描こうと思った物と描き上がった物が違うのはよくある事なので、気にしたら負けな気がする。
深夜のロアナプラに銃声が響き渡る。
それ自体は
バレットM82と言う得物で対人射撃を行う様はオーバーキル以外の何物でもない。だと言うのに、当の本人は穏やかな笑みを湛えているのだから、狙われた側からすれば怖気を誘われるのも無理からぬ事だった。
「ふざけんな……ふざけんなよなんなんだよおかしいだろなんでこんなことに……!!」
猟犬の牙から逃れた男は涙と鼻水と小便を垂れ流しながら階段を駆け下りる。先走った仲間達が屋上へ到着するも無人。警戒を解かない仲間に声をかけようとした瞬間、2mも離れてない所にいた2人が頭部を、あるいは上半身を吹き飛ばされ肉塊と化した。
あまりの光景に残る二人は呆けた面を晒したが、彼だけは天啓を得たかの様に反転し、ビルの中へと戻った。
その背後でグレネードが炸裂する。爆風に押される形で加速した身体は、勢い余りまくって踊り場まで転がり落ちた。男は背中の熱さと身体中の痛みを忘れたかの様に立ち上がると、階下へと走り出した。火事場の馬鹿力と言う奴か、或いは文字通り死に物狂いだったのか。
しかしそれも、一階に辿り着いた所でガス欠となった。彼にとっては残念な話だが、サービスタイムはここまでの様だった。
そしてそれは罰ゲームの時間の到来でもあった。
四つん這いで荒い息を吐く彼の耳に複数の足音が近付いて来る。自分同様助かった連中がいたのだと安心したのも束の間、銃声が響く度に首から上を失った死体が目の前に積み上がる。入口を塞ぐ様に折り重なった骸を目の当たりにした男の目鼻から、引っ込んだ筈の涙と鼻水が再び垂れ流される。
「……おやこんばんは。彼女が取りこぼすなんて珍しい」
足音一つ無く廃ビルの入口に姿を現したのは、白いシャツに黒のインナーと色落ちしたブラックジーンズを身に付けた東洋人の男だった。
猟犬の牙から逃げおおせた強運の持ち主も、忍び寄る毒蛇の牙からは逃げられない。
バイパーと呼ばれるその男は、目線を合わせる様にしゃがみ込むと、薄っすらと笑みを浮かべたまま口を開いた。
「仲間の数と配置は?」
毒蛇の問いに、男は首を横に振る。
「み、みんな死んじまったよ……知らなかったんだよ、アンタが相手だなんて」
「あ、そー言うのいいんで。そんで、何処の傘下なの? 金で雇われた?」
「頼むよ、見逃してくれ! 心を入れ替えて真っ当に生きるから!! もう二度とこの街に近付かないから……!!」
「無理」
二文字でバッサリ断られ、顔を上げれば額に銃口が押し付けられる。
「
銃声が響く。血の花を咲かせた男は前のめりに崩れ落ちた。バイパーは立ち上がると、コルト・アナコンダをホルスターにしまいながら死体を見下ろす。
「残念無念また来世……ってね? いやま、俺達みたいのが生まれ変われるか怪しいモンなんだけれど」
そう言って肩を竦めると、胸ポケットから白いパッケージとジッポーを取り出し、火を点けた。
血と硝煙の香る中、微かなバニラを味わうと紫煙をゆっくりと吐き出して、独り言ちる。
「俺達はツイてた、君らは運のツキだった……ただそんだけ。
バイパーは右手で左肘を持つと大きく伸びをする。
「にしても少ないな? 逃げられたか」
「ファーストサプライズが
耳に馴染んだ声に振り返ると、ロージィが両手に腰を当てて立っていた。
「そっかー。ここらの掃除は終わったし、お次は楽しいお礼参りと行きますかー」
「楽しそうで何よりね」
「そりゃね。わざわざ付け入る隙を提供してくれたんだ。趣向を凝らしてお返ししないと」
そんな事を話しながら、ただ一台無傷で残しておいたピックアップトラックに歩き出す。
「
「そこまでは私が運転するわ」
「オッケー任せた」
スムーズかつ静かに走り出すピックアップトラック。その助手席に陣取ったバイパーは吸い殻を車外へ弾き出し、白いパッケージから一本取り出して火を点けた。微かなバニラの匂いが、風に乗って車外へ流れて行く。
その様子を横目に見ていたロージィが口を開いた。
「タバコ増えたわね」
「そーかな?」
「そうよ」
咥えたままのアークロイヤルを揺らしながら、男は窓の外に目をやった。
「眺めてるの好きなんだよね、煙が漂ってんとこ。日本にいた頃……大学入ってすぐだったかな? サークルの先輩に勧められて始めたんだけれどさ。煙眺めてボーっとしてると、時間がゆっくり流れてる気がして何か落ち着くんだ」
「お酒もその頃から?」
ピックアップトラックはロアナプラの中心から離れ、静かに郊外へと向かっていく。
「酒は高校入ってからだね。親父もお袋もザル……ま、酒呑みでさ。入学祝いだーつって日本酒呑まされて……うん、翌日大変だったな。今は水飲むのとそんな変わらないけれど」
「そうなのね」
小さく笑みを浮かべる女を横目に、男はおや? と目を丸くする。
「大丈夫になったんだ?」
「え? ……そう言えばそうね」
ほんの少し前までは、何かにつけて凹んでいたのだが。
過去も罪も
「ご主人様の事なら何でも知りたいわ」
「構わんよ」
「ありがと」
互いに出会うまでの自分を語り合う。
男と女は思った以上に相手の事を知らなかったのだと、認識を新たにする。もっとも、それはこれから知って行けばいい事であり、互いにとってこんな時間も楽しみの一つになるのだろう。
このまま深夜のドライブと洒落込みたい気分だったが、そうも言っていられない。おもてなしに金をかけた分、最低でも倍額は集金する予定なのだから。
モーテルの立ち並ぶ区画に入ると、奥にある看板の朽ちた廃墟にピックアップトラックが停められた。
かつて受付になっていた建物の裏口に着くと、ロージィはポケットを探り出す。
「ちょっとまってね。今鍵を」
「よっこらせっくす」
軽い言葉の直後、捻じ曲げられた南京錠が地面に落ちる。
「…………」
「ハンドメイドマスターキーって奴? 便利だよね」
言いながら、男は錆び付いた扉を開けて中へ入り込んだ。
軽く溜息を吐いて彼の背中を追う。
二人はカウンターの内側に入ると、床に置かれた木箱の前に立った。
「箱ごと持ってく?」
「中身だけでいいわ。中に着替えがあるからここで済ませておきましょう」
言いながら彼の分の野戦服を手渡すと、ロージィは背を向けてシャツのボタンを外し始めた。
一方の男は、シャツの下から現れた白い背中を数秒眺めてから同じ様に背を向け、着替え始める。
互いに背をむけたまま、微かな衣擦れの音だけが廃墟に響く。
「そう言や、野戦服とか久し振りだ。サバゲー以来かな」
「サバゲー?」
「そ。高校ん時趣味でね。銃は殆ど持たんかったかな。専らゴムナイフで忍者プレイしてた」
「その頃からスニーキングを?」
「学生の頃は影薄かったしね」
当人は影が薄かったと主張しているが、日本にいた頃の彼は無口で陰気なゴリラだった為に近寄る人間が少なかっただけである。
「っし。着替えオッケー」
野戦服にグローブとタクティカルベストで身を固め、後はバラクラバを被れば完璧だった。
二人は続いて木箱の中の武器を取り出していく。
「おーツインドラムマガジン……流石に片手は無理……でもないなこれ。反動考えると両手のがいっか」
バイパーはH&K MP5KA2にツインドラムマガジンを装着したモノを右手一本で保持したまま、軽くその場で上下左右に振ってそう言った。
「手首折れるわよ」
「振り回し過ぎてグリップ以外すっ飛びそうじゃない?」
男の問いに肩を竦めて答える。
「一体何処を目指してるの?」
「ここではない何処か、かな……」
男は穏やかな笑みでそう言うと、そっと目を逸らすのだった。
時間もらった割には然程話進まなかったな……反省。
今後も投稿に時間がかかる場合は、適宜活動報告にて連絡致しますのでそちらもご参照ください。