猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 日付(以下略4度目)
 今回火薬増量を予告してましたがそうでもない気がしたのでお詫びいたします。





 bullet dance Ⅱ

 ──時を少し遡る。

 のぼせ上がった頭と熱の冷めない身体を静めるべく、ロージィはシャワーを浴びていた。

 彼の主人はおもてなしの準備(・・・・・・・・)の為、3軒程離れた廃ビルの屋上に向かっている。

 

「……ふぅ」

 

 うねる様な長い髪から水滴を垂らしながら、鏡に映る自分を見つめる。

 かつて猟犬と呼ばれた自分が、随分と柔らかい顔をする様になったものだ。そう思うとぎこちない笑みが零れた。

 始まりは罪悪感と後悔しかなかった関係だったが、お互いに随分と絆されたと思う。

 強く聡く穏やかで、ぬるま湯の様な安寧を齎した唯一無二の男。そんな彼と貪り合う(・・・・・・)様を想像するだけで冷ました筈の熱が疼き出すのを感じた。

 

「……浮かれてるわね」

 

 苦い笑みで首を振った時、ソレは囁いた。

 

『これから()()()()()()()だと言うのに、腑抜けている暇はあるのかしら?』

 

 鏡に……否、彼女の目にのみ映るのは(・・・・・・・・・・・)、血に塗れたかつての自分。

 

『いいや、それでいい。ここが潮時だ……()()()()()()()()()()()()

 

 その隣に立つのは、額から血を流し続けるスーツ姿の男。かつて自分が手に掛けた彼の父親。

 

『この地獄では君の贖罪は叶わない。アイツも救われない』

『いいえ、もっと血を見せて頂戴ロザリタ。そして彼と血の海で溺れましょう?』

 

 それは過去の亡霊であった。それは消してしまいたい過去だった。それぞれが異口同音に、今の自分を責め苛む。

 

『さぁ血と硝煙の香りを纏いましょう?』

『願わくば平穏の歩みを』

 

 果ての地では誰も救われないのだと、この地獄こそ自分達に相応しいのだと、かつての罪が彼女を追い立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ダマレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猟犬は両手で顔を覆い俯いた。三者が沈黙する中、水滴の音だけがシャワールームに響く。

 

「……ふっ、うふ……うふふ……ふふふ……ふふふっ」

 

 肩を震わせながら、ロージィは嗤う。過去の罪を、消せぬ過去を、自分を形作ってきたそれら全てを。

 

「笑っちゃうわね……。()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 冷め切った思考で、熱の籠もった息を吐く。

 本当に今更だ。

 今更ながらに思い知らされる。亡霊も過去からも逃げる事など、誰にも出来ない事なのだと。

 

「けどね? 私は共に()くの。置いて()かれたくないの。止めるつもりもないの」

 

 それは己に立てた誓いであり、()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

亡霊()にも譲らない……番犬(過去)にも渡さない。私は猟犬であればいい。いいえ……そうじゃない。()()()()()だ、お互い縛って絡まって、何処までも深い場所に沈むの。それで良いし、それが好いの。何処の誰にも邪魔はさせない……それが例え()()()でも。彼の怒りも悲しみも、愛も憎悪も私のモノ。心も体も、生も死も、平穏も狂騒も彼に捧げるの。救われなくてもいいの、赦されなくてもいいの、彼を感じる事が出来れば良いの、彼の隣にいる自分が好いの。貴方達は要らないの、けど捨てる事も出来ないの。だから勝手について来ればいい。()()で私を見ていればいい。彼と笑って、彼と怒って、彼と泣いて……最後は彼と()()()()。その為のスパイスとして、私の中で飼って上げるわ?」

 

 そう言って目を閉じる。改めて口にしてみると、自分は意外と情の深い女(・・・・・・・・)だったのだなと、自覚してしまった。

 

「可哀想なご主人様……。でも選んだのは貴男だし、手を取ったのも私。お互い様よね?」

 

 そう呟いて顔を上げると、鏡には自嘲気味な笑顔だけが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ファーストサプライズは楽しんでくれたかなー」

「上々じゃないかしら」

「んじゃま、手筈通りに。ロージィは()を、俺は()ね」

「えぇ、気を付けて」

「問題ないない。背中預けてるし(・・・・・・・)、ね?」

 

 バイパーはロージィの頬に軽くキスをすると、踵を返して疾走。床を蹴り付け宙に身を躍らせ、軽い浮遊感を味わいつつ隣のビルへと降り立つ。

 

「うむ、絶好調」

 

 言いながら屋内へ。踊り場から踊り場へと階段をすっ飛ばしながら地上を目指す。

 派手過ぎる物音は陽動も兼ねている。必要かと言えば答えは否だったが、何となく……そう、何となくギリギリまで一緒にいようと思った結果のコレであった。

 胸中では当初の予定通りに廃ビルの1階と屋上で待機が正解なのだと、お互い分かっていてもそうした。

 理由? 語るだけ野暮と言うモノである。

 

 建付けの悪い錆の浮いた扉を蹴破って屋外へと飛び出すと同時、廃ビルの屋上から轟音が響いた。バイパーから最も遠い所に停められていたワゴン車に、12.7x99mm弾が喰らいつく。

 続いて放たれたグレネードが着弾。爆炎が上がり、胡瓜に驚いた猫の様にワゴン車が跳ね飛んだ。

 クレイモアに対物ライフル、仕上げのグレネードによる奇襲は大成功だ。炎に照らされるゲストの背中がよく見えた。

 

「火遊びに目ぇ輝かせてる場合か? 案山子よろしく突っ立ってんなっての」

 

 両手のコルト・アナコンダを無造作に向ける。

 立て続けに撃ち出された44マグナム弾は、計6発。そのどれもが正確に、そして獰猛にゲストの頭を吹き飛ばす。

 バイパーは被害者その7ぐらいであろう、蹴り飛ばされた扉を手に取ると、全力で投擲。

 円盤投げのソレの如く飛んで行った元扉は、何人かを道連れにゴミと化した。重なる悲鳴と怒号に、バイパーは片目を瞑る。

 

「次の五輪は金メダルいただきだな?」

 

 言いながら向かいのビルへと駆け込む。あらかじめ扉を外されていたすぐ近くの部屋に入り込み、窓の外に視線をやる。入口へと向かう横顔に向けて残弾を吐き出して部屋の奥へ向かいながらリロードを済ませる。

 錆び付いた定盤を跳び越え、その縁を掴んで来訪を待ちかねる。

 

「問.鉄の塊担いだゴリラに迫られた場合どうなるか?」

 

 答.運が悪けりゃ壁のシミ。

 結果として赤黒いシミが3つ増えたのだった。

 

 

 

 

 

「本当に怖いヒト……そこも堪らないんだけど」

 

 ロージィは正確に、順調にゲストの足を焚火に変えながら呟く。

 この場から狙える足を全て破壊し終えた彼女は、ビルの間に掛けられた足場板を通って隣のビルに着くと足場板を蹴り落とす。

 

「こんな気持ちで手を血に染めた事はなかったけど……悪くないわね」

 

 言いながら、バレッタのマガジンと銃身下部に増設したグレネードシューターの装填を済ませる。

 やがて最初のビルの屋上に人影が現れる。数は5。

 

「さ、踊って頂戴?」

 

 彼女の顔に浮かぶ笑みは、主人によく似た穏やかな物であった。

  




【速報】ロザリタ・チスロネス、過去と罪にケリを付けて番の蛇に。
【悲報】蛇ソウルインストールした結果、ご主人様に(悪い意味で)近付く。

 けど幸せならオッケーじゃないかな……。
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