじ?」

 

 ……まぁ、この場の連中からしたらそうだろうなぁ。

 

「な、何だよ! オレがアルトに喧嘩売ったら悪いのかよ!」

「悪いというか、何というか。俺に喧嘩売りたいだなんて、フィオ、何か俺に不満でもあるのか?」

「あるよ! 最近全然遊んでくれないじゃんか、もっとオレに構えよ馬鹿やろー」

「うおう、急に部屋に殺気が沸き立った」

 

 可愛くプリプリ怒ってるフィオのせいで、この部屋の俺へのヘイトが際限なく高まっている。これはよくない。

 

 そか、此処に来た連中はフィオのファン。フィオを怒らせたから、彼らも怒っているのだ。

 

 確かに最近、殆どフィオに時間を取ってあげれなかったな明日くらいは兵士に我慢して貰って、フィオとデートしてもバチは当たらないだろう。

 

「わ、分かったフィオ。明日は、一緒にどこかへ出かけないか?」

「そうだよ! その言葉が欲しかったんだよ! もー、たまには二人の時間作ってくれないと拗ねるぞ」

「わ、悪かった……」

 

 彼女は口ではまだプリプリと怒っているが、俺の答えを聞くと嬉しそうにニヘラーっと笑顔になった。

 

 よし、上手くフィオの機嫌を戻せたようだ。これでフィオファン達の怒りも収まってくれるだろう。俺だって本当は、もっとフィオと一緒に居たかったのだ。

 

 

「「……」」

 

 

 ……あれ? 殺気がむしろ増してきたな。どうしよう。

 

「なぁルート。この状況はまずい、どうすれば上手く治められるだろう?」

「僕が知るもんか」

「……ルート、お前まで怒ってないか?」

「うるさい」

 

 残念なことに頼れる俺達の案内人ルートも、今日は機嫌が悪いようだ。

 

 

「よっしゃ、じゃあ今日はこれで手打ちにしてやるぜ。明日、絶対だからな! 嘘吐いたら泣くぞ?」

「あ、ああ」

「そんじゃあ引き上げるわ。皆、無粋に割って入って邪魔して悪かった!」

「あ、フィオ帰るのか。この状況で俺を放置していくのか」

 

 

 嬉しそうに鼻歌を歌いながら、俺の彼女は訓練所を去っていった。

 

 

「「……」」

 

 

 

 どうしよう。フィオが去ってから、訓練場の空気が凍てついている。あのルートですら、無表情な顔で俺を直視している。

 

 俺が何か、言葉を掛けないといけないか。そして、この場の空気を取り戻さないといけないのか。

 

 嫌な予感がする、このままだと明日俺はデートに行けるか分からない。

 

 ……よし。ここは一つ、小粋なジョークで場を和ませよう。

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳だ。オレとフィオに免じて、明日は俺との勝負を控えて欲しい。そう……」

 

 

 俺は、決め台詞を言うために、カッと目を見開いた。

 

 

 

 

 

「明日の勝負は、日を改(フィオアルト)めてくれ! 俺とフィオだけに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、多対一とはいえ俺は久しぶりに敗北しボコボコにされた。こんなに手酷い敗北は、幼いころ以来かもしれない。

 

 俺が激うまジョークを発した直後、あの場にいた全員が激高して襲いかかってきた。俺は爆笑を期待していたから、反応が遅れてしまった。

 

 次の日、俺は瀕死の重傷でフィオとの待ち合わせ場所に辿りついた。久々のデートは、『死神殺し』モードのフィオによる俺への救急治療から始まった。

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