猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 ラブレス家に拾われる前の猟犬さんと出会って二人でロアナプラへ向かった世界線。色々雑な点はご容赦を……続くかもしれない。


his name viper
 前日譚


 全ての命は尊いと、人は言う。

 自分以外の全てを己が為の踏み台としなければ生きていけないと言う意味で、それは確かに正しいと思う。俺の人生の為に死んでくれてありがとうと、感謝するのはとても大切な事だろう。

 そんな誰かに話せば厨二病を心配されそうな真理に辿り着くまでに、幾つかの契機があった。

 

 最初に命が脆くて軽いモノだと気付いたのは、小学生になってすぐの事。正確に言うならば、自分が人の皮を被って生まれたゴリラだと気付いたのがその頃だった。

 友達と下校中に遭遇した全裸コートの紳士にパニクって、股間を握り潰した挙句に引っこ抜いたのである……釈明させてもらうと、フリーズしてたら手を取られる→股間に導かれた所で再起動、反射で思わず握撃→全力で握ったまま離れたら余計なモノがついてきた。と言う感じなので俺は悪くない、多分。

 

 名も知らぬ紳士には大変申し訳ないが、児童に股間握らせて興奮を得ていたであろう男の子供なんぞ作るだけ無駄だし、それ以降の犯罪を未然に防いだと思えば俺のしでかした事は賞賛されるべきだと思う。

 ……まぁ両親含めた周囲の反応はドン引き一択だったけれど。

 俺にとってはマニュアル去勢は当時から可能だったけれど、余程の力自慢でも無ければ成人男子でも難儀な所業をやらかした事で、自分の非常識さと人体の脆さを知ったわけである。 

 

 で何故か両親は俺に格闘技を学ばせようとした。健全な精神が健全な肉体に宿ると思ったのか、それとも俺自身の危険性をそれとなく刷り込みたかったのか……今となっては分からん。

 ところが俺は技術を修める度に、自分が強くなっていく事を実感する程に、不満を感じる様になっていった。

 周りは脆くて力を揮えないし、自分が出来る事を年上の連中が出来ないのが理解出来なかったし、周囲は勝手に危険人物認定してくるしで、()()()()()()()()()()()()

 そんな感じで育った結果、高校生に上がる頃には「脆いお前らが悪い」と頭のネジが緩んでしまったわけである。

 

 二つ目は中学一年生の夏。何を血迷ったか、親父は旅行先のグアムで俺を射撃場に連れて行ったのである。親父はここでも銃器と言う危険物と俺のゴリラスペックを同列に挙げ、それだけ危険なモノである以上、扱いに気を付けろと言いたかった……らしいが、よく分からん。

 現状からすれば、そんな気遣い逆効果だ加減しろバカ! な一件は俺の役に立っている。

 残念な事に親父の思惑とは真逆の結果だろうけれど、それに関しては何とも言えない。

 少なくとも銃の冷たさと重さを知り、命の軽さを改めて知り、銃と俺の相性の良さを知った。 

 

 そして大学一年の夏。両親が死んだ事で緩み切ってたネジが吹き飛んだ。

 親父の死は遥か海を越えた日本の反対側。テロリストに誘拐された挙句、射殺の瞬間を記録され世界中に発信された。ちなみに死体は返還されるどころか今尚南米の何処かに打ち捨てられたままである。

 お袋はロクでもない映像を観せられ精神崩壊、自ら命を絶ってしまった。

 遺された俺はマスゴミのおかげで周囲から同情を買いまくったが、無神経なゴミの言葉も周囲の憐れみもうざいだけである。

 

 逆に言うと、両親に無駄な心配させなくていいと言う意味で、楔をブッコ抜いたテロリストには感謝と鉛玉をくれてやりたかった。何なら彼女(・・)のお仲間も同様である。

 葬儀を終えてすぐに頭文字(イニシャル)Yな事務所に赴き、戸籍を売る相談を持ち掛けた。当時計画して実行した事を考えれば無用の長物だったし、その判断は正しかったと思う。

 両親を殺したクソ共を殺して潰して壊しまくったキチガイは戸籍上別人だし、頭文字Yは商いになったし、俺は俺で自由になったのだから誰も損はしていない。テロリスト連中? 知らんがな。

 まぁとにかく、遺産をいくらか使って南米に飛ぶツテも紹介してもらい、武器も揃えて俺は海を越えた。因みに残金の9割は頭文字Yに寄付した。当時の俺は1割でも使い切れると思ってなかったからである。今考えると勿体なかったかも知れん。

 

 で、年明けから俺は殺して壊して潰し回った。真面目に革命を考えていた連中もそうでない連中も、革命の資金源となっていたコカイン畑の連中も、一切合切を死体と瓦礫に変えて積み上げて行った。

 その聳え立つクソの如きナニカの上から見る世界は、醜く血生臭く、それでいて美しく儚く感じられた。これもまた二律背反って奴だろうか? 知らんけど。

 

 最初の3カ月位は熱に浮かされた様なもんだったが、半年も経つ頃には暴力愉しい! と脳汁を垂れ流す様になり、1年も経つと何か作業の如く淡々と始末してたりして、虚無感が漂っていた。

 ……いや、ここは誤解を恐れず言うべきだろう。ぶっちゃけ飽き始めていた。何かこう、人の皮を被り直すならここがラインかなぁとか漠然と思ったんだよな。当時は他人の命とそこらの看板の区別が曖昧になってたから。

 

 彼女と出会ったのはちょうどそんな頃だった。日本を離れて二度目の春の事である。

 最初こそ猟犬の渾名に相応しいキレッキレな表情だったが、俺が誰だか分かった途端にめっちゃショックな様だった。なんでやねん。

 何で俺の事を知ってるのかと思ったら、彼女は自分が殺した男の家族の顔を覚えていたらしい。そう言えば親父の持ってた写真破り捨ててたし、そこに俺やお袋が写ってたんだろう。

 

 でまぁ頭お花畑であろう日本男児が、本業も恐れ慄くド派手な火遊びに興じるキチガイだった事、そのきっかけが自分の行いだったと知った彼女は、土下座しながら号泣し、色々吐き出した。

 因みにゲロではなく懺悔である。

 

 曰く、いつか来るであろう革命の朝を信じていた事。

 曰く、その為に戦い、殺し、幾多の夜を血に染めてきた事。

 曰く、積み上げた屍の上で気付いた事は、自分が革命家ではなかった事。

 

 自分はコカイン畑の番犬に成り下がったのだと……慟哭交じりに吐き出した。

 赦しを乞う様にこちらを見上げる彼女の告解に、俺が返したのはたった三文字。

 

「そっか」

 

 彼女は俺が思っていたより善性を持ち、そしてクソ真面目な女性だった。 

 まぁ俺も散々殺し回ったし、彼女を殺しても親父もお袋も帰って来るわけでなく、何より俺の人生もリカバリー不可だし……。いやリカバリーはハナから考えてなかったな。

 俺の現状はさておき、ハラキリ文化の生まれではあるが覚悟キメた相手の介錯なんぞ御免被る。それに多少なりとも人となりを鑑みるに、ここで見逃した方がより苦しむだろう(・・・・・・・・)から。

 

 とまれかくまれ。

 介錯はせんから好きにしたら良かろうと言えば、信じられないモノを見る彼女。泣いてんだかキレてんだか分からん形相で何故ここで殺さないのか、自分の命で償わせて欲しいと言われた。泣いて縋りつく彼女に対して、俺はぶっちゃけ過ぎる程にぶっちゃけた。

 親を殺した事は許さないが、殺して壊して潰し回った俺は同類以下のナニカだと言う事。

 目付きはともかくおっぱいの付いたイケメンはその手の界隈なら需要があるだろうから、それを活かして自分なりに償っていけばいいと思う事。

 

 この場で自分の性癖語るとか正気の沙汰ではなかったが、イカれてるのは最早今更である。

 彼女の境遇については特に思う事は無い。生まれ育ちが違えば、俺がそうなってた可能性が……と言うか、性根が変わらんかったらよっぽど悪質なテロリストになってたんじゃなかろうか。目的と手段を履き違えて暴力愉しい! なんてノリで割とイイ空気吸ってる気しかしない。

 半年前から既にそうなってた? ……それはまぁ、うん。

 

 実際殺せば殺す程、壊せば壊す程に自分の中の技術やら何やらが高まって行くのは気分良かったし、殺して自分の糧になるクズ共の絶望した表情は見てて愉しかった。

 愉悦面はともかく、知識や技能が高まる事への向上心とか努力は方向さえ違えば世の役に立ったかも知れない。けれどそうはならなかった(・・・・・・・・・)ので、ここにいるのは人の皮を被り直そうとしているナニカだ。

 

 殺すのも壊すのもここで手打ちとし、俺は南米を発つと一方的に締めくくる。

 俺の言葉を聞いてこの世の終わりでも迎えた様な彼女の顔を見ながら、何の気紛れかとんでもない爆弾を落とした。

 

「どうしても命で償いたいなら、()()()()()()()()()()?」

 

 親が聞いたら憤死しちゃうね。既に故人だけれど。

 耳が痛くなる様な静寂の中、彼女はゆっくりと顔を上げた。その瞳はドロリと濁っていたが、微かに光を含んでいた様に見えた。彼女がこの時何を考えていたかは分からんし、聞く気も無い。

 

 視線を交わしていたのは数秒か、それとも数分か。

 彼女は俺の間近まで来ると無言で跪き、血と埃に塗れた俺のブーツにキスをした。

 ……服従の証って事なんだろうけれど、軽く引いた。ドン引きまでは行かんかったのは、何か新たな扉が開いたからだろうか。被り直したつもりの人の皮は、どうやらド畜生のソレだった様だ。

 

 とまれかくまれ契約完了。

 俺と彼女と背格好の近い死体と服を交換し、首から上を念入りに破壊して二人分の偽装工作を施してから逃亡開始。少なくとも貯金箱(・・・)のおかげで資金には困らず、偽装も多少は効果があったのか、思った以上に順調な旅路を経て俺達は南米から飛び立った。

 逃避行の終着点は、タイのとある港町。

 USAもビックリの銃所有率にメキシコも逃げ出す殺人件数を誇る危険地帯。

 俺や彼女の様な人種にはお誂え向けの、悪党御用達の世界の底(・・・・)

 

 

──悪徳の都。その名はロアナプラ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 飼い主:名前はまだない、むしろたぶんない。一つ間違えば動物虐待なり俺がこうなったのは社会が悪いとかで日本の犯罪史に名を刻んだかも知れないド畜生。
 両親を殺したのは許さないけど、散々やらかしていざ会ってみたらおまいうな状況な上、虚無感抱えた作業的に仇討ちしても「両親なりに自分を真っ当に育てようとしてくれた」事まで否定しそうだな? とネジの外れた頭で考えた結果が飼い主宣言と言うとんだド畜生。目付きの悪いおっぱいのついたイケメンこそが性癖ドストライク。戦闘力については猟犬さんより頭二つぐらい抜けてる感じ。肺癌予備軍でお気に入りの銘柄はアークロイヤル(バニラ)

 ロザリタ:メイドさんになる予定は皆無な猟犬さん。ロベルタ期間は無いので原作世界線の様な言葉遣いは多分しない。飼い主がヒャッハーすれば曇るし、優しくされてもやっぱり曇る。負い目とか色んなアレで、自分が血に染まった方が遥かにマシぐらいには思ってそう。それはそれとして、自分の生死は飼い主に預けてるので死ねって言われない限り死にそうにない、って言うか死ねない。肉体関係は持つかも知れないが、傷の舐めあいつーか共依存(?)じみたモノになりそう。
 
 ……原作世界線より悲惨な結末しか見えないな? 
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