「カバー株式会社代表取締役社長、谷郷元昭です。よろしくお願いいたします。狩人さん」
そう言った谷郷社長に対する狩人の反応は素早かった。しまってあった武器を取り出し、各種強化を施し、対上位者、対神秘の戦いを想定する。なにしろ
「やはりあなたには彼らが見えているのですね?」
おろおろするのどかを見るに彼女には見えていないらしい。啓蒙が足りていないようだ。だが狩人にははっきりと見えていた。
「精霊、と私は名付けて呼んでいます。元々私は様々なモノが見える体質でしてね、この体質を生かせないものかと模索した結果がカバー株式会社の創設です」
「貴公、何者だ?」
「谷郷元昭です」
「…」
それ以上は語らないという態度に狩人も引っ込む。だが妙な素振りを見せれば即座に攻撃できる体制は整えてある。
「のどかさん。席を外していただけますか?」
「え?」
「ご安心を。悪いことは起きませんから」
「はい…」
自らの社長が物騒なものを突き付けられている。不安にもなる。だが社長にそう言われては引き下がるしかできない。だがのどかは忘れている。この男は獣人どころか外なる神とも渡り合える男なのだ。
★★★
「さて、何から話しましょうか?私の素性はこれ以上話せません。私自身、なぜ精霊が見えるのか分かっていませんから」
嘘か本当かはさておきこれ以上話す気のない者に同じ質問をしても不毛だ。そう考えた狩人は
「貴公は私に何をしてほしい?」
「難しい質問ですね…」
初めて表情を変えた谷郷社長。しばらく考え込んだ末
「ありのままお話ししましょう。あなたがアイドルを目指すというのであればホロスターズでの保護も考えましたがどうやら違うようです。となるとタレントさんとして保護することができません。そもそもあなたが保護を望んでいるのかという問題もあります」
「当然私は保護など望んでいない」
そりゃあそうだ。人でなしがその姿のまま交流するのが目的の場所に、交流などクソ喰らえな狩人が入るわけもない。
「であれば私からの要望はただ一つです」
笑みを消し、真剣そのものの表情の谷郷社長が放った要望は
「この世界に悪影響を及ぼさないよう、細心の注意を払ってもらいたいのです。精霊から聞いた限り、あなたは随分と血に塗れた生活を送っていたようですね?しかしこの世界においては他人に危害を加えることは基本的にダメなことです。たとえ相手がなんであろうとも」
「ふむ」
「当然ある程度は許容されます。ですが〇害までは許容されません。どうかそのことだけはこの世界で活動されるのであれば覚えておいていただきたい」
「分かった」
元々積極的な〇害を忌む狩人にとってそう難しい話ではない。納得した狩人に安堵の表情を浮かべる谷郷社長。彼にとっても狩人との対談は緊張するのだろう。
「ではこれで失礼します。ああ、最後に一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
出ていこうと背を向けた谷郷社長はその恰好のまま
「貴方の目覚めが、有意なものでありますように…」
「…」
それは狩人が愛してやまない人形に毎回かけられていた言葉。軽々しく口にするなと感情が高ぶるが、恐らく精霊から聞いたのあろう、であれば彼を弾劾しても意味はない。武器をしまった狩人は
「貴公、せいぜいそれらに呑まれないようにすることだ。こちら側の存在は貴公らには過ぎたものだ。そして過ぎたものを求めたものの末路は決まっている」
脳に瞳を見出だしたもの、上位者を追い求めたもの。そんな彼らの末路は凄惨なものだった。あるものは発狂し、あるものは惨たらしく死んでいった。
「肝に銘じておきます」
彼は狩人の警告を素直に受け入れる。それらが人知を越えた存在であること、無理に深く知ろうとすればろくでもないことになりそうなことは薄々勘づいてはいた。それが確信に変わっただけだ。
★★★
「では私も行くとしよう。機会があればまた会おう」
社長を見送ってから程なくして狩人も立ち上がる。見知らぬ土地での好奇心を押さえ込むのも限界なのだ。
「あ、狩人さん。餞別にこちらをどうぞ」
返り際にずっと席を外していたのどかが差し出したのは一本の鈍器。見るものが見ればそれが騎士団を率いる団長と同じ武器だと分かるそれは黒く、鈍く輝いていた。
「在庫処理のようで申し訳ないですが事務所に余っていた非殺傷武器の一つです。ホロメンの一部の方々も手加減に苦労してまして、かといって護身具の一つもないのは心許ないということで作られました。刃物では万が一があるので鈍器、一定以上の衝撃を吸収する構造なので遠慮なく振るって下さい」
「感謝する!」
目を輝かせた狩人は早速素振りをする。どれほど時が経ってもおニューの武器は興奮するものだ。
ぶおんぶおんと物騒な風切り音を響かせるこれだが、しっかりと役割を全うしたことで狩人が○人の罪に問われることはなかったことをここに記す。
狩人は新たな敵や物資に心踊らせながら事務所を後にした。なおこれからの狩人だが
「オメー、ドラゴンブレスが効かないとかスゲーなぁ!」
「殺しても死なないの?じゃあ遠慮なく試してもイイですか?失礼しますが○んでくだサーイ!」
この世界で非常に個性的な者と出会い、交流することとなる。そんな狩人は普段より笑顔が増えたと人形が内心喜んでいるのはここだけの話である。
日常編は気が向いたら番外編で書きます。とりあえずここが区切りとなります。読んでいただきありがとうございました。短いですが、本来は短編で出そうと考えていたものを連載と言う形にしたためこうなりました。
[殺さずの槌]
ホロライブの頭脳や鍛冶屋によって作成された槌。目に見えぬほどの細かな機械で生成された打撃部分は当たる場所と相手の耐久に応じて固さが変わり、後遺症が残らない程度に相手を痛め付ける。例え力に秀でた獣人が、脆いヒト相手に全力で振ろうとも