猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 二章への溜め回的な奴。


yomoyama story
 蛇を囲う者達


 悪党達の見本市の如き街ですら、その御手を差し伸べられる尊き御方。

 ヴァチカンに正式登記されたリップオフ教会の存在こそが、その証である。

 ……とは言ったものの、そこは世界の果てに築かれし教会。情報屋として根を張り、悪徳の都を取り仕切る大マフィアから武器の売買を認められているあたり、その意義はおよそ教会とは言い難いのも事実であった。

 そんな教会を取り仕切るシスターヨランダは、W&Мの香りを楽しみながら口を開いた。

 

()()()()()()は随分とサッパリ片付いたねぇ。全く大したタマだよ、あの坊ちゃん達」

「ロアナプラに流れ着いて半年でコレですから、いずれ大きな火種になるかと。()()()()()()()()()()()()()()()()()には違いありませんが……」

 

 対面に座るエダは、ウィンプルとフォックスタイプのサングラスを外しており、普段の調子とは違ってまるでよく似た他人と言った怜悧な表情で頷いた。

 

「自身も相当な使い手であり、()()()も一流の悪党。そんな二人が今の今まで何処に身を潜めていたのか? 我々の手が届かぬ場所などそうそうないのですが……実に、厄介極まります。曲がりなりにも懐に入れたのは僥倖、と言った所でしょうか」

 

 当人に聞けばアスファルトジャングルに棲息していただの飼い主になったのは気紛れと性癖だの、正気を疑う回答がお出しされるだろう。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ。

 

「どうだろうねぇ……何も考えてなさそうで、細かい所まで気の回る頭も持っている。案外、アンタの同類である可能性も否定しきれない」

 

 つい2年前まで島国で学生をしてました。そう事実を告げたとしても、()()()()()()誰も信じる事はないだろう。

 頭が回る様に見えるのは飼い犬による所が多く、自身が協力した結果とも言える。

 曰く「周りが敵しかいない方が楽じゃない? 片っ端から仕留めればオッケーなんだから」との事なので、とりあえず暴力で解決だ! と言うスタンスは何処ぞの二挺拳銃と大差ない。

 そう、大差はないはずなのだが……。

 

「その可能性は極めて低いとは思いますが、警戒はしておきます」

 

 件の人物は、この半年で十二分に悪党ぶりを披露している。

 それでも()()()()()()()()()()()()()、と言うのがCIAのエージェント『イディス・ブラックウォータ―』としての見立てだ。

 イエローフラッグで一度だけ見た、重く冷たく底の見えぬ昏い殺意。気付かぬ内に首に巻きつかれ床に転がる……なんて笑い話にもならない結末を迎えるつもりなど、彼女にはなかった。

 同じ蛇でありながらも、こちらは国と言う名の巨大な多頭獣(ヒュドラ)である。いっそ傲慢なまでの矜持が、彼女にはあった。

 

「それでいいさ。何にしても坊やの存在は()()()()()んだ。うちとしても仲良くやって行きたいもんだ。個人的にもね」

 

 ウィンプルを被りエダに戻ろうとしたイディスの動きが止まる。しかしそれも一瞬、フォックススタイルのサングラスをかけながら、楽しそうに口角を上げる。

 

「随分と気に入ってますねェ?」

「それはあんたも同じさね。精々呑まれん様に気を付ける事さ、()()()()

「ヤー・シスター」

 

 ご機嫌な様子で退出するエダの背中を見送り、一人部屋に残ったシスター・ヨランダはすっかり冷めてしまった紅茶に顔を顰めながら、先程のエダを思い出す。

 

「たかが蛇の一匹、逆に丸呑みしてやろうとでも思ってんのかねぇ()()()()()は」

 

 片や個人のみならず組織ですら屈服させ、街の盤面をひっくり返すであろう男。

 片や国その物を屈服させ、殲滅させる力を持つ多頭獣の一つたる女。

 成程、確かにその差は歴然である。

 しかし、対峙するのはあくまでも彼女一人で()()()()()()()()を相手するとしたら。

 多頭獣の首の一つに毒が回っても国に被害はないだろう。なら、毒に侵された頭は?

 

「シスターともあろう者が、大事な事を忘れるんじゃないよ」

 

 ────蛇とは聖書にある通り、堕落を囁くモノなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「俺も彼女も生き残ったか……ちょいと動きが鈍るのはいただけないが、残る2つの内1つは俺達以上の大打撃、もう1つも駆け回るのに必死。誰も彼もがロクに動きが取れないと来た。アイツが()()()()()()()()()()()()もあるか」

 

 張維新は独り言ちる。

 4発のマカロフ弾と3発の22LR弾を互いに御馳走し合った最高の夜宴。あの夜、どちらかが大地にキスしてこの世とおさらばするはずだった。

 だが現実はどうだ。自分も彼女もまだ生きている。

 そうなると事後処理に頭を悩ませる事になるかと思われたが、何かと目を惹く青二才が負担を軽くしてくれたと言うのだから、張は傷口が開くほど大笑いしたものだ。

 

『張の兄さんもバラライカの姉さんも、ツイてたんでしょ。泰山府君がもっとこっちで遊んでろって見逃してくれた的な?』

 

 見舞いに現れた当人は、そんな事を言っていたが。

 

「アイツの言葉を借りるなら……ツイてなかったのがアブレーゴ、ヴェロッキオの奴は貧乏くじって所か」

 

 年の瀬がロアナプラはいつにもまして混沌としている。

 ホテル・モスクワと三合会は動きが取れず、無傷の筈のコーサ・ノストラは、黄金夜会の一角を派手に食い散らかした襲撃者の足跡を辿るのに必死で、マニサレラ・カルテルは哀れな被害者である。

 バイパーとそのツレも被害者……と言うか、彼らこそが本来盤面から姿を消している筈だった。

 

 しかし結果はどうだ。

 二人は今日も元気にイエローフラッグとスローピィスウィングの用心棒をやっている。

 対して盤石の筈だった黄金夜会は先述の通り。

 

「全く……ままならんもんだ」

 

 その口調とは裏腹に、張は愉しげに嗤う。

 

「折角の拾い物だ。嫌でも一緒に踊ってもらうとするさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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大尉殿(カピターン)毒蛇(ガヂューカ)の件ですが……」

「その様子だと空振りに終わったか、同志軍曹(スタルムシ・サルジェント)

 

 バラライカはスーツの下に巻かれた包帯と銃創の気配を感じさせぬ調子で、自分の言葉に頷くボリスを見て予想通りだとそっと息を吐いた。

 

「青臭さの抜けない呑気な坊やだと思っていたが、なかなかどうして……日本人(ヤポンスキ)にしておくのは勿体ない悪党ぶりじゃないか」

「全くです。腕っぷしに自信があるだけの無法者(アウトロー)かと思っていましたが、ガンマンとしても相当の手練れの様です。三合会が目をかけるのも頷けます」

 

 幾多の戦場を潜り抜けた者の勘で女の方に気を取られていたが、東洋人の彼も血と硝煙を纏うに相応しい存在だったと知り、我ながら鈍ったものだと自嘲する。

 

「しかし解せんな……奴らは何故イエローフラッグに留まり続ける? 後ろ盾を持つなら、それこそ我々や張、それどころか夜会の者なら引く手数多だろうに」

「バオから聞いた話ですと、窮屈なのは好きじゃないとか」

「フン……そこだけ聞けば、如何にもヤンチャな坊やだが」

 

 ──どうにも気に入らん。

 タイ支部の頭目たる女傑は、胸中でそう続ける。

 バイパーの隣にいる女については理解出来る。彼女は幾多の死線を潜り抜け、己と相手の血で夜を染めて来た類のソレだ。

 ところが、一方の男はどうだ。日向の空気を身に纏いながら、一連の騒動で見せた手管をあの若さでいつどこで身に付けたと言うのか。

 自分達の様に生と死の間を歩んだとでも? それはあるまい。

 もしそうだと言うのなら、何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「大尉殿?」

「すまん。少し考え事をな」

 

 彼女の変調を目にしたボリスは、気遣わしげな声をかけたが、バラライカは軽く首を振って答える。

 

「傷が痛むようでしたら少しお休みになられては」

「問題ない……と言いたい所だが、万全とは程遠いか。忠告を聞いておくとしよう」

「火急の件以外は全て遮断しておきますので、今は回復に努めて下さい」

「あぁ」

 

 そう言いおいて、バラライカは私室へと足を向ける。

 

「全く……らしくない。年を取ったかな……」

 

 そう呟く背中は、少し草臥れた様にも見えた。 




 バイパーに対する矢印の質は大体以下の通り

 エダ:食ったろ(意味深)
 ヨランダ:どこにも所属してないし活用せな
 張さん:怪我治ったら遊んだろ
 バラライカさん:理解出来んし何か気に入らん

 ちなみに色々描きましたが、飼い主は猟犬さんと気ままに悪党したいだけで基本的に何も考えてません。何も考えてないからこそ、名だたる悪党達が深読みしたりと誤解されやすい部分もあります。
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