猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 ガンアクション? 今回も無理でした(吐血)
 ちょっとダラダラした話になったかなと反省しつつ。

※07/28 18:29追記※
 編集ミスで重複投稿になってしまった為に片方削除しました。申し訳ありません。
 


 like a rolling stone

 バイパーは双頭の蛇(アンフィスバエナ)を指揮棒よろしく軽やかに振るう。

 銃口から吐き出される44マグナム弾が生み出す断末魔を聞く表情は、鼻歌の一つも口ずさみそうであった。

 

「撃ち合い嫌ならテーブル倒して盾にしてー」

 

 言いながらシリンダーをスイングアウト。左手側のシリンダーを包む様に持ち、親指でエジェクターロッドを押し下げるとほぼ同時、グリップの底で右手側のロッドを叩いて排莢を済ませる。

 小指と薬指でグリップを保持したまま腰のムーンクリップを取って左手側に装填。

 右手側の装填を済ませる頃には、壁際への移動も終了。そこでバイパーはカウンターを横目に口を開いた。

 

「ロックをカウンターに放り込んでからフォローよろしくー」

「え、ぐぇっ」

 

 猫の様に首根っこを掴まれたロックが短い悲鳴を上げる。一瞬の浮遊感の後、彼の身体はイエローフラッグの床に叩きつけられた。

 

「いった…………!?」

「カウンターから顔を出さないでね。バオ、そこのバッグを」

「何突っ込んでんだこれ」

 

 バオの言葉に無言で鞄の中身を取り出す。ロージィが手にしたのはH&K MP5K。驚きのツインドラムマガジン搭載である。

 

「おま、何て代物を」

「オープンカフェにするつもりはないから、安心して頂戴?」

 

 欠片も安心出来ない言葉を残し、ロージィはバイパーと反対側の壁際へ向かって走り出す。

 一方のバオも痛みに悶えるロックを後目に、レミントンМ1100を手にしてがなり立てた。

 

「あれは手前らのダチか!?」

「あんなおっかねぇダチに心当たりはないが、目当ては俺達みたいだな。それにしても動きが早ぇ」

「何でもいいからとっとと片付けてくれ! 銭作って弁償すんのも忘れんな」

 

 ダッチは腰のS&W M29を抜いて溜息を吐く。

 

「バラライカに言ってはずんでもらうか。レヴィ! 二挺拳銃(トゥーハンド)の名は伊達じゃないところ──見せてやれ!」

「ああ……」

 

 ソード・カトラス──ロアナプラの銃匠プライヤチャットの名作を手にしたレヴィが、軋る様に答えを返す。

 

「目にモノ見せてやるよ……蛇野郎!!」

「狙うのはそっちじゃねぇぞ! って……全く彼奴もお気の毒に」

 

 こちらの言葉を聞いてるか、そもそも耳に入ってるかも怪しい調子のレヴィにぼやきながら、ダッチはロックへ声を掛ける。

 

「とまぁ、そんなわけだロック。お前さんはシンハー片手にゆっくりしてくれ」

「落ち着いて飲めやしないよ!?」

 

 ロックの悲鳴の様な返事に片手を挙げ、ダッチもカウンターから離れて行く。

 

「何でこんな目に……」

「こっちが聞きてェよ。ったく、日本人は他所に厄介事持ち込む仕事でもあんのか?」

「俺は巻き込まれただけだよ!」

 

 頭上で飛び交う弾丸に溜め息を吐きながら、バオは反撃の機会を待つ。

「兄ちゃんもご苦労なこった。……まぁ直に終わるだろ、手前の同郷も彼奴の女も、ここらじゃ一等イカれた部類だしな」

「そんなに……?」

「おうとも。おかげでうちもちったぁ品が良くなってたんだが」

 

 ()()()()で品が良くなったと言えるのなら、それ以前は一体どうだったのか。

 そんな疑問を浮かべたが、それよりも強い興味を抱かせた事を口にした。

 

「彼……バイパーって」

「金輪際会う事もねェだろ。詮索は止めとけ……俺から言えるのは」

 

 バオはやおら立ち上がると数発ぶち込み、またカウンターに隠れる。

 

「彼奴ら二人は()()()()()ってこった」

 

 

 

 

 

「さってと」

 

 バイパーは左手の双頭蛇をホルスターにしまうと、手近なテーブルを掴んだ。

 

「野球やろっか?」

 

 奥歯を噛み締め左手に力をこめる。ミシミシと音を立てて五指をテーブルに食い込ませると、半身になって()()を振りかぶる。

 

「こいつがボールな!」

 

 奇麗なフォームで投げられたテーブルは、入口から侵入しようとした野戦服達を何人か吹き飛ばした。

 投擲の勢いそのままにロージィの隣へ滑り込むと、左手を差し出す。

 

「油断した。弾丸切れ」

 

 ご主人様の言葉に無言で背を向ける。バイパーは彼女のヒップホルスターからインベルM911を抜き取ると、スライドに噛み付いてコッキングを済ませた。

 

 

「思ったより上手いね。戦争慣れしてる」

「日本の企業が手を組む連中とも思えないけど」

「さーどーかな。バブル弾けて経営傾いてるとなると、綱渡りの1つや2つしてそーな気もする。海外展開してるよ―な所なら尚更ね」

 

 何とも偏見のある言いぐさだったが、送り込まれた部隊の連中は、隊長を筆頭として()()()()()()()()が好きな気狂い揃いだ。

 とは言え、日本の企業人がその実情まで知っているわけでもない。

 

「彼も気の毒に。()()()の価値も無く消される予定になるとか」

「ラグーンの仕事とは無関係と言う事?」

「直接的には、ってとこじゃないかな。依頼人が誰かはともかくとして、内容がサラリーマン一人誘拐ってのも考えらんないし」

 

 言いながら床に寝転がる様にテーブルから顔を出し、目についた野戦服に45ACP弾を叩き込む。

 

「危ないわよ」

 

 首根っこを掴まれテーブルの影に戻される姿は、飼い主につかまった猫の様だった。但し、中身は毒蛇だ。

 

「サンキュ」

「どういたしまして」

「随分余裕だな蛇野郎! イチャつきたいなら上行きな!!」

 

 隣のテーブルに隠れたレヴィがすかさず噛み付く。

 

「わぁ怖ーい。聞いたロージィ? 何でいっつもキレてんだろ」

「嫌われてるんじゃないかしら? と言うか自覚あるわよね?」

「あーね」

「ご歓談中に悪いんだが、連中どうやら退散するみたいだぜ」

「おっと?」

 

 言われて顔を出せば、なるほど確かにそうだった。

 

「全滅するまでやる気かと思ってたけど」

「引き際を心得てるわね」

「いや引き際と言うか……引かざるを得なかったんじゃねぇか?」

 

 地面に転がる死体は、ザッと数えて20はあるだろうか。呻いたり時折身動ぎする者はいるものの、とても戦闘続行とは行かない有様だ。

 

「ふんむ」

 

 言いながらバイパーは立ち上がり、入口に向けて歩き出す。

 手近で呻いていた男の前にしゃがみこむと、首を傾げてこう告げた。

 

「仲間の数と配置は?」

 

 口から零れるのは血の泡と掠れた呼吸音のみ。

 

「運が悪けりゃ死ぬだけさ。そのうち警察来るだろうから、病院まで頑張れ?」

 

 死刑宣告にも等しい放置宣言に震える手を上げようとするが、バイパーはこれをスルー。男を放置して死体の顔を一つ一つ確認する。

 最後の一体まで数え終わると、思案顔で顎を掻く。

 

「んー……」

 

 首を傾げながら店内に戻ると、ラグーン商会一行と()()()の同郷が彼を迎え入れた。

 

「助かったぜバイパー。今日はこれでお暇するが、近いうちに改めて礼をさせてくれ」

「いーっていーって。バオに金渡してくれりゃそれでチャラにしよ? これも仕事のうちだしさ」

「そう言ってくれると助かるぜ」

「へいへい。んじゃまた……と言いたいんだけれど、一つだけ」

 

 人差し指を立てる用心棒の様子に、ダッチは眉を顰める。

 

「んだよ蛇野郎」

「止しなよレヴィ」

 

 彼らから目を離したバイパーは、立てた人差し指を入口の方へと向けた。

 

「パイナップル持ってた奴の死体がないんだよね。押し入って来た時の立ち位置とか考えると、多分リーダーじゃないかなって。海出てから襲って来る可能性もあんじゃないかな?」

「成程、ありがたい忠告だ」

「この後海の藻屑とか、後味悪いじゃん? お互い様だよ」

 

 肩を竦めたバイパーは、ロックに視線を向ける。

 

「んじゃま、気を付けてロック。今回は犬に噛まれたと思っときなよ。お爺ちゃんになる頃には笑い話になると思うしさ」

「あははは……まぁ、そうだね。君も元気で、バイパー」

「ロックもね」

 

 軽く手を振って答えると、道を譲ってラグーン商会を見送った。

 

「どう思う?」

「わがんね。海路が一番高そう」

 

 二人が話しているのは、襲撃者の侵入経路だ。

 

「相手がどんな船旅してるか分からんけれど……ま、大丈夫でしょ」

「根拠は?」

 

 ロージィの問いに、肩を竦めてこう答える。

 

「あんなナリだけれど悪運強そうだからね、彼」

「……ったく、ラグーンの奴ら。いやレヴィが絡むとロクな事にならねェ」

「お疲れバオ。お客さんに被害は?」

 

 バイパーの問いに、店主は軽く頷いて言葉を返した。

 

「流れ弾食らったのがいくらかいるが、お前らが来る前からよくあった事だしな。それよりこんだけ死体積んどいて店の被害があんまりねェとは、いい仕事しやがるなお前ら」

「優良物件でしょ?」

「ご主人様の初動のおかげね」

 

 ロージィの言う通りだった。

 何処ぞの世界線であれば店内に放り込まれたであろう手榴弾は、隊長の手を離れる前に手首ごと入口付近で爆発したのだから。

 少々風通しはよくなったかも知れないが、まぁ誤差の範囲と言えるだろう。

 

「ところでバオ。こいつら小遣いにしても?」

「半分な」

「いぇーい」

 

 彼らの遺品や所持金は1バーツの無駄もなく、店と用心棒の手元に回収される事となった。

 

R.I.P(おやすみなさい)貯金箱(piggy box)

 

 俺の為に死んでくれてありがとう。

 男はそんな気持ちを込めて、形ばかりの黙祷を捧げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日。

 大がかりな改装こそなかったが、イエローフラッグの城門とでも言うべき入口の修繕や店内の片付け等で臨時休業となり、塒で惰眠を貪る毒蛇に一本の電話がかかって来た。

 

「ご主人様。電話よ」

「……あ”? 後5時間」

「早く」

 

 言葉少なに電話を手渡すロージィに訝し気な視線を向けつつ、携帯の向こうの人物に話しかける。

 

「もしもしバオ? 今日休みでいいんだよね」

『あら、それは悪い事をしたわね。バイパー』

 

 凛とした女性の声は、起き抜けでボケきっていた蛇の脳を即座に再起動させた。

 

「えーっと? や、おはようございます、ミス・バラライカ」

『バラライカで結構よ坊や。昨日は散々だったと聞いて、お詫びの一つもしようかと思ったの。私の依頼が原因になった訳だし』

 

 ク ッ ソ 怪 し い。

 バイパーの本音だった。たかだか酒場の用心棒にそこまで気遣う? まさかである。これがバオに連絡取りたいとかならともかくとして、わざわざご指名を受ける理由が分からない。

 

「お気になさらず。俺の仕事ですし、イエローフラッグの被害はバラライカさんのせいってわけでもないでしょう? ま、日本企業ならディスクもロックも切り捨てるとは思いましたけれど」

『……そう思った根拠は?』

 

 詫びは口実かな、とアタリを付けつつ、バイパーは考える。探りたいのは自分の事として、何を聞きたいのかがよく分からない。

 

「根拠と言うか……日本経済はちょっと前にバブルが弾けて落ち目ですし、それはデカイ所も同じですよね? ましてアホほど社員を食わせなきゃいけないなら、天秤がどっちに傾くかは、ハッキリしてます」

『日本は人命を軽んじると?』

「日本は、と言うかロックの職場が、ですかね……。バラライカさんが絡んでるってなると、表沙汰にしたくないネタなんだろうし。違ってたらアレですけれど」

『頭が回るわね、坊や』

 

 1980年代半ばから問題視されていたバブル経済は、1990年に崩壊した。丁度自分が大学受験の年だった事もあり、記憶に残っている。

 大学一年生の夏には、就職その他の活動で地獄を見た先輩も見ていたし、お茶の間を濁す話題としてたびたび取り上げられていたと思う。

 そんな頃に自分は人生の岐路に立たされたわけだが、それは割とどうでもいい。

 

「勉強は好きじゃなかったですけれど、苦手って事も無いので」

『知恵も回るし腕も立つ。胡散臭い噂も目立つが……成程、バオが拾う気になるわけだ』

 

 バラライカの小さい笑いを聞き、何となく居心地の悪さを感じる。

 

「それなりに鍛えてますので」

『それなり……成程、それなりか』

「言うて22の若造ですよ? あれ、23だったっけ……。まぁヒヨッコですよ、ヒヨッコ」

『過ぎた謙遜は嫌味に聞こえるぞ、毒蛇(ガヂューカ)。……とにかく、一度顔を見せて頂戴な? 出来ればもう一人の日本人(ヤポンスキ)と一緒にね』

 

 唐突なお誘いに、と言うか予想外の言葉に目を丸くする。

 

「あー……やっぱり切り捨てられたんですね、彼」

『自分から蹴ったと言うのが正しいかしらね。自分はもう死人だから、帰らないって啖呵切ってたわよ』

「へぇ? 意外とタフな様で」

『えぇ、同郷同士通じ合うモノもあるでしょう? 仲良くしてあげなさいな』

「や、レヴィが挟まるだろうしどうですかねぇ……邪険にするつもりはないですけれど」

『そう? それじゃ悪いけどこれで。何かあったらうちに来なさいな』

「ありがとうございます。それじゃまた」

 

 電話が切れてから、顎を伝う汗を手で拭う。正直嫌な汗をかかされたと思った。

 

「どうだった?」

「どうもこうも、昨日の件で詫びだってさ。たかだか用心棒にする事かねぇ」

「警戒してるんじゃないかしら」

「ダッル……あぁ、あと昨日の彼。無職になったらしいからよろしくしてやってくれって」

 

 バイパーの言葉にロージィが眉を寄せる。

 

「ホテル・モスクワの頭目が、貴男にそれを?」

「言葉の裏は多分ないんじゃない? 知らんけど」

 

 果たして彼がこの地に来たのは、自分にとって吉か凶か?

 

「ま、なるよーになるっしょ。なるよーにね」

 

 バイパーはそう言って肩を竦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 隊長さんと魚雷は幸せなキスをして終了しましたが、本作で描かなくてもいいかなってすっ飛ばしました。隊長は作者の気分に殺されたとも言います。
 1~2話挟んでRasta Blastaに入る予定です。次回またお会いしましょう。
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