猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 毒蛇の性分と哀しき過去(嘘は言ってない)


 snake hunt Ⅱ

「と言う訳で、新顔らしい東洋人ご一行を見かけたと言うネタを掴んだので、ある程度目星つけた所から回りましょっか? あ、これネタくれた子の話を元に書いた似顔絵なんですけれど、確認お願いします」

 

 翌日現れたバイパーは、気さくな挨拶で張とシェンホアの口を半開きにさせた。

 

「……あー、バイパー?」

「あーネタをくれた子はスローピィスウィングの嬢なんで、ネタの出元は信頼出来ると思います。リロイさんとこで裏付けは済ませてますし、ローワンさんとこも昼には話が聞けるんじゃないかな……ヨランダさんにもお願いしてあるので、早ければ明日にはもっと絞れるかも? まずは威力偵察的な制圧も悪くないんじゃないかなーとは思いますけれど」

「お兄さんちょっと待つよろし」

 

 額に手を当てて呻く様にシェンホアが待ったをかけた。

 

「はい?」

「そのネタはどうやって掴んだんだ?」

 

 デスクを指先で叩きながら張が問う。心なしか苛立ってる様に見えるのは気のせいだろうか?

 バイパーは小首を傾げたが、何かに気付いた様に声を上げる。

 

「あー、世間話ですね。つい最近俺の同郷がロアナプラに来てるじゃないですか? で、それをとっかかりにしました。三合会のトの字も出してませんから、そこら辺だいじょーぶですよ」

「大丈夫決めます、お兄さんじゃないね。私達ね、違うますか?」

「最近同郷のホワイトカラーが流れ着いたけれど、観光気分で来るところじゃないよねーって口にしたら、たまたま話してた子がそう言えばって感じで反応してくれて、それとなーく聞いただけですよ。んで、この似顔絵なんですけれど、心当たりあります?」

 

 張は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。きっかけは偶然とは言え、一晩明けたらここまで話が進むなど、流石に予想出来るわけがない。

 似顔絵を睨みつける様に確認しているシェンホアはと言うと、仕事が早いのは助かるがそれはそれとして納得行かない態度を隠そうともしなかった。

 

「こいつ見覚えあるね」

 

 納得は行かないが、正確な情報なのは間違いない。そんな態度で似顔絵を突き返した。

 

「おーツイてる。や、逆か? 相手方がツイてなかった感じですかねー」

「私達ツキがない言うますか?」

「いやま、ツイてるんじゃないですか? イエローフラッグ……じゃなかった、スローピィスウィングで顔を見られたとかツイてないなって話で。ロアナプラで何処の勢力にも加担してない下品でガラの悪い場所なら、そうそう足が付く事もないと思ってたんじゃないですかね。普通は」

 

 雇われの素性やツテまで気にしてないっしょ? とはバイパーの弁である。

 確かにバイパーと三合会の繋がりまでは意識していないだろう。そもそも、当の用心棒はロアナプラに来て一年程だ。そんな男がロアナプラの顔役とのコネクションをどうやって持つと言うのか。

 

(それはそれとして、仕事が早過ぎて色々勘繰りたくなるのも仕方ない、か)

 

 張が胸中でそう零すのも無理はない。

 

「ま、仕事が終われば早く本省に帰る事が出来るんだし、いんじゃないですか? ここは退屈でしょ」

 

 俺は好きですけれど。

 などと呑気に笑う毒蛇に、言い知れぬ怖気を感じつつも、張は口を開く。

 

「なぁバイパー。俺にはどうしても分からん事がある」

「はい? 何がでしょ」

 

 デスクに両肘を突き、サングラスの奥に隠れた双眸は鋭く細められ、三合会タイ支部の長たる覇気を漲らせて毒蛇を見定める。

 

()()()()()()()()?」

()()()()()()()()()

 

 穏やかな笑顔はそのままに、小首を傾げて毒蛇は答えた。

 

()()()()()()()()()()()()なんですよ。日向の方が居心地いい? そりゃそうでしょうよ、弱くて脆いモン同士の寄り合いルールに守られてんだから。けれど、守られる必要の無い奴は? 同調圧力に気ぃ遣って下向いて歩く奴の場所は? 文句があンなら、俺の暮らしやすい箱の一つでも作れやお為ごかしでしか満足出来ねぇボケナス共が」

 

 皮肉げに口角を上げながら、毒蛇は嗤う。

 

「……とまぁ、そんな感じでロアナプラに来たわけでして。住めば都なんて言葉がありますけれど、俺にとっちゃ都通り越して天国なんですよ? 平和でクソ温い娑婆よりも、悪党だらけのこの街にいる方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこまで言うと、毒蛇は肩を竦めてこうしめくくる。

 

「答えは至って単純(シンプル)なんですよ、張大哥。背中丸めて無害装って、下向いて生きるのなんざ死んでるのと変わりゃしない」

 

 幾ばくかの静寂の後、張はゲラゲラ笑い出した。大哥の爆笑にギョッとしながらシェンホアは視線を向けるが、当の本人は腹の底から楽しそうに笑っている。

 

「そうか! お前の楽園はここだったか! 闇夜の精気に満ちた現代の海賊共和国(リベルタリア)こそが! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「仰る通りですよ張さん。俺はここでなきゃ()()()()()()()()()

 

 シェンホアはただ黙って二人を見ている事しか出来なかった。

 呵呵大笑と牙を剥く大哥と、穏やかに笑う日本人の纏う空気に呼吸すら忘れてしまう。

 

「あぁ、全く……全く大したタマだ。笑い過ぎて腹が破れるかと思ったぞ」

「頭空っぽな方が夢詰め込めるらしいですし。あー、でもここのルールは破らん様に注意してますよ? イイ空気吸えるのは、そのルールがあっての事だって分かってるつもりですから」

「確かにな。それぐらいはキッチリしてくれんと困る」

 

 上がった口角はそのままに、張は毒蛇に頷きを返す。

 

「さて……仕事の話に戻るが、今日は二人で動いてくれ。何ならロージィだったか? 彼女も連れて行くといい。暴力教会から情報を貰い次第、うちの方でも人を動かす」

「分かりました。んじゃま、行きますかシェンホアさん……おーい、シェンホアさん?」

 

 目の前で手を振るも、反応を示さない女に訝し気な声を上げる。

 小気味の良い音を響かせたのは、張の両手だった。その音がきっかけになったのか、シェンホアは浅く細かい呼吸を繰り返し始める。

 

「え、や、大丈夫ですか? 具合悪いんなら俺と相方だけでも……」

「おう大丈夫、大丈夫ね……少しお酒飲むしすぎただけね」

「ならいーのかな? いやいーのかこれ」

「調子の悪そうなのが続く様なら、医者にでも診せてやってくれ」

 

 軽い調子で手を振る張に釈然としないモノを感じつつも、毒蛇はシェンホアを伴って退出する。

 

「……それにしても、思った以上の逸材じゃないか。なぁバイパー」

 

 道徳や正義を知り堅気の中で育ちながら世間に唾を吐き、剰えここが天国だと言ってのける生まれついての大悪党。未だヒヨッコに過ぎないが、将来性は抜群となれば期待も高まる。

 

「出来ればもう一押し欲しい所だが……焦る必要もない、か」

 

 自ら描く絵図に、張は一人笑う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()、その才能を大事にしろよ?」

 

 ジタンに火を点けて、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで私が呼び出されたわけね。ミスターが了承したのならいいけれど、バオが怒ってたわよ?」

「えぇ……昨日は精々稼いで来いとか言ってたのに」

「二人とも空けるとは思ってなかったんでしょうね」

 

 煙草片手にトヨタカムリのハンドルを握るバイパーは、ロージィの言葉に珍しく顔を顰めた。

 以前割った貯金箱からせしめた中古車ながら、日本の誇る技術はロアナプラでも重宝されている。

 

「そんな一日空けたら店が更地になるわけでもないっしょに」

「だといいんだけど」

「フラグ立てるのは止めてもろて……シェンホアさん、具合どーです?」

 

 不安を煽るロージィを他所に、後部座席でコンパクト片手に口紅を差す美女に声を掛ける。

 

「問題ないですだよ。仕事に支障あることないね」

「ならいっかー」

 

 目的地を一度通り過ぎ、大回りして1ブロック離れた場所でカムリを停める。

 

「そう言えば、敵の数と配置は?」

「10人いるかいないかね。流石に配置は分かるわけないね」

「それもそっか」

 

 眉を描くシェンホアをバックミラー越しに眺めながら、バイパーは肩を竦める。

 

「そもそも正解かどうか確かめないとだった」

「シェリィに聞いて作った似顔絵、リロイの裏付け、ローワンの店で聞いた話からすると、空振りって事はなさそうだけど」

「まーそーねー」

 

 シェンホアは前の座席で会話を続ける二人の様子を窺っていた。

 共に相当の手練れとは聞いているが、実際の所は大哥も底が見えていないと聞いている。

  

(……この日本人は()()()()

 

 シェンホアの何処に触れたのか、それは当人にもよく分からない。

 ただ、張のオフィスで見せた穏やかな笑いを思い出すと、言い知れぬ不快感が纏わりつく。

 仕事を済ませてしまえば、ソレを忘れるなり断ち切るなり出来るはずなのに。

 

「……っと、似顔絵の人じゃんアレ。まずは当たり(ヒット)と」

 

 毒蛇の言葉に顔を上げると、似顔絵の男が数人の仲間と共に廃工場へと姿を消すのが見えた。

 

大当たり(ビンゴ)なら万々歳だけど、どうかしらね」

「……ヒットもビンゴも関係ないね。みんな始末ですだよ」

「んじゃま、行きますかね」

 

 言って車外へ出る三人。

 先頭に立つ男の背を見るシェンホアの目には剣呑な色が宿り、それを知ってか知らずか、男の隣を歩く猟犬も犬歯を覗かせた。

 

 残る男はと言うと、双頭蛇をホルスターに収めたまま、散歩でもするかの様に歩を進める。これも偏に見敵必殺の精神と、それを実現するだけの実力を持ち合わせている証だ。

 身も蓋も無い言い方をするなら、スペックゴリ押しゴリラの振る舞いなのだが。

 

「他から合流するのとかいたら後が面倒だし、一人くらい生かしといた方がいっかな」

「ミス・シェンホア?」

「喋る口は必要ね。それでよろしいですだよ」

「オッケー」

 

 言うが早いか双頭蛇(アンフィスバエナ)を握った両手を前に、ガレージの前に立つ男達へ毒牙を突き立てる。額に風穴を空けられた二つの骸が、シャッターに向かって崩れ落ちた。

 

「うむ、絶好調」

「もうちょっと近付いてから行動した方が良かったんじゃないかしら」

 

 呑気な会話を聞きながら、シェンホアは愕然とする。

 過程をすっ飛ばした様な早抜きは余りにも滑らかで、殺気の欠片も感じさせず、気負いも躊躇いもない機械的な射撃は正確に額をブチ抜いた。

 

(……あれが二挺拳銃(トゥーハンド)

 

 成程、異名に違わぬ腕だと目を細める。

 しかしその名の持ち主が聞いたら、青筋立ててカトラスをブン回す程の勘違いである。

 滅多にお目にかかる事の出来ない状況に、記憶が混乱したのだろう。

 

「まあまあ」

「勢いで誤魔化さない」

 

 気の抜ける会話に若干正気を削られながら、シェンホアは溜息を吐く。

 

「始めましたなら仕方ないね」

「俺正面から突っ込むから、二人はフォローなり逃げ道塞ぐなりよろしくー」

 

 脱兎の勢いで走り出す男の背に舌打ちを堪えつつ、シェンホアは口を開く。

 

「逃げ道塞ぐの任せてよろしいか?」

「えぇ……ごめんなさいね? 彼、あぁ言う性分だから」

 

 男をフォローする気があるのかないのか、ロージィは裏手に回るルートへ走り出した。

 

「……()()と片付けて、メイン御馳走なるね」

 

 何だか気乗りしなかったが、これもお仕事。

 シェンホアは自分にそう言い聞かせるのだった。

 

 

 

   




 飼い主:ロアナプラの空気美味しいです
 猟犬:お呼びとあらば即戦場なノリで急遽参加
 シェンホア:蛇の毒が回り始めた模様
 張:同類見付けてテンション急上昇。ここまで上がって来いみたいな高みの見物気分

 ここで報告と言うのもなんですが……描きたい所まで行けなかったので、snake huntをもう一話挟みます。8/4中に投稿する予定ですので、何卒ご容赦願います。
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