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「プライヤチャットさんいる? メンテ頼みたいんだけれど」
その日フラリと店を訪れた男は、いつも通りだった。
「あぁ、お前さんか。
「シリンダーの動きが硬い気がしてさ。お願い出来るかな」
「ほう? 見てやるから工房に来な」
壁に並べられた銃や常盤に置かれた様々な工具に囲まれた一室に通されると、手近の椅子を引き寄せたバイパーはそれに腰を下ろした。
「グリップに手形も歪みも無しか。丁寧に使ってる様で何よりだ」
「前のが繊細だっただけだよ」
男の軽口に鼻を鳴らしながら、指折りの銃匠は鋼の塊をじっくりと検めて行く。
「お前さんが大雑把なだけだろうが……言われてみりゃぁシリンダー周りが粗いな。まぁ、これくらいならすぐだ。ついでだ、一通り手入れしとくか?」
「終わるまで待たせてもらっても?」
「構わんが邪魔すんじゃねぇぞ」
「そりゃ勿論」
年輪を刻み込んだ両手が相棒を
しばらくは金属同士がぶつかり合う音が響く中、口を開いたのは銃匠の方だった。
「お前さんが来てから半年か。すっかりここに馴染んじまったな」
「あーね、場末の酒場でよろしくやってるよ」
「最近は揉めてるらしいじゃねぇか。レヴィの奴が笑ってやがったぞ」
プライヤチャットの言葉に肩を竦めたバイパーは、頬を掻く。
「目の仇にされてんなー」
「
「コツさえ掴めば誰でも出来るよ?」
「指が捥げるって言ってんだよ」
アホみたいな得物をピザ生地の如く回転させるバカは、世界広しと言えどこの男ぐらいのものだろう。
「揉め事と言えば……最近涼しくなって来たせいか、
「……へぇ?」
ロアナプラならではの噂話に、バイパーは皮肉げに口角を上げる。
「ニヤついてんぞバイパー」
「そーかな?」
「あぁ、飛び切りの悪党面してやがる」
プライヤチャットは知らなかったが、目の前の男が悪い笑みを見せる事は非常に珍しい事である。ある意味貴重な悪党面なのだ。
「こう見えてヤンチャなんだ」
「どこから見てもヤンチャで済ませる気ねぇ面じゃねぇか、悪餓鬼が。イエローフラッグを更地にすんじゃねぇぞ」
「ハハッ」
バイパーと言う男は
何故ならとても面倒だからだ。
同時に、この男は
瓦礫と屍を積み上げてその上から眺める風景を、何よりも愛している。
「流石に雇い主のご機嫌損ねるのは、ね?
悪餓鬼と評された笑みを引っ込めると、若き悪党は穏やかにそう嘯いた。
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「ただいまー」
「お帰りなさい。
「それは重畳。悪いね任せっきりで」
飼い主の言葉に首を振りながら、ロージィはレジェンダリオが注がれたグラスを差し出す。
「日本では昔取った杵柄と言うのだったかしら? 安心して任せて頂戴」
軽く笑いながらそう返されるが、彼女の頬に触れながら顔を覗き込む。
「何かあった?」
「……いいえ。何かあるのはこれから、でしょう?」
最初はチンピラの恫喝から始まった。
血と硝煙の匂いを感じ取ったロージィは、エダを通じてマニサレラ・カルテルの襲撃を察知、これまたエダを通じて迎撃の準備を整えていた。
最初こそ彼女だけに任せるのを渋ったバイパーだったが、二人して動けば勘付かれる可能性があると言われて引き下がった経緯がある。
「俺も君も、南米絡みの厄介事が多いねー……バレてんのかね?」
「どうかしらね……」
呑気にグラスを傾ける男を見ながら、猟犬は半年前の事を振り返った。
その場にあるもので手を尽くした急場凌ぎの偽装工作は、完璧とは言い難かったがそれでも十分だったと思っている。
或いは、自分の方は偽装を見破られたかも知れないが、少なくとも
「他の連中が静観してるってのはどーなんだろ」
「それについては事情がある様ね」
「ふむ?」
シスターヨランダによると、三合会とホテル・モスクワが本格的な抗争を始めるらしい。
「張さんとバラライカさんがかー……大惨事だなこりゃ」
「街全体の空気が重いのはそのせいもあるでしょうけど、おかげで動きが取り易かったのは感謝しないとね」
「確かに……ところで今更なんだけれど」
「なぁに?」
答えを返すと、ご主人様が珍しく難しい顔をしてるのを見て小首を傾げた。
「いやま、本っ当に今更なんだけれどね? 後は俺に全部任せてもろて……」
「
気まずそうな飼い主と、寂し気な猟犬の視線がぶつかる。
「
「そっかー」
「そうよ」
置いて逝かれるのは御免だった。
「しかしなんだ、表情豊かになったよね。君」
「そうかしら?」
「逢った時からイイ女だとは思ってたけれど、最近は愛らしいと言うか可愛げがあると言うか……」
「……どうしたの急に」
急なお世辞に困惑しながらも、浮ついた気持ちが湧くのを感じて思わず顔を伏せる。
「いやま、半年も経つのに口説き文句の一つも言ってなかったなーと」
「……今口説かれてるの? 私」
「どーかな? そーかも?」
ぎこちない笑みを浮かべる彼に、女は己の尻尾が荒ぶるのを意識する。
「ハシタナイ事を聞く様だけど……それなら手を出してくれないのは何故?」
「いやゴリラじゃん? 俺。うっかり壊したらヤダなーって」
「スローピー・スウィングの子とシてるじゃない?」
意地悪く問いを続ければ、男はいっそ清々しいまでに断言する。
「彼女らも仕事だしそこは意識するよね。遠慮するって言うかなんて言うか」
「私なら遠慮しない、と」
「我慢もしない。多分ね」
顔ごと視線を逸らしたが耳が赤くなってるのを目にしたロージィは、思わず顔がニヤけるのを堪え切れなかった。
「ふふ……そう、そうなのね」
「そーだよ?」
「しなくていいんじゃないかしら? 我慢も、遠慮も」
自分の鼓動が五月蠅い。全身に籠もる熱が鬱陶しい。いっそ痛みを感じる程に疼く下腹部をいやでも意識してしまう。
「貴男の事、好きよ……ご両親の仇で申し訳ないけど」
「それはそれ、これはこれってね? 親の仇でも好きだよ、君の事」
バオが見れば砂糖を吐き出し、マダム・フローラなら両手に頬を当てて「んまぁ! 若いって良いわね!!」とでも言いそうな甘ったるい空気が部屋に流れた。
「それじゃ早速」
「ステイステイ。がっつかない」
両手を上げて捕獲の構えを取った彼女の表情は、ある意味猟犬に相応しいソレだった。
しかし飼い主はこれを制する。
「明日ね、明日。
「それは残念」
「飼い犬に噛まれるどころか喰われそうな件」
「あら、食べてくれないの?」
「は? 勿論貪るが?」
無駄にキメ顔でそう返すのだった。
草木も眠る丑三つ時、と言う言葉がある。今夜は月も寝床に引っ込んだのか、姿を見せていない。
しかしこの街は、夜に生きる連中が屯する無法の聖域。夜闇に紛れて争う無頼の徒が、投げ捨てる程に存在しているのである。
とある古アパートを囲む男達もそう言った部類なのだろう、生意気な日本人とそれに付き従う同郷の女に思い知らせてやるべく、武器を手にして突入の時間を待っていた。
しかし、それは毒蛇と猟犬も同じである。
「まだ集まりそう?」
「そろそろいいんじゃないかしら」
「オッケー、んじゃまサプライズ第一弾ポチっとな」
入口に仕掛けられたクレイモアが吹き荒れた。
1つあたり700もの鉄球を撒き散らすソレが、計10基。有効加害距離50mの凶器が間抜けなゲストを食らい尽くす。
「今夜は
「えぇ、本当に」
男が言いながらコルト・アナコンダを構えると、女はそれに答えながらバレッタМ82を掲げる。
暴力の化身、双頭の蛇が牙を剥いた。
飼い主:デレた。イエローフラッグに被害は出さないと言ったが、アパートをキリングフィールドにしないとは言ってない系主人公。余談ですが知人に本作を見せた所「主人公は陽気なグリムジョー」と評されたけど何で? と首を傾げた作者は悪くない、はず。
ロザリタ:主人がデレた!主人がデレた!ハイいただきます!位のテンション。キャラ崩壊は控え目にしておきたい。
二人とも恋愛経験値は低いと思われるので、行為に及んだ後でも甘酸っぺぇ空気を忘れないでもらいたい
次回は火薬多めに踊り狂ってもらう予定。