猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 ガンアクションの難しさから逃げてすいません(陳謝)
 当初の予定ではカチコミ時に「悪い子しかいない! ヨシ!」「何を見てヨシって言ったのかしら……」みたいなのも考えていたんですが、そこからの鉄火場がイマイチ考え付かずこのザマです。
 とまれかくまれ、今回にて原作開始前のエピソードは終了。原点回帰の意味も込めてタイトル回収してみました。


 猟犬と飼い主

 悪党どもの巣窟ロアナプラ。

 4つの勢力が鎬を削るそんな街で、どの勢力にも属さず完全中立の立場を取る者も決して少なくはない。

 例えばどの勢力にも等しく口利きを行う暴力教会。流れの激しい情勢に捕らわれる事なく、されど呑まれるでもなく漂う個人など。

 開店の経緯と店主の気質故か、イエローフラッグもそういった連中と同じであった。

 

「おいバイパー。いつまで寝てんだよ、ロージィ見習ってキリキリ働け」

 

 カウンターに突っ伏す用心棒にそう声を掛けたのは、長年完全中立店を切り盛りしてきたバオである。

 

「無理」

 

 顔とカウンターの隙間から絞り出された声は、地の底を這いずるが如く。気のせいでなければ、微かな呼吸音は掠れている様だった。

 バオは初めて目にする憔悴具合の男に、「ゴリラでも体力の限界があるんだな」と妙に感心しつつも眉間に皺を寄せながら口を開く。

 

「……こりゃ期待出来そうにねェ。今日は大目に見てやるが次はクビだぞ、クビ」

「かしこまりー……」

 

 カウンターに肘をついたまま手を上げる。

 

「んで? その様子だと散々追っかけられたみてェだが」

「……あーね」

「手痛いしっぺ返しを喰らったものだから、余計に怒らせたのかも知れないわね」

 

 フロアの掃除を終えたロージィがカウンターに戻って来た。

 手にしていたモップとバケツを床に置くと、そのまま飼い主の隣に座る。

 

「レジェンダリオの7年を2つ。呑めるかしら?」

「酒、呑まずにはいられない……」

 

 言いながら毒蛇が鎌首をもたげる。誤魔化し切れない目の隈が、疲れ具合を物語っていた。

 

「お疲れ様」

 

 労いの言葉に無言で視線をやるが、少しの空白の後口を開いた。

 

「ロージィもお疲れ。()()あったからねー……いやもう本当に」

「だらしねェ。お気に入り呑んでちったぁシャンとしろ」

「うぇーい」

 

 酒が並々と注がれたロックグラスを手に取ると、バイパーはそれを一息に飲み干した。

 

「あ”ーーーー、沁みる。もう一杯」

「おじさん臭いわよ」

 

 そんな感じで弛緩した空気の漂う開店前のフロアに、足音を立てて踏み入る影が一つ。

 

「よォ! 御三方! 今日も湿気た空気垂れ流してんなァ!?」

 

 以前もこんな事あったなーと、肩を組まれながらバイパーはグラスを傾ける。

 

「開店前よエダ。はい回れ右してお引き取りを(失せなさい)

「わあ怖ーーーーい。聞いた色男? ……ってえらい疲れてンね。襲うのは好きでも襲われるのはキツかったかァ?」

「どーかな? ()()()()()()()のは確かだけれど」

 

 コロンビアを駆けずり回っていた頃の方が圧倒的にキツかったと、男は振り返る。とは言え、当時はおクスリキメてんのかと思うぐらいテンションが振り切っていたのも確かで、あの頃とは消耗の意味合いも違うから難しい所である。

 

「まァしばらくはロアナプラ(ここ)も静かになるんじゃねぇか? どこもかしこも、乱痴気騒ぎの後始末に忙しいだろうさ……ターキー出してよバオ」

「開店前だっつってんだろ」

 

 言いながらも酒を並べた棚に振り返る。

 それを見ながら、エダはバイパーの耳元に顔を寄せて囁いた。

 

「ご注文通り片付けといたぜ。アンタらの周りにゃ埃一つ残してねぇ」

「助かるよ……けれど、良かったん?」

 

 視線を向ければ、エダは口角を上げて答えた。

 

問題無し(ノープロブレム)さ。いくらか()()()()()()は使ったけど、暴力教会にケチがついたわけじゃァないさ」

「そう言う事ならいい、のかな?」

「アンタとよろしく(・・・・)やれるなら、これっくらい安いモンだ」

 

 言いながら耳に息を吹きかけると、そっとエダは身を離した。

 

「あらワンちゃん今日は大人しいわねー。躾が行き届いてんのかしらァ」

「そうね」

 

 煽られたはずのロージィは、涼しい顔でグラスを傾ける。

 

「なんだよツレねェな? いつもみたいにキャンキャン噛み付かねェ方がおっかねェんだけど」

()()()()の前だし、ね」

「ほーん?」

 

 蛇を挟んで猟犬と女狐がじゃれ合う様子を眺めながら、バオがグラスに酒を注いで回る。

 

「乱痴気騒ぎと言やぁ、何かネタでも上がってんのか? 正直、穏やかな空気とは行かねェだろ」

「さてねェ……ウチで分かってんのも、そこらの噂話と大差ねェな」

 

 バオとエダが言う通り、年の瀬が押し迫ったこの街はちょっとした(・・・・・・)台風が起きていた。

 一つは、ホテル・モスクワと三合会の弾丸演舞。

 悪徳の都を支える4大組織の内2つが繰り広げた大抗争は、住人の記憶に新しい。

 

 二つ目は、バイパーの塒が襲撃された件。

 名の売れ出した東洋人を踏み台にしようと目論んだ有象無象が、何を思ったのか徒党を組んで目にモノ見せてやると立ち上がった……と、そういう事になっている。

 

 そして三つ目。

 端的に言うと、黄金夜会の一角『マニサレラ・カルテル』が半壊した。

 と言っても、本体の事務所はRPGを一撃喰らった程度だったので、無事と言えなくもない。問題は二次団体の二割程、それ以降の傘下組織が半分以上潰されたとの事だ。

 早朝バズーカならぬ早朝グレネード、昼夜を問わぬ狙撃、9mmパラベラム弾をふんだんにお見舞いする夜襲など……それはもう苛烈に、そして徹底的に行われた。その期間はおよそ一週間。

 ()()()()()()()()()()が、飛び切り熱い夜をご提供したわけである。

 

「まぁバオは良かったじゃないか。従業員が二人とも生きてんだぜ?」

「そっちの心配はしてねェよ。こいつら殺したって死にそうにねェ」

 

 二人のやり取りにバイパーが口を挟む。

 

「ターミネーターじゃあるまいし……当面はお行儀良く生きるよ。しがない用心棒としては、ね」

 

 まぁ嘘である。

 そもそも、二つ目の件と三つ目の件は繋がっている。藪を突かれて飛び出しただけでなく、しっかり他人様の藪を荒らして回ったのである。

 黄金夜会の内2者は互いに喰い合い、マニサレラ・カルテルが刺客を放ったわけだが、表向きは有象無象の争いとして処理するつもりだった。コーザ・ノストラは「金にならん」と静観を決め込んでいる。

 その表向きの話を逆手に取った。

 猟犬とその飼い主は、有象無象に追われながら、その実本体に噛み付きしっかり集金も果たした。エダの個人的なツテや暴力教会の協力のおかげで足はついてない。多少の不安要素はあるものの、現在元気いっぱいのコーザ・ノストラが事実に辿り着く事は、ほぼ不可能である。

 

(わざわざ相棒を使わずに相手したのも布石って奴なわけ)

 

 バイパーは胸中で笑った。あえて相棒を使わずにありふれた9mm弾を撒き散らしたのはちょっとした小細工ではあるが、自身の得物である人喰大蛇(アナコンダ)は、同じく自身の名である毒蛇(バイパー)と共に広く知られている。

 最初こそ「見栄っ張りの底無しのバカ」と言った揶揄──レヴィしか言ってない──もあったが、そんな嘲笑を一蹴するだけの腕っぷしを見せて来たので、今では自分の代名詞と言っていい。

 

『キレたゴリラが相棒持たずにドンパチやるか? そんなわけねェよな』

 

 とはエダの言葉だ。

 今回の絵図を描いたのはエダとロージィの二人。何時の間に仲良くなったのかは知らないが、この手の繊細(・・)な作業には向いてない自覚があるので、心強いモノだと思う。

 何せ手加減とか面倒だからして。

 

「慌ただしい年だったねー……」

「なんだいバイパー? おっさん臭ェ」

「何故にみんなしておっさん扱いするん?」

 

 ポケットから皺のよった白いパッケージとジッポーを取り出す。

 パッケージを軽く振って一本飛び出したソレを咥えようとした寸前で、横合いから伸びたしなやかな指がかっさらっていく。

 

「吸うんだ?」

「たまには、ね」

 

 そういう日もあるんだな、と思いながらもう一本を咥えて火を点ける。

 無言で咥えたタバコの先を指先でつつくロージィに気付くと、男は咥えたタバコをそのままに彼女へと顔を寄せた。

 同じように顔を寄せたロージィとの間で、先端同士を触れさせたアークロイヤルが火に炙られる微かな音が響く。

 火が点いたのを確認すると二人の顔が離れて行き、やがてバニラフレーバーの混じった紫煙が互いの口から吐き出された。

 

「そういうのは人目がねェとこでやれ」

 

 バオの顔に視線をやれば、まるで苦虫でも口に突っ込まれた様な渋面になっていた。

 隣のエダはニヤニヤとこちらを、と言うかロージィを見ている。

 

「へェ? ご主人様の()()()()()でご機嫌ってか」

「貴女も貰えば?」

 

 仕事前の弛緩した空気が、少しばかり冷えた様なヒリついた様なソレに変わって行く。

 バイパーは両隣の放つ雰囲気を我関せずと言った体で、グラスを傾けた。

 

「おい開店前にまた散らかすつもりか? 外でやれ、外で」

 

 バオの言葉を聞きながら、彼以外の3人がこの空気を楽しんでいるのを感じた。

 

(願わくば……いや、違うか)

 

 普く命は等しく軽く、誰も彼もが()()()()()()()()()()とやらに辿り着く。生まれて間もなくだろうが老いさらばえようが、健やかだろうが病んでいようが、豊かであろうが貧しかろうが、後悔しようが満足しようが、何ら関係なくだ。

 

 けれど、だからこそ生き方に拘る。

 積み上げた瓦礫から転げ落ちるその日まで。

 互いの身体から熱が失われ、生き絶えるその瞬間まで。

 

「同じ死ぬなら踊らにゃ損損……ってね」

 

 愛犬の首に巻かれた黒いチョーカー。そこに下げられた双頭蛇(アンフィスバエナ)のチャームが鈍く光っていた。




 飼い主:周囲から言われるセリフブッチギリの一位が「加減しろバカ!」なのは間違いなさそうな男。今後は色んな武器持たせてみたいなーと思うけど、歩く武器庫的なポジションは猟犬さんの方が適任な気がする。目の隈? 激しい戦い(意味深)だったよ

 猟犬:番の蛇だったり猟犬だったり忙しいけど本人は幸せだからオッケーの模様。ご主人様となら地獄で散歩も大はしゃぎ間違いなしである。ところで蛇の交尾って、種類にもよりますが24時間かけて致すらしいですね。他意はありません。多分。

 バオ:「カルテル食い荒らしたのコイツらだな」と勘付いてるけど店が平和なら知ったこっちゃねェとも思ってる。毒蛇が出て来るのが分かってて藪をつつく程酔狂ではなかった。今の所店が無事なのは割と奇跡。原作開始したらその限りではないと言うか、鉄火場にならないイエローフラッグってもうそれイエローフラッグじゃないぐらいのイメージはある。

 エダ:何かそういう感じ(?)になった。彼女と猟犬の間柄はバイパーを挟んでるからこその距離感になってる面が大きい。周りから見ればまた男漁りしてんよって感じだけど、ロージィはフリだけだろうなと思っている。実際の所は作者にも分からないけど、あえて関係性に名前付けるのも野暮かなと思ってたりする。


 
 と言うわけで、これにて一章終了。ここまでお読みいただきましてありがとうございます。原作世界の足元にも及ばないアクションシーン……いやアクションシーンって言っていいのか? とボブに訝しがられる事間違い無しな本作ですが、二章以降はもうちょっと頑張りたいです。飼い主を巡る人間関係も掘り下げたいですし、原作なぞるだけに留まらず、ちょいちょいエピソード盛りたかったりもします。時間と表現力が許してくれるか? ハハッ。精進します……時間に関してはあまり無理せず、最低でも週1投稿のラインを死守したい所存です。
 今後も猟犬と飼い主……と言うかメイドにならなかったロザリタさんをよろしくお願いします。
 それではまた、次回お会い致しましょう。
 
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